Fate/DD night   作:ゆきざかな

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第10話:月の光の下に

「さらばだ衛宮士郎、ミーシャ・ブラント。

 最後の忠告になるが帰り道には気をつけたまえ。

 これより世界は一変する

 君たちは殺し、殺される側になった。その身はすでにマスターなのだから。

 そちらの女性には、いまさら言うべき言葉ではないようだがな」

 

 その言葉を最後に受け、教会を離れる四人の影。

 結果として、言峰綺礼へのマスター報告は、あまり実入りの良いものではなかった。衛宮切嗣が前回マスターだったことを持ち出しても。いつの間にか反英雄の話になり。士郎と切嗣はそっくりだと言われて煙に巻かれる始末。

 が、綺礼の人の傷を穿つような話し方は、士郎とミーシャにとって不安を掻き立てるような存在に感じた。

 もっとも、その対象は切嗣の息子(衛宮士郎)に向けられていたのだが。

 

「あまり、相手にされていませんでした……」

 

少し沈んでいるミーシャ。言峰綺礼の問いかけは、ほとんど士郎相手でミーシャはその次いで扱いだった。

 

「あの人……アサシンさん好きすぎじゃないです?」

 

 聞きようによっては危険な台詞を、ミーシャは自身のサーヴァントに投げつける。綺礼の士郎に向けられた執拗な問いかけの原因は、養父の存在があってこそだと想像に難くない。

 

「僕と奴は天敵だったからな。相容れないからこそ知ってしまう。相容れないからこそ無視出来なかった。養子とはいえ天敵の息子が、自身の監督する聖杯戦争に参加しますって来たら饒舌になるさ」

 

 答えながらも、アサシンは綺礼の変わりように、内心面食らっていた。

 10年前よりも背が伸びて、190cmもあろうかという体躯になったのは、まぁいい。問題は内面的な変化だ。10年前の戦い煮の折に見せていた、迷いと葛藤が完全にない。自身の迷いの答えに、アンリ・マユにすら頼ろうとした言峰綺礼は、もう過去の話だ。

 そしてヤツの口からでた自分の評が、何よりも己を抉る。

 

『いかなる葛藤にも動じない鉄の意志。

 それ故にヤツはひとつも傷を負わず、そして――――アレには初めから傷しかなかった』

 

「これは想定していたより、厄介かもしれないな」

 誰に向けてとなく呟いたその言葉が、周りに重くのしかかる。

 

「セイバーこれで一応の段取りは終わりだ。改めて宣言する。俺がセイバーのマスターになって戦い抜く。

 半人前な男で悪いんだけど、俺がマスターってことで納得してくれるか、セイバー?」

 「納得する何もありません。貴方は初めから私のマスターです。この身は、あなたの剣になると誓ったではないですか」

「それじゃ握手しよう。これからよろしくセイバー」

「――――――」

「セイバー?あれ、もしかして握手はダメか?」

「――いえ、そんなことはありません。ただ突然だったので、驚きました」

 

二人のぎこちないやり取りを、凛は呆れ顔で見守っている。少しイラつきが見えるのが見て取れる。

 

 握手が終わると、ミーシャが《奇術(Prestidigitation)》の呪文で、セイバーの雨合羽を非常に目立つ黄色から、黒に染め上げる。

 往路で使用した《奇術(Prestidigitation)》の効果時間は、既に切れていたのでかけ直している最中だ。

「これで準備していたこの呪文は、すべて消費しました」

 

その様子に思い出したように、凛がミーシャに問いかける。

 

「準備……そうね、改めて聞きたいわねあなたの魔術。まぁ、あなたが手の内をさらけ出したくないのならしかたないけど。別世界の魔術に対する単純な興味だから」

 

ミーシャはその質問に快く応え、帰りの道中魔術の説明を始める。

 

「そうですね。出発前にも言いましたが、私には魔術回路がありません。だから、皆さんのようにその場で魔力回路を通し魔力を魔術に変換させることはできません。

 毎朝、使用したい魔術を魔力から紡ぎ作成して体内にとどめ。使用時に、その体内にとどめていた呪文を開放するのです。

 呪文はその強さにより0レベルから9レベルまで分類されています。

 その実力(ウイザードレベル)により準備できる回数がそれぞれ決まっています。もっとも私は修行不足で8レベルまでしか使用できませんが。

 たとえば今の《奇術(Prestidigitation)》は、初期の初期といえる呪文で、初級レベルです。

 そして、0レベルの呪文は4個準備できます。

 今日はそのうち2回分を《奇術(Prestidigitation)》に割り当てました。

 大は小をかねるので、1レベル以上の枠に《奇術(Prestidigitation)》を準備することができますが……」

 

 もっとも、1レベル呪文でも数分間人の大きさを倍にしたり、どこからともなく騎乗する馬を召喚したり。と、それなりに有用な呪文が存在するので。手品程度の呪文に割くなんて、もったいないことはしないという。

 

「え?じゃあ毎日使用する魔術を決めて置かないといけないの?予想を外したらどうするのよ」

 

当然の疑問を凛は問い掛ける。残念ながら返ってきた答えは味気ないものだ。

 

