Fate/DD night   作:ゆきざかな

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幕間1:チャーミング・レッド・ガール

「……きろ、マ……」

 

 虚ろな意識に男の声が耳に入ってくる。

 遠坂凛は現在一人暮らしだ、だから寝過ごしたり睡眠中に来客があっても起こしてくれる人間なんていない。

 だが、今日は違う、いや正確には人間ではないのだが。

 

「起きろマスター」

 

 何度目かの呼びかけにより、凛の精神はようやく現実に帰ってこれた。

「ん――――――もう、朝……?」

 声をかけたのは、聖杯戦争における武器、英霊の写し身であるサーヴァント、アーチャーだ。

 

「――――そうだった。私セイバーじゃなくってアーチャーを呼び出したんだ」

「寝坊しただらしのない君をわざわざ起こしてあげたのに、いきなりの言い草だな」

 凛は完全に思い出した。このふてぶてしい態度、昨日のやり取りまで全て。

 

「そうね。それは謝るわ、あなたのせいじゃないし、やり直しなんてできる分けないものね。」

 やれやれといった態度のアーチャーを意図的に無視して言葉を続ける。

 

「サーヴァントたるもの理由もなく、寝ているマスターを起こすわけないわよね。何があったの?」

「来客だマスター。それも、おそらく魔術師だ」

 

 凛の顔に緊張が走る。空白のマスターが残り一人となり、聖杯戦争がいつ始まってもおかしくないこの状況で、魔術師が来訪なんてただ事ではない。

 凛は、急いで着替えようとするが、アーチャーはその場で突っ立ているままである。

 

「何よ。見てのとおり今から着替えるのよ」

「君、大切なことを忘れていないか」

「大切なことって、なに?」

「まったく、君、まだ本調子ではないぞ。契約において最も重要な交換を、私たちはまだしていない」

「――――あ、しまった、名前」

 

 アーチャーはふて腐れたかのように言う

「それでマスター、君の名前は?これからはなんと呼べばいい」

 

 サーヴァントとマスターの関係に意味のない交換の申し出に、凛は心の底からアーチャーは良い奴だと確信した。

「……わたし、遠坂凛よ。あなたの好きなように呼んでいいわ」

ぶっきらぼうに答える凛と対照的にアーチャーは噛み締めるように反芻した。

 

「それでは凛と。……ああ、この響きは実に君に似合っている」

 

 その微笑みから飛び出した賞賛は、凛を赤面させるのに十分すぎるほどであった。

 

 

 

 

 昨日の召喚でゴジラの来襲もかくやと思われるほど乱された居間は、アーチャーの苦労によりすっかり元通りであった。

 その居間に、二人の少女が椅子に向かい合わせで腰掛けている。

 アーチャーはというと実体化して壁に寄りかかり腕を組んでいる。

 お互いに名乗り合った後、最初に口火を切ったのは凛であった。

 

「ミーシャ・ブラントさんね。へぇ、見た目と違ってずいぶん大胆なのね」

 

 凛は、早く喧嘩売るなら売ってきなさいよ、という態度を隠そうとしない。

 アーチャーからサーヴァントの気配は無いと告げられている。

 サーヴァントも連れず、死地ともいえる魔術師の――この遠坂の――本拠地に乗り込むんだから、舐められているどころの話ではない。

 だが、その少女の反応はその行動比べ、全く覇気がない。

 

「大胆……ですか? 私はこの冬木の地に来たので、セカンドオーナーの遠坂さんにご挨拶をするために来たのですが。」

 鳩が豆鉄砲くらったような顔でこっちを見ている。

 確かに理屈はあっている。管理者である遠坂凛は、冬木の魔術師を把握する義務と権利があるのだ。

 が、今は聖杯戦争直前だ。そんな理屈なんて信じられるわけがない。

 

「今の時期に冬木の地に来る意味を判っていて言っているんでしょ?」

 と、挑発を重ねるがその返答はさらに予想できないものとなった。

 

「すみませんなにぶん200年ぶりなので今の情勢はつかめないのです」

「はい?」

 

 ミーシャは頭巾をはずしてエルフの耳を見せ今までの経緯を凛に説明した。

 フェイルーンという異世界の魔術師であったが、200年前に大師父(ゼルレッチ)に連れられこの世界に来た事。

 御三家がここ冬木で行った儀式の協力者だったが、その準備途中に事故が起こり次元の狭間に飛ばされた事。

 昨日の夜、なんとか冬木に戻ってきた事。

 

 荒唐無稽すぎて俄かに信じがたい話だが、嘘をつくのならこんな話を作らない。

 そしてそのミーシャの人間離れした姿はその荒唐無稽な話でも信じられてしまう神秘さがあった。

 だが嘘だろうがなんだろうがさして重要でない。重要なことはただひとつ、それを確かめることにした。

 

「ミーシャさん、腕を捲くってみて」

「え?」

「今は、聖杯戦争というものが起こっているのよ。その参加者の証として腕に令呪といわれる魔力の刻印が刻まれるの。わたしも参加者。だからあなたが参加者じゃ無いって証明してくれれば、嘘じゃないと信じてあげる」

 

 聖杯という言葉にミーシャはほんの少し目を見開く、もちろん凛はその変化を見逃さない。

 かくして、令呪はミーシャになかった。ならば現時点では彼女に対して、警戒はともかく無意味な敵対は心の贅肉だろう。

 

「わかったわ、よろしくねミーシャ」

「あ、よろしくお願いします。早速ですけど『聖杯』戦争ですか?」

 

 さっきの反応に、聖杯に強くアクセントを置いた質問で凛は確信を得る。

 要するにこの小さなエルフ(ミーシャ)は聖杯の作成に携わった魔術師というわけだ。

 そりゃそうだ200年前の御三家が携わった儀式なんてそれしかない。

 

 今度は凛が説明する側となる。

 数十年に一度、七人のマスターと、彼らと契約した七騎のサーヴァントが、最後の一組になるまで殺し合い。

 勝者には聖杯を手にし、願いを叶える権利が与えられる戦争。

 それが聖杯戦争だと。

 

「なんてこと……」

 

 絶句したのはミーシャだ。

 彼女の話では単に聖杯に強力な魔力を集め。その魔力でもって、第三魔法を得たり根源に至る道を行う儀式それが聖杯だという。殺し合いの戦争なんて、どこでそうなったのか皆目見当がつかないという。

 

 だが、凛にとってはたいした問題ではない。

 200年前のことよりも、まもなく始まる殺し合いの方が自分にとっては重要だ。

 

「用はもういいい?問題さえしなければ冬木にいてもいいわ。それと連絡がつくようにしておいてね」

「はいよろしくお願いいたします。そうですね今は衛宮士郎という方、あ、この家にお世話になっています」

 

 ミーシャは、衛宮士郎が魔術師だと告げるのは諦めた。

 魔術師同士の殺し合いが起こりかけていますって状態なのに、本人不在の場でそんなことするわけには行かない。

 少なくとも参加者ではないことを確認してからだ。

 一方凛は、地図を示しながら出てきた思いがけない人物に一瞬思考が停止していた。

 後ろのアーチャーもその名を聞いて僅かