アサシン――衛宮切嗣――は、
アインツベルンに雇われ、共同で第四次聖杯戦争に参加したこと。
すべてを救うそのために、愛娘をドイツに置いて冬木の地で戦い抜いたこと。
敵をあらゆる手段で排除して勝ち進み。妻、アイリスフィールが戦争のさなか聖杯と化したこと。
言峰綺礼との最後の戦いのさなか聖杯に飲まれ、
『汚染された聖杯の願いは、犠牲者しか出さない』それを知り、愛する妻を犠牲にした儀式の成就を捨て、聖杯を壊したこと。
そして――結果あの大災害が起きたこと。
話の後、誰もしばらく何も発することができないでいた。
「そんなことが、今まで四度も続けていたって……」
士郎が吐き捨てるように言う。
事前に何回も、
10年前のあの悲劇の引き金が、不可抗力とはいえ
『本当に、あの時爺さんは救われたんだな』
そして、助けられたとき。なんで救われたのは俺でなく、爺さんの方では無いかと思ったのか得心した。
自問を続ける士郎をよそに、セイバーが、アサシンに詰め寄ろうとする。
「切嗣、なぜあの時に説明を――」
だが、そこまで言ってセイバーは口を噤む。
あの時は、アーチャーとのギリギリ戦いの最中であった、説明などしている暇はない。
いや、もとより説明する意味を感じていなかったのだろう。令呪二画が残っていたのだから、強制的に実行さればそれで終わりだからだ。
効率だけを優先させる。それが切嗣のやり方だと、セイバーは前回で痛感していた。
だが、理解と許容は違う。セイバーと切嗣が相容れないのは変わらない。
「聖杯が穢れているって本当?」
次に疑問を呈したのは凛、驚いているがショックを受けている様子はない。凛は元々聖杯の願いは持ってない、切嗣の肯定にも。
「ふーん、俄かに信じがたいけど、調べる必要があるわね」
と、軽く流すだけである。
だがそれとは正反対に、セイバーの表情は硬い。
「御三家の間桐臓硯ってのは、もしかしてマキリ……」
最後にミーシャが恐る恐る聞いてくる。話に出てきた、マトウの老人に心当たりがある。
「あぁ、間桐の真の当主マキリ・ゾォルケン。冬木に根付いたときに間桐臓硯と名を変えた」
「……生きていたんですね」
ポツリとミーシャは漏らす。その一言には複雑な感情が込められいたが、周りの人にはその感情の細部までは推し量ることが不可能であった。
そこに士郎が、驚きの声を上げる。
「間桐が御三家だって? それじゃもしかしたら、慎二と桜は魔術師なのか?」
「大丈夫よ。慎二も桜も聖杯戦争とは無関係よ。真っ先にチェックするの当然じゃない」
士郎の心配に対して、凛がフォローする。
遠坂も御三家だ。聖杯戦争において、同じ御三家の間桐の人間を調べないわけがない。
士郎からすれば、肝心の魔術師かどうかについては誤魔化されたような気がするが。二人が聖杯戦争の参加者じゃないと知ったので、それ以上は突っ込まない。
士郎が宣言したのは別のことだった。
「俺はマスターとして戦う。十年前の火事の原因が聖杯戦争――
憧れ続けた衛宮切嗣の後を追って、必ず正義の味方になると決めた士郎の当然といえる結論であった。
『そうか――』
アサシンはその宣言に、口の中で答えるだけであった。
「私は聖杯の作成に携わった人間ですから、今の聖杯の状態を見過ごすことなど出来ないです。それにシロウさんが戦うというのなら私も参加します。
まだ、借りは返していませんから」
ミーシャも参加を表明する。アサシンも念話で事前に承知済みだ。
ミーシャとアサシンは、聖杯に対する方針も士郎に対する立ち位置もほとんど変わらない。
『英霊でない僕が、彼女のサーヴァントになったのも。ある意味必然ともいえるかもしれない』
そう、衛宮切嗣は英霊ではない。単なる亡霊ともいえる存在で、本来なら聖杯に呼ばれることはありえない。
この場にいる誰も知る由もないのだが。裏技をもって呼び出された
だが、アサシンは心を決める。こうしてサーヴァントになったからには貪欲に足掻いてみるだけだ。
