Fate/DD night   作:ゆきざかな

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第33話:未来への最終決戦(前編)

「これが最後の令呪だ。頼むぞセイバー」

 

 ライダーの『ミーシャが危険です』という報告により、士郎はセイバーに必ず勝てという命令で令呪を使用する。

 曖昧な命令のため効果が薄いが、それでも援護にはなってくれるだろう。

 だが、こちらもあまり悠長なことを言っていられない状況だ。

 

 取り巻く影の虫はそう強くない、サーヴァントなら問題なく倒せる強さだ。

 士郎ですら何とか時間をかけながらなら一体づつ倒せる。イリヤも魔術で編んだ髪の毛で鳥をかたどり、それにより慎二と自身の身を守る事はできている。

 だが、その数が逸している。はじめは百体超え程度だと思っていたが、次から次へと量産されて、いまや千を数える状態だ。

 

 進軍は遅々として進まない、このままでは埒が明かない切り札を切ろうかと皆が思案した矢先、背後の暗闇を光線が切り裂く。

 そして程なくして黒い太陽は輝きを増し、量産速度が目に見えて上がる。

 その異変に士郎は疑問を上げる。

 

「どういうことなんだ?」

「聖杯は倒されたサーヴァントの魂を留め、魔力をためる機能を持っているからな。

 つまりサーヴァントがやられたということだろう。金色のやつが死んだと思いたいが――二人ともパスはどうなっている?」

 

 アーチャーは二人の生死を確認する。お互いの主従に何かあったらすぐに判るのがマスターとサーヴァントの間柄だ。

 

「問題ありません。ミーシャは何とか生きています」

「ああ、こっちもだセイバーとのパスは切れていない」

 

 士郎とライダーの報告にアーチャーは、安堵の息を漏らし凛の安否を伝える。

 

「そうか、ならば安心だ。こっちも凛の生存は確認している。そのうち来るだろうし、それならこちらに意識を集中させよう」

 

 その決心を感じ取ったのだろうか、地鳴りとともに地面から染み出すように現れるは影の巨人。天にも伸びるような巨体に無数の触手、そしてその頭にはやはり赤い光が――いや何かが違う。

 

「いや……なんで、バーサーカー……そんなのいやだよ」

 

 イリヤの悲鳴が漏れる。無邪気だった表情は、いまや驚きと悲しみに塗りつぶされている。

 その顔に鎮座するはバーサーカー、いや、バーサーカーだったもの。鋼色の肉体は漆黒に支配され、赤い筋が無数の傷口のように浮き出ている。

 飲み込んだバーサーカーを核に作り上げた何とも醜悪なシロモノ。

 目の前にイリヤがいることすら理解することすら出来ないそのシロモノは、こちらを見ると洞窟が崩れるかと思うほどの雄たけびを上げる。

 

「アーチャー」

「ああ、判っている」

 

 士郎は確信する。あんなものはイリヤに見せちゃいけない。

 イリヤの唯一の支えだった鋼の巨人、その魂は狂乱に染め上がっていても常にイリヤのことを第一に思っていたサーヴァント。

 その尊き絆をこうも踏みにじるなんて許せるわけがない―――そして、許せないだけではない。あの巨体にあの魔力、出し惜しみしていたら一瞬につぶされる、今こそ最大の秘術を見せるときだ。

 アーチャーも同じ気持ちなのであろう、珍しく怒りをあらわにしてる。当然二つ返事で士郎の提案に乗る。

 

「ライダー、ここは私たちが受け持った。慎二を連れて桜の元へ」

「了解しました。御武運を」

「衛宮―――死ぬなよ」

 

 ライダーは、一瞬にしてペガサスを召還して慎二を乗せ、その天かける馬を走らせ周りを取り囲む影たちを一掃する。

 ライダーたちはそのまま空中に躍り出ると、桜のいるクレーターに向かっていった。

 そしてライダーの攻撃で影の攻撃が一時収まった隙に、アーチャーと士郎は精神を集中して詠唱する。二人の共有する心象風景を具現化するためだ。二人は元はただ一人、ゆえに祝詞も一つであり二つ。その二つの生き様(詠唱)が大空洞にこだまする。

 

 

「―――――― 体は剣で出来ている(I am the bone of my sword)」「――――I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)

血潮は鉄で 心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood)」「Steel is my body,(血潮は鉄で) and fire is my blood(心は硝子)

幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades)」「I have created over a thousand blades(幾たびの戦場を越えて不敗)

ただの一度も敗走はなく(Unknown to Death)」「Unaware of loss(ただ一度の敗走もなく)

ただの一度も理解されない(Nor known to Life)」「Nor aware of gain(ただ一度の勝利もなし)

彼の者は常に独り(Have withstood pain)」「With stood pain to create weapons(担い手はここに独り).」

剣の丘で勝利に酔う。(to create many weapons)」「waiting for one's arrival(剣の丘で鉄を鍛つ)

故に、生涯に意味はなく(Yet, those hands will never hold anything)」「I have no regrets(ならば).This is the only path(我が生涯に 意味は不要ず)

その体は、きっと剣で出来ていた(So as I pray, unlimited blade works)」「My whole life was(この体は)unlimited blade works(無限の剣で出来ていた)”」

 

 

 二つの固有結界が同時に展開されるとどうなるか、それは術者の力関係によりさまざまだという。

 片方に塗りつぶされるか、お互いが消滅するか、どちらかわからないが、混ざり合うことは決してないといわれている。

 だがこの二人の場合は違う、二人は元々ひとつの存在ゆえに心象風景の核も同じ、二人が心を合わせて展開するのならばその心象風景は互いに補完しあい一つの新たなる固有結界となる。

