魔法少女リリカルなのは―Mission Code"N"― 作:あじめし
ハヅキ「陛下、拘置所内の局員はすべて排除しました」
ルナディア「御苦労、ハヅキ」
ここは第13拘置所の通路内。
和服調の着物姿のハヅキと、黒いローブに身を包んだ青年――ルナディアが、硬い足音を響かせている。
ハヅキ「捜査本部破壊も滞りなく完了したとの連絡が」
ルナディア「そうか。後はここだけだな」
ルナディアは扉を開いた。
その先には、エーリヒが立っていた。
瓜二つの顔立ちの2人は、暗い牢屋の中で静かに対面した。
ルナディア「気分はどうだ?エーリヒ」
エーリヒ「…兄さん、なのか!?」
ルナディア「面倒をかけてくれたね。おかげで色々と予定が早まったじゃないか」
エーリヒ「……どういう意味だ?」
ルナディア「お見通しだよ。わざと捕まったな?」
エーリヒ「何言ってるんだよ。俺がどうしてそんなこと――」
ルナディア「お前に接触していた八神はやてだが、彼女は死んだよ」
エーリヒ「っ!?」
ルナディア「その反応で充分だ。お前、彼女に我々の情報を流したな?」
エーリヒ「……殺せよ。そのために来たんだろ?」
ルナディア「何を言っている?そんなつもりは無い。私はお前を救いに来たのだ」
ルナディアは2歩前に進み、エーリヒと向かい合った。
ルナディア「まるで生き写しだ」
エーリヒ「オレはそうは思わないけどな」
ルナディア「オレはそっくりだと思っているよ。容姿のみならず、その憎しみに染まった心も」
エーリヒ「…それは兄さんだけだ。俺には憎しみなんてこれっぽっちもない」
ルナディア「そうか。さて、話はもう終わりだ。無粋な来客がやって来たからね」
突如、天井が破壊され、月明かりが室内に差し込んだ。
ルナディア「こんばんわ、高町なのは」
なのは「襲撃者はあなたたちね」
ルナディア「すぐにお暇するよ。少しこの男と話がしたくてね」
なのは「あなたたちを逮捕します」
ルナディア「怖いお顔だ。暗がりで見ると尚更ね。ハヅキ、少しの間相手をしていてくれ」
ハヅキ「仰せのままに、陛下。出でよ“神龍”」
ハヅキは左手を腰の近くに持っていく。そこに突如、日本刀が姿を表す。
そして彼女は居合の構えから、刃を抜く。
ハヅキ「“楓”!」
その瞬間、目には見えずに飛来する斬撃がなのはを襲った。
なのは「レイジングハート!!」
ハヅキの攻撃から、魔法壁がなのはを守る。
ハヅキ「高町なのは、少し大人しくしてもらいます。―――“疾”」
なのはの視界から、ハヅキが姿を消す。
なのは「っ!!」
ハヅキ「“烈”」
ハヅキはなのはの背後から、上段に構えた刃を真下に振り下ろす。なのはの防御壁はかろうじて刃を受け止めるが、その身体は防御壁ごと地面に叩きつけられる。
なのは「くはっ…!!」
ルナディア「さぁ弟よ。ようやく落ち着いたね」
エーリヒ「くそっ…!」
ルナディア「でも安心してくれ。オレは大事な弟を殺すつもりは無い」
エーリヒ「まさか…お前…!!」
ルナディア「我々に関すること、全てを忘れるといい」
ルナディアの左手がエーリヒの頬に触れる.