「無駄になります」

「まぁ。そりゃそうよね。その代わり事前に準備しておけば、開放するだけだから、大抵の呪文は魔術詠唱二節程度(標準アクション)で発動できるってわけか。

 確かに……リスクとリターンはバランス取れているのかもしれないけど。

 で、ミーシャちゃんは、どれくらいの種類の呪文を扱えるの?」

 

「えと。100種類ほどだと思います。私は総合魔術(エルフ代々伝わる秘術)を習得したのに加え、学士ウィザード(正式な魔術の教育を受けた身)ですので。他の人よりも習得している呪文は多めかと」

「……毎朝それを選択しているの?遠慮したいわね」

 

 朝の弱い凛にとって毎朝そんな作業をするのなんて、それこそ御免こうむりたい。ミーシャの世界(フェイルーン)に生まれなくって良かった、と心底安堵する。

 

「それでも、使用頻度が低いけど重要な呪文や、一日に何度も用意しても足りなくなりそうな呪文に関しては、巻物(スクロール)に非常用として用意しておき。

 いざという時に、使用するのですが……これが意外と費用がかかりまして。なんといいますかお金を投げつける感覚といいますか」

「あー、それわかるわかる。宝石に魔力ためているけど結構馬鹿にならないし。使うときは一瞬で消えるしね」

 

 魔術師なのに魔術の話に加われない士郎は、意気投合している二人を尻目に、実体化したアサシンと取り留めない話をしている。

 

「……で、藤ねえったらみかん一箱どころか、二箱持ち込んできてさ。ノルマは一人一日二個だからね!とか言いやがるんだ」

「はは……大河ちゃんはあいかわらずだな」

 

 何気ない話だが、今日一日、非常の連続だった士郎には沁みる。こんな会話でも、ふわふわした夢遊のような心の状態を少しでも和らげ、現実と繋がりを感じさせてくれる。

 そこへ、凛が話に割り込んでくる。

 

「ねぇアサシン。あなたセイバーの元マスターだったのなら、セイバーの真名わかっているんでしょ?」

「……知りたいってことかい」

 

 アサシンの目が少し厳しくなる。

 

「違うわよ。衛宮君に教えないほうがいいってことよ。養父のあなたも今まで言わないでいたから、同じ考えだと思うけど。念のための確認」

「ちょ、どういうことだよ」

「サーヴァントの真名は秘中の秘よ。いくら強いからって戦力を明かしてちゃ、いつか寝首をかかれる。

 で、衛宮君はアレだからいっそ教えてもらわないほうがいいってこと」

「なんでさ」

 

 今度は、士郎と凛が話を始める。本人どうしは真剣そのものなのだろうが、傍から見ると微笑ましすぎてむず痒くなってくる。

 しまいには、こんな風に口説いているようにしか見えない会話と化す。

 

「――ああ、遠坂いいやつなんだな」

「な――、い、一応、同盟は期限付きよ。それが終わったら敵同士なんだから。その時に手は抜かないわよ」

「知ってる。けどできれば敵同士にはなりたくない。俺、お前みたいなヤツは好きだ」

 

 士郎のストレートすぎる物言いに、凛が赤くなって硬直している。

 

「アサシンさん。先ほどのセイバーに対する握手といい、シロウさんってナチュラルに女性をこう口説きますね。

 食事を作りに来ている後輩の桜さんも、シロウさんにかなりの好意を持っていますよ」

「はは……女性には優しくしないといけないよ。と教えたからね」

「そうしますと、アサシンさんも、生前は複数の女性から同時に……」

「あ、そういえば、マスターの服装どこかで見たと思ったら今思い出したよ。十年前、アインツベルン城で……」

 

 話が危険な方向になりそうなので、アサシンは話題を変えようとした。その時、

 

「――――ねえ、お話は終わり?」

 

 今は教会から坂を下り外人墓地のそばにいる。その歩いてきた坂の上から幼い声が響く。

 声のする方向に皆が目を向けるそこには、月の光に照らされた巨人が影を落としている。

 巨大な異形。人型をしているが、一目で人ならざる者とわかる

 そう、セイバー達と同じ、サーヴァントと呼ばれるモノである。

 

「バーサーカー」

 

 遠坂凛は戦慄ともにつぶやく。

 バーサーカー、狂気を付加して能力の底上げを行うクラス。本来なら弱いサーヴァントに行うべき手段だが、あれはどう見ても大英雄クラス。

 それを使役するマスターの魔力は底が知れない。

 

「こんばんはお兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね。それから私のメイド達(セラとリズ)と同じ格好をしているあなた、妖精なんて見るの初めて、しかもマスターだなんて珍しいわ。

 ――でも、あなたの連れているサーヴァント、まず最初に殺してあげる」

 

 無邪気な微笑みで、残酷なことを口にするあどけない少女。横に控えるは狂気の巨人。

 その不自然さに皆は、何も答えることが出来ずにいた。

 

「ユスティーツァ……様?」

「イリヤ……」

 

 ミーシャとアサシンが、それぞれ、心に住んでいる人物の名を口にするだけであった。

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