Fate/DD night   作:ゆきざかな

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第11話:SKINNED DEEP

「つまり、あの子が爺さんの話に出ていた……」

 

士郎はその先を続けられなかった。爺さんの娘――つまり義理の妹――が、敵意を持って殺しに来る事実に。思考が追いついていない。

 

「キリツグ……あなたに私のことをイリヤって呼ばせない。私を捨てたくせに、サーヴァントになってまで目の前に現れるなんて……」

 

 イリヤの名を呼んだアサシンを睨む少女の瞳に、暗い炎が宿る。この小柄な少女のどこに、それほどまでの憎しみを内包していたのだろう。

 アサシンから歯軋りの音がわずかに聞こえる。愛すべき娘の参戦、覚悟はしていたが、実際に目にするとやはり心穏やかではない。

 凛がアーチャーに指示を出すと、それに答えアーチャーの姿は掻き消える。アーチャー本来の戦い――遠距離戦――を行うためであろう。

 

「はじめまして。私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン……その様子じゃもうわかっている見たいね。

 残念、リンの驚く顔を見たかったんだけど、まあいいや。

 ――――じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

 その死刑宣言が合図となり、巨人が鬨の声を上げる。だがそれは、むしろ野獣の咆哮と言っても良いであろう。

 その咆哮とともに、バーサーカーが坂の上から跳躍してくる。巨体が所持するこれまた巨大な石剣は、単純に振り回すだけで。その周辺数メートル内の生者を許さない、死の旋風と化すであろう。

 

 ミーシャがまず《魔法の矢(Magic Missle)》をバーサーカーに打ち込む。魔術に対する抵抗、防御を見定める初手である。

 バーサーカーに力場の矢が食い込む……がまったく効果がない。対魔力でも魔術防御でもない、単にダメージを与えられなかったのだ。

 アサシンが、コートからキャレコ短機関銃を取り出し、バーサーカーにオートで打ち込む。サーヴァントの所持武器として、霊体化している9mmパラベラム弾が、乾いた銃撃音とともにバーサーカーに食い込む。

 

 続けて流星のような矢が3本バーサーカーに打ち下ろされる。アーチャーの攻撃だろう。弓兵に名に恥じぬ威力の飛び道具が、バーサーカーにぶつけられるが結果は……

 

「うそ、効いていない」

 

 凛が思わず声を上げる。サーヴァント二体の攻撃でも、微動だにせず飛び込んでくるその巨体は、サーヴァントであることを考慮しても異常すぎる事態であった。

 

「シロウ下がって!」

 

 セイバーが雄叫びとともにバーサーカーの着地地点で迎え撃つ。甲高い金属音とともにセイバーとバーサーカーの剣がぶつかり合う。セイバーの剣の刃は、何かに包まれているようで見えない。宝具の一種であろう。

 その一撃でセイバーは押しつぶされるかのように見えた。だがセイバーは魔力放出のスキルによって、小柄な肉体から想像もできないほどの身体能力を発揮する。巨大な石塊を危なげなく受け止め、あまつさえはじき返す。

 

 そこにアサシンが肉薄する。セイバーの反対側から横を駆け抜けようとする。

 だがバーサーカーの巨体は見た目に比べ素早い、いや、最高に近い敏捷性を保持している。返す刀がアサシンの正面に即座に向けられ真っ二つに――されるはずだった。

 

固有時制御・二重加速!(Time alter―double accel)

 

 その詠唱とともに、一瞬にしてアサシンの速度が上がりその場から後退し、死の間合いから一気に外れる。バーサーカーの一振り成果は、大きな風きり音のみであった。アサシンの使用した魔術は、アサシンの時間操作の魔術を戦闘用に応用した自分自身のみの固有結界である。それにより自身の時間の流れを速くも遅くもできる。

 

その隙を逃すセイバーではない。渾身の力を持って見えない剣を振りぬく。剣はバーサーカーの鳩尾あたりを切り裂く――が、傷ひとつついていない。

 

「う……準備呪文が消えています」

 

 ミーシャからうめき声があがる。少々特殊な魔術師であるミーシャのサーヴァントへの魔力供給は、準備呪文の消費という形で行われる様だ。

そこへ、イリヤのほんの僅か苛ついた声が響く。

 

「もういいわ。本当はアサシンを先に殺すつもりだったけどセイバーを先にやっちゃって。セイバー以外の攻撃じゃあなたの宝具を超えられないんだから」

「やはりそうか……」

 

