Fate/DD night   作:ゆきざかな

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第34話:未来への最終決戦(後編)

 士郎たちが大英雄を撃破した時から、少々さかのぼる。

 

 広大な大空洞のこれまた広い天井の上空に浮かぶは、翼の生えた美しい白馬――ペガサスだ。

 そして、ペガサスを操るはそれを召喚し使役するライダー。慎二はそのライダーの後ろにつかまっている状態だ。

 二人は何とかして桜の元に赴こうとしているが、蜻蛉とも蜂ともつかぬ形の飛行タイプの影蟲の攻撃が中々激しく攻めあぐんでいる。

 そのペガサスにまたがる二人は、桜にかけられた精神支配の魔術について状況を確認している。

 

「ライダー。桜はいまジジイの魔術で操られている。それもただの魔術じゃない、驚くことに師匠(ミーシャ)の魔術をいつの間にか研究して使えるようになったんだ。

 これはこの僕が気絶する直前とはいえ、しっかり確認したことだから間違いないよ」

「桜ほどの魔術回路と強固な意思を持つ人間を精神支配する魔術ですか、それはかなり厄介といえるでしょう。こちら側に対抗手段があればいいのですが」

 

 ライダーの声に苦みがあるのは、内容よりも慎二が少し調子の良い感じで話していることに対する。生理的嫌悪感からであろう。

 

「ふん、そこは手抜かりは無いさ。あの呪文は確かに効果は強力だし効果時間も長い。だけどね、じじいは独自研究だから気づいてないが、簡単な手段で抑制できるんだよ。そして何と言ってもこの僕はその手段をすでに取得しているってことさ。

 いや、師匠も褒めていたよ『素晴らしいです師匠として嬉しいです』って無い胸を反らして誇らしげだったな。まぁこの僕が弟子になってあげたんだから、それぐらいで感心されちゃ困るけどさ。ゆくゆく僕は将来誰もが一目置く大魔術師とな、って! おわっ――!」

 

 話がいい加減うざくなったところに、ちょうどよく敵が攻撃しかけてきたので少々大げさに回避するライダー。

 

「失礼。さすがにこれ以上近づくことは危険です。残念ながらサクラの元に赴くのは現時点では不可能かといえるでしょう」

「――ライダーいきなり危ないだろ! ま、まぁ心配することないさ、衛宮なら必ずなんとかしてくれるはずさ」

 

 実際、空中に出てくる敵が多くなってきた。厄介なことにあの影の巨人から伸びている触手もこちらに仕掛けてきている。

 このままではやられないにしても、倒しながら進むにはライダーの奥の手をもってしても厳しさを感じえない。何かしら突破口が必要になるのだが、今のところライダーと慎二には手はない。

 だが慎二は信じている。あの強情な親友が受け持ったといったのだから、あの巨人はすぐに倒される。なら仕掛けるのならその時だと。

 

 

ほどなく、その好機は訪れる。防がれた光の矢による同士討ちと巨人の倒されたことによる魔力の多大なる消耗により、影の数が一気に少なくなる。

 今こそ奥の手を出すべきだとライダーは判断する。それはライダーが騎乗兵(ライダー)足らしめている物。彼女のサーヴァントとしてのシンボル。それはこのペガサスではない。ライダーはその手に持つ手綱の真の力を解放する。

 

騎英の手綱(ベルレフォーン)――――!」

 

 ライダーの真名解放の名乗りとともに、ペガサスは速度を上げ光をまとい一気に突撃を敢行する。流れる光の尾を引くその形態(かたち)はまさに流星と表すふさわしい風貌だろう。

 何百とも何千ともいえるその陰の軍団で構成された海を、流星は破り溶かしながら地に降りていく。そしてそのまま桜のいるクレーター淵に届くかと思われて時に間桐臓硯の悪意が突き刺さる。

 

 突如桜の元から何本の影が伸びペガサスに襲い掛かる。騎英の手綱(ベルレフォーン)を使用中のペガサスは、まさに空を飛ぶ戦車で、その防御力は人の手に余るほどの堅牢さだ。

 だがその影の槍はそんなペガサスの守りを易々と突破してくる。ライダーの能力を知っていた臓硯が、その防御力を破るために魔力を極限まで凝縮して作り出したのだ。

 

 ペガサスが悲鳴を上げ速度を落とし、ライダーはその愛馬の苦痛の声に顔をゆがませる。心の中で謝りながらもなんとか少しでも前へ進ませるために馬を駆る。

 そして、桜たたずむ場所の手前十数メートルの場所に降り立つと、ペガサスは力尽きそのまま動かなくなった。

 

 遠目に見ると桜は黒いドレスを纏っているように見えたが、ドレスに見えたのはすべて聖杯の魔力で作られた黒い影だ。

 そのドレスには何本も縦に赤い筋があり、幾つかはその筋に沿って分かれ鞭として展開する動きを見せる。

 

 動かなくなった愛馬から降りる二人に対し、地上にうごめく影はすでに二人を取り囲みだした。

 その様子に慎二は覚悟を決めるように大きな息を思いっきり吐くと、一つの策を提案する。

 

