魔法少女リリカルなのは―Mission Code"N"― 作:あじめし
2週間近い日々を、なのはは教導よりも模擬選に費やしていた。
今、なのはは演習場の上空で、2週間ぶりに現場復帰したネイと模擬選を繰り広げていた。
ネイ「ブリザードレイン!」
雨のように細かい氷柱が、なのはの頭上から降り注ぐ。
なのは「当たらないっ!」
なのはのレイジングハートとネイのバハムートがぶつかり、火花が散った。
ネイ「よく今の攻撃を避けたわね」
なのは「この攻撃、結構自信あったんだけどなぁ」
ネイ「だったら…別の攻撃も見せてっ!」
互いに距離を取り、体勢を立て直す。
激しい戦いに双方とも肩で息をしているが、表情は晴れやかで楽しげだった。
なのは「レイジングハート。新バリエーション、行ってみよう!」
『All right!!』
エーリヒ「随分楽しそうだな、あのお二人さん」
フェイト「…エーリヒ」
演習場の空を見上げるフェイトに、エーリヒは肩を並べた。
積極的な捜査協力、ヴェロッサも認める記憶消失の件など、エーリヒは捜査協力者として一時的な保釈が認められた。
エーリヒ「一昨日、白衣を着た連中に俺の魔法を見せてきた」
フェイト「ありがとう」
エーリヒ「感謝なんていいさ。元はオレが悪い」
フェイト「ううん。おかげで色々なことが分かったみたい」
その一つが、エーリヒとカイルが使用した魔法についてだった。
フェイト「ミッド式や現代ベルカ式とも異なる方式、か」
エーリヒ「まぁルーツは古代ベルカに似ているらしいけどな。俺も詳しくは知らない」
フェイト「どうして話してくれたの?」
エーリヒ「…さぁな。別に捕まっちまったし、もし黒幕がいたとしても、そいつがどうなろうと関係ないってのもあったし、何より」
フェイト「何より?」
エーリヒ「感じるんだ。事件捜査に協力することを望んでいる自分をな」
フェイト「きっと記憶を失う前のエーリヒがそうだったんだよ」
エーリヒ「何でだろうな」
エーリヒは記憶を失ったことを悲観していなかった。
管理局に提供できたはずの情報を全て失ったことは別として、彼にとって記憶を失ったことは幸運だった。
エーリヒは、自分が単純な誘拐犯だとは思っていない。
何か邪悪な企てをしていたのかもしれない。
その企みに加担していたのかもしれない。
そんなかつての自分を忘れられたことを、エーリヒは密かに喜ばしく思っていた。
エーリヒ「フェイト、その…オレを最初に尋問したって言う…」
フェイト「八神二佐のこと?」
エーリヒ「そうだ。その人はまだ?」
フェイト「もう1週間経ったよ。意識が戻る兆しは無いって」
エーリヒ「…そうか。本当に申し訳なく思ってる」
フェイト「今は謝らなくてもいい。全てが分かって、その時――」
エーリヒ「謝るどころか、殺されるかもな」
フェイト「そんなことはっ」
エーリヒ「例えば、あのコ」
エーリヒが指さす先。そこには制服姿のにヴォルケンリッターを構えるヴィータの姿があった。
ヴィータ「おい、そろそろ時間だぞ」
エーリヒ「冗談じゃねぇ。お嬢ちゃんみたいな目つき悪いコじゃやりにくい」
ヴィータ「何か怪しいことしやがったらすぐ潰す。覚悟しとけ」
エーリヒ「へいへい」
それから3人は演習場へ入って行った。
ネイ「ふぅ…今日はこのくらいね」
なのは「はい。付き合ってくれてありがとうございます」
ネイ「ううん。私もいい勉強になってるから」
模擬戦を終えた二人は、フェイト、エーリヒ、ヴィータの所へ降下した。
フェイトとヴィータはバリアジャケットに身を包んでいる。
ネイ「…あなたが、誘拐犯?」
エーリヒ「どうも」
ネイ「……そういえばお披露目会だったわね」