 士郎はつぶやく。魔術、剣戟、飛び道具そのすべて。しかも、セイバーの剣の一振りすら受けて傷ひとつつかないのは、異常だ。

 それは、防護の力を持つ宝具に違いない。それならばそのサーヴァントにちなんだ、何かしら法則性のある防御だと思うのだが……

 ここまで思考した士郎に、凛からのささやき声が聞こえる。

 

「衛宮君、ミーシャちゃん。アーチャーが一つ試すわ。ただ、威力が大きいから広いところが欲しいって」

 

 二人はその旨をサーヴァントに伝える。その直後、セイバーがバーサーカーに防いだ剣ごと飛ばされる。数十メートルほど弾丸のように直進のまま坂をのぼり、外人墓地に突っ込んでいく。

 「偶然」セイバーの後ろにいたアサシンもそれに巻き込まれ――巻き込まれた風を装い――外人墓地の入り口までにたどり着く。

 

「セイバー!爺さん!」

 

 思わず士郎に叫び声が湧き上がる。たぶん演技で飛ばされたのであろうがやっぱり声が出る。

 

「あそこなら確かに広いわね。ミーシャちゃん足止めできるような手段ある?」

 

 凛はいたって冷静だ。その質問にミーシャはわずかに微笑む。

 

 

 

 

 外人墓地にたどり付いた三人は、予想通りの結果に満足する。バーサーカーの巨体は墓地の真ん中で鎮座している。そして墓石を砕きながら石剣を振り回しいるが、セイバーとアサシンは危なげなく回避している。墓石の存在がバーサーカーの剣と移動を鈍らせているのが見て取れる。 イリヤの姿は見えない、墓地の外のどこかに隠れているのであろう。

 

 誰となく確信する――準備は整った。後は決めるだけだ――

 

「アーチャーさんに、伝えてください。私の攻撃の直後に、打ち込んで来てくださいと」

「OK。私たちは離れるって寸法ね」

 

 ミーシャの問いかけに、凛が答えた数瞬後、その時は来た。

 バーサーカーの吹き飛ばす石板が中空に舞い。バーサーカーと二人のサーヴァントの視線が、ほんの少しの時間だが通らなくなる。

 ミーシャの呪文が発動するのと、二人のサーヴァントが反転離脱するのは同時であった。

 

 突如、バーサーカーの周りの地面から、剃刀のように鋭く巨大な氷の結晶が無数に生え、バーサーカーの身に突き刺さる。月明かりに映えた氷は、まるで青水晶のようである。

 

 ――《氷の剃刀の場(Field of Icy Razors)》――ミーシャの現在保持する中でも、最高の威力と効果を持つ呪文である。冷気と斬撃のダメージを与え、さらに対象を地面に縫いつけ移動力を奪う、二段構えのまさに切り札(エース)である。

 

「■■■■■■■■■■■■■■――!!」

 

 かくて、外人墓地の中央には、猛獣すら逃げ出すバーサーカーの雄たけびのみ残される形になる。

 そこへ、絶対的な破壊の矢が激突する。

 

 世界が変わった。巨大な炸裂とともに光が轟音が墓地を支配する。

 いや、もう墓地ではない。すでにその場は、巨大なクレーターと化してしまっている。

 

 中心部はいまだ燃え、バーサーカーは膝を付いている。そして――驚くことに――巨大な戦士は何事もなかったように立ち上がる。

「……大魔術クラスとランクAの宝具を受けて、なおも無傷だなんて…」

 

セイバーの闘気が薄れていく。流石にこれは常識外れだろう。

 その横で、士郎はうずくまっている。運悪く破片が腹部に突き刺さっている。刺さり方は浅いので命に別状はないと見える。

 が、士郎の顔は異常に青い。アーチャーの放った、螺子れた剣を見据えたまま動こうとしない。

 

「シロウ!大丈夫ですか?」

「あ、ああ心配ない。それよりも……」

「……へぇ、三組がかりとはいえ、バーサーカーが二回も殺されるなんて驚いた。それに免じて今回は許してあげる。帰りましょバーサーカー」

 

 警戒する士郎をあざ笑うかのように、イリヤは戦闘を中止する。

 バーサーカーはゆっくりと離れていく。その姿を誰もが無言で見送る。一人を除いて――

 

「――ここまでやっておいて、逃げるつもり?」

 

 この期に及んで凛が挑発する。この胆力は賞賛すべきであろう。

 

「うん、そうよ。それじゃバイバイ。また遊ぼうねお兄ちゃん。」

 

 それを意に介さず流すイリヤ、災厄は去っていた。

 影が消え去ると同時にドスンという音がなる。

 

 士郎が気を失って倒れたのだ。

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