アサシンの脳裏には、生前唯一の心残りだった、銀髪の少女の姿が浮かんでいた。
士郎はミーシャの借りについては、そんなのは返す必要はないと答える。ここ二日間同じやり取りを何度もしているのだろう。
「さて。話がまとまったところで、そろそろ行きましょうか」
「行くってどこだよ」
「教会よ。本当は衛宮君に覚悟してもらうために連れて行くつもりだったけど、決心しちゃったら意味なくなったわ」
悪戯の機会を逃したような表情で、凛は士郎をからかう。
士郎は遠坂凛の性格には、どこか問題があるんじゃないかという気がしてきた。
「でも、聖杯戦争の参加者は監督する教会に、届をださなくちゃいけないルールがあるのよ。まぁ私はそんな教会のルールなんて守る気がないけど。」
教会という単語に、アサシンが眉を上げる。
「そうよ、監督者は、さっきのアサシンの話に出てきた言峰綺礼。教会の監督者が元聖杯戦争参加者の魔術師って、世も末よね。
でもちょっとひっかかるのは、さっきの話何だけど、
なんで、アサシンの最後の相手だったの?」
「……そうか君は遠坂だったな。ならこれも言わなければいけないな。確かに奴は脱落した。だが奴は自らの師を殺し、サーヴァントを奪い取った。いや、そのサーヴァント、アーチャーと結託して裏切ったと思う。
そして再度僕に立ちはだかった」
「師って……ちょっと、それはさすがに冗談じゃすまないわよ!」
凛がアサシンに食って掛かる。とんでもないことを言われた怒りで表情がゆがみ、殺気すらはらんでいる。士郎は普段見れない凛の意外すぎる一面を見せられて結構引き気味だ。
だが、アサシンはそれを受け流し淡々と話を続ける。
「そう、遠坂時臣。君の父親……だったかな? 前回戦争中に遠坂の屋敷に忍び込んだんだ、そのときの推察だが間違いない。
魔術師が自分の屋敷で、戦闘の痕跡なく殺されるなんて、そうそうありえないからな」
セイバーも付け加える。
「最後の敵はアーチャーでした。アーチャーのマスターは、確かに遠坂の魔術師でした。
もしアーチャーのマスターが死んだのなら、大災害であるはず」
「父さんの死因は、たしか刺し傷だったはず……あ」
大災害なら遺体はもっと破損しているはずだ。アサシンが嘘をついている様には見えない、凛はしぶしぶながらそれを認める。
「綺礼……お父様を殺しておいて、よくものうのうと十年間、私を弟子にしてくれたわね。
絶対に――許せない――」
絶対零度の怒気が部屋を席巻する。その迫力たるや、セイバーですら半歩後ずさる。
「それで、どうしましょうか?」
何事もないようにミーシャが話を戻す。どうも、彼女は空気を微妙に読まない節がある。いや空気を読んであえて無視する、それが彼女の一種の処世術なのかもしれない。
「そうね。なんにせよ衛宮君もミーシャちゃんも一度会ったほうがいいかもしれないわ。百聞は一見にしかずというしね」
士郎もミーシャも依存はない。
「私自身は、会わないほうがいいでしょう。前回顔を合わせていますので、それだけで警戒されます」
と霊体化できないセイバーは護衛として付いていくが、教会の中には入らないと宣言する。
アサシンはしばらく考えてから答える。
「そうだな。奴の今の考えを探るのも良いかもしれないな。奴に対しては警戒しすぎてもしすぎることはない。だけど……」
「わかっているわよ!父さんのことは触れないわよ。言うときは、綺礼を完膚なきまで叩きのめした時よ」
完全に本性を隠そうとしない凛に対し。士郎は逆にこっちの遠坂もいいかも、と思い始めている。
『10年前と同じく、いまだ
切嗣と言峰とは聖杯戦争を通して間逆なものと拒絶しあった間柄だ。
切嗣は聖杯戦争が60年経たねば起きぬのなら、そのまま関わらないと決めていた。実際死ぬまで会おうともしなかった。
だが、10年たたずともう一度聖杯戦争が起こり士郎が参加するのならば、今一度対峙しなければならないだろうと