Fate/DD night   作:ゆきざかな

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第17話:めぐり逢う朝

2月4日 衛宮邸

 

「シロウ、こういうことは二度とないようにしてください」

「あぁわかった。肝に銘じるよ」

 

 午前6時土蔵から出てくるのは、セイバーとそのマスターの士郎。

 昨夜の衛宮士郎は多忙だった。いや多忙すぎたといっていいだろう。

 

 家に帰り次第夕食の支度の仕上げを行い、その後食事。

 セイバーは相変わらず食べながらこくこくうなずいて満足そうに消化してくれた。が、凛のこれなら勝てるというつぶやきが、士郎にとっては非常に気になった。あの性格だ、今晩で自分の腕前を士郎に見せ付けるのだろう。

 

 その後、ミーシャに頼まれたといって、遠坂凛から即席の魔術講座を受ける。

 そこで半ばだまされた形で宝石を呑まされる。その宝石効果か体中が熱で悲鳴を上げる中での強化の練習。

 凛曰く、魔術回路は一から作り上げているのは間違いで、一度作り上げてたのならスイッチオンオフで事足りるとのこと。

 今回はそれを無理やり体に覚えさせるための、スパルタ方式の講義だったとのこと。

 

 それが終わり、すっかり熱を持った体を冷やしに土蔵にいるところ。「あの」アーチャーがまさかの魔術のアドバイスを士郎にしてきた。

 

「衛宮士郎はサーヴァントにどうあがいても勝てない。ならば、せめてイメージしろ。現実の中で適わない相手なら、想像の中で勝て。

 自身が勝てないのなら、()()()()()()()()()()

 ―――――所詮。お前にできることなど、それしかないのだから」

 

 なぜだかわからないがアーチャーのこの言葉は、どうしようもなく素直に衛宮士郎の胸に落ちた。

 それから、土蔵で体を冷やしていたまま寝てしまったところを10分前にセイバーに発見され、当然のごとく小言を言われ今に至る。

 

「おはよう間桐さん。こんなところで顔を合わせるなんて意外だった?」

「――遠坂、先輩」

 

そして、衛宮士郎は最悪のタイミングで玄関に戻ってきたのである。

 

「シロウ、玄関前に立ち止まってどうしたのですか」

 

そして、衛宮士郎は状況的に最悪な人物を連れて、玄関に戻ってきたのである。

 

 

 

 

 朝食(結局、ミーシャが用意してくれていた)を終えた後。全員居間で状況の確認という名の、間桐桜説得会が始まる。

 居間にいるのは、衛宮士郎、遠坂凛、間桐桜、ミーシャ・ブラント、セイバー。男女比が少しおかしいのではないかと士郎は嘆く。 藤村大河がおじいちゃんのぎっくり腰の影響で、しばらくこれなくなったのは幸いといえよう。

 こんな状況を見られたら、士郎がどんな目に合わせられるか分かったものじゃない。

 

「あー、こっちは遠坂……なんかさっきの様子だと知り合いみたいだし、改めて紹介しなくていいよな。

 で、この子がセイバー、ミーシャと同じく親父の知り合いで、切嗣(オヤジ)を尋ねにきたんだ。

 どうも同じルートで親父の居場所が割れたらしく、こうして二人がほぼ同時に尋ねてきたみたいなんだ」

 

 桜は状況がわからないという感じで、口が半開きになっている。士郎は勝負どころと判断した、畳み掛けるのなら今のうちだ。と。 

「で、二人とも昨日からうちに泊まっているんだけど「そんなのいけないです!」」

 

 当然のごとく……畳み掛けられなかった。

 

「セイバーさんはともかく。どうして遠坂先輩がここに来るのですか。そんなのおかしいです。ここにいるのはわたしで、先輩と遠坂先輩は関係ないのに、どうして」

 

 士郎は少しいつもと違う様子の桜に面食らっていた。だが、面食らっていても引き下がるわけにはいかない。士郎は桜の兄のことを問いただす。これこそ重要なことだ。

 

「すまない桜、これはもう決まってしまったことなんだ。それと慎二のことなんだけど――」

「……先輩、今は兄さんに関わらないでください。兄さん昨日の夜から様子がおかしいんです。気が立っているようだから、先輩にもおかしな事を言ってしまうかもしれない」

 

 この場にいる全員の目線がわずかに揺れる。昨日ここにいるみんなで慎二をフルボッコにして、完膚なきまで叩き潰したからだとは言えない。そして士郎は意を決して本題を切り出す。

 

「なぁ、桜。今日からこの家に泊まっていけ」

「……え? どういう事ですか?理由を聞いちゃだめなんでしょうか?」

 

当然の問いに士郎は息を呑む。これだけは嘘をついちゃいけないような気がする。自分の気持ちに嘘をついたら、二度と桜に顔を向けれないように感じたからだ。

 

「桜のことが心配だからだ。このごろ物騒だ、この家にいてくれれば俺は桜のことを心配しないで済む。セイバーも遠坂もここに滞在するのは一週間ぐらいだし。桜もそれまでいてくれないか?」

 

 これは凛の提案だ。昨日の帰り道、士郎が、慎二による暴走で桜の身に危険が及ばないか案じていたところ。

 

 『桜って子を巻き込みたくないんだったら、あなたの手で保護すればいい。自分で努力してどうにかなる方法を選ぶべきじゃないの?桜って子があなたにとって大切な人間だっていうのならさ。

