Fate/DD night   作:ゆきざかな

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第16話:キリング・フィールド

「そこの君。ちょっといいかい」

 

 少しゆっくり目に坂を下りているミーシャに、後ろから若い男の声が聞こえる。

 振り向くと大きな本を小脇に抱えている一人の少年が佇んでいる。

 時間は夜九時といったところであろうか。閑静な住宅街の上、ほんの数日前に一家殺人事件が起きたばかりなので、二人以外には誰もいない。

 

「いやぁ、君。お爺様のお知り合いだろ?ここんところ、ここらへんは物騒なんだよ。

 だから僕が送ってあげようと思ってね。

 おっと、自己紹介が遅れたね。これは女性に対して失礼したかな?僕の名前は間桐慎二。

 お爺様、間桐臓硯の孫さ、よろしく」

 

 そういうと少年にっこりと笑う。ハンサムな顔立ちにさわやかな笑顔。だが、ミーシャには何の感慨もわかない。

 むしろ中途半端に容姿が似ているせいで、マキリ・ゾォルケンのデットコピーを見せられているような気がして、ほんの少し腹が立ってくる。

 

「あ……ミーシャ・ブラントです。こちらこそよろしくお願します」

 

 と相手に合わせ挨拶をし返すが、内心、ミーシャは呆れていた。

 

  凛から。

『慎二は、魔術師としての覚悟もない、自分が有利だとわかるとすぐ調子に乗る。どうしようもない性格よ。だから、サーヴァントという身の丈に合わない力を得たのなら、その力を振り回したいから簡単に引っかかってくれる。

 その証拠に、開始早々あんな結界を学校に張ったでしょ』

 とお墨付きをもらっていたが、本当に来るとは……

 

 ミーシャは、《永続化(Permanency)》した《不可視視認(See Invisibility)》のお陰で霊体化したサーヴァントも視認することができる。よって後ろからついてくるライダーが丸見えである。

 ライダーがミーシャに見えていることも知らずに、なにやら慎二に聞こえないような小声で侮蔑を口にし、これまた聞こえないように舌打ちしている。

 どうもこのマスターとサーヴァントは仲がよくないようだ。

 

 しかし、初対面なのに異様に馴れ馴れしい。ミーシャが返事をするないなや。慎二はずいっと近づいてきて、もうミーシャの肩に手を回している。

 衛宮士郎から『いや、慎二は本当はいいやつだぞ』とフォローされていたが。少しそれは保留とさせて欲しいと、ミーシャは士郎の評価を心の再審査の棚に投げ込んだ。

 ミーシャの視界の端に、ライダーの呟きが見て取れる。たぶん呪詛で、そしてそれは慎二に向けてのだと、想像に難くない。

 

 ミーシャが、慎二に肩に手を回されたまま一方的に話――ほとんどが自慢話――を聞かされている状態で、5分ほど坂を下ると、そこは住宅の切れ目。左右が雑木林の地点に差し掛かってきた。

 そこで慎二が本題を切り出してきた。

 

「なぁ、ミーシャって、魔術師なんだろ?いいよ隠さなくっても。で、そのことで少し相談したいことがあるのさ」

「そうですけど、道端で立ち話というのも……」

 

 ミーシャは、すでに呼び捨てで呼ばれることに辟易しながらも、それを我慢して『どうしたら雑木林の方に誘導できるかな?』と思案していると。

「なら、そこの雑木林に行こうよ。大丈夫だって変なことしないって」

 

 慎二は自ら切り出してきた。

 ミーシャは心の中でため息を付く。慎二のサーヴァントはほぼライダーと決まっている。ならばまずは、雑木林に誘い込んで、機動力を奪うという作戦だったけど、何でこの子は自らそれを持ち出すんだろう?そして視界の端では、相変わらずライダーの呪詛がもれている。

 

「なぁ、ミーシャ。君も魔術師なら聖杯戦争ぐらい知っているだろう?

 そう、勝利すればなんでも願いがかなうってやつさ。何を隠そうこの僕がマスターなんだよね。

 どう?君も僕に協力しない?そうマスターになったのはいいけど魔力が少々足りなくってさ。

 そこで、君に協力してもらいたいんだよね」

 

 雑木林を数メートル入ったところで慎二は話を始めてきた。内容は予想通り過ぎて逆に心配になってくるほどだ。

 この茶番に付き合うミーシャの我慢は、そろそろ限界に達していた。

 

「つまり学校に張った結界の、これからの犠牲者と同じようになれという事ですか?」

 

 ミーシャは、敵意を露にして睨み付ける。

 慎二は自分より格段に小柄な女性の突然の変化と、自分の行動がいきなりばれていることに動揺し、肩に回した手をはずし半歩離れる。

 だがなお、戸惑いながらもなお慎二は虚勢を張る。

 

「ふ、ふん。な、なんだいそれは、僕にはサーヴァントが付いているんだぞ!

 わかるか?最強の使い魔サーヴァントだぞ!

 ああそうかい、君は少し痛い目に見ないとわからないというわけだね。おいライダー!こいつを……」

 

と、慎二の呼びかけに、ライダーが姿を現した瞬間、ありえないことが起こった。

ライダーの目の前に大きな銃(コンテンダー)を構えた黒服の男が突如出現し、ライダーに向けて発砲したのである。

 

 アサシンは気配遮断をもつクラスである。ただランクはBとそこまで強力とはいえない。

 かつて第四次に呼び出された百の貌のハサンに及ぶべくもなく、攻撃する瞬間にはその能力は激減する。

 ちょっとした探知能力や魔術があるのなら、たやすく見破られてしまうであろう。

 

 よって、あらかじめアサシンには、ミーシャが《空白の心(Mind Blank)》をかけておいた。占術防御としては最大級の呪文である。これによりアサシンに魔術的な探知は一切効果を及ぼさない。

 加えて、気配遮断のおかげで霊体化している限り、サーヴァントの感知には触れることができない。

 

 この状態で銃撃されたら、いくらサーヴァントでも回避することはできない。が、惜しくも弾はライダーの右腕に当たる。腕に銃弾を食らったまま、マスターの慎二を左手で運び数メートル後ずさるのは、彼女のサーヴァントとしての意地であろう。

 だがその銃弾はただの銃弾ではない、アサシンの起源を封じ込めている特性の魔術礼装とも言える銃弾だ。切り裂かれ無理やりに接ぎ直した右腕は、サーヴァントといえどもしばらく使用できない。

 

 それを合図に赤い礼装をまとった白髪の男と赤服の女。白銀の鎧をまとった少女騎士と赤い髪の少年。それぞれが左右の道から雑木林に侵入してくる。

 

「なんだよなんだよそれは……サーヴァントが三人となんなんだよ!遠坂はともかく衛宮にこいつもマスターなのかよ!

 おいライダー!うずくまっていないで何とかしろよ!お前は俺のサーヴァントだろ!ほら戦えよ!」

 

 慎二は半狂乱になって無茶な要求をする。片腕が利かない状態で、この人数を相手にすることなんて無理だ。隙を作って逃げることも難しいだろう。

 取れる手段は少ない、ライダーは敵がすべて4mまで近づいてくるのを確認した後。動かせる左手で眼帯に手をかけ、禁断の宝具を使用する。

 ライダーの目が現れる。キュベレイの目といわれる全てを石化する魔眼。魔力の低いものなら抵抗することすらできない、最上位に位置する凝視攻撃。慎二の顔が歓喜に歪む。

 

 だが、相手の反応は冷静だった。すでにマスター三人とアサシンはアーチャーの後ろに隠れている。

 

「すまないな。()()()()()。君の真名は割れているんだ」

 

 淡々とした声が、そのかすかなる反撃の芽すら摘む。そしてアーチャーはひとつの盾を投影した。

 それは鏡のように磨き上げられた青銅のシンプルな盾。女神アテナから授かった魔眼を反射したとも言われる青銅鏡の盾(ペルセウスの盾)

 アーチャーにとって盾の投影は、得意では無いが出来ない訳ではない。単に効率が悪いというだけである。

 

 そして、伝説は伝説に逆らえない。ペルセウスの盾の能力でアーチャーたちに石化の能力は発揮することはできない。

 さらに、その一瞬の隙を見逃す剣の英霊ではない。セイバーは魔力が非常に高い。ペルセウスの盾の守護がなくても、ステータスが下がるだけで、石化することは無い。

 

「本来なら1対1で戦うべきでしょうが、ライダーとそのマスターの貴方達二人は、その欲望のため無関係な人を糧としようとしている。よって速やかに討たせてもらいました」

 

 セイバーはライダーを一刀の元に切り伏せ、戦闘の終了を告げた。その瞬間、慎二の持っていた本が燃え上がり、ライダーの姿は霞のように消えていった。

 

「そこまでだ。どうやらお前では宝の持ち腐れだったようじゃな慎二

 ……やれやれ。見込みは無いと思っていたが、よもやこれほどとはな。孫可愛さで目をかけてやったが、これでは見切らざるを得ぬわ」

 

 そこへしわがれた老人の声が割って入ってきた。

 老人――間桐臓硯――が暗闇の中から滲み出るように這い出てきたのである。

 

「お、お爺様?見切るってどういうこと?」

 

 そう言いながら慎二は臓硯の方に寄っていく。ライダーを失った以上、慎二の頼りは、そこにしかいないのだから

 

