Fate/DD night   作:ゆきざかな

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第3話:打ち合わせはモーニングの前で

2月1日 衛宮邸

 

「……さむ。さすがに朝はつらいな」

 時刻は五時半。

 どんなに夜更かししてもこの時間に起きるのが自分の長所だ。昨日は桜に土蔵で起こされるなんて失態を起こしてしまったが、おおむね自分は早起きである。

 そう、昨夜のようなイレギュラーな事態が起きてもだ。

 

「それじゃ朝飯、朝飯っと―――」

 

 桜がやってくる前にササっと仕度を済ませてしまおう。今朝はもう一仕事あるのだから。

 玉ねぎとじゃが芋の味噌汁、定番の出汁巻きたまご、こんにゃくのおかか煮、主菜秋刀魚…は直前に火をかければいいだろう。

 朝の六時手前で朝食の準備は完了した。

 よし、思ったより時間が余ったぞ。

 残したもう一つの仕事を片付けるために、彼女を泊めた客間のある離れへと向かう。

 

 客間の手前に来て動きが止まる。

 (ミーシャさんはまだ寝ているだろうなぁ……)

 流石に寝ている女の子の部屋にずかずかと入れる神経は持ち合わせていない、かといって起こすのも……としばらく悩んでいると意外にも扉の向こうで声がする。

 

「エミヤさんですか?どうぞ入ってください」

 

 部屋には椅子に座りながら1mはあろうかという大きな皮の本を開いている、ミーシャさんの姿があった。

 今は白い頭巾は脱いで髪をあらわにしている状態だ。

 

「―――っ」

 

 声が止まる。

 美しい栗色のセミロングと深く大きなガーネットの瞳が、あまりにも綺麗で不意を突かれてしまった。

 ただ……

 

(無さ過ぎるなぁ)

 

 彼女のスタイルは当にスレンダーだ。エルフという種族の特徴なのか彼女の個性なのかはわからないが、スレンダー過ぎると言っても良いだろう。

 背の低さもあいまってなんというか、見ていて守ってやりたくなるような儚げさが染み出してくる。

 あとスレンダーに合わせた慎ましやかな胸、こちらも慎ましやか過ぎる。言うなれば断崖絶……

 

「あ、すみません……扉の前にいたのは気が付いていたのですが、呪文の準備をしていたので声をかけるのが遅れてしまいました」

 

 思考がやましい方向に行きかけているとミーシャさんが声をかけてくる。そうだな、昨日はバタバタしていてあまり話すことが出来なかったしこの際だからいろいろ聞いておこう。

 

 

「ミーシャさん少し話いいかな?」

「そうですね。エミヤさんは命の恩人ですし、その上こうして好意に甘えている身ですからいくらでも協力いたします」

 

 固い返答に俺は少し苦笑いしながら、昨日の疑問点を打ち明けてみることにした。

 

「それと、ミーシャでいいです。さん付けで言われるのはあまり慣れていないので……」

「うんわかった、ミーシャはフェイルーン?って言ったかな?そこの出身なんだよな?」

「ええ、そこで冒険者、お金で雇われる傭兵みたいなものですね。それで暮らしていました」

「でも昨日聞いた話だと。冬木で異次元に飛ばされその後200年後の冬木に戻ってきた事だよな、フェイルーンから冬木にどうやって来たんだ?」

「魔道元帥ゼルレッチに連れてこられたのです」

「へ? 誰?」

「第二魔法に至り並行世界を渡り歩く、この世界で一番有名なはずの魔法使いです……け……ど?」

 

 自信満々な答えを外されたような顔をするミーシャに答える。

 

「あぁすまない俺、真当な魔術師じゃないから。他の人たちのことほとんど知らないんだ。でも、並行世界って……とんでもない人に誘われたってことでいいんだな」

 

 『魔法使い』ならしっている。文明の力では絶対に実現不可能な結果をもたらすものを魔術ではなく魔法という、それを行使できる人を魔法使いだと爺さんに聞いたことがある。もっとも爺さんは魔術使いになれといわれたのだが……

 

「ええ、フェイルーンにふらっと来てウォーターディープで騒ぎを起こして、その時に巻き込まして。気が付いたらこの世界に居ました」

「はは、破天荒な人だな」

「そうですね……傍若無人でとても強くてそれで……正義の人です。一応この世界で私の導師(マスター)に……なるのでしょうか?」

 と、ミーシャは懐かしさと憧憬を含む微笑みで答える。

 

 正義という言葉がすごく気になるが、桜と藤ねえが来るまでそこまで余裕はない、そのまま話を続けさせてもらう。

 

「そのあとこの冬木の地で大きな儀式を行うってことで、ユスティーツァ様に雇われたのですけど。その時に魔術の事故で次元の狭間に飛ばされました」

 

……知らない名称がポンポン出てくる。

 まぁ、魔術師とは常に死を意識しなければいけない呪われた生き物だ。そんな大魔術の儀式の事故で生きていたんだからミーシャは幸運に恵まれていたといえよう。

 

「で、今に至るってわけか。ミーシャは結構人生経験しているんだな」

 

 可憐な少女――少々変わっているが――の見た目に反して予想外の彼女の経歴に感心する。まぁ俺も大災害で生死をさまようという経験がある。つまり、魔術師というのは平凡ならざる者の職業というわけだ。

 

「説明してくれてありがとう。もう一つ質問いいかな? その大きな本がすごい気になるんだが」

「あ……これは、私の呪文書です。私の魔術はこの呪文書を用いて毎日使う呪文を選択して準備する方式なのです。とても大切なものですから《アイテム縮小(shrink Item)》の呪文を《永続化(Permanency)》で固定化させて、いつでも肌身離さず持てる様にしているのです。

 『縮小せよ』」

 

 合言葉を言うないなや机においてある巨大な呪文書が、手のひらに収まるぐらいの大きさに一瞬で縮小した。

 

「―――すごいなミーシャ」

 

 素晴らしい魔術の効果に俺は思わず感嘆の声が出る。が、ミーシャはその声は意外だったようだ。

 

「え? そうなのですか? 《アイテム縮小(shrink Item)》も《永続化(Permanency)》も初級とは言いませんけど有り触れているレベルの呪文なのでそこまで言われると……いやこっちの魔術の基準ですと違うのかもしれませんが……」

「そうなのか?さっきも言ったとおり俺は親父にしか教わったことがない全うな魔術師でないから、他の魔術がどうなのか知らないんだ」

 

 なんともしまらないな話だ。魔術師が二人そろっているのに、方や半人魔術師、方や別世界の理を持つ魔術師とどちらも標準的な魔術師とはいえないなんて。

 と、そろそろ桜が来る時間だ。本題に入らないと対策が間に合わない。

 

「もうすぐ家に二人ほど人が来るんだ。二人とも魔術師じゃないんでミーシャのことをそのまま言えないんだ。言葉は悪いけど言い訳を考よう」

 

 俺は彼女とこの次に控える問題について、ささやかな企みを考えるのであった。

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