Fate/DD night   作:ゆきざかな

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第21話:決戦のゆくえ(後編)

 

 凛とアーチャーが境内に入ると、そこには無数の竜牙兵――竜の牙で作られるといわれる骨製のゴーレム――が待ち受けていた。その奥に控えるは魔術師の英霊(キャスター)

 物陰に隠れているのか、マスターは今のところ見えない。

 

「ふう、完全に後手に回っちゃったわね。アーチャー」

「全くだ。たぶんこちらの襲撃を使い魔かなんかで盗み聞きをしていたのであろう。

 だとしたら、こちらにアサシンとミーシャが居ないのも筒抜けというわけだ。

 こそこそと盗人のような魔女だな。得てしてこの手の女性は、報復が怖いのが世の常といえよう」

 

 二人の会話に割って入るのは、キャスター。

 計画がことごとく崩れたことに対してか、神殿化した自陣に突入しても余裕の二人に対してか、それともその両方か。

 

「よくもまあアーチャー風情が、私のテリトリーに入ってそこまで私を侮辱するものね」

 

 近くにいる小動物ならそれだけで殺せそうな、禍々しい魔力をあふれさせるキャスターの脅しにも微動だにしない。

 

「そら、見てのとおり八つ当たりを食らうことになる。

 女の激情というのは中々に御しがたい」

「アーチャー、そこらへんの女性観がどこから来たのか、今度じっくりと話し合いましょ」

 

 この二人の軽口と皮肉の応酬は、何ともよくできた呼吸あわせに見える。自分のペースに持ち込めないキャスターはさらに苛立ちを募らせる。

 

「本当に口数の減らないサーヴァントね。セイバーやバーサーカーならともかく、あなたごときでは私にはかすり傷ひとつ追わせられない」

「えらく自信満々だこと」

「ああ。舐められたものだな」

 

 キャスターの挑発に対し楽しげに答える凛とアーチャー。境内の空気がじりじりと戦闘の熱気を帯び、キャスターの魔力と混じりあう。

 

「そう思うのならならばやってみるがいいわ」

 

 その言葉とともにキャスターは指を一本持ち上げる。

 すると今まで待機していた竜牙兵が動き出し、二人を囲みだしてきた。サーヴァントならともかく、並みの魔術師なら苦労する軍隊だろう。

 しかし、驚いたことに前に出たのは凛、素手のまま前方に居る竜牙兵に全力で駆け出していく。

 

「こんなゴーレムを使って数で潰そうって腹? ふざけんじゃないわよ!」

 

 いや素手ではない。凛が手に持つのは数個のトパーズ、先ほどのキャスターとの会話で前もって用意していたのだ。

 凛はその宝石を左右前方の骨人形に投げつけ、呪文を唱える。

 

 「Ein KOrper(灰は灰に) ist ein KOrper(塵は塵に)―――!」

 

 視界は一瞬にして白くなり解呪の力が開放される。

 白い光が収まるとそこには破壊の後はなく、ただ、バラバラに散らかった骨の残骸があった。そして、キャスターの目の前には双剣を手にしたアーチャーが、既に飛び込んでいた。

 

「―――!」

 

 呪文の詠唱など許さない。

 キャスターが片腕を突き出すよりも早くその双剣が、キャスターを両断していた。

 両断されたキャスターはそのまま霞に掻き消えるように、見えなくなっていった。

 

 事をなし終えたアーチャーは双剣を収め肩の力を抜き、凛に何かを話しかけようと――突然上空からキャスターの声が響く。

「残念ね……アーチャー。あなたが、本当にその程度だったなんて」

 

 見上げるとそこには、ローブ左右に開き宙に浮かぶキャスターが微笑んでいる。

 開いたローブには無数の輪が浮かび、月夜に舞う一片の蝶のような美しさを感じさせる。

 だがその美しさは、死を孕む。一つ一つの輪がそれぞれ、一介の魔術師以上の力を蓄えているのは明らかなのだから。

 

「空間転移か固有結界か……どちらにせよこの中では魔法まがいのことが出来るってわけだな」

「反吐が出るわね。その魔力はみんな冬木の住民から搾り取ったものじゃない」

 

