Fate/DD night   作:ゆきざかな

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第8話:フューチャー&パスト

 息の詰まるにらみ合いで、数分ほど時間が過ぎたであろうか。

 銀鎧の少女は赤い髪の少年に、赤い礼装の威丈夫は赤い少女に、青い男は一人で、黒い男は白い妖精に。

 それぞれ位置から動けずにいた。

 四体のサーヴァントの膠着状態を解いたのは、士郎の一言だった。

 

「俺は、遠坂ともミーシャとも戦うつもりはないぞ……それに……とも」

 

 その言葉――最後は掻き消えるようになったが――に、ほんの少し皆が士郎に意識を向けた瞬間。

 ランサーと呼ばれた男は、一瞬のうちに後退した。

 さっきまで殺そうとしていた二人が、両方ともサーヴァント付になったのだから。

 隙あらばこの場から退散するのは当然だ。

 今までランサーは単純にタイミングを図っていたに過ぎない。

 

「逃げるのか、ランサー」挑発するセイバー。

「ああ。追ってくるのならかまわんぞセイバー。ただし―――そのときは決死の覚悟を抱いて来い」

 そんな挑発にも意に介さず。軽い跳躍音とともにランサーは、塀を越えていった。

 腕だけでなく、風格も兼ね備えているその堂々たる振る舞いは。ランサーは只者ではない英霊だと容易に推測できた。

 

 ランサーが消え去ると。凜は、極上の笑顔を士郎に向けて挨拶してきた。

「え?なに、私の事知っているんだ。なんだ、話は早いわよね。取り合えずこんばんわ衛宮くん」

「ば―――バカかおまえ、こんばんわってそんな場合じゃないだろ!遠坂、おまえは……」

「ええ、貴方と同じマスターよ。つまりは魔術師だってことになるわね。お互い似たようなものだし、隠す必要はないでしょう?」

「まぁ、衛宮君が魔術師だって知らなかったのは。私だけみたいだけどね。ね、ミーシャさん」

 丁寧なくせに刺々しい声で、遠坂凛はギロっとミーシャを睨む。

 

『あ、隠し事されて怒っている』

 この場にいる誰もが、遠坂凛の今現在の感情を過不足なく汲み取った。

 ミーシャはというと、ごめんなさいと深々とお辞儀している。

 その様子をフンと一蹴し、凜は続ける。

 

「アーチャー、悪いけどしばらく霊体になっててもらえる?わたし、ちょっと頭にきたから腹いせに現状を思い知らせてやらないと気がすまなくなったの。貴方がいたらセイバーだって剣を納め……聞いてる?アーチャー」

 アーチャーはアサシンを見つめて表情が固まっていた。まるで幽霊にでも出会ったような顔だった。

「あ、あぁすまない。命令とあらば従うだけだが……一つ忠告すると君は余分なことをしようとしているぞ」

慌てて、凛の呼びかけに答えると幻のように消え去った。

 

「アサシンさんも、いいでしょうか?」

「そうだな。みんな言いたい事はたくさんあるだろうけど。先ずは、現状を認識してもらわなければ生き残れないからね」

 終始無言だったアサシンも提案に従う。

「大きくなったな士郎。元気でうれしいよ。」

 そして、霊体化する直前、士郎に近づき彼にだけ聞こえるようにつぶやいた。

 アサシン相手に不意を打たれたその行動に、むっとするセイバー。どうも二人の相性はよくないみたいだ。

 

「いいから話は中でしましょ。どうせあまり分かっていないでしょ。安心して、いやだって言っても全部教えてあげるから。衛宮君素直に認めないと命取りって時もあるのよ。ちなみに今がその時だって分かって?」

 有無を言わさない物言いに士郎は言い返せず、セイバーもマスターの助けになる限りは控えますと矛を収めた。

 学校のアイドル遠坂凛が先頭をずんずんと歩き。士郎の後ろには金髪の少女。最後に鍵を閉めてる耳のとんがった小柄な少女。

 士郎は異次元空間にいるような気持ちになっていた。

 

 士郎は玄関から救急箱を持ち、居間に入り電気をつける。《力場の壁(Wall of Force)》の効果時間はもう切れている。

 時計は午前一時を回っていた。

 

「うわ寒! なによ窓ガラス全壊しているじゃない」

 遠坂はガラスの破片を手に取ると、ほんの少しだけまじまじと観察し―――

「―――Minuten vor SchweiBen」

 ぷつり、と指先を切って、窓ガラスに血を零した。

 粉々に砕けていた窓ガラスがひとりでに組み合わさって、数秒もかからずに元通りになる。

 

「魔力の無駄遣いだけど、こんな寒い中で話すのもなんだし。ま、わたしがやらなくてもそっちで直したんだろうけど」

「いや、すごいぞ遠坂。俺はそんな事できないから。直してくれて感謝している」

「?たった数分前に割れたガラスの修復なんて、どこの学派で入門試験みたいなものでしょ?ちょっと詳しく話しなさいよ」

 

 士郎は凛の質問攻めに答えた。

 切嗣(養父)にしか教わってないせいで、工房も五大要素もパスの創り方も知らない、知っているのは強化だけだと。

 魔術経路を毎回作り直しているという話しにまで行くと、凛も怒りを通して呆れてものが言えなくなったようだ。

 

「あなたのその養父の顔が、見たくなってきたわ」

「そういえばミーシャ。爺さ…じゃなくアサシンにちょっと出てきてほしいんだけどさ」

「アサシンさんは、先ほど屋敷を見張るといって霊体のまま外に出て行きました」

「お……やじ……」

 

 責任者不在の事態に士郎はがっくりとうなだれ、何故かセイバーも苦虫を噛み潰したような顔になっている。

「あら?アーチャーが見張っているからいいんだけど。まぁ、多い分には問題ないか、あの二人で今すぐ殺し合いとかには、流石にならないだろうし。」

 そんな二人の内心を察しる様子もなく、凜は応じる。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 今は午前1時過ぎ、さらに真冬の季節。当然住宅街である衛宮邸周辺には人一人居ない。

 だが屋根の上に蠢く影がひとつ、ミーシャのサーヴァント、アサシンだ。

「アーチャー。居るんだろ?」

 アサシンの静かな声が、冬の夜空にこだまする。

 霊体化したアーチャーの返事はない。まるでアサシンとは接触してはいけない様に、静寂が保ち続けている。

「少し話をしたいんだアーチャー。いや……士郎」

 何度目かの呼びかけに、アサシンは意を決して呼び方を変える。

 その言葉に観念したかように、アーチャーは実体化する。

 

「……爺さん」

 アーチャーは、悪戯がばれて親にしかられるのを覚悟したような顔をしている。

「そうか、正義の味方になれたんだね」

 アサシンは、アーチャーのその表情を見て、言葉と正反対の今にも悲しみに押しつぶされそうな表情を見せている。

 正義の味方―――多くの人間を救う、それが唯一の基準の執行者。百人の命を助けるためなら、十人の命をためらいもなく殺す鉄心の勇者。犠牲になった少数側からすれば、単なる殺戮者にしか過ぎない数の倫理の体現者。

 

『爺さんはもうオトナだからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。まかせろって、爺さんの夢は――』

 衛宮士郎は、衛宮切嗣の月の下の最後の約束を実現し、エミヤシロウ(正義の味方)となったのだ。

 

「士郎、後悔しているのかい?」

 それは聞くべきことではなかったのことかもしれない。でも、聞かねばならない言葉であった。

「……」

 アーチャーは何も答えられない。後悔するどころか八つ当たりで自分自身を消すために、この戦争に参加した身なのだから。

「……士郎。もう僕には何もいう資格はない。だから、僕のことを話そう。僕は始まりの誓い(自分)を忘れ、ただ磨り減っていく しかなかった。だから何も残せなかった。唯一得られたものはあの夜の誓いだけだ」

 

 ふうと、アサシンは息を吐き、決して自分では実践できなかった教訓を語る。

「迷ったときは、最初の自分に立ち止まる。それが初心を忘れた愚かな魔術師の人生唯一の成果さ」

 アーチャーの表情は凍り付いていて読めない。まるで時間が止まっているかのようにピクリとも動かない。

 

