Fate/DD night   作:ゆきざかな

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幕間3:インターセプション

 

 深夜12時。ここには街の中心からはずれ街灯もほとんどない道。月の光があるとはいえ、不気味なほどの静寂は人を躊躇させる雰囲気をまとっている。

 そしてその道の横には階段が伸びている。山頂の寺へ続く階段だ。ここ数日山門は閉められ、夜はおろか昼間すら人の出入りがほとんど無い。

 

 そう、ここはキャスターによってすでに神殿化され、侵入者にとってはまさに死地と化している。雰囲気どころか勘のいい人間なら近づくだけで異常を感じて道を引き返すだろう。

 その死地を散歩するがごとく悠然と階段を上る人影……いや、サーヴァントの影がある。全身を青で包んだ男――ランサーである。

 

 ランサーは、今日はなぜか開いている山門の手前まで来ると立ち止まり、何かを待つようにあたりを見回す。

 そして、しばらく立ち止まったあと、肩を落としひとつの事実を言葉にする。

 

「ハッ! やっぱりアサシンの野郎は、きれいさっぱり消えてやがるな」

 

 ランサーの言うアサシンは、ミーシャのアサシン(衛宮切嗣)のことではない。この山門を守っていたアサシン(佐々木小次郎)を指す。

 

「確かにあの剣技を持つのアサシンとは、やり合いたくない相手だった。が、本当に居なくなってどうするんだよ」

 

 おいしい料理が捨てられたような口調で、アサシンと戦う機会の喪失を惜しむランサー。

 そして、山門をあがり境内に入るとランサーの眉がピクリと上がる。周りにはいつの間にか、竜牙兵がランサーを囲んでいる。

 だがすぐに、ため息とともにランサーの緊張が緩む。彼にとって竜牙兵なんか相手にしても面白くもなんともない。

 

「はぁ、今更こんな出迎えされてもな……いるんだろ? キャスター」

 

 この状況でクラスの代名詞である槍すら出さずに、虚空に向かって挑発をするランサー。

 

「ええ。ここにいるわランサー」

 

 呼びかけに応えるように暗闇から染み出すように現れるのは、紫色と黒であしらえたローブをまとった見るからに魔術師然とした人物。フードをしっかりとかぶっているので顔は見えない。

 だが、胸のふくらみと体の丸み、そして高い声が、女性であること示している。

 

「で、こんな戦力で俺を倒そうとするなんて舐められたもんだな、おい」

「いえ、これはあくまでも守りのためよ。それよりも聞きたいことがあるんじゃない?」

「あの門番はどうした。誰かにやられちまったのか? ならセイバーか? ……いや、それとも無理やり召還したのが祟って足元をすくわれたのか?」

 

 腹の探りあいは御免だとばかりにランサーは核心を突く。そう、ここにいたアサシンは正規なサーヴァントではない。キャスターが裏技を持って召還したイレギュラーともいえる存在だ。いや存在だった。ローブの奥からギリというかすかな歯軋りが聞こえる。どうやら足元をすくわれたというのは図星であったようだ。

 

「妖怪爺のせいでね……まぁタイミングが悪かったらしく更におかしなことになったけどね」

「ったく、あんたに妖怪扱いされるヤツって何なんだ。そんなのが存在するとはぞっとしねえ話だ。まぁ、おかしなことに関してはこっちも承知済みってわけだがな」

 

 ランサーは妖精(シー)がアサシンのマスターになったことを知っているどころか、召喚時に居合わせていた身だ。

 

「でだ。そっちも話があるんだろ? こう見えても忙しい身でな。心底うざってえが、後二人ノルマがあるんだ」

「せっかちね。まずは準備させて頂戴」

 

 キャスターがどの言語でも解明できない祝詞(のりと)を謳いあげる。<高速神言>のスキルである。

 詠唱が終わると一瞬にして空気が変わる。ランサーは槍兵ながら原初の18のルーン魔術を取得している芸達者だ。キャスターの使用した魔術もおぼろげながら看破することができた。

 

「てめぇ……やりやがったな」

 

 キャスターの魔術の意図を理解したためか、ランサーの口の両端は面白げに釣りあがっている。

 

「そういうこと、これで念話があなたのマスターと繋がることはないわ」

「……で、遮断しておいてどんな秘密な話をしようってんだ? おっと、マスターの鞍替えは無しだ。あいにくと俺は年増は好みじゃないんでな」

「――っ! 私だってあんたみたいな野蛮人こちらから願い下げよ。でもそうは言ってられないの」

 

