金色のサーヴァントからミーシャに向けて、何度ともなく武具が襲い掛かる。
それを迎え撃つは
何時もの透明な鞘は今は纏っていない。直接武器を合わせるランサーならともかく、今の相手はあらゆる種類の武具を打ち出すサーヴァント。そうアーチャーのサーヴァントだからだ。
ミーシャは《
「全てが複製でない『本物』の宝具?」
「まったくの盆暗というわけではなさそうだな。そうだこの世のすべての宝は
すべての財を持つ存在、それは世界がいまだひとつであった時代、古代メソポタミアにまで遡るであろう。
そしてその中で英雄と呼ばれるものがいるとすれば――
セイバーはその名を言い当てる。
「あなたは英雄王ギルガメッシュ。流石の威容といったところか」
その指摘に金色のサーヴァントは、鼻を鳴らす。
「やっと気づいたかセイバー、我が拝謁の栄に浴してなおこの面貌を知らぬとあっては、不敬にもほどがある。が、許そう。
もっともどうあがいても、その女の末路は死しかないのだがな。
ほら! 先ほどよりも少しい多いぞ! セイバーもう少し気張らないと、後ろの女が死んでしまうぞ」
名を知られたこれからが本番だといわんばかりに、ギルガメッシュは宝具を複数展開する。
セイバーは歯軋りをするが、頼みの直感もいまだ働いていない。望みが薄すぎるのだ。
だが、士郎に盾になると誓った身、ならば最後までここで倒れてはいけない。
セイバーはまだ見えぬ勝利のために、終わりの見えない防御戦を行うのであった。
◆
戦闘は膠着していた。いや、ギルガメッシュがわざと膠着させていた。
打ち出される宝具は幾度ともなくセイバーの防御をかいくぐる。そのたびにミーシャは虚像の複数展開、透明化、力場の盾、肉体の明滅などで防ぐが、次の攻撃でたやすく対策される。
それもそうだ、ギルガメッシュの倉庫はあらゆる宝が存在しているのだから。何かしら対策手段があるのも当たり前だ。
「その数々の魔術なかなかに面白い。雑種にしてはなかなかやるが、それもいささか飽いた」
いうや否や、今までの倍の数の宝具を展開する。セイバーとミーシャは戦慄する。今まででぎりぎり防げていたのに、それの倍を向ける。つまり殺す気になったというわけだ。
その大量の射出を《
かつてランサーの攻撃を止めた、物理的な攻撃なら問題なくシャットアウトできる最高の防護壁である。
だが、ギルガメッシュはそこに一本の宝具を壁にぶつける。
「戯け! 飽いたと言ておろう、ならばおとなしく死ぬのが筋というものだろうが」
壁に当たるは槍は赤き魔槍。かつて第四次聖杯戦争のランサーが使用した
その槍を受け止めた力場の壁は、その破魔の力により一瞬にして消滅する。
そしてその後続にはいまだ数本の宝具が残り、全てミーシャに襲い掛かる。
それを避けようと新たな防御呪文を唱えながら横に逃げるが、人の身では完全に回避することはかなわない。
一本は魔術礼装の防護能力で事なきを得るが、そこまでだった。
「あ――」
結果、一本の剣がミーシャの心臓付近に突き刺さり、彼女は断末魔の小さな吐息とともに後ろに倒れる。
そして地面に伏したまま動かなくなってしまった。
「ミーシャ!」
「女、死に際までなかなかよい道化ぶりであった、褒めて遣わす。さてセイバー次はお前の番だ」
セイバーは叫び。ギルガメッシュは愉快に笑う。だが、セイバーの直感が、彼女に駆け寄るべきではないと告げている。
そして逡巡するまもなく、セイバーに向けて宝具が射出される。その数、間隔どちらにおいても今までの比ではない。
だが、自身に向けられた攻撃を守るのであれば、まだ何とかなる状態だ。殆どの攻撃を打ち落とし、打ち落とせなかった一本を辛うじて鎧の湾曲部で受け止め射線をそらせる。
