Fate/DD night   作:ゆきざかな

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第30話:イントゥ・ダークネス

 1キロぐらいであろうか大空洞の中を歩く衛宮一行。遠くに見える黒い太陽も、ずいぶん近く見えるようになってきた。

 それは、禍々しいと形容するのにもおこがましい、その光にも瘴気すら発しているのではと思えるほどの不吉さをまとっている。

 そしてそれを抱くように下から伸びている巨大な殻、それは黒い太陽を掲げる燭台のようだ。

 それを見たイリヤは――

 

「受肉しかかっているじゃない」

 

 とポツリと漏らす。

 このままでは圧倒されてしまうと思ったのか士郎は、少々この場にそぐわない話題を持ち出す。

 

「なぁ、慎二。昨日遠坂と話していたことって、今回のことなんだろ? 無理に参加を願ったって話じゃないか」

 

 昨日、間桐慎二が遠坂凛を呼び出して、なにやら別室で話し込んだかと思ったら、数分後鈍い音と低い声が聞こえてきた。

 あわてて駆けつけた士郎の目にに移ったのは、うずくまる慎二と桜の件はこれで許してあげると言って去る凛の姿であった。

 

「なんだよ衛宮。不満でもあるのか?」

 

 慎二は眉を吊り上げる。一々嫌味で返すその悪癖は当分治らない、いや一生治らないかもしれないだろう。

 だが、少し前に比べて刺々しさは無い。

 寧ろ士郎にとっては懐かしさも感じるほどだ。そして、その気持ちを素直に言葉にする。

 

「なに言っているんだ、慎二。昔の慎二に戻ってくれて、嬉しいに決まっているだろ。

 桜に対する今までの行為で遠坂に殴られたのは、清算だと思って納得するんだな。

 でなければ、それを知った俺がそのとき殴っていた」

 

 どうやら、その時に慎二は桜を長い間色々虐めていたことを告白したらしい。

 が、いまいち士郎は腑に落ちないでいた。

 なぜそのことを慎二がわざわざ遠坂に言ったのか、なぜそれで遠坂が慎二を殴るまで怒ったのか。

 と、二人が姉妹だと知る由も無い士郎が疑問に思っていると、突然後ろのライダーがポツリと漏らす。

 

「いえ残念です。あの時の凛、腰が入っていませんでした。腰が」

「おい見ていたのかよ、何やっているんだよライダー!

 あいつ八極拳やっているって話じゃないか、そんなの食らったら僕が死んじゃうんですけど!」

「ですから。残念です」

 

 ライダーの言葉はほとんど感情もなく真意は汲み取りにくいが、口元がわずかに綻んでいる。

 どうやらこの二人は、決定的に相性が悪い分、完全な自由な間柄のほうが寧ろ良い関係になるみたいだ。

 そんなコントのような元主従のやり取りを見て、イリヤを抱えているアーチャーは嘆息しながら前方を指差す。

 

「あれを見ろ、三人とも遊んでいる暇は無いぞ」

 

 最初は、黒い太陽の光の揺らめきによって生じる岩の影かと思っていたが、そうではなかった。

 それは動く実態を持った影。大きさは高さ2メートル長さ3メートルの巨大な芋虫のような姿かたちをしている。

 だが虫と言い切るには、非常に大雑把である。さらに、頭の部分に赤い光が見える。あれが目なのであろうか。

 いや、生き物ですらない異形の存在に生物の器官を当てはめるのは無意味であろう。

 意味があるのはその数―――百は余裕で越すであろうその群れであった。 

 

「ここから先がテリトリーというわけか、ふむ、話し合いは通じそうにはないがどうする?」

 

 その問いに聞くまでもないと、釘剣を取り出しながらライダーが答える。

 

「それは愚問ですね。桜を助けるために私は存在しています。サーヴァントの私に実力行使以外に何があるでしょうか?」

 

 衛宮士郎も両手に剣を投影して応える。昨日の特訓でかなり投影の正確さは上がったようだ。

 慎二も怯えているが、あれぐらいじゃ物足りないぐらいさと、少々身の丈に会わない強がりを披露し前へ進もうとしている。

 イリヤはいつも通りで、天真爛漫さに一欠けらの翳りも無い。

 大量の影の敵を前に速度を上げる一行は、あたかも暗黒の壁に穿つクサビのようであった。

 

 

 

 

 中洞の入り口、そこに遠坂凛は立っていた。睨むは一点、入り口にあいた通路の穴。

 その目はこの空洞から何かが来ることを確信している。 

 そして微かに音が聞こえる。それは人間の足音。規則正しい調子は音の主の几帳面さを表しているようである。

 

 程なくして、凛が来訪するのを確信していた人物が現れる。

 長躯の神父服の男。父の弟子、そして凛の兄弟子にして師、言峰綺礼その人である。

 緑の光に照らされたその顔はわずかに微笑を浮かべていた。

 

「ほう。私が来るのを判っていたというわけか」

 

 そんな凛の出迎えに対して綺礼は、発する内容とは裏腹に全く驚いてない様子だ。

 もちろん凛もそんな白々しい態度の綺礼を軽く無視して対峙する。

 

「綺礼、誘い出したのはそっちでしょ」

 

 そう言って凛は方位磁石を見せる。前回、士郎を見つけるために使用した魔術礼装で、今は別の宝石の魔力に反応しているように変更している。そして、その針は綺礼の方角をしっかりと指している。

 それを見ると綺礼は、面白げに目を光らせてひとつの宝石を取り出す。

 

「確かこの宝石をくれたのは、7年か8年前だったな。『もし綺礼が危険なところにいくのならこれを持って』って言ってくれてな。

 いや、今では面影はないが、なんとも健気だった。

 願わくばその十分の一でもその可愛らしさを残していて欲しかったのだが、かなわぬ望みではあったな」

「っさいわね。ほんと、今思うとなんでプレゼントしたんだか頭痛くなってくるわ」

 

