魔法少女リリカルなのは―Mission Code"N"―   作:あじめし

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第3話「抹消」(中編)

ハヅキ「陛下、拘置所内の局員はすべて排除しました」

ルナディア「御苦労、ハヅキ」

 

ここは第13拘置所の通路内。

和服調の着物姿のハヅキと、黒いローブに身を包んだ青年――ルナディアが、硬い足音を響かせている。

 

ハヅキ「捜査本部破壊も滞りなく完了したとの連絡が」

ルナディア「そうか。後はここだけだな」

 

ルナディアは扉を開いた。

その先には、エーリヒが立っていた。

瓜二つの顔立ちの2人は、暗い牢屋の中で静かに対面した。

 

ルナディア「気分はどうだ?エーリヒ」

エーリヒ「…兄さん、なのか!?」

ルナディア「面倒をかけてくれたね。おかげで色々と予定が早まったじゃないか」

エーリヒ「……どういう意味だ?」

ルナディア「お見通しだよ。わざと捕まったな?」

エーリヒ「何言ってるんだよ。俺がどうしてそんなこと――」

ルナディア「お前に接触していた八神はやてだが、彼女は死んだよ」

エーリヒ「っ!?」

ルナディア「その反応で充分だ。お前、彼女に我々の情報を流したな?」

エーリヒ「……殺せよ。そのために来たんだろ?」

ルナディア「何を言っている?そんなつもりは無い。私はお前を救いに来たのだ」

 

ルナディアは2歩前に進み、エーリヒと向かい合った。

 

ルナディア「まるで生き写しだ」

エーリヒ「オレはそうは思わないけどな」

ルナディア「オレはそっくりだと思っているよ。容姿のみならず、その憎しみに染まった心も」

エーリヒ「…それは兄さんだけだ。俺には憎しみなんてこれっぽっちもない」

ルナディア「そうか。さて、話はもう終わりだ。無粋な来客がやって来たからね」

 

突如、天井が破壊され、月明かりが室内に差し込んだ。

 

ルナディア「こんばんわ、高町なのは」

なのは「襲撃者はあなたたちね」

ルナディア「すぐにお暇するよ。少しこの男と話がしたくてね」

なのは「あなたたちを逮捕します」

ルナディア「怖いお顔だ。暗がりで見ると尚更ね。ハヅキ、少しの間相手をしていてくれ」

ハヅキ「仰せのままに、陛下。出でよ“神龍”」

 

ハヅキは左手を腰の近くに持っていく。そこに突如、日本刀が姿を表す。

そして彼女は居合の構えから、刃を抜く。

 

ハヅキ「“楓”!」

 

その瞬間、目には見えずに飛来する斬撃がなのはを襲った。

 

なのは「レイジングハート!!」

 

ハヅキの攻撃から、魔法壁がなのはを守る。

 

ハヅキ「高町なのは、少し大人しくしてもらいます。―――“疾”」

 

なのはの視界から、ハヅキが姿を消す。

 

なのは「っ!!」

ハヅキ「“烈”」

 

ハヅキはなのはの背後から、上段に構えた刃を真下に振り下ろす。なのはの防御壁はかろうじて刃を受け止めるが、その身体は防御壁ごと地面に叩きつけられる。

 

なのは「くはっ…!!」

ルナディア「さぁ弟よ。ようやく落ち着いたね」

エーリヒ「くそっ…!」

ルナディア「でも安心してくれ。オレは大事な弟を殺すつもりは無い」

エーリヒ「まさか…お前…!!」

ルナディア「我々に関すること、全てを忘れるといい」

 

ルナディアの左手がエーリヒの頬に触れる.