「やるではないか、ではこれではどうだ?」
ギルガメッシュの背後に、この戦闘での最大数の宝具が現れる。その数、72本。
それを全てセイバーに向けて発射する。それはまさに宝具の雨といったところであろう。
絶望的な数の宝具を迎え撃たんとセイバーは、魔力開放の最大出力と自身の最高の剣技でもって防御する。
「おおおおおおおお―――――――!」
だか、悲しいかな。それの圧倒的な物量はサーヴァントの剣であっても防げない。数本がセイバーの身に突き刺さり、耐え切れずにひざを屈する。
ギルガメッシュは勝負あったという風に、射出を止めセイバーに再度要求する。
「これで判ったであろう。素直に
抵抗も度が過ぎると興ざめだ。早く
「ギルガメッシュ、私は誰のものにもならない。私はすでに国のものだ」
ギルガメッシュの要求に、セイバーはきっぱりと拒絶する。そこにギルガメッシュの嘲笑が重なる。セイバーの価値観はギルガメッシュにとってあまりにも受け入れられがたく、嘲罵の対象となるものであった。
「笑わせるなセイバー。王にとって、国とは己のものにすぎない。
まったくそんなだから、お前は国によって滅ぼされたのだ」
「ああ、その通りだ―――だが英雄王よ。そんなだから、貴様は自らの国を滅ぼしたのだ――――!」
言うや否やセイバーは聖剣を構える。いや、ただの構えではない、最後の切り札宝具の真名解放を行うのだ。
そこにセイバーの体から最後の令呪の輝きが起こる。
おそらくミーシャの異常をライダーが感じ取って、士郎がそれに答えたのであろう。
最後の支援にセイバーは感謝する。これならこの傷ついた身でも全力以上の攻撃ができる。あとは全てを賭けるのみだ。
そのセイバーの言葉と構えに、ギルガメッシュは貌から嘲りの笑みを消す。
いかなギルガメッシュとて、
そこから出される声音は、絶対零度の殺意を発していた。セイバーを本気で殺すことに決めたのだ。
「消えろ。目障りだ、女」
鍵剣を使い
黄金の柄から伸びるは赤と黒の模様の筒、それは三つに別れそれぞれ回転をするように見える。
これこそ、ギルガメッシュ最大の武器である乖離剣・エア、天地創造を具現化したすべてを破壊する対界宝具。
ひとたび解き放てば、セイバーの宝具以上の威力をこの世界に顕現させる。まさに天地創造の名にふさわしい剣だ。
そして、ギルガメッシュはその最大威力を展観させようと魔力を溜め振りかぶる。
だがセイバーは一ミリもたじろがない。先ほどから直感が教えているのだ、今、全ての舞台がそろったと。
そのとき信じられない人物の声が背後からする。
「我が王よ。あの時彼を許せず、全てを捧げる事ができなかった無念。今一度この
セイバーは思う。
この声を忘れるわけがない、私と一緒に戦場をかけた者の一人だ。
視界の端に立ち上がって呪文を唱え終えたミーシャの姿が映っている。ならば彼女のおかげだろう。
いや、どうしてここに居るのかなど些末なことだ、私の背に彼がいるのなら、ただ背中を預けるだけだ。
セイバーの後ろに控えるは、ミーシャが《
大悪魔や大天使すら呼び出せる呪文だが、本来なら英霊の座は世界の外にあるため呼び出せない。
だが、この冬木の地のさらに聖杯戦争が起きている間だけは、聖杯システムを通してサーヴァントとして召還できるのだ。それはミーシャがキャスターに昨日のうちに確認済みであった。
かくて呼ばれるはセイバーの戦友、その中でも最強格の一人に数えられる忠臣。円卓の騎士が一人ガウェイン卿。
白銀の鎧を身に着けその優美なる貌には澄んだ瞳、まさに太陽の騎士と言ったところか。