 確かに今となっては、自分の行為に恥ずかしくなってくる。でもあのころはまだ幼かったし、真実も知らなかった。

 なんとなく好きになれないという感情はあったけど。いろいろと面倒見てくれた感謝の気持ちを形にして、渡してしまっても仕方がない。

 そんな思いにとらわれている凛に、まず綺礼の言葉の先制攻撃が飛び込んでくる。

 

「いいのか? 桜はお前の妹だろう? 私なんぞにかまけてこんなところで油を売っていたら、正義の味方に殺されてしまうかもしれないだろう?」

 

 綺礼は遠坂凛と間桐桜が実の姉妹だというのは当然心得ている。

 ならばそこから揺さぶってみてみるかと手始めに軽く挑発するが、当然のごとく凛は動じない。

 

「士郎もアーチャーもそんなことしない、なんとしても桜を助け出してくれるわ。異世界の魔術師もサーヴァントも三体いる。

 それにあの慎二が、頭を下げてまで連れて行ってくれと頼んできただもの。少しは意を汲んでやらないとね」

 

 昨日衛宮邸に戻ってきたときに、間桐慎二に呼び出されてそこで、最終決戦に連れて行ってほしいと言い出してきたのだ。

 今までが今までったので当初は渋っていたが、その時桜を助けたいんだと頭を下げてきたものだから、驚くほかはない。

 そこで、これまで桜を虐めてきたツケとして、一発腹部を殴りつけてそれでチャラにしたのは、遠坂凛らしいとも言えるが。

 

「だから桜は任せる。この世全ての悪(アンリマユ)の生誕を願う、ここにいるエセ神父を放置するほうが危険だもの」

 

 綺礼の毒舌を軽く流し、逆に挑発し返す凛。

 どう? 貴方の本心なんて当に知っているわよ。という目線を保ちながら髪をかきあげる。

 その思いもよらぬ確信を穿つ指摘に、綺礼は一瞬不穏な空気を滾らせるが直ぐにそれを収める。

 その綺礼の圧力に内心少し怯むが、表面上はおくびにも出さない凛。

 

「そうか、アサシンの正体は衛宮切嗣だったか。ランサーから聞いてもしやと思ったが、本当にそうだったとはな。

 まぁ、いまさら奴と会ったところで、話すことはないのだが」

 

 10年前の戦いでお互い失望しあった身。だから切嗣が生きていたと知った後でも、綺礼は会いもしなかった。

 だが、その養子の衛宮士郎が「正義の味方」を引き継いで聖杯戦争参加者として現れたときには、新しい玩具を見つけた子供のように胸を高鳴らせた。

 そしてこの世全ての悪(アンリマユ)の誕生により、彼がどのような末路たどるのか見届けたい衝動も湧き上がってきた。

 

「そういうこと……貴方がランサーのマスターだったのね。監督役がマスターなんてインチキも良いとこじゃない」

「監督役がマスターになってはいけないというルールはない。聖杯戦争の参加資格は聖杯が選択した印、そう令呪が全てではないのかね?」

 

 凛は、その言葉に、『よくもまぁ抜け抜けと』という風な呆れ顔で応える。

 そしてしばしの沈黙の後、凛は核心の問いを突き付ける。

 

「最後にひとつだけ教えてくれる? なんでお父様を殺したの?」

 

 今度は綺礼は驚かない。苦笑を一つ挟んで回答する。

 

「そうか切嗣がいたのだな。それならとっくに知られていても当然か。

 そうだな。衛宮切嗣の所為、いやお陰というべきだろうな」

 

 言峰綺礼は一旦目をつぶり、そしてゆっくり思い出すように昔話を語りだす。

 

「私は、長年心の奥底にある疑念を抱えていた。

 そして時臣師の支援としてこの地での十年前の戦いで切嗣と争う中。

 この戦いの果てに答えは得られる、という確信を持つようになる。

 だが、切嗣と時臣師の取引により、私はその戦いから離脱せざる得ない事態になってしまってな。

 だから、私の戦いを継続するためにに、時臣師を害した。そう答えを知るためにだ。

 結局、私というものはただ問いかけることしか知らない。それだけのことだ」

 

 実の父の殺されたことを殺した本人からその動機を語られる――並の人間なら激情して当然の状況だ。

 だが、遠坂凛の表情はドライアイスのように冷たい。まるで感情を置き去りにしてきた機械のようだ。

 そして、父親のことには一切触れず、いや無理に触れようとせずに、綺礼を拒絶する。

 

「その答えがこの世全ての悪(アンリマユ)の誕生というわけ?」

「正確には少々違っているのだが、それを説いても仕方なかろう。結局、私の目的はそれなのだからな」

 

 結局は平行線だ。凛は確信する。言峰綺礼と遠坂凛はあらゆる意味で正反対だということ。

 言峰綺礼と衛宮切嗣とは別の意味で決して相容れない存在だということ。

 ならば、凛が出す綺礼に出す最終回答は一つしかない。

 

「一ついえることは、そんな貴方を通すわけにはいかない。

 そして、それをとめる役目はこの私だって事」

 

 宣戦布告を行いもう話すことはないといった風に、凛は話を打ち切る。そして、凛は腰をかがめ戦闘体制に入る。

 それを見た綺礼は口元をほんの少しゆがめ。その無謀ともいえる弟子の挑戦に応じるようにゆっくりと手刀を構える。

 

 

 

 それぞれの思惑と覚悟と野望が交差する大空洞。

 そこに浮かぶ黒き太陽の光は誰が手にするのか、その運命は未だに中空をたゆたったままだ。

 

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