 ランサーの目が厳しくなる。戦いの匂いを感じ取ったのだろう。

 

「ほう……で、どっちなんだ?」

「セイバーたちよ。今夜仕掛けに来る……いくら神殿化したここでも三対一じゃ分が悪い。だから先手を打たせてもらったの」

「あん? ――――チッ……そういうことかよ」

 

 ランサーはキャスターの視線に従い下を見ると、そこにはフラフラと足取り不確かな少年の姿が見える。それでランサーはキャスターの打った手というのを理解した。門が開いていたのは、彼を寺に向かい入れるためであろう。

 少し、不機嫌が滲み出ているのは、今一、ランサーの趣味ではないのと。いくらキャスターの魔力が強力とはいえ、遠隔催眠にあっさり引っかかってしまう小僧――手を抜いていたとはいえ自分の攻撃を何度もしのいだ魔術師――への落胆があったからだ。

 

「ええ、そういうこと。対魔力の高い厄介なセイバーのマスターを始末すれば、相手はアサシンとアーチャーの二組。それでこっちも二組と言う訳よ」

「で、こっちの見返りは何だ? まさか只働きってわけじゃないだろ。」

 

 と、相手の器を図るようにランサーは要求する。その挑発をキャスターは軽く受け流し、自信たっぷりに答える。

 

「あなたを縛っている命令を破棄ってところでどうかしら? 隠さなくていいわ、初見の相手には全力で戦えないんでしょ。これならそれを解呪できる」

 

 キャスターは、ねじくれ曲がったおよそ攻撃には向かないような短剣を取り出す。それは破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)あらゆる魔法効果を無効にするキャスターの宝具である。

 

 ランサーは、今の状況にいい加減飽き飽きしていた。

 本来のマスターから腕ごと令呪を奪われたのはまだいい。戦場で油断するのが悪いのだから。実際、バゼットのそばにいれば防げたのだから。

 問題はその後だ。戦っても倒すなという命令を令呪でもって強制された。さすがに中途半端な戦いずっと続けられるほどランサーはおとなしくない。

 いけ好かなくともマスターはマスターだ、鞍替えする気はさらさらない。が、この料理を一口口にして、「おあずけ」食らうような命令にはもう我慢の限界だ。

 

「わーった。それでよしとする。だがな、俺が相手にするのはアサシンやアーチャーじゃねぇ。セイバーだ」

 

 その時、耳をつんざくようなオートバイの急ブレーキ共に、階段下に新たなる影が現れたのが見えた。オートバイから飛び降りる女性。遠い目に見てもその美しい金髪は間違いようがない。士郎のサーヴァントのセイバーだ。

 キャスターは痛恨の計算違いをした。今日はアサシンの動向を中心に見たおかげで、セイバーがオートバイを動かしたときの速さを考慮できなかったのである。

 

「そういうことだ。ほら、早く令呪の呪縛をといたほうが良いんじゃねーのか? でないと手遅れになっちまうぞ」

「くっ!」

 

 慌ててキャスターは、未だ自我を取り戻していないセイバーのマスター――衛宮士郎――に向かって、魔力の光線を飛ばす。

 が、一瞬遅かった。セイバーは士郎の前に割り込み。現代の魔術師ではほぼ不可能な、その強力な対魔力で光線を消し去る。

 予定が狂ったキャスターは苛立ちを覚えるが、気を取り直して戦略を練り直す。使い魔の情報だとアサシンとそのマスターはまだ新都の方だという。ならアーチャー達が来てもまだ同数、いや地の利はこちらにあるならば勝算は十分だ。

 

 破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)がランサーの右手を軽く突く。キャスターは交渉しだいではサーヴァントの契約を破壊しこちらに引き込みたかったが、今回は令呪の束縛だけを破壊するにとどめた。セイバーが目の前にいる状態で、この期に及んで駆け引きはリスクが大きすぎる。

 

「んじゃま。いってくるわ」

 

 玄関から遊びに行くような軽い口調で、ランサーは階段を飛び降りセイバーに向かっていく。どうやらセイバーの呼びかけのおかげでマスターの士郎も正気に戻っているようだ。

 口調とは裏腹にランサーの目は喜びに満ちている。不本意な命令を遂行しているばかりで、無聊を慰めていた身。今やっと全力で戦える機会が来たのだ。

 

 上空に浮かぶ月を唯一の観衆として、今まさに戦いの火蓋が落とされようとしていた。

 

 

 




破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)は、任意の魔法効果を選んで消去はできるという設定で執筆しました。
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