「……痴れものめ。お前のような出来そこないに勝利など求めておらぬわ。望んだのは無力でありながら挑むわれらの誇りじゃ。

 まったく親子ともども一門の面汚しだな」

「な――――僕が、親父と同じ、だと――」

「たわけ、それ以下じゃ。無能であったお前の父は、さらに不良品のお前を産みおった。間桐の血はお前で終わりだ。

 以降は魔道に関わらず、無為な余生を過ごすがよい」

 

その最後の頼みの綱の臓硯にすら見捨てられた慎二は、呆然としたまま雑木林の外へ出て行く。それを誰も留める人物はいない。

 

「ほう、みすみす逃すか。さしずめ殺す価値も無いといったところか」

「違う、慎二は親友だ。だから殺したくない。だからこそこうしてサーヴァントを倒した」

 

 臓硯の疑問に、衛宮士郎は毅然と答える。このような手の込んだ作戦になったのは、結局士郎が慎二を殺すことに対し頑なに反対したのが原因だからだ。

 

「いけませんシロウ。この男は人間ではない。話すことも無く聞くことも無いはずです。

 ミーシャ、あのような物と少しの間とはいえ二人っきりで対面したとは、あなたに敬意を表しましょう。

 それとは別に無謀が過ぎます。あなたも士郎ほどにでは無いが、どうも自分の扱いを軽く見る傾……」

「セイバー判ってる。だけど聞かなくてはいけないことがあるんだ。

 アンタに聞きたいことがある。慎二は魔術師じゃないんだろ?なんでサーヴァントを従えている」

 

 セイバーの説教の矛先が、なぜかミーシャに向かって行くのを士郎が助け舟を出す。と同時に臓硯に今回の疑問点をぶつける。

 

「見ての通り。わしの変わりにマスターとなって参加してもらっただけじゃ」

「だから、そこなのよ、魔術師でないものがマスターになるなんて。ましてや譲るなんて考えられないわ」

 

 凛が、答えになってない臓硯の答えに対し、再度回答を要求する。

 

「遠坂の当主。先ほどは御見苦しいところをお見せしたな。

 何のことはない、本当に言葉通り譲ったのじゃよ。間桐にはな本来マスターの権利を持たぬ者に令呪を譲って、サーヴァントに命令できる力を与える術があるのじゃ。

 詳しくは秘儀なので盟友相手にも教えできぬが、燃えた本がそれだといっておこう」

「……流石は初代ってことかしらね。まぁ、もうサーヴァントが倒された今では深く気にすることじゃないわね」

 

 過去をあまり顧みない凛は、問題ないと判断した場合、きっぱりとその事柄から思考を切り捨てる。心の贅肉をなくすということだろう。

 

 士郎は、最後に一番大事なことを訊ねる。

 

「もう一つだ。桜はマスターなのか?」

「魔術師は一子相伝。慎二が後継者である以上、桜には何も教えてはおらぬ。よって此度の聖杯戦争も桜は知らない。

 兄がだめなら妹をとも思っていたが、すでに勝敗が決した。今更、何も知らぬ孫を聖杯戦争に借り出すことも無かろうよ」

 

士郎は胸をなでおろす。敗れた慎二は元より、桜も聖杯戦争に参加することは無いということだ。

そこにセイバーが念を押す。

 

「その言葉が真実ならもう切る理由が無い。ただし、偽りなら次は無い、これ以上わが主を阻むのなら、あなたでもあなたの跡取りでも容赦なく切り捨てよう」

「うむしかと」

 

 その言葉ともに、老人は影のごとく消える。と同時に、一気に重圧が消える。

 

「すまない遠坂。勝手に決めちゃって」

「いいわよ。慎二を殺さないって士郎の主張に折れたのは私だしね」

 

 凛もサーヴァントを所持していて敵対するのならともかく。サーヴァントを失った慎二にはあまり興味が無い。なにせ魔術師ですら無いのだから。

 

「それはともかく晩御飯にしましょう。皆さんおなかがすいていると思います」

「はい、食事はとても大事です。早く帰りませんかシロウ」

「そういうわけで、今夜は士郎の当番だからよろしく」

 

 女性陣三人の見事な連携に、士郎自身はまだ仕事が残っていたことを思い知らされ。がっくりとうなだれる。

 

 

 

 

 帰路につきながら、作戦通りサーヴァントを倒すことが出来た。と、ミーシャは胸をなでおろす。

『でも、あっけなさすぎる』

 だが、マキリ・ゾォルケンの粘り強さを知るミーシャは、同時に心の隅に残る不安の種を駆除できずにいた。

 




今回は少々長くなりました。
途中できるとテンポが悪くなりそうなので、切りのいいところまで執筆しました。
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