「えっと…ミーシャさんでいいのかな? 異次元で彷徨っていたところを俺が助けたってこと?」
おずおずと彼女から聞いた名前と状況を反芻する。
当たり前だが結局、鍛錬は中止となった。
冬木は暖かいとはいえさすがに冬の土蔵の中に女の子をいつまで居させるわけにはいかないので、彼女を自宅の居間に案内することになった。
といっても、歩こうとするにもふらふらしてしまう彼女を半ば支えるように連れてきたのだが。
で、五分後、居間で机を挟み一人の少女と対面している状態となったのだがどうも落着かない。
いきなりの状況の変化に今一付いていけないのか、夜中に見知らぬ女性と二人っきりという状態に戸惑っているのか。
おそらく両方なんだろう。
「はい、改めてお礼を申し上げます。貴方がいなかったらあのまま永遠に彷徨っていたと思います」
居間で少し休んだおかげか彼女はかなり落ち着いている。口調が少し丁寧すぎるのは初対面なのだろうか。
「……ありがとうございます、その……」
少女が言いよどんでいる理由に気が付いて、あわてて自己紹介する。
「あー、ごめん、まだ名乗っていなかったな。俺の名前は衛宮士郎。エミヤでもシロウでもどっちでも呼びやすいほうでいいよ」
「……あ、ありがとうございます。エミヤさん」
「でも、お礼を言われるのはうれしいけど。正直俺が何をしたかピンと来ないんだよなぁ。 いきなりここにミーシャさんが現れたんだからさ。」
どうも話を聞くと俺の魔術がミーシャさんのいた空間に穴を開けて、それで戻ることが出来たという。
俺の投影にそんな力があるかといわれても全く理解できない。
自分の使う使う魔術すらあまりよく理解していないのが、この衛宮士郎という魔術師なのだから。
ん?というと?
「もしかしたらミーシャさんも魔術師?」
俺が行っている鍛錬を魔術の、それも投影とまで看破しているんだから、俺よりもちゃんとしている魔術師だろう。
「はい、御指摘のとおりです。といいましてもこの世界の魔術とはありようが違うといいますか」
「この世界? 失礼な言い方かもしれないけど、ミーシャさんはなんというか、普通の人じゃないような」
「んーと。そうですね正式に名乗らせていただきます。コホン。」
とミーシャは咳払いとひとつ起こし間を空けてから自己紹介を行った。
「フェイルーンはウォーターディープ育ちのエルフ。冒険者のミーシャ・ブラントと申します。改めてよろしくお願いいたします」
「あ、ああ。よろしく」
理解不能な単語が羅列されてなんともありきたりな返し方しかできなかった。
いや、エルフ、冒険者ここら辺は理解できるが、そんなのは漫画や映画の話では……
「で、ここに来る前はフユキに住んでいました」
「なんでさ」
予想外の単語に思わず俺は口癖が出てしまった。
「冬木ってここのことなんだけど」
と当たり前のことを答えると彼女は面食らってしまったようだ。
「え……?でもフユキにこのような不思議な家具の家は……でも確かにシロウさんの言葉は……」
と視線を居間のテレビやポット、台所の湯沸かし器に向けぶつぶつとつぶやきだす。
そして何か気がついたのか少し青ざめた表情で聞いてきた。
「あの……ここはいつのフユキなのですか?」
ミーシャの質問に俺は「あぁそういうことか」と理解できた。違うのは場所でなく時間なのであろう。
「2002年だけど?」
「やっぱり、寛政じゃないんですね…」
「うーん。江戸時代の魔術師かぴんと来ないなぁ。まぁなんにせよそんなに年数経っていたら、知り合いとか居ないだろ? 今日のところはここに泊まってもいいからさ」
知り合いどころの話ではない、寛政といったら200年近く昔の時代だ。社会の仕組みから交通の使い方までまるっきり別世界だ。
そんな右も左もわからない女の子をしかも夜中にほっぽり出したりしたら、あの世の爺さんに何ていわれるか。
ミーシャも事の深刻さに気づいたのか、血の色が引き象牙細工のようになった顔で力なく同意した。