紫色の瞳が、妖しく光を放った。

 

エーリヒ「止めろぉぉぉ!!!!」

ルナディア「“神の声”!」

エーリヒ「うわぁぁぁぁ!!!!」

ルナディア「さらばだ、我が弟よ。ハヅキ、行こう」

ハヅキ「はっ」

なのは「ま、待って…」

ルナディア「ハヅキ…彼女に怪我をさせちゃダメじゃないか」

ハヅキ「申し訳ありません」

ルナディア「彼女はいずれ大切なお人形になる。傷ものにしてはいけないよ。さて、うちに帰ろう」

ハヅキ「はい」

ルナディア「さようなら、美しき悪魔」

 

なのはの意識はそこで途切れた。

 

 

 

ヴィータ「…………」

シグナム「…………」

ヴィータ「…………」

シグナム「少し落ち着かないか、ヴィータ」

ヴィータ「こんな時に落ち着けるかよ…!」

 

地上本部中央医療センターの緊急手術室前。

ヴィータは出入り口の前を何往復も歩き回っている。

シグナムは腕を組んで立ち、目を閉じて微動だにしない。

 

医師「お待たせしました」

ヴィータ「はやてはっ!はやては大丈夫なのかよっ!!」

医師「相当運が良かったのでしょう。命に別状はありませんし、怪我も大したことはありません。ただ…」

シグナム「ただ?」

医師「…意識が、戻りません。頭部を強く打ったようで昏睡状態が続いています」

ヴィータ「目覚めるんだよな…?」

医師「それは今の時点では…」

ヴィータ「そ…そんな…そんなの認めねぇよ!はやてが…はやてがぁ…!!」

シグナム「先生、色々とよろしくお願いします。私たちは任務がありますので」

医師「分かりました」

シグナム「行くぞ、ヴィータ」

ヴィータ「はやてぇ……はやてぇっ!!」

シグナム「ヴィータ!!」

 

シグナムの拳がヴィータの頬を赤く腫らした。

 

ヴィータ「………悪ぃ」

シグナム「今の我々にできることは一つ。主が残したものを取り戻すことだ。犯人を捕まえるためにも」

ヴィータ「…あぁ。必ず、犯人をぶっ潰してやる…!」

フェイト「シグナム、ヴィータ」

シグナム「テスタロッサ。仕事の方はもういいのか?」

フェイト「はやての容体は?」

シグナム「命に別状は無い。ただ、意識が戻らない」

フェイト「……そっか」

ヴィータ「なのははっ!なのはは大丈夫なのか?」

フェイト「怪我は大したことないよ。でも、相当落ち込んでる」

シグナム「久方ぶりの戦闘だ…無理もない。それにリミッターも外していなかったのだろう?」

フェイト「1ランク分は外していたけど、それでも全く対抗できなかったって」

シグナム「敵の能力は未知数だからな。お前も気を付けろよ?」

フェイト「はい。それじゃ、仕事に戻るね」

ヴィータ「なのは…」

シグナム「行ってやれ。上官には私から言っておく」

ヴィータ「任せた。じゃあ行ってくる」

 

ヴィータが向かったのは病室の一つ。入口には「高町なのは」の名前があった。

 

ヴィータ「見舞いに来たぞ、なのは」

なのは「ヴィータちゃん…わざわざありがとね」

ヴィータ「怪我はもう大丈夫なのか?」

なのは「…うん。2,3日したらもう退院できるよ」

ヴィータ「そっか。それなら心配ねーな」

なのは「私のことはいいの。それより――」

ヴィータ「はやては…大丈夫。すぐに起きるって」

なのは「ごめんね…」

ヴィータ「何謝ってんだよ」

なのは「私、犯人を逃がしちゃった。あっという間にやられて…」

ヴィータ「そんなもん、次会った時に捕まえりゃいいだろ?思いつめんなよな」

なのは「ヴィータちゃんの方が辛いはずなのに…ごめんね」

ヴィータ(辛いのは…お前がそんな顔した時だよ、なのは)

 

目の周りを真っ赤に腫らしたヴィータを前に、なのはは自らの弱さを呪った。

 

なのは(もっと強くならないと…強くなって、みんなを守らないと…!)

 

なのはは誓った。

もう誰も傷つけさせない。

もし誰かを傷つける者がいるのなら、

自分が全てを消し去ると。

 

 

―――後編に続く

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