「……ああもうますます惜しいっ。私がセイバーのマスターだったら勝ったも同然なのに!」

 下から遠坂凛の嘆きの声が聞こえてくる。

「そろそろ話が終わる頃だ。下に戻るよ」

 アサシンの姿は瞬く間に消えた。

 一人残されたアーチャーは、霊体化する事も忘れ佇んでいた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「む。遠坂、それ俺がふさわしくないって事か」

「当然でしょ、へっぽこ」

 あまりの学校での変わりっぷりに、士郎が硬直しているのを放置して。凛は話をミーシャに向ける。

 

 ミーシャは、士郎に傷の手当をしてもらった後。《修理(Mending)》の呪文で、服の損傷箇所をふさいでいる。

 

「あなた魔術を使用したのに、魔術回路が起動していないってどういうことよ」

 そこに凜は疑問をぶつける。だが返ってきたのは予想だにしない回答だった。

 

「私には魔術回路はないのです」

 

「はぁ?なによそれ、信じられない」

 魔術回路の本数が一番重要な魔術師にとって、その言葉は異質そのものであった。

 魔術回路なしで魔術を執行する、魔術の理路を根底から覆すものであるが……

 

「わかったわ、とりあえず置いとくわ……」

 

 詳しく話を聞きたいのを思いっきり我慢して、別の問題に話を変える。

 

「もうひとつ。あなたのサーヴァントなんだけど、なんかおかしくない?いやおかしいのは、アサシンじゃなくって、アサシンに対する衛宮君とセイバーの態度なんだけど」

 

『流石鋭い』

 優等生ぶりの中身は本物だと感心しつつ、どう話そうか士郎は迷っていた。話してもいいが、仮にも親父は今現在ミーシャのサーヴァントだ。情報をこっちから漏らすのも気が引ける。

 

 だが、そんな杞憂も介せずミーシャは軽く答える。

 

「それなら、アサシンさん本人の口から説明してくれるそうです」

 言うな否や、ミーシャの後ろにアサシンが現れる。

「ああ、そうだ。彼女一人だけ知らないのは、フェアじゃない」

 どうせアーチャーも知っているから、いずればれるだろう。ということは黙って、アサシンは自己紹介する。

「僕は衛宮切嗣、士郎の養父だ。それと前回の聖杯戦争の参加者で、そこのセイバーのマスターだったものだ。そして勝ち残り、聖杯を壊した」

 

「うそ――どんな確率よそれ。って、聖杯を壊したってどういうことよ!」

 凛が驚くのも無理もないだろう。

 同じサーヴァントが二回呼ばれる上に、勝ち進んだマスターが聖杯を壊してしまうなんてまず考えられないことだ。

 

「爺さんがマスターで、セイバーがそのサーヴァントだって。本当なのかよ」

 士郎は信じられないといった様子でセイバーに顔を向けるが、

「はい、切嗣は前回のマスターで、最後まで勝ち残りました。令呪二画の命令により、理由もわからないまま、私は聖杯を壊しました。」

 セイバーは淡々と事実を肯定する。

 

切嗣(オヤジ)――なんでそんな事黙っていたんだ。」

 

「聖杯戦争は60年周期だ。普通なら士郎は参加しないはずと思っていた。僕の読みが甘かったといわざるえないだろうね。

 そうだな、そこから(第四次聖杯戦争)から話そう。だけど……」

 アサシンは遠坂の方を見る。

 

「判ったわ。その情報で休戦協定を結ぶわ。私は少なくとも他のサーヴァントが一人脱落するまでは、息子の衛宮君とマスターのミーシャちゃんとは戦わない」

 アサシンはうなずく――取引成立だ。

 

「だから俺は遠坂とは戦う気はないって……」

「マスターがそういうのでしたら。異存はありません」

「あれ?いつの間にか私、ちゃん付けで呼ばれているのですが……」

 

 三者三様の反応を示すのを確認したところで、アサシンは十年前の話を始める。

 時計は午前1時半を回ったところである。

 




ウィザードに魔術回路がないってのは、D&Dからのクロスオーバーにおける独自解釈です。

まぁ、呪文書から毎日呪文を準備して変更できないウィザードは、直接呪文を用意して使用するときに開放するスタイルかなと。
逆に使用回数内なら組み合わせ自由なソーサラーは、魔術回路を使用して使用時に内なる魔力を呪文に変えているのかなと。

そんな解釈をしました。

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