ギルガメッシュは引きずり込まれたかと、心の奥底で歯軋りをする。
だが、乖離剣・エアを取り出した英雄王が退却するなど許されない。慢心してなおも蹂躙することが彼の矜持であるからだ。
「ふん、雑種が一人増えたところでこれを防げるわけがない。くらえ、
ギルガメッシュが所持する乖離剣の筒が高速で回転する。それにより圧縮され絡み合い空間を断裂し、二人の騎士を切り裂こうと襲いかかる。
それに対する主従が放つは最強の切り札、タイミングなど合わせる必要もない。そのようなレベルはすでに生前に終わらせている。
ただ二人の信頼の思うままに放つだけだ。
「
日輪の剣から放たれる太陽の灼熱を、最強の幻想から伸びる光の断層が吸い込み纏う。
単純な足し算ではなおも
かくして
究極の破壊を孕んだ光と炎の断裂は、ギルガメッシュを貫き大空洞の反対側まで届く。
光が通り抜けたあとそこには、かろうじて現界しているギルガメッシュだけが残される。
驚くことに意地とプライドだけで直立不動し、尚も見下ろさんとしている。
「――憎らしい女だ。最後まで、この
だが、その飼い犬の忠誠心に免じて許そう。
ではな騎士王。―――いや、なかなかに愉しかったぞ」
臣下に対する労いのように言葉をかけると、黄金のサーヴァントは微笑みながらうっすらと消えていった。
そしてそれを見届けると、セイバーは後ろのミーシャに声をかける。
「ミーシャ、やはり生きていたのですね」
「はい、でも彼がセイバーさんに固執していなかったら、簡単に見破られていました」
効果がなかったように見えた最後の呪文《
「そしてガウェイン卿――。私は間違えていました。
王の選定をやり直すことをこの聖杯の望みにかけるなど、あってはならない。
貴方を初め円卓の騎士、ひいてはわが国の人々の思いを無碍にすることになる。
そんな単純なことにいままで思い至らなかった、愚かな王を許して欲しい」
足元にかしずくガウェインにアルトリア・ペンドラゴンは語りかける。
生前いえなかった言葉、すれ違いのまま国が滅びてしまった無念。そしてこの戦いで得たひとつの小さな答え。
その思いを臣下に告げる。だが、その忠臣は穏やかな表情で首をふるだけであった
「我が王よ。そのような事を考えておいででしたか、ですが許すも何もありません。
私も王の剣となって生き、王の道と共に滅びることすらできなかった身。王に仕えたことに一抹の後悔の念はありません。そして、恐れながらこれだけは断言できます。
貴方は真実、誉ある真の王だった」
その言葉にセイバーは心の底からの感謝を告げる。それを笑顔で受け取ると太陽の騎士は別れを告げる。
「名残惜しいですが、もう時間です。イレギュラーな私は、あまり長い間ここにいてはいけませんから。
ですが、思いがけない機会を授けてくれた、
もっとも、
なにやら不穏当な言葉を言い終える前に、太陽の騎士の姿はさわやかな笑顔とともに掻き消える。
「ガウェイン、ちょ、ちょっと待ってください! 最後のは一体」
セイバーは騎士の意外すぎる一面に、唖然とするばかりであった。ミーシャはなにやら胸部をまさぐり、男性ってやっぱり桜さんみたいなのがとブツブツ呟いている。
そこに、背後から赤い服の女性――遠坂凛が駆け寄ってきた。なかば呆れ顔なのは、先ほどの次元を超えた宝具戦を見ていたからであろう。
そして三人の女性は、戦友が戦っているであろう黒い太陽に目を向ける。
あまたの命運を飲み込み、物語はかくて終焉に向かう。
《
いかな経験点を消費する9レベルの呪文とて英霊をぽんぽん呼べるのは、世界観的にどうかなと思いましてこうなりました。