「おはようございます先輩。今朝はもう済んでしまいましたか? あ、それならお手伝いします。食器の支度は任せてください」
「あ、このにおいは士郎の卵焼きね。そっか、今朝は士郎の朝ごはんなんだー」
居間では、手伝いにはりきる桜の後ろを藤ねえがのんびりと食卓に着くいつもの日常が広がっている。
そんな平穏な日常に今から爆弾を投げ込むわけなんだが。
「桜、藤ねえ。紹介するよ。ミーシャ・ブラントさん」
「桜さんに、藤村さんですね。衛宮士郎さんにはお世話になっています」
「う、うん、よろしく」
「……は、はい! よろしくお願いします」
二者二様の動揺の示し方だ。そして、桜が質問をしてくる当然だろう。
「それで先輩とはどういったご関係なんでしょうか?」
「うん。士郎に外国人さんの友達がいるなんて聞いてなかった」
「友達じゃなくて親父の知り合いなんだ。
「「――――――え?」」
二人が同時に驚く、そりゃ当然だいきなり”この子と一緒に暮らすよ”と言われれば、驚かないほうがおかしいってもんだ。
「そっかー、今日からここで暮らすのかー、ってなんじゃそりゃーーーー!!!!!!」
やっぱり駄目だったか爺さんの名前を出すだけじゃ、吼える虎を抑えることはできない。
「い、いいじゃないか」
「イイわけないでしょ、こんなちょっと不思議な耳の可愛い女の子連れ込んで、毎日二人っきりでいちゃいちゃ夜を明かすなんてどんなラブコメ展開じゃーーーい!!」
「ふ、藤村先生!」
ど真ん中直球の直積的表現に桜が赤面する。
「藤村さん、少しよろしいですか?」
タイミングを計っていたミーシャが、藤ねえに耳打ちをする。
「え?なになに? ――――――――――――はぁ!!!? 何言っているのよ! そんなの信じられるわけ無いでしょ!ミーシャさんはどう見ても―――」
パニクりかけて永遠にしゃべり続けそうな藤ねえの口に前に指を立て、ミーシャはその先を封じる。
「すみません。この件に関しては秘密になっていますので…証拠をお見せいたしますので藤村さんだけ別室に来ていただけませんか?」
◆
ミーシャと藤ねえが親父の部屋に二人っきりになって3分ぐらいあったであろうか。
「――――――――――――――――――――――――!!!!!!!」
藤ねえの声にもならない叫び声がこだまする。
「ふ、藤村先生?」
桜が突然の出来事に不安な顔になる。
その後部屋から出てきた藤ねえは完全に魂の抜け切った状態で、私より全然ちっちゃくて可愛いのにとか、神様が絶対間違えたんだとかぶつぶつ言いながら、ふらふらと食事の席に着こうとしている。あの状態でも食欲が先立つのは流石藤ねえといったところか。
「藤村さんの許可が取れましたので、しばらくご厄介になります」
「そ、そうね、ミーシャく、ミーシャちゃんもいろいろ大変みたいだし、私も理解してあげないとね」
淡々と話を進めるミーシャの発言に、藤ねえは何とか落ち着きを取り戻し同意をしてくれた。
「はい。私が意見できる事じゃありませんから、藤村先生が良いと言うのでしたら」
それによって桜もしぶしぶながら納得してくれた感じだ。
◆
――――――10分前――――――
「で、言い訳なんだけど、亡くなった爺さんを便りにってのは弱いな。藤ねえは普段は非常識の固まりでも俺の保護者でしかも教師だからな。女の子と二人で生活なんて許してくれない可能性が高いぞ」
「……それでしたら女の子が泊まらなければいいかと」
「え?」
作戦はこうだ《
そこで、藤ねえだけへの秘密としてミーシャが実は男の子だと言い。疑うのならその証拠して「確認」させる。
知っているのは俺と藤ねえだけで、社会的にも精神的にもいろいろ事情があって、彼女(彼)は今はそれ以外には知られたくないってことにすれば、流石の藤ねえも秘密を打ち明けてくれた人のプライベート問題には、踏み込んでこれないと言うわけだ。
「実際、私の体つきは……その、男の子と……その遜色ないですし……」
凄い悲しそうな顔で告白する。コンプレックスがあるということは種族的エルフの特徴でなく単に彼女が貧……
「って何考えてるんだ俺は……!」
「はい?」
突然の発言にきょとんとするミーシャに対し、慌ててなんでもないと誤魔化しながら一つ疑問を指摘する。
「耳はいいのか?」
「耳ですか…できればこのままの方がいいのです。嘘をつくのですから、なるべくその嘘は少なくしたほうがいいかと。目立つ部分ですから、何度も周りを騙し続けるのは神秘の隠匿に綻びが出ますのでこの姿で通したいですね」
「そうだなぁ幸い今の冬木、いや、この国だったらちょっとしたファッションかコスプレで通せそうだしな」
200年前ならともかく、現代日本は多少の逸脱した格好に対しての許容はそこまで悪くない。威圧感を与える姿ならともかく、エルフ耳ぐらいでいきなり妖怪扱いされるということもないと思う。
「外に出るときは流石に頭巾で隠しますが、魔術でどうこう誤魔化すのは極力避けたいです」
「わかったその方法でいこう」
藤ねえにこんな嘘をつくのは躊躇うが、ミーシャがこの世界で暮らせていけるようになるまでのとりあえずの処置だ。それまで何とかなるだろう。
◆
というわけで、力技でもってミーシャの滞在許可を取れた。
すまねえ藤ねえ、これから飯の献立は極力藤ねえの好みを尊重する。
さて朝食としようか。
短時間で本来のペースを取り戻した藤ねえは、早々と食卓について隣のミーシャに話しかけている。
「へえ、ミーシャちゃんこの耳って生まれつきなんだー」
「はい、昔は騒がれたりして隠すのに大変でした。けど、今ではそんなに悪くないと思っています」
「ううう、ミーシャちゃんさっきの事といい色々苦労しているんだね。いいわ、私はいつでもミーシャちゃんの味方だから…………耳、触っていい?」
「ふへ? 藤村さん? ってもう触っているのですけど」
「はっはっはっー。観念するのだ」
適応能力の凄まじいアレはおいといていいだろう。こっちは桜と一緒に食事の準備だ。下ごしらえした魚に火を通そう。
「桜、皿は真ん中のやつを使ってくれ。そのほうが旨く見えるから」
「え…?あの、この表面がブツブツのですか?」
皿を取り出す桜の手首に薄い痣が見えた気がした。
「桜ちょっと待った」
「はい? なんですか先輩」
「その手首の痣、なんだ?また慎二かアイツ妹に手を出すなんて何考えてやがる」
「ち、違います先輩…あのその……これは転んでぶつけちゃったんです。ほら、わたし鈍いしょう?」
「ばか、転んだくらいでそんな痣がつくか。慎二のヤツ、どうやらまだ殴られ足りないみたいだな……!」
「だ、だめです先輩っ……! これ本当に兄さんは関係ないんです。私が一人でケガをしただけなんですから、先輩に怒ってもらう資格なんてありません」
「わかった。桜がそう言うんならそういうことにしておく。だが次に見つけたら我慢できないからな俺」
「……はいごめんなさい先輩」
今のやり取りを聞こえていたのかミーシャが居間のほうからこちらを覗いていた……が、藤ねえに引っ張り込まれる。凸凹コンビが誕生したらしい。