時刻は七時過ぎとなる。
桜と藤ねえは部活があるのでとっくに出て行った
俺も七時半には外に出なきゃいけないので、出かける前にミーシャに相談しておこう。
「ミーシャはこれからどうするんだ? 俺もこれから学校に行かなきゃいけないけど、家にいるのならかまわないぞ。昼飯は用意してあるしな」
と居間に用意したミーシャ用の弁当を指差す。それから水道やトイレ、冷蔵庫、テレビ、時計の使い方なども教えておいた。
電化製品を見る度かなり不思議そうな顔をしていたが、200年前の知識じゃ無理もない。
「そうですね。この時代の情勢が知りたいのでそういうのを知ることができる施設とかありませんか?」
「そうすると、図書館とか民俗資料館とかか……ちょっと待ってな」
家の中を軽く家捜しして、図書館や博物館の位置をチェックした冬木市の地図、少しのお金が入った財布、先ほどの弁当、この家の合鍵、お茶が入った水筒と小さな置時計
それをひとつにまとめた遠足用のリュックサックをミーシャに渡す。
「いいのですか?こんなにまでお世話にしてもらうなんて」
「ああ、いいさ。その代わりミーシャには俺の魔術を見てもらいたいんだ。それの手付金って事でいいだろ」
何はともあれミーシャという魔術師が家に来てくれたのは僥倖だ。魔術師といえば爺さんしか知らない俺には異世界出身とはいえ彼女の存在は価千金である。
「そうですね…ありがとうございます。あと、遠坂、ゾォルケン、アインツベルンという苗字に心当たりありますか?」
遠坂と聞いてある人物が頭に浮かんだが、冬木市は広大だ同じ性ぐらいいくらでもあるそんな偶然あるわけがない。
「ゾォルケン、アインツベルンって苗字の人は知らないが……この坂の一番てっぺんに住んでいる人が遠坂だぞ。それがどうしたんだ?」
地図に指をさしてその場所を教える。
「あ、そうです! そこに住んでいるのなら間違いないです。200年前から変わっていなくてよかったです」
……そんな偶然がある……わけであった。
「今朝も話しましたが、200年前私はこの冬木の地で儀式を行っていたのです。内容については割愛しますが、その時の儀式の執行者はユスティーツァ様……いえ、アインツベルン、遠坂、ゾォルケンの三人の魔術師でした」
「魔術師だって――――? そんな、アイツが魔術師だって言うのか……!?」
その人物の名は遠坂凛、一際大きな洋館に住んでいる。これでもかって言うぐらいの優等生、美人で成績優秀、運動神経も抜群で欠点知らず。正確は理知的で礼儀正しく、美人だということを鼻にかけない、まさに男の理想を体現したようなヤツだ。
彼女が魔術師なんてまったく想像することはなかったが、言われるとそうかもしれない。
完全無欠の遠坂には、神秘的な部分があっても納得させてしまう不思議な力がある。
家庭の事情で部活も生徒会も参加していないという部分にも合致する。
「お知り合いですか?」
「い、いや、一方的に知っているだけだ」
その言葉に何か気づいたのか、ミーシャは少し顔を曇らせる。
「さらに付け加えますと、遠坂は冬木の土地を管理するセカンドオーナーです。管理している土地に素性の知らない魔術師がいることはその立場にとってあまりよろしくないですね」
「ははは……始末されるとか?」
「今のセカンドオーナーがどのような方か判りませんが、それなりの対価を払えば大丈夫だと思います。魔術師は等価交換が基本ですから」
つまり、今までの分までショバ代を払えば見逃してくれるというわけだ。ただ、執拗にお金を取り立てる遠坂なんて想像もできない。いつも余裕をもって物腰柔らかな態度をとる遠坂には……あれ? 意外にしっくりくる?
そもそも遠坂がセカンドオーナー本人じゃないだろ、俺と同い年の未成年なんだから親なりがつとめているはずだ。
「わかりました、私のほうからそれとなく伝えておきます。」
「しょうがないよな。あ、気を付けな。ミーシャは慣れてない上に最近は物騒だからな。」
「普通の人間なら逃げ切る自信はあります。さらに《
つまり魔術による不意をうたれにくいというわけだ。
……心配しすぎか、流石に昼間だったら問題ないだろう。
日が暮れる前に返ってくることを約束させ、俺は一礼して出かけるミーシャを見送った。
時刻は七時半だ。俺も学校に向かわないと。
・・・・・・・
と、以上が俺とミーシャが会遇した一晩の顛末である。
そして、この時には思いもよらなかった、あの運命の夜が全てを変えてしまうことを……
そして、この時には思いもよらなかった、あの遠坂に対するイメージが180度全て変わってしまうことを……
今回で士郎視点のプロローグ部分が終了しました。
幕間を挟んで聖杯戦争の開始となります。