Fate/DD night   作:ゆきざかな

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第26話:新たなる戦いの序曲

2月7日

 

 ミーシャが目を覚ますとそこは見慣れない女性が二人いた。

 ただその二人の女性の着ている服は見慣れている。

 ミーシャの仕事着と、胸元を開いて下地の服が見えている意外全く同じ服装の二人は、イリヤが前に話していた。セラとリズだろうとすぐに予想がついた。

 

 体を持ち上げてみると血で汚れ破れていた服は脱がされていて、下着のままだった。その下着は絹製で、最高級のものだと現代の服飾に疎いミーシャでもすぐに理解できる。

 

「ミーシャ様お気づきになられましたか? 私はセラ、彼女はリーゼリット。イリヤ様のメイドをしております。

 お体についてはご心配なく、イリヤ様がわざわざ自ら治療されたのですから、ほんのわずかな傷跡ですら残ろうはずがありません。

 あと汚れたままですと不衛生なので、勝手ながらこちらで用意した物に着替えさせておきました」

 

 見ると腹部には傷ひとついていない。治療魔術が得意なアインツベルン、その最強魔術師の面目躍如といったところであろう。

 そのあとセラがひとつの提案をしてくる。

 

「え? イリヤ様がいる間、私の部屋を使わせてほしい?」

「ミーシャ様あなたも200年前とはいえ、アインツベルンに仕えた身でしょう。

 つまりあなたがここにいる時点で、ここはアインツベルンのメイド控え部屋となるのです。

 少なくともイリヤ様がご不便になるのは、私たちの矜持にかかわります」

 

 家主を無視したむちゃくちゃな提案をしてくるセラ。イリヤスフィールにある程度の義理を持つミーシャとしては、無碍に断るわけもいかないので対抗策を提案する。

 

「私は構いませんが……でも部屋はまだ空いていますから、二人の部屋を用意するとシロウさんに言っても……」

「エミヤ様はあくまで監視対象です。その対象に借りを作るわけには行きません!」

 

 次善策を立てるも、衛宮士郎に対するいささか過剰な反応をセラが起こす。

 問題が起きる前に主人(イリヤ)がいる間は、彼女のメイド達(セラとリズ)がこの部屋に待機しているってのは、こっそりシロウさんには伝えておこうとミーシャは心に留める。

 

「ミーシャ、これ着て。セラが予備の服を直した」

 

 リズがメイド服を差し出す。しっかりきっかりミーシャのサイズに合わせてあるそのメイド服は、セラの几帳面さと腕のよさをよく現している。

 

「そうえいばミーシャ様の服は、私たちの服と一箇所だけ違う部分がありますね。やはり200年たつとそれなりに伝統も変わってくるのでしょうか?」

 

 ミーシャが着替えている間、セラが何気なしに聞いてきた。ある意味大先輩ともいえるミーシャに、セラは少し親近感を覚えているのであろう。だが、その理由はミーシャにとって少々答えづらい。

 

「あー、えーと……実は、私が仕えた時にユスティーツァ様が、私にふさわしいくかつ動きやすい機能的な服を作れと。当時の服飾職人の方にデザインしてくれたものなのです」

 

 セラの目が輝く。アインツベルンの逸話、しかもかの冬の聖女自らの賜り者の話と聞いて俄然興味が沸いたのだ。

 

「胸の部分は閉じているのが本来のデザインでしたが、予想するに後の人が着る段階で……多分胸がきついということで……」

「申し訳ありませんミーシャ様。配慮が少々足りませんでした」

 

 セラも自身の体形にコンプレックスを少なからず抱いている身。ミーシャの心情をすぐに察して話を打ち切る。だが既に遅かった。悲劇はこの部屋一の巨大兵器()の持ち主によってもたらされる。

 

「確かに、ブラジャーのサイズ、イリヤよりも小さかった」

「リズ!」

 

 そう、何気ないリーゼリットの一言で、完全に止めを刺された形となった。

 

 

 

 

 絶望に打ちひしがれたミーシャが居間に訪れてたときには、四人の人物がすでに会議を行っている最中であった。。

 部屋にいるのは、衛宮士郎、遠坂凛、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、セイバー。そして今来たミーシャ。