 それにあの妖怪は、まだ聖杯戦争あきらめていない可能性がある。その点に関しても、そこに置きべきではないわね』

 

 と、なぜか不機嫌になりながらアドバイスをしてくれた。

 なので士郎は明かせるだけのギリギリの事態と偽りのない本心をさらけ出し、桜に問いかける。結局、士郎にはそれしかないのだから。

 

「……はい、わかりました」

 

 桜は遠坂凛をなぜかじっと見つめた後、笑顔で士郎の問いに答えた。

 そして、泊まると決まった後の桜は、落ち着きだし普段の桜に戻るどころか、凛にお茶のお代わりを出すぐらいなじんでいた。

 

 

 

 

 桜は弓道部の朝練がある。なので、話が終わった後すぐに出かけたのでもういない。

 ミーシャもその後を追うように、見回りしてきますとポツリと言って出かけてしまった。

 

 居間にいるのは士郎、凛、セイバー。部活に参加していない二人は、あと30分遅く家を出ても遅刻しないで済む。

 セイバーは魔力の温存もかねて、この家で待機というわけだ。

 

「まいったわね。桜があんなに強情だって思わなかったわよ」

「いや普段はおとなしいぞ、あそこまで頑なに反対するのは初めてだ。

 そういえば遠坂は桜と知り合いなのか?なんか遠坂の件に関してだけ強硬だったぞ」

「実は弓道部の美綴さんと私。親友……というか天敵みたいな関係。だから、弓道部に顔を出していたこともあってね」

 

 桜に関しては言えないことがある。そのため嘘ではないが、本当の理由ではない事を持ち出して誤魔化す凛。

 

「そういえば、先週末美綴本人に食堂で聞いた気がするな。でもそれだけじゃ説明にならないし、かといって桜にも聞くわけにも行かないしな」

 

 そんな事情を知らぬ士郎は、そういうものかと気にも留めない様子。

 

「そういえば、サーヴァント一人倒したんだよな。同盟どうするんだ?」

「それ、ミーシャちゃんが居ないのに、いま決めるつもり?

 まぁ、私はこのまま継続して続けても構わないわ。理由はバーサーカーの存在よ。

 たぶん、あいつは私たちが一人づつ立ち向かったら絶対勝てない」

 

 士郎はセイバーのほうを見る。戦いに関しては士郎なんかよりセイバーは専門家だ。

 

「いえ、マスターが勝てというのなら、一対一でもバーサーカーにも勝利してみます。が、今の同盟を解消する理由はないかと」

 

 剣の英霊としての意地を見せながらも。同盟継続に賛成のようだ。

 

「あとは、ミーシャの意見だけど。まぁ解消するとは思えないし、帰ってきてからでもいいか。

 それにしてもどうしたんだろ? 今朝は一言もしゃべらなかったし」

「……本当に士郎って鈍感」

 

 凛は士郎の機微の無さに呆れている。昨日のミーシャと臓硯のやり取りは、ミーシャの服に仕掛けられた盗聴器によって全員知っているはずだ。なのに元気がない原因が思いつかないとか、ニブチンにもほどがある。

 どっちかというと士郎はアサシンの一日で盗聴機器を入手した手腕と機器の手慣れた扱いに、ショックを受けていた。また、一つ養父(切嗣)の知りたくもない一面見てしまったのだろう。

 

 だが、凛は『昨日フラれたばかりの女の子に対して、それはないんじゃない』と言いかけてやめた。

 夜には落ち込みも元に戻っているだろうと、凛は彼女の芯の強さをそこそこ頼りにしている。

 なら士郎に無理に理解してもらわなくてもいいだろう。士郎じゃ余計なフォローをして、気まずくするだけだ。

 

 そこに電話が鳴り、一番近い凛が受話器をとる。

 滞在三日目で当然の様に電話に出る凛に、士郎はこのままじゃ家をのっとられるじゃないのか?と不安になる。

 当の凛は電話の内容に少々驚いた様子だが、その後ふんふんとうなづいて夕食にまで帰ってくればいいとか言い出して、最後にはデートがんばってと半ば冷やかし気味に電話を切る始末。

 

 さすがに予想もしない単語に、士郎どころかセイバーも完全に虚を突かれる。

 

「デートって……誰からなんだ?」

「ん?ミーシャちゃんからよ。慎二が一人でいるのを見かけて、なんかほっとけないから一日付き合ってあげるんだって。

 そんなの、どう考えたって逆ナンデートじゃない。

 まぁ向こうは丸腰だし、ミーシャちゃんにはアサシンがいるし、万が一どころか億が一もありえないから心配することはないし。

 だったら男性の趣味を云々言うほど野暮じゃないしね」

 

 士郎とセイバーは、凛の説明にただ顔を見合わせるだけだ。冷やかされて電話を切られたミーシャの困り顔が目に浮かぶ。

 凛はため息を吐き再度思う、彼女の芯は本当に強い。ほんとーに強いわー、なんか知らないけど腹が立ってきたわー。

 

「ほら士郎。学校行くわよ!」

「あ、わかった。けど遠坂、何に怒っているんだ」

「怒ってないわよ!」

 

いまいち原因のつかめない立腹を発散しながら、凛は玄関に向かってずんずんと歩いていった。

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