「ライダー。お前は師匠のサーヴァントだろう?」

「はい。契約上そうなっています」

「なら、弟子の僕を桜のところまで連れてく義務があるはずだ。終始良いところなしのお前だってそれぐらいできるだろ?」

 

 相変わらずの鼻持ちならない物言いに、少々いら立つライダー。だがその直後信じられない言葉を耳にする。

 

「今から僕はこのまま突撃する―――だからライダー、援護を頼む。」

 

 今までサーヴァントを物扱いしていた慎二が、頼むと言ってきた。しかも()を助けるために頼むと。

 ライダーはそれに驚きながらも慎二に託す決意をする。ならば防御はいらない、全力の攻撃をもって道を開くだけだ。ライダーは怪力のスキルを使用し、鎖を振り回しながら前方の影を切り開く。

 

「おおおおおおぉ―――!!」

 

 その開かれた桜への道を慎二は雄たけびをあげながら全力で駆ける。

 慎二を襲う一つ目の影はライダーによって撃破される。二つ目も難なく破壊され消滅。三つ目は距離が開いたためにライダーの攻撃をすり抜けるが、何とか慎二は頭を抱えて間一髪でかわす。

 ――だが桜まであと一歩というところで慎二の移動が止まる。

 

 再度展開したドレスの触手に手足を巻き付かれ完全に動きを封じ垂れた形となったのだ。そして前方のみの攻撃に集中していたライダーは、左右から来た影に襲われ覆いかぶされる。

 桜、いや臓硯は、桜の可憐な貌におぞましい笑みをかぶせ、不肖の孫に勝ち誇る。

 

「ほうこれは意外や意外、出来損ないがよくここまで来た。と一応は褒めておこうかの。だが、一手足りなかったな。

 ここさえ凌げばこちらは無尽蔵の魔力。あとは守り切るだけで、そっちはじり貧になるのではないか?」

 

 桜の声色から漏れるは臓硯のどす黒い意思。慎二はその異様さに逃げ出したい気持ちが沸き起こる。

 それを一番得意な自身のプライドでもって強引に押さえつけ、精一杯の強がりを披露する。

 

「ふん、これで驕るなんてジジイも耄碌したもんだね! 僕やライダーだけを押さえつけても意味はないさ。後ろには師匠もいる、僕の親友もいる、他の人たちもだ。何よりいつでも桜のことを気にかけていた遠坂凛(実の姉)がいる。

 そいつらが今すぐに来ないなんて、そんな判断力じゃ本当に今すぐ引退したほうがいいよ」

 

 言いたいことはそれで終わりかと、影の触手の切っ先が慎二の胸を突き刺そうと狙いを定める。だが、その瞬間その触手が爆ぜる。いや、その触手だけではない。慎二を縛っていた全ての触手。そしてライダーを押さえつけていた影全てが粉々に飛び散る。

 

「まったく、慎二に褒められるなんて気色悪いったらありゃしないわね。でも、そこまで言われたからには期待に応えるしかないじゃない。いい、お膳立てはここまでよ、兄としての責任ちゃんと果たしなさい」

 

 ライダーの後ろに現れる影は二つ、遠坂凛とミーシャ・ブラント。騎英の手綱(ベルレフォーン)で開いた影のいない空間をミーシャの《飛行(Fly)》で飛び込んできたのだ。そして、凛のガンドとミーシャの《魔法の矢(Magic Missle)》が周りの敵を蹴散らしたというわけだ。

 

 戒めを解かれた勢いそのままに、慎二は桜に飛び込み準備していた《悪よりの保護(Protection from Evil)》を唱える。

 効果は三つ、対象の防御力と抵抗力の上昇、召喚された対象からの保護、そして、精神を操る魔術の抑止。それは《人物支配(Dominate Person)》も例外ではないし、未熟な魔術師の呪文でもこれは同じことだ。

 そして、その呪文を桜の体に直接叩き込む。

 

 未熟な慎二の腕では呪文の効果は1分程度だ。だが、一度支配を逃れた桜を支配することは不可能である。

 なぜなら解放された時点で聖杯の魔力はすでに桜の支配下に移る。つまり桜に魔術を行使するにはその聖杯の魔力を突破しなくてはならないが、それの意味するところはほぼ不可能と同義だ。

 つまり、臓硯は敗北を喫したのである。

 

 だが、解放されたはずの桜は数歩後ろに下がり慎二から素早く離れる。その足の先はクレーターの虚空に向けられている。

 蚊の鳴くような消え入りそうな声で、桜は二人をいや皆を拒絶する。そしてその桜の拒絶に呼応するかのように聖杯の影は桜から伸びだしている。

 

「兄さん、姉さん。だめなんです。私はもう戻ってきちゃいけない。楽しそうに人を喰らったあの夢、あれは夢じゃなかった。人を何人も殺して、のうのうと生きていくなんてしちゃいけないんです。

 だからせめてお爺様を滅ぼして一緒にと思ったけど、それすらできない上に兄さんを殺そうとするのだから、笑うしかありませんね」

 