 

 女性陣の割合がどんどん濃くなっていく衛宮邸であった。本格的に如何にかしないといけないな。と、思っている士郎だがこればっかりは覆る材料が、砂漠に落とした針のように見つからない。

 腰を下ろそうとするミーシャを留め、まず先陣を切る凛。

 

「まずはじめに、確認しておくことがあるわ。あなたは昨日の夜サーヴァントを失った。それでも、聖杯戦争に参加する意思はある?」

 

 サーヴァントを失ったという部分で士郎の顔が翳る。

 サーヴァントとはいえ、養父を再度失うことをまるっきりの平静で受け止めれるほど、士郎はできていない。

 ミーシャもアサシンの無口だが、求道者のような人となりには敬意を持っていた身。心の中で魔術の神(Mystra)に祈りを捧げ彼の死――偽りの生はいえ――を悼む。そして、祈りを終えると決意を新たに表明する。

 

「はい。私の目的は聖杯儀式そのものですから」

「ま、絶対そう答えると思ったけど。改めてよろしくね。」

 

 こうして、再度ミーシャを加えての今後の方針会議が開催された。まずはミーシャの現状報告から始まる。

 

「ん? 力量が上がった(レベル17になった)?」

「ええ、今朝呪文を準備したところ最高クラス(9レベル)の呪文が準備できるようになりました。ただ《望み(Wish)》の呪文は非常に大きな力(大量経験値)を失ってしまうので、本当に一回だけにとどまりますが……」

 

「それは、セイバーともども良い材料ね」

 

 そう、他にも良い報告があった。セイバーの魔力供給が、昨夜別れた後に旨く解消できたらしい。

 方法は結構乱暴で、衛宮士郎の魔術回路をセイバーに移植してパスをつなぎなおしたとか。

 一歩間違えれば、廃人となるリスクがある危険な方法だったのだが、成功したのなら結果オーライといったところか。

 

 セイバーと士郎の態度は、一見ギクシャクしているようで、よく見ると今まで以上に信頼が構築されかかっているのが見えるのは、その儀式の影響だろう。

 ミーシャが聞いても。二人とも顔を赤らめ凛は憮然とするだけで、答えるのを遠慮しているのは少々不思議に見える。

 

 そして、ミーシャが眠っている間に、イリヤをここに残すかどうかで一悶着あったらしいが、結局ここにいてもらうことで決着となった。

 教会に連れて小聖杯であるイリヤを言峰に預けるのなんて論外だ。サーヴァントの居ない状態で一人にするのも危険だ。ならば守るしかない。

 

「結局、私が受けるべき魂も向こうに全部持ってかれちゃったもの。マスターとしても聖杯としても、私は何もいう資格はないわ」

 と、イリヤスフィールは聖杯について発言をすることを現在の段階では拒否している。「向こう」とは何かも白状する気はない。

 毅然とした態度には、イリヤがイリヤとして在るべき矜持があるのが伺える。

 ただイリヤの座っている位置がなぜか士郎の膝の上なのは、たぶんそれとは関係ないだろう。

 

 イリヤとそれを見るセイバーと凛の表情の微妙さを見て。ミーシャは今は亡きサーヴァントに向けて嘆息する。セラの先ほどの警戒心がなんとなく理解できたからである。

 『アサシンさん、あなたの息子さんはこれからずっと女性に苦労します』と。

 衛宮士郎の女性を引き付ける力は正に神の祝福、いや悪魔の呪いであろうか……

 

「桜は大丈夫なのか?」

 

 士郎は凛に確認を取る。

 桜は今朝血だらけの服で玄関の前に倒れていた、不思議なことに傷ひとつついていない。

 本人の弁では、先輩たちがいなくて気になって外に出て転んでしまったとか。

 そんな理由では納得できないが、こちらとしてはそれにだけに構っている余裕はない。

 体の様子を見た凛は青ざめていたが、理由を語らなかった。ただ一言、「命に別状はないからとりあえずは安心して」とであった。

 アーチャーは、部屋で休んでいる間桐桜を見張っている。

 

「結局、あの影がこの世全ての悪(アンリマユ)というわけか」

 