紫色の瞳が、妖しく光を放った。
エーリヒ「止めろぉぉぉ!!!!」
ルナディア「“神の声”!」
エーリヒ「うわぁぁぁぁ!!!!」
ルナディア「さらばだ、我が弟よ。ハヅキ、行こう」
ハヅキ「はっ」
なのは「ま、待って…」
ルナディア「ハヅキ…彼女に怪我をさせちゃダメじゃないか」
ハヅキ「申し訳ありません」
ルナディア「彼女はいずれ大切なお人形になる。傷ものにしてはいけないよ。さて、うちに帰ろう」
ハヅキ「はい」
ルナディア「さようなら、美しき悪魔」
なのはの意識はそこで途切れた。
ヴィータ「…………」
シグナム「…………」
ヴィータ「…………」
シグナム「少し落ち着かないか、ヴィータ」
ヴィータ「こんな時に落ち着けるかよ…!」
地上本部中央医療センターの緊急手術室前。
ヴィータは出入り口の前を何往復も歩き回っている。
シグナムは腕を組んで立ち、目を閉じて微動だにしない。
医師「お待たせしました」
ヴィータ「はやてはっ!はやては大丈夫なのかよっ!!」
医師「相当運が良かったのでしょう。命に別状はありませんし、怪我も大したことはありません。ただ…」
シグナム「ただ?」
医師「…意識が、戻りません。頭部を強く打ったようで昏睡状態が続いています」
ヴィータ「目覚めるんだよな…?」
医師「それは今の時点では…」
ヴィータ「そ…そんな…そんなの認めねぇよ!はやてが…はやてがぁ…!!」
シグナム「先生、色々とよろしくお願いします。私たちは任務がありますので」
医師「分かりました」
シグナム「行くぞ、ヴィータ」
ヴィータ「はやてぇ……はやてぇっ!!」
シグナム「ヴィータ!!」
シグナムの拳がヴィータの頬を赤く腫らした。
ヴィータ「………悪ぃ」
シグナム「今の我々にできることは一つ。主が残したものを取り戻すことだ。犯人を捕まえるためにも」
ヴィータ「…あぁ。必ず、犯人をぶっ潰してやる…!」
フェイト「シグナム、ヴィータ」
シグナム「テスタロッサ。仕事の方はもういいのか?」
フェイト「はやての容体は?」
シグナム「命に別状は無い。ただ、意識が戻らない」
フェイト「……そっか」
ヴィータ「なのははっ!なのはは大丈夫なのか?」
フェイト「怪我は大したことないよ。でも、相当落ち込んでる」
シグナム「久方ぶりの戦闘だ…無理もない。それにリミッターも外していなかったのだろう?」
フェイト「1ランク分は外していたけど、それでも全く対抗できなかったって」
シグナム「敵の能力は未知数だからな。お前も気を付けろよ?」
フェイト「はい。それじゃ、仕事に戻るね」
ヴィータ「なのは…」
シグナム「行ってやれ。上官には私から言っておく」
ヴィータ「任せた。じゃあ行ってくる」
ヴィータが向かったのは病室の一つ。入口には「高町なのは」の名前があった。
ヴィータ「見舞いに来たぞ、なのは」
なのは「ヴィータちゃん…わざわざありがとね」
ヴィータ「怪我はもう大丈夫なのか?」
なのは「…うん。2,3日したらもう退院できるよ」
ヴィータ「そっか。それなら心配ねーな」
なのは「私のことはいいの。それより――」
ヴィータ「はやては…大丈夫。すぐに起きるって」
なのは「ごめんね…」
ヴィータ「何謝ってんだよ」
なのは「私、犯人を逃がしちゃった。あっという間にやられて…」
ヴィータ「そんなもん、次会った時に捕まえりゃいいだろ?思いつめんなよな」
なのは「ヴィータちゃんの方が辛いはずなのに…ごめんね」
ヴィータ(辛いのは…お前がそんな顔した時だよ、なのは)
目の周りを真っ赤に腫らしたヴィータを前に、なのはは自らの弱さを呪った。
なのは(もっと強くならないと…強くなって、みんなを守らないと…!)
なのはは誓った。
もう誰も傷つけさせない。
もし誰かを傷つける者がいるのなら、
自分が全てを消し去ると。
―――後編に続く