「──あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」
「いいからさっさと進めろ」
うわぁ、自分達で引き延ばしてたのにそれは酷い。
涙を瞳に浮かばせながらも、話を聞いてもらえる状況を作ったのに、さらに追い打ちをかけられる黒ウサギを少し不憫に思いながら岸辺に座り込み、彼女の話を聞く。
黒ウサギは気を取り直したのか、咳払いをして、話を始めた。
少々長かったが、要は
〇ここに来た俺達は皆、普通の人間ではなく
〇『ギフトゲーム』とは、その恩恵を用いて競いあう為のゲーム。
〇ここ箱庭の世界は、強大な力を持つ
〇異世界から来たギフト保持者は、箱庭で生活するにあたって、数多ある“コミュニティ”のどこかに必ず属さなければならない。
〇ギフトゲームの主催者は修羅神仏が開催するものと、コミュニティが独自開催するものとがある。
〇この世界は外界よりも、格段に面白い。
ということだった。
◆
「ジン坊っちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」
「お帰り、黒ウサギ。そちらの三人が?」
「はいな、こちらの御四人様が──」
こちらを振り返った黒ウサギが、十六夜がいないことに気付き、固まる。
「.......え、あれ?もう一人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が」
「あぁ、十六夜のことか?あいつなら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”って向こうに駆け出してったぞ?」
と言って十六夜が行った方向を指差す。
さした方向は、上空から見えた断崖絶壁。
街道のど真ん中で呆然となる黒ウサギ。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「“止めてくれるなよ”と言われたもの」
「ならどうして黒ウサギに、教えてくれなかったのですか!?」
「“黒ウサギには言うなよ”と言われたから」
「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御三人さん!」
「「うん」」
「おう」
黒ウサギが、前のめりに倒れた。
まぁそうなるわな。やっと話を聞いてもらえて、移動もできたのに、気付いたら一人いない、なんてことになったんだから。
「た、大変です!“世界の果て”にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に“世界の果て”付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」
「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?........斬新?」
「いや、ゲーム参加前の場合ってゲームオーバーって言うのか?」
「冗談を言っている場合じゃありません!」
疑問に思ったこと言っただけなんだけどな。
「はぁ.........ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかった。黒ウサギはどうする?」
「問題児を捕まえに参ります。事のついでに──“箱庭の貴族”と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」
いやいや、“後悔させてやります”って気付かなかった黒ウサギも悪いと思うんだけど。
「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを後堪能ございませ!」
黒ウサギ速いなぁ、もう見えねぇし。
「..........。箱庭の兎は随分速く飛べるのね。素直に感心するわ」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが.......」
そう、と飛鳥が空返事をする。
「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。三人の名前は?」
「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」
「春日部曜」
「で、おれが高島和之だ」
にしても十一でリーダーね。それだけの実力があるのか、もしくは何か事情があるのか。
後者の気がするが、向こうが話すまではおいておこうか。
「さ、それじゃ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
◆
そして、四人と一匹は通路を通って箱庭の幕下に出た。
ぱっと頭上から眩しい光が降り注いだ。
へぇ、太陽が見える。外からは、箱庭の中は見えなかったのに。
「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族のために設置されていますから」
「それはなんとも気になる話ね。この都市には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」
「え、居ますけど」
「.......。そう」
吸血鬼いるんだ。てか、そんなさらっと言える程度のことなんかい。
少し、歩いているとカフェテラスが幾つも見えてきた。
四人と一匹は、近くにあった“六本傷”の旗を掲げるカフェテラスに座る。
「いらっしゃっいませー。御注文はどうしますか?」
「えーと、紅茶を二つと緑茶を二つ。あと軽食にコレとコレと」
「はいはーい。ティーセット三つにネコマンマですね」
......ネコマンマ?何故にネコマンマ?誰が注文した?
「三毛猫の言葉、分かるの?」
「そりゃ分かりますよー私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせてもらいますよー」
どうやらネコマンマを注文したのは、春日部の三毛猫だったようだ。
「..........箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外に三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」
「ちょ、ちょっと待って。貴女もしかして猫と会話できるの?」
久遠が動揺し、ジンも興味深い事だったらしく質問を続けた。
俺?
俺はちょうど注文した物が届いたから食いながら聞いてた。
どれくらい時間がたったのか知らないが、気付いたらガルド=ガスパーとかいう奴が来て、なんかジンと黒ウサギが隠していた事を喋った。
二人から話すことを待っていたんだけど、まぁいいか。
結局隠し事とは、ジン達のコミュニティは数年前にギフトゲームに負け、名と旗印、そして主力陣を失い、現在は存続しているのがやっとのことである、というだった。
それに、存続できているのも黒ウサギの働きがあってのものらしい。
というかガルドのタキシードがピチピチすぎて気持ち悪いのは俺だけだろうか?
