衛宮邸のはなれの一室。一組の男女がその部屋に存在していた。
メイド服を着た女性と黒ずくめのコートを着た30代の男性なんともアンバランスな組み合わせである。
女性のほうは椅子に腰掛け、男性は向かい側に壁を背にして立っている。
お互いしばらく黙っていたが、黒い男のほうから声をかけてきた。
「さてマスター。いろいろあわただしかったけど、やっと落ち着けたね。今後のためにいろいろ確認しよう。
まずは僕の能力だね。マスター、パスを通して僕の魔力に集中してくれないか」
いわれたとおりに、意識を集中させるとミーシャの脳内に情報が浮かぶ。それは言葉にならない旋律となってミーシャの意識を流れるが、その旋律の持つ情報は理解できた。
それを文章にするとこんな感じである
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ステータス
筋力D 耐久D 敏捷B 魔力B 幸運E
クラス別能力
気配遮断:B
保有スキル
銃器扱い:B 破壊工作:C 固有時結界:C 起源弾:-
宝具
なし
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「物騒なスキルが並んでいます……固有時結界は昨夜見せていただきました。この起源弾っていうのは……」
「生前、38人の魔術師を屠ってきた礼装魔弾だ。僕の起源「切断」と「結合」を相手に発現させる。その傷は修復せずに結合され、その部位は生涯機能を失う。
つまり腕を撃たれると傷跡はすぐに消えるが、その腕は強引に結合されたために一生使用できなくなるというわけだ
そして、魔術で干渉されたときに、これは最大の効果を発揮する。魔術を通して干渉された場合――つまり防御魔術で防いだ場合――僕の起源は魔術から魔術回路に流れ込み、魔術回路ごと肉体を切断して結合させる。その魔術師は不具を追い、一生魔術が使えないというわけさ。
まぁサーヴァントは霊的存在だから魔力で修復されるから、もって数分ってところだろう。
欠点は、タネがばれると対策されやすいのと。コンテンダーから発射することしかできないので、連射が効かないことだね」
ミーシャの顔がわずかに引きつる。
見せられた銃と弾は、ミーシャの知っている銃――例えばベイカー銃――とは、比べもにならないほど洗練されていて、そこから推測される威力は推して知るべしだろう。少なくとも鎖帷子や板金鎧では防げないであろう。
こんなの向けられたら、魔術師は魔術で防御するのは当たり前だ。が、その逃げ道には破滅の落とし穴が待ち受けているという、悪辣さである。
そう思いながらもう一度情報を確認していると、ミーシャはひとつ不可解な点があることに気づいた。
「宝具……なし?」
「ああ、すまないね。僕は英雄じゃない。だから英雄を英雄たらしめている
僕の能力としてはそんなところだ。マスターの魔術については、昨日アーチャーのマスターに説明していたのを聞いたし、威力も見せてもらった」
「《
《
「それとこれが私の所持する唯一のマジックアイテム、いわゆる魔術礼装です」
そういうと一個のシンプルな指輪を取り出す。指輪には三つの宝石をはめるくぼみがあるが、そこに埋まっている宝石はルビーがひとつだけである。
「【
アサシンは息を呑む、一回限りとはいえ第三魔法の真似事をできる魔術礼装なんてそれこそ伝説レベルだ。
戦力の確認は十分だろうと、議題はお互いの方針に移る。
「マスター、それともう一度確認するが、君は聖杯には何も望まない。それでいいんだね」
第四次聖杯戦争時には、サーヴァントとまったく会話をしなかった
今回は自身がサーヴァントで、相手は嫌いな英雄ではない。士郎やイリヤもマスターとして参加している以上、
「はい、アサシンさんを呼び出したのは本当に偶然です。ですから聖杯に望みがあって呼び出したわけではありませんし、今もありません」
「……僕も聖杯に願うことはないさ。けど、この戦争でやらなければならないことがある」
「シロウさんとイリヤスフィール様ですね」
「ああ、そうだ。二人とも僕のかわいい子供だ。特にイリヤはアインツベルンの呪いにかかっている」
昨夜現れたイリヤは無邪気そのものであった。が、同時に善悪の判断をもたない残酷な一面を持っていた。
聖杯戦争に勝つためには人を殺すことに何の感慨を持たない、役割を果たす―聖杯となり第三魔法を成就する――だけの装置。それが現在のイリヤスフィール・フォン・アインツベルンという存在だ。
「あの子を取り戻して普通の女の子の幸せな人生を歩ませる。それが僕の唯一の願いだ。それでマスター、君は聖杯の作成時の儀式者だったね」
「はい……聖杯が穢されているのでしたらもう、聖杯が存在する意味はありません」
ミーシャは毅然と答える。途中までとはいえ、それは聖杯製作者としてのプライドの発露であろう。
「遠坂は、聖杯について何も知らない未成年の女性が当主。アインツベルンは、かろうじてナハトの妄執で動いているのみ。マキリは没落し、完全に当時の理想を失っている。当初の聖杯の意義は大幅に歪んでいる。200年は長すぎたってことさ」
マキリの名を聞いて、ミーシャの体が一瞬動く。この世界にとっては200年だが、彼女にとっては次元の狭間に彷徨った時間を除くと――実際彼女も何日、何年、彷徨っていたか自覚をもてない――わずか数日前の出来事なのだから。
「マスター、忠告しておくよ。マスターの知っているマキリ・ゾォルケンを僕は知らない。だけど僕の知っている間桐臓硯は、魔術師であることですらおこがましい、単なる外道だ」
アサシンは、第四次聖杯戦争後に知った間桐雁夜の運命をマスターに教えた。といっても判明したのは臓硯が、生命を直接魔力に変換する刻印虫を雁夜に植えつけ無理やりマスターに仕立て上げ、結果生命力を消費させられ死亡したことぐらいだが。
ミーシャは気色を失った顔で、アサシンを見つめたまま何も言わない。
そのとき廊下から凛の声がする。
「ミーシャちゃん。買い物に行きましょう。どうせ士郎には、身の回りの品用意してもらっていないんでしょ?
私もこっちに住むからいろいろと入用になったのよ、付き合ってね」
凛の誘いに話を打ち切る。
「そうだな、臓硯の件は今直ぐ決めるべきことじゃないな。まずは今日のうちにいろいろ買い物しておこう。この人数だ少なくとも連絡道具は必要だろう。あと煙草がほしいな。なに、お金は生前ためてある分があるさ……処分されていなければだけど」
何も知らない未成年と評したが、アサシン自身は、遠坂凛の人間性に好感を持っている。典型的な魔術師らしい魔術師、遠坂時臣を父に持ちながら。魔術師からぬ冷徹になりきれない人となりは、幼いころに父を失ったおかげだろう。
それにあの何処までも曲がらないまっすぐな意思は、アサシンから見たら眩いくらいだ。士郎の横に彼女がいてくれればあるいは……
「そう思うだろうアーチャー?」
廊下を歩きながらアサシンは見えないアーチャーに話しかける。
「何を言いたいんだアサシン?」
人前では流石に他人の振りをするアーチャー。
「いや、結局遠坂家のご令嬢とは、恋人同士だったのかい?」
「な……」
凛本人に聞こえないようにアサシンは質問する。が、アーチャーは絶句したまま答えられない。当のアサシンはというと、その絶句で得心したのか、微笑をわずかに含んだまま、そのままミーシャの後ろをついて行った。
今回は戦闘以外での天敵が多すぎる……と、アーチャーは嘆息し、凛の後を少々重い足取りで追いかけていった。