 何かを言おうとする慎二の後ろから衛宮士郎の声がかかる。巨人を倒した後アーチャーたちとともにここに駆けつけてきたのだ。

 

「桜、ごめん。俺、桜の苦しみなんか全然わかっていなかった。でも、これだけは解ってくれ――俺は何があろうとも桜の味方だから」

 

 心の底から渇望していた士郎からの優しい言葉に桜は動揺する。だが、その士郎の言葉を振り切るように桜はさらに後ろに下がり、踵からクレーターに少しはみ出る形となる。

 

 

「先輩――来ないで! 桜は悪い子なんです。ですから、先輩に助けられる資格な――」

 

 桜が言い終える前にペシという小さな軽い音が洞窟内に響く。それはいつの間にか横にいる凛が、桜の頬を軽くたたいた音だった。

 その表情は固く厳しい。その予期せぬ行動に桜は頬を抑え一瞬呆然となる。

 

「桜、わがまま言うのもいい加減にしなさい。

 確かに貴方のしてきたことは許されないかもしれない。

 もちろん、環境は言い訳にならないわ。私だって自分が恵まれているなんて一度も思っていない。でもね――」

 

 次の言葉を吐き出す前に、凛は厳しかった表情を緩め桜の背中に両手を回し、優しくだがしっかりと抱きしめる。

 すでに士郎とアーチャーが二人の横に立ち、凛を襲おうとしている影を全て切り飛ばしている。

 

「私は桜のことをずっと見ていたの。だから、桜が今までどんなに頑張っているか知っている。そして、私はちゃんとしていないと我慢できない人間だから。そんな頑張っている桜には、絶対報われて欲しいと思っている。

 士郎も私も――一応慎二も何時までも桜の味方、だから償いは一緒に考えましょう」

「――――!

 姉さん――姉さん、ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 その抱擁とともにかけられる姉の言葉に桜はただ泣き崩れるだけであった。

 そこに、士郎は優しく罰を与えるために判決を下す。手にはその罰を与える道具破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を投影している。

 

「桜、そんな奴とは縁を切れ。じゃあ、お仕置きだ。きついのいくからな」

 

 士郎は罪を償わせるように、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を桜の体に突き立て、この世全ての悪(アンリマユ)との繋がりを断つ。

 そして桜が解放されたここにおいて、聖杯戦争は終わりを告げることになる。

 

 

 

 

 現在、セイバーとイリヤは桜の体から臓硯を取り出す――驚くことに臓硯は1cmほどの蟲になり桜の心臓にとりついていたのだ――作業をしている。

 全て遠き理想郷(アヴァロン)の浄化力とイリヤの治癒魔術により、ほどなくその作業は終わるだろう。

 ただ、桜の体を纏った影はすべて消失して現在一糸まとわぬ姿となっている。そのため男性陣は、軒並み10メートルほど離れた場所に追いやられている。

 

 そんな状態で手持無沙汰な慎二は、同じく追い出されたアーチャーと士郎に話しかける。

 

「結局、決めたのは衛宮と遠坂かよ。あーあ、兄としての威厳丸つぶれだな」

 

 そんなボヤキに士郎はあきれ気味だ。アーチャーも苦笑を禁じ得ない。そんな二人の態度を知ってか知らずか慎二はさらに饒舌になる。

 

「なぁ衛宮と未来の衛宮、疲れたからお茶入れてくれない?

 いやお前、お茶入れるのそこそこうまかっただろ? サーヴァントになっても腕は落ちてないだろうし。二人で親友の苦労を労ってくれてもいいじゃん」

「「なんでさ」」

 

 そんな、あまりにも自由な慎二の振る舞いに生前の口調に戻り士郎とハモるアーチャー。

 その時慎二の後ろから、物静かな女性の声が響く。

 いつの間にかライダーが慎二の後ろにたたずんでいた。如何やら取り出し作業は終わったようだ。

 桜に問題はないのは、ライダーの口調の僅かな嬉し気な調子から伺うことができる。

 

「すべてつつがなく終了しました。これで完全に桜は桜自身のものとなりました。

 それと、シンジの先ほどのミーシャの身体的特徴に言及した発言。本人に報告しておきましたので、あとでこってり絞られますように」

「おいライダー! なんで師匠に告げ口しているんだよ!」

 

 そんな慎二の問い詰めにもライダーは冷ややかに答える。

 

「当たり前です。私のマスターは現時点ではミーシャですから。それに慎二が調子に乗っていると私の精神衛生上好ましくありません。そのためにもここら辺で凹ませるのが定石かと」

「そんな定石あるかよ! おい。ダブル衛宮いい加減助けてくれ!」

「慎二、こればっかりは俺もどうしようもない。自業自得だあきらめてくれ」

 

 律儀に諭す士郎に対し、慎二のSOSを当然のごとく無視するアーチャー。

 そしてそのアーチャーはそんな騒ぎを尻目に、最後の問題に目を向ける。

 

「なんにせよ。あらかた片付いたわけだが――」

 

 独白しながら向いた目線の先には、未だ立ち上る黒い太陽とそれを取り囲む殻が、敢然と存在感を残したままであった。

 

 

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