 その圧倒的な姿に二人の口調から余裕が消える。そこから感じる魔力は膨大という表現すら生ぬるい。

 この魔力とキャスターの魔術師の腕が組み合わされば、あらゆる種類の魔術――それも大魔術クラス――の発動が可能であろう。

 

 そのとき、階段下から光の線が上空を切り裂く。膨大な魔力の奔流はランサーかセイバーの宝具だろう。

 

「向こうは決着がついたようね。ではこちらもここら辺で決めましょう。さあ散りなさい!」

 

 アーチャーはキャスターの魔力が形作るのを感じ、凛を抱えてその場から飛びのく。

 そして一瞬前に二人がいた場所に、無数の光の矢が降り注ぎ魔力の爆発を起こす。その威力は一発一発がAクラスに匹敵するであろう。直撃したら一瞬にして蒸発するのは想像に難くない。

 

 

 

 

Es ist gros,(軽量)…………!!Es ist klein(重圧)…………!!」

 

 ―――どのくらいたったであろうか、その間、間断なく魔力の矢はとめどなく地面に穿たれている。

 

 凛の重力制御の詠唱と、キャスターの死の光線の破壊音だけがこだまする 

 アーチャーは凛を抱えているので片手しか使えない。その上抱えながら回避しているというハンデもある。凛の重力制御による移動のサポートのおかげで、何とか回避できている状態だ。

 だがこのままではいずれ命中し、二人には死という結末が訪れるであろう。

 

 突如光の矢が止み、新たに無数の竜牙兵が離れの奥から飛び出してきて、二人に再び襲い掛かる。

 光の矢を止めてまでいまさらなぜ動かす? 魔力切れか? と、その行動にアーチャーは違和感をおぼえるが、それを考える暇をあたえなかった。それは、凛を抱えたまま一体目を切り払い、二体目を排除しようと振りかぶったときに起きた。

 

「アーチャー!」

 

 凛はその瞬間何が起こったのか理解できなかった。

 アーチャーが人間に素手で倒されたこと。そしてその倒した人間が、自分の担任教師の葛木宗一郎であること。

 思考の範囲外の出来事が、二つ同時に起きたからである。

 

 アーチャーにもその瞬間何が起こったのか理解できなかった。

 二体目は人間だったこと。あろう事かその人間に剣を素手で止められたこと。相手の拳の軌道が自分の心眼を上回ったこと。魔力を帯びた寸鉄のようなものが叩き込まれたこと。

 思考の範囲外の出来事が、四つ連続して起きたからである。

 

 その拳によりアーチャーは意識を絶たれ、凛はそのままアーチャーに投げ出される形で、地面に転がり落ちる。

 とっさの受身を行ったため対した怪我はない。といってもサーヴァントを無効化された今、絶体絶命の状況だ。

 

「見事ですマスター」

「世辞はいい。早く止めを刺すべきだキャスター」

 

 葛木はキャスターの賞賛にも何の感慨も覚えない。まるで生徒に問題の回答を促すような語調で死の催促の言葉を発する。

 それに同意するように、キャスターは微笑みながらとどめの呪文を用意する。

 

「はいマスター。速やかに終わらせましょう」

「――残念ながら、終わらせません」

 

 キャスターの死刑宣言を拒絶する声ともに中空から現れるは、鉄の筒を持つメイド服を着た小柄な女性。

 アサシンのマスター、ミーシャの姿だ。

 

「そんな早すぎる!」

 

 キャスターは叫ぶ。ミーシャは先ほどまで新都にいたはずの人物。どんなに速くてもあと10分、いや5分はかかるはずだとキャスターは計算していた。

 《上級瞬間移動(Teleport,Greater)》はランサー戦で不発になった呪文だ。

 そのためミーシャが自分と同じ様に、瞬間移動で長距離を移動できることをキャスターは知らなかったために起きた計算違いである。

 その呪文でミーシャは柳洞山のふもと――境内へは瞬間移動を防ぐ山全体の結界のため直接移動できない――まで瞬間移動し、《飛行(Fly)》の呪文で一気に駆けつけたというわけだ。

