Fate/DD night   作:ゆきざかな

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第25話:父のこころ

 

 玄関ロビーは死の舞踏会場と化していた。

 奏でるはバーサーカー。踊るはアーチャー、アサシン、ミーシャの三人。観客はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 脱落者は死の洗礼。時間制限はバーサーカーの魔力が尽きるまで――つまりほぼ無限。

 

 今回は初戦と違い小手調べの攻撃は行わない。

 初めの会敵以降、バーサーカー対策は避けられぬ命題となっていた。 

 アーチャーの壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)でやっと傷をつけられるような防御能力など、宝具以外考えられない

 そしてイリヤの「二回も殺すなんて」という台詞。

 つまり、それに加え死から蘇る力も所持しているというわけだ。

 だが、そんなの規格外の能力が無限に行使できるわけがない。どこかしらに制限があるはずだと、凜の分析。

 

 その制限についても真名がヘラクレスと知ったときに、ある程度のあたりをつけていた。

 ヘラクレスで数にまつわる一番有名なエピソードといえば十二の試練、ゆえに蘇生回数は12回と踏んでいるが……

 といっても予想の域を出ない。

 

「ねぇ、どうしたの? 三人とも逃げ回っているだけじゃ勝てないわ」

 

 イリヤがバーサーカーの背後で、可憐な声を響かせる。

 《加速(Haste)》と《猫の敏捷力(Cat's Grace)》の呪文により性能をあげた三人は、何とかバーサーカーの死の旋風をかわしているが、刹那のミスが即死につながる状況をいつまでも続けているわけには行かない。隙を見て攻勢に転じる。

 

 アサシンがバーサーカーをひきつけている間に、アーチャーがテラスに上がり弓を投影し矢を置く。その矢は非常に捻じれて持ち手がある。矢と言うよりも剣といったほうが正しい。

 だがその剣は引き絞り合わせ伸び矢の形をとる。この矢の名は――

 

「我が骨子は捻じれ狂う――偽・螺旋剣(カラドボルグII)

 

 そう緒戦でバーサーカーに叩き込んだ必殺の矢。それをもう一度バーサーカーに放つ。

 ロビーは一瞬にして墓地の再現と化した。階段は崩れ天井には穴があき。床は瓦礫で足場が見えないほどだ。

 物陰に隠れたミーシャとアサシン。防護魔法で悠然と構えるイリヤ。だが、直撃を食らったバーサーカーはこれで最低でも一回は殺せるはず―――だった。

 

「死からの再生だけではないということか」

 

 かすり傷程度しか負っていないバーサーカーに、三人が戦慄する。一度受けた攻撃に対してのダメージ減少能力まで保持しているとは、厄介なことこの上ない。

 

「そうよ。バーサーカーは最強なんだから」

 

 無邪気な笑顔で自慢するその少女の意味するところは、相手の絶対的な死であった。

 

 

 

 

 どのくらいの時間がたったのであろうか、いまだアインツベルン城内の戦闘は継続している。バーサーカーの死の旋風は今だやむことはない。

 

 そして、三人とも体中に多かれ少なかれ傷を負っている。

 サーヴァントである二人は今だ健在だが、ミーシャは腹部に重傷を負い――石剣が掠っただけなのだが――いささか危険な状態となっていた。

 アインツベルン独特の純白のメイド服が切り裂かれ、真紅に染まっている。破れた服から、擦りえぐれている腹部の肉が覗いて見える。

 

 魔力供給もとのミーシャの様子から固有時制御(Time alter)の使用もあと数回できれば良いほうか。アーチャーの魔力もそんなに余裕は無い。強化呪文も軒並み効果時間が切れている。

 対するバーサーカーは命を六回失ったのみ。

 計算上では同じ数だけ殺す必要がある。しかもそれぞれ別の手段でないといけない――つまり絶望しかない。

 だが、それを覆す希望が、一つだけあった。

 

「すまないが、少し時間を稼いでくれないか? これには、少々手間がかかるものでね」

 

 アーチャーが戦場から距離をとり最後の賭けに出る。彼の唯一の魔術、その奥義をここで解き放つのだ。

 

「バーサーカー。アーチャーを殺しなさい!」

 

 ただならぬ雰囲気を感じ取ったイリヤは、アーチャー狙いをバーサーカーに命令する。それをさせまいと立ちふさがるミーシャとアサシン。そして、アーチャーからは、まるで自分の人生を語るような詠唱が紡ぎだされる。

 

『――― 体は剣で出来ている (I am the bone of my sword. )

 アーチャーに近づかせないために、アサシンがバーサーカーに肉薄する。近距離でキャリコを叩き込むが何の意味もなさない。

 ミーシャはその間に自分の服に《(Grease)》の呪文をかけている。

 

血潮は鉄で、心は硝子 (Steel is my body, and fire is my blood. )

 アサシンを二つに裂こうと石の塊が、叩きおろされる。が、固有時制御・二重加速(Time alter―double accel)で無理やり躱す。

 

幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades.)

 追撃をしようとするバーサーカーの背後に、縦横3mほどの巨大な片手が現れる。ミーシャの《ビクビーのつかみかかる手(Bigby's Grasping Hand)》が組み付きバーサーカーをそのまま抑え込もうとしている。組み付かれたままなので、武器を振るうことが出来ない。

 

ただの一度も敗走はなく、( Unknown to Death.)