 そして、構っている余裕のない最大の原因に話はおのずと移る。

 なぜ現れたのか? どのような目的があるのか? 一切わからない。だが、危険な存在なのは間違いない。それは理性でなく感覚に揺さぶる根源的恐怖。目の当たりにしたミーシャとアーチャーは身にしみるほど理解している。

 そして、事は聖杯だけにとどまらないと凛が今朝の新聞をミーシャ見せる。

 

「ちょうどあなた達がその影にあってから二時間後よ」

 

 と凛は補足する。

 

――原因不明の失踪事件

 

――住人の行方が確認されない建物は十数棟に及んでいる。

 

 すべてを飲み込み影と同じ日に起きた大量の失踪事件。無関係ではなかろう。

 いや関係ないと考えるほうがどうかしている。

 

「キャスターの調査待ちだけど、これで爺さんの話に信憑性が出てきたというわけだ」

 

 ここでひとつ問題が出てきた。聖杯は望みをかなえる願望機。だが、聖杯がアサシンの言ったとおりに穢れているのなら聖杯のかなえる願望も邪悪に歪んで達成されるいるということだ。

 

 士郎も凛もイリヤもミーシャも聖杯に願うことはない。アーチャーも聖杯に望むことはないと答えている。

 キャスターはすでに願いがかなっている。

 

 そうすると……誰とも言わずに皆が自然とセイバーの方を向く。

 その視線を受けセイバーは―――

 

「そうですね。事ことにいたっては話すしかないでしょう」

 

 ―――観念したように、自分の正体と聖杯への望みを語りだした。

 

 

 

 

「セイバーがアーサー王。アルトリア・ペンドラゴンだって?」

 

 セイバーの話を終えて士郎がが第一声をあげる。どうやらそのことに驚いているのは士郎だけだ。ミーシャはアサシンのおかげで元から知っていて、凛は薄々当りがついていた。イリヤはセイバーの正体にあまり興味はない。

 

 みなが驚いたのは、生きているうちに聖杯を得ることを叶えるため。死後守護者となることを条件に<世界>と契約しサーヴァンとして召喚され、そして手に入れた後死ななくてはならない。そのセイバーの過酷な運命についてだ。

 聖杯を手に入れるそれまでは、ずっと自分の時代(死の直前)にとどまっている身であるという。

 そして、冬木の聖杯戦争どころか聖杯のかかわることに、時間軸を超えて戦いに参加する身だという。

 手に入れたあかつきには、その聖杯を持って自身の存在を消すのが目的だと。

 

「―――自分を救うために、聖杯を使うんじゃないのかよ」

 

 士郎の声が険しくなる。いつもの他人のための怒りだ。その甘すぎる怒りも、今のセイバーにとっては愛おしくなってくる。

 

「私は国を守れなかった。そのときに思ったのです。

 ―――岩の剣は、間違えて私を選んでしまったのではないかと

 ……だから、もしその聖杯の力で王の選定をやり直すことが出来るのなら、そのときに戻ればきっと―――」

 

 それを聞いていた士郎は、とうとう我慢できなくて反論する。過去を改竄して自身の消滅が願いだ?

 そんなのは許しちゃいけない。たとえセイバー以上にふさわしい王がいてもだ。

 

「違う――そんな事は出来ない。

 やり直しなんて出来ないし、しても意味はないんだ、

 セイバー

 もし聖杯が穢れてなくて願いがかなえられるのなら。自分のために使ってくれ、そのためになら俺はこの聖杯戦争を終わらせるために何でも協力してやる。わかったなセイバー」

 

 その言葉にセイバーは、自身の願いと士郎のまっすぐな願いがぶつかり、どちらが正しいかわからなくなってしまう。

 できることは、ただ黙ってうつむくだけであった。

 

 凛はその様子を見てやれやれといった風に外を見て今後について思いを馳せる。

 サーヴァントが四体脱落。二体が味方、一人が脱落宣言という数字だけ見れば勝利しているような状況だ。

 だが、現状は今だ先が見えない。むしろ混迷の度合いは深まっていくように感じる。

 しかし、これより冬木の殺し合いは、最後の――別次元の――戦いへと転がり落ちていく。

 

 

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