エーリヒ「何だか大ごとになってるな。ただ模擬戦を通して俺の魔法を見せるだけだってのに」
フェイト「今回の地上本部襲撃事件に関わる人だけでなく、管理局員のほとんどが知ってるよ」
エーリヒ「参ったな。大それたものなんて見せられないぞ」
ヴィータ「どーだっていい。とりあえず全力で来い」
ヴォルケンリッターの先端がエーリヒの眼前に迫る。
その先のヴィータの鋭い視線がエーリヒに突き刺さっていた。
エーリヒ「言われなくとも。模擬戦で死にたくないんで」
フェイト「ヴィータ、私が止めたら、その時点で終了ね?」
ヴィータ「分かってる。それじゃ、やるか」
エーリヒ「はいよ。こいつ、外してくれ」
フェイトによってエーリヒの手首にはめられた魔力減退装置が外され、エーリヒは腕をぶんぶんと振り回した。
エーリヒ「いやぁ、久しぶりに解放されたな。それじゃ、やりますか」
エーリヒは右腕を挙げ、目を閉じた。
エーリヒ「起きろ、ヴァルファーレ!」
その瞬間、エーリヒを包むように光が起こった。
光が消えた時には、彼の右手には白と金の杖が握られていた。
エーリヒ「これがあんたらの言うデバイスだろ?」
ネイ「見たことないわね。何もないところからデバイスを出せるなんて。他に使える人はいるの?」
エーリヒ「さぁな」
ネイ「一人は死んだわよ」
エーリヒ「…な、何!?今、何て…」
ネイ「炎の魔法を使っていたかカイルという男は死んだわ。誘拐事件の後ね」
エーリヒ「…誰が殺した」
ネイ「私よ」
フェイト「ちょ、ネイ…」
エーリヒ「安心してくれ。仇を取ろうなんて思わねーよ。なんせ、そいつのことは全く記憶にないんでな。さてお嬢ちゃん、始めようぜ」
ヴィータ「…ああ」
エーリヒとヴィータは同時に空へと上がった。数メートルの距離を取ったまま互いを見据えている。
ヴィータ「行くぞ…」
エーリヒ「いつでもどうぞ」
ヴィータ「アイゼン!まずは軽くだ!」
エーリヒ「ヴァルファーレ、久しぶりの戦闘だがよろしくな」
ヴィータ「シュワルベフリーゲン!」
魔導エネルギーをまとった3つの鉄球が、一斉にエーリヒを襲う。
エーリヒ「その程度は余裕だな」
金色のバリアがエーリヒを包み、鉄球を遮断した。
エーリヒ「一応言っておく。オレの魔法は防御、補助が主だ。攻撃は苦手なんでよろしく」
ヴィータ「奇遇だな。防御破りはあたしとアイゼンの十八番だっ!」
一瞬で距離を縮め、グラーフアイゼンがエーリヒのバリアにめり込んだ。
エーリヒ「こ、こいつはキツい攻撃だぜ。でも…甘いな。ヴァルファーレ!」
エーリヒの身体がほんのりと輝き、光となって姿を消した。
ヴィータ「くそっ…どこに」
エーリヒ「知ってるかい?光は物凄く早く伝わるんだ」
ヴィータ「っ!?」
突如ヴィータの背後に現れたエーリヒ。ヴィータは反応こそしたものの、エーリヒの打撃攻撃で軽くふき飛ばされた。
エーリヒ「少しは本気出してくれるか?こちとら適当にやって様子見なんて余裕ないんだ」
ヴィータ「お前…少しはやるな。だったら!」
グラーフアイゼンがラケーテンフォルムへと変わり、ジェット噴射が唸りを上げる。
ヴィータ「ラケーテン――」
フェイト「そこまでっ!」
エーリヒ「ふぅ…助かった」
ヴィータ「早すぎねーか?まだ全然…」
フェイト「1体1はここまで。次は2体2のタッグ戦」
エーリヒ「まだやるのかよ…」
フェイト「エーリヒ。あなたは高町空尉と組んでもらいます」
エーリヒ「高町って…」
なのは「よろしく」
エーリヒ「……アンタ、俺がさらおうとした女の子の保護者だったんだろ?今更だけど本当に申し訳――」
なのは「今は模擬戦。関係ないよ」
エーリヒ(こりゃ相当怒ってるね…)
フェイト「こっちは私とヴィータ空尉。それじゃ、2on2の始めよう」
―――後編へ続く