 もっとも、士郎よりもアーチャーのほうが技量も魔力も数倍上なので、アーチャーの固有結界を士郎が間借りしている形となってしまっているが。

 

 そして呪文の終了とともに、世界は荒涼とした大地に塗りつぶされる。

 赤焼けの空に大量の歯車、そして地面には無限の剣が刺さっている。これこそが二人の共有する世界なのだ。

 そして、二人は不敵な笑みをもって、巨大な黒い影に問いかける。

 

「「聖杯よ魔力のストックは十分か?」」

 

 その問いかけを言下に拒絶するかのようにさらに吼え上がり、無数の触手を士郎達に向わせる。

 それを投影宝具で迎撃する二人、無限に湧き出る魔力と無限に存在する剣の気の遠くなるような消耗戦の火蓋が切って落とされる。

 

「まずいな」

 

 だが、アーチャーは舌打ちともに現状の変化に気づいて不利を悟る。

 そう、巨大な黒の影は無限の剣製の攻撃を上回るべく巨大な黒い弓を取り出したのだ。いや――生やすといった表現のほうが適切であろうか。

 武器の本質を見極めることが出来る士郎とアーチャーは瞬時に理解する。

 そしてその危険性も瞬時に理解する、()()を撃たれたら終わると。

 

射殺す百頭(ナインライブズ)――」

 

 射殺す百頭(ナインライブズ)は正確には兵装ではない。ヘラクレスがヒュドラを倒す際に会得した武技である。

 ゆえに本来バーサーカーのクラスでは持ち得ない宝具。それをオリジナルとは似て非なるものながら、聖杯の力を使用して無理やり引っ張り出してきたのだ。さすがは間桐臓硯、始まりの一人といったところか。

 そして弓の形態で使用する技は対幻想種用の拡散誘導光学魔弾で、9本の竜型のホーミングレーザー。

 それを聖杯の魔力で使用すれば、最大防御力を誇る熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)の投影ですら防ぐことは難しいだろう。

 そして、弦のない弓に膨大な魔力が集まり赤く光りだす。

 

 それに対抗する手はただ一つ、それはアーチャーでなく士郎が持っている。そして最後の条件がエンジン音ともにやってくる。

 そう、《アイテム縮小(shrink Item)》を解除したスーパーカブに乗るセイバーが、固有結界内に入ってきたのだ。

 

「――――投影(トレース)開始(オン)

 

 それはあらゆる工程を省いて完成した。半身となるまで身に埋め、セイバーとの契約結んでいる士郎のみが投影できる、いや取り出すことができる。

 それはひとつの鞘、十年前に衛宮士郎の命を救ったセイバーの宝具。完成と同時にセイバーの呼びかけが覆いかぶさる。

 

「シロウ! それを私に!」

 

 バーサーカーの尋常じゃない状態に、事は一刻を争うとセイバーは判断する。そして魔力放出で極限まで加速したバイクで、目の前の岩を踏み切り台にして空に飛び上がる。

 

「セイバー! 受け取れ!」

 

 それに合わせ、鞘をセイバーに向かって投げる士郎。その中空に舞い上がる鞘は、まるで主に戻る意思を持っているかのように、セイバーの手に吸い付くように収まる。

 鞘を手にしたセイバーはそのままスーパーカブを踏み台にして、光り輝く発射口に飛び込む。

 

 その瞬間、射殺す百頭(ナインライブズ)が発射される。その輝きとともにセイバーは消滅するしかないように見えた。

 

 だがそうはならなかった。セイバーの真名開放により鞘は放たれ、四散する。

 そうして編まれた鞘の結界は、射殺す百頭(ナインライブズ)の全ての攻撃を跳ね返す。

 否、防御などというレベルではない。それは遮断と表現すべきであろう。

 何者にも侵害されないセイバーの理想郷。だからその鞘の真名は全て遠き理想郷(アヴァロン)――セイバーの死後たどり着くという王の夢。

 

 結果、出口を塞がれた水を出している蛇口のごとく、全て遠き理想郷(アヴァロン)に斜線を完全に防がれたレーザーは目の前で円状に飛び散る。その飛び散った光の矢により、巨人の周りにいたあまたの影は全て消え去った。

 そして最大出力で魔力を放出した影の巨人の動きが止まる。強力な攻撃は得てして諸刃の剣となる、凌がれた時の隙が致命的となるのだ。

 

「消えろ――――!!」

 

 そこに、アーチャーと士郎の無数の投影宝具が打ち出される。力を放出して動けない巨大な影は、その尋常ではない破壊の嵐に削り取られ消散していく。

 崩れた影の中心部に一体のサーヴァントが残される。もはや全ての力を使いきり後は消えるだけといった状態だ。

 だが、そこにたたずむバーサーカーの目は、驚くことに理性の光が宿っていた。すべての力を失った今、狂化の力も一緒に失ったのであろうか。

 そして、巨体に似合わぬ厳かで静かな声が響き渡る。

 

「アーサー王の理想郷、なんとも美しきことよ。

 そしてわれを滅するは、すべて存在せぬ幻想の武具。しかしその幻想も侮れん。よもや聖杯の泥を何重にもまとっていたわが身を滅ぼすまでとはな」

 

 そして静かな口調で三人を賞賛すると、膝をつきゆっくりとイリヤに手を伸ばす。そしてそれに応えるように、イリヤが前に出る。

 バーサーカーに近づくイリヤの大きな目には、これまた大粒の涙が溜まっている。何か言おうとしてその度に嗚咽する中、やっと一言だけを搾り出す。

 

「―――バーサーカーは、強かったね―――」

 

 イリヤは、それだけ言うと口ごもる。大粒の涙は今にも零れ落ちそうだ。

 大英雄(ヘラクレス)はそんなマスターの頭を何も言わずに優しくなでると、蜃気楼のように消えていった。

 

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