 バーサーカーに巨大な手がはがされる――たぶん数秒持たないであろう――前に、ミーシャが痛みで気絶するのをこらえながら、頭上から飛びこむ。

 バーサーカーは、その無謀な突撃を素手でつかみ握りつぶそうとする。

 

ただの一度も理解されない。(Nor known to Life.)

 だが、油を塗った物体のように、ミーシャの体はバーサーカーの手からするりと抜ける。いや、本当に《(Grease)》の呪文で油が塗ってあるのだ。

 

彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う(Have withstood pain to create many weapons.)

 懐に潜り込んだミーシャは、バーサーカーの体に触れ虎の子の呪文をさく裂させる。それは《オットーの我慢できぬ踊り(Ottos's Irresistible Danse)》、強制的に踊りめいた動きをさせ相手を無効化させる一種の支配呪文。

 相手に触れなければ行けない上に、効果時間は非常に短いという欠点だらけの呪文だが。対魔力以外では防げない強力な貫通力を持つ魔術である。

 

故に(Yet)―――』

 バーサーカーがスッテプを踏んでいる間に、詠唱は完成される。アーチャーが賭けに勝ったと確信した時に―――それは突然起こった。

 

 

 ――――城全体が闇に染まり空気が、いっぺんに凍りつく。

 

 

 バーサーカー以外の全員の動きが止まる――存在を無視することができない圧倒的な存在感(虚無感)。それが玄関から発せられたのだ。

 皆が一様にそこに視線を向ける。

 

 

 ――――そこに。

 

 

 その“影”は立っていた。

 

 

 この場にいるすべての存在はその影に支配されていた。

 それは見たことのない何かだった。

 知性もなく理性もなく、おそらく生物でさえあり得まい。

 だが、その影は驚くべきことに、意思らしきものを持っていた。

 

 影はゆらりと音もなく蠢き形を変える。影の一部が素早く伸び、獲物を見つけた蛇のようにその切っ先をバーサーカーとイリヤスフィールに向け――――

 

 その突然の動きに、誰もが反応できないでいた。静止する空間の中、影だけが動いてバーサーカーとイリヤを包み込もうとしている。

 

固有時制御・四重加速!(Time alter―Square accel)

 

 いや、一人だけ動くものがいた。(イリヤ)の危機に体が動かぬ? そんなことはあり得ない。サーヴァントとの肉体としても限界を超える魔術でイリヤに向かう。

 ――だが影は驚く速さで迫る。間に合わない、あと一歩か二歩が遠い。

 

「アサシン! 令呪によって命ずる! イリヤ様を助けなさい!」

 

 そこに、ミーシャの令呪が飛ぶ。

 その助けによりアサシンは間一髪黒い泥に立ちはだかり、そのままイリヤをアーチャーに向かって投げ飛ばすことができた。

 

 だが、イリヤを襲うはずだったその禍々しい物体は、反動で動けないアサシンにそのまま襲い掛かる。

 一瞬にしてアサシンとバーサーカーは体が赤い線を含んだ黒に染まりだす。

 《オットーの我慢できぬ踊り(Ottos's Irresistible Danse)》の効果の切れたバーサーカーは、その黒に抵抗しようとして咆哮とともに体を動かそうとするが、泥沼に落ち込むようにどんどん沈んでいく。

 アーチャーの胸元でイリヤのバーサーカーを呼ぶ悲痛な声が、むなしく空気を震わせるだけだった。

 

「マスター、僕はここまでだ。すまない、結局こんな形になってしまった。

 それと、すまないついでに頼みがある。

 経験があるからわかるが、このままでは僕はこの黒い泥に取り込まれ同化されしまう、肉体を持たないサーヴァントでは多分逆らうことはできない。現に体が既に動かない――嫌な役目を最後に負わせてしまったみたいだね。

 最後に……イリヤを頼む」

 

 黒い泥に体を半分引きずれ込まれたアサシンは、最後の願いをマスターに請う。

 

「アサシンさん……わかりましたイリヤ様は私が責任を持ちます」

 

 半分泣きそうな顔でアサシンの意思を受け止めたミーシャは、意を決して命ずる。

 

「令呪によって命じます……自害してください」

 

 その瞬間、アサシンは強力な魔力により強引に動かされ、コンテンダーを自分に霊核に打ち込んだ。

 生存スキルのないアサシンは、霊核を破壊されたことにより速やかに消えていく。

 

「ありがとうマスター……どうせ泡沫の命、消え去っても悲しむことはない。だが、最後にイリヤの命を救えた、それだけで意味があった。……さようならマスター、そしてさようなら士郎」

 

 それがアサシンの残した最後の言葉だった。

 

「ミーシャ、悲しんでいる時間はないぞ。あれは危険すぎる」

 

 言葉とは裏腹に沈痛な面持ちで、ミーシャに声をかけるアーチャー。

 今二人にできることは、もっとも親しき者(バーサーカー)もっとも憎い者(アサシン)の二人を同時に失い、呆然自失のイリヤを連れて、この場を逃げ出すことだけだった。

 怪我により半分意識を失いかけているミーシャ――《(Grease)》の呪文は解除してもらった――とイリヤをそれぞれ両手に抱え、瓦礫を上り窓から飛び出るアーチャー。幸い影は追ってこない。

 

「まったく。サーヴァントになってもあれの相手をする羽目になるとはな……。だが悲観する事ではないか。今回は摘み取れる可能性がまだ残されているのだから」

 

 新た脅威を見定め決意を新たにするアーチャー。

 そして城から離れる中、口の中にだけ響く声で別れの言葉を発していた。

 

「さようなら。爺さん」

 

 

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