「単刀直入に言います。もしよろしければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに来ませんか?」
「な、何を言い出すんですガルド=ガスパー!?」
いきなり、黒ウサギ共々俺達を勧誘してきたガルドに、ジンは怒りのあまりテーブルを叩いて抗議した。
にしても、ガルドのコミュニティに..........ねぇ。
確かここら辺一帯はこいつのとこが支配してるんだっけ?
コミュニティそのものを支配できるってことは相手は自分のコミュニティをかけたギフトゲームで負けたって事だ。
そのギフトゲームには両者が同意していただろう。
相手の同意無しに、ゲームに参加させられるのはジン達のコミュニティを襲った魔王と呼ばれる主催者権限を持つ奴等だけみたいだからな。
でも、コミュニティそのものをかけるなんてこと普通はしない筈だ。
そんなことをするってことは余程追い詰められていたのだろう。
誰に?
それは目の前のこいつだろう。
こいつのような奴が相手を追い詰める方法は数少ない。
つまり────
と、考え事をしているうちに話が進んでいたみたいだ。
「..........で、どうですかレディ達、ジェントルマン。返事はすぐにとは言いませんコミュニティに属さずとも──」
「うるさい」
「はい?どうかいたしましたかジェントルマン?」
「うるさいって言ったんだよ。このクズが」
「あの、御言葉ですがジェントルマン。私のどこがクズなのでしょうか」
「どういうこと?高島君」
「和之でいいよ久遠さん。春日部もな。」
「わかったわ」
「うん、わかった」
「で、こいつがクズだということについてだが。なぁ久遠、俺達が聞いたギフトゲームの内容はなんだったっけ?」
「えっと.....。
「そう、チップをかけるんだ。だが、コミュニティそのものをチップにかけることなんてそうあることなのかジン坊っちゃん?」
「やむを得ない状況なら稀に。しかし、これはコミュニティの存続を賭けたかなりレアケースです」
「だよな。コミュニティ同士の戦いを強制できるからこそ主催者権限を持つ者は魔王として恐れられているんだから。だが、それを持たないお前はいったいどうやってそんな大勝負を続けられたんだろうな。なぁ春日部、相手がコミュニティを賭けるってことはつまり?」
「賭けざるをえないところまで追い詰められているということ」
「ねぇ?貴方はどうやって相手を追い詰めたのかしら。『教えてくださる?』」
久遠のその一言で今まで黙っていたガルドが悲鳴を上げそうな顔になり、口は意に反して言葉を紡ぎ始めた。
「お、追い詰める方法は様々だ。一番簡単なのは、相手のコミュニティの女子供をさらって脅迫すること。これに動じない相手は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」
「まぁ、そんなところでしょう。貴方のような小物らしい堅実な手です。けどそんな違法で吸収した組織が貴方の下で従順に働いてくれるのかしら?」
「各コミュニティから、数人ずつ子供を人質に取ってある」
久遠の雰囲気から嫌悪感が滲み出してきた。
子供を人質に.....ねぇ。これはもう、駄目だな。
「..........そう。ますます外道ね。それで、その子供達は──」
「やめとけ久遠。どうせもう子供達は死んでいる」
その場の空気が瞬時に凍りついた。
ジン、耀も、飛鳥も。皆が一瞬耳を疑い思考を停止させた。
ガルドでさえも目を見開いて固まっていた。
「..........ジェントルマン、それはそちらの臆測の話で──」
「『殺したの?』」
ガルドが抵抗しようとするが、飛鳥の言葉に逆らえず、言葉を続けた。
「ああ、殺した」
「ということだが。どうする春日部、久遠」
「何をいまさら。ジン君のコミュニティに決まってるでしょ」
「私は、この世界に友達を作りにきただけだから」
「じゃあ私が友達1号に立候補していいかしら?」
「あ、じゃあ俺は2号で」
「..........うん。二人は私の知ってる人達とちょっと違うから大丈夫かも」
「てことで改めて宜しく久遠、春日部」
「あら、飛鳥でいいわよ」
「..........私も耀でいい」
「ということだ、ガルド=ガスパー」
「もう帰っていいわよ」
飛鳥がパチン、と指を鳴らした。すると、それが合図だったのか、ガルドの拘束が解けた。
「ふ..........ふざけるなぁ、この小娘共がァァァァァ!!」
ガルドの体が雄叫びとともに激変した。
ピチピチのタキシードは弾け飛び、体毛が変色する。
お、少しは面白くなるか?
体を変化させたガルドは飛鳥に飛びかかろうとする。
「喧嘩はダメ」
しかし、あっけなく耀に取り押さえらる。
やっぱ、弱いなぁ。
「なぁ、ジン坊っちゃん箱庭の法でこいつを裁くとしたら時間はどのくらいかかる?」
「そうですね。箱庭に申請して、下調べを行ってからになるので、最低一ヶ月は必要かと」
「遅いな。それにもっとこいつに絶望を与えたいし。......よし、俺達とギフトゲームをしよう。お前の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、な」
さぁ、楽しい箱庭生活の始まりを告げるギフトゲームを始めよう。
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