 

 ミーシャの構える物体は、先端に鉄の棒が刺さっている70cmぐらいの鉄製の筒。聖杯の知識がキャスターに教える。あれはこの時代の軍隊が持つ武器。RPG-7という汎用爆薬投擲装置だ。

 

 キャスターにはあずかり知らぬことだが、現在ミーシャは《英雄のいさおし(Heroics)》の呪文により<特殊武器習熟:小火器>のスキルを得ている。これにより個人携帯する小火器の武器の使用を問題なく行使できる状態となっている。

 さらに《雄牛の筋力(Bull's Strength)》で、重い武器を苦も無く取り回しができるように筋力を強化している。

 そしてもうひとつミーシャは呪文を使用しているのだが、これは後述。

 

 キャスターは不思議に思った。神秘の力を持たない現代の武器ではサーヴァントを傷つけることはできない。向こうもマスター、そんなのは百も承知だ。ならなぜ――――キャスターの顔が蒼白になる、ミーシャの持っている筒は下にキャスターのマスターに向いている。

 そして階段から現れるはアサシン。動きを封じるつもりか、葛木のほうに向かっている。

 

「宗一郎――様」

 

 キャスターは我を忘れ思わず素に返り、愛しいマスターの名を呼び。葛木に強力な防御壁を張る。

 それはヘラクレスの装甲に匹敵する防御力を持ち、近代兵器といえども個人携帯ごときでは突破できない。直後、轟音が発せられる。

 

 だが、安堵をする束の間キャスターは予想外の事態に巻き込まれる。その鉄の筒から発射された鉄の塊がキャスターに激突した。ミーシャのマスター狙いはフェイントであったのだ。

 

 爆音とともに爆発の衝撃と無数の玉がキャスターに突き刺さり、霊体でできているキャスターの肉体が削れる。

 残りひとつの呪文は《上級魔法の武器(Magic Wepon,Greater)》。この呪文により対象の武器は魔力を帯びた武器となる。

 

 そう神秘を得るのだ。

 

「あ! あ――――!!!」

 

 精神集中を切らしたために、飛行の魔術を失ったキャスターは、悲鳴を上げ中空から落ちていく。

 だが耐久度が低いキャスターといってもそこは英霊。重傷だが破片榴弾程度では致命傷にはならない。キャスターはいったん地上に降りて体勢を立て直そうとする。

 

 しかし、そこに待ち受けるは、怒れるあかいあくま。上方を防護魔法で覆い破片とベアリング弾の雨の中を駆け抜けてきたのだ。

 それを見逃す葛木ではないが、階段から現れたアサシンに阻まれ、凛への追撃を行えないでいた。

 

「――――Neun(九番)……! ――――Acht(八番)……!」

 

 呪文とともに両手が光る。とっておきの宝石を二つ開放し、自らの拳に魔力を乗せたのだ。

 凛は落ちてきたキャスターの腹に向かって、カウンター気味に左手をショートアッパーでを打ちつける。

 キャスターの全体重が落下の加速度を携え、凛の拳にのしかかる。

 凛はその重さに崩れ落ちそうになりながら、もうひとつ宝石を消費し肉体強化の呪文を唱える。

 

「――――Sieben(七番)……! ――――Gros zwei(強化)……!」

 

 そして石畳にヒビを入れる強力な踏み込みとともに、魔力の残る右手をキャスターの鳩尾にストレートで全力でぶち込み、そのまま拳を打ちぬく。

 キャスターはそのまま錐もみ状態のまま前方に跳ね飛ばされ、寺の本堂に叩きつけられて動かなくなった。

 

「だから言ったのだ……女の激情というのは中々に御しがたい――とな」

 

 なんとか意識を取り戻したアーチャーは、噛み締めるようにつぶやく。

 サーヴァント相手に、格闘ゲームの必殺技のような攻撃を叩き込む。自分のマスターの素晴らしさ(恐ろしさ)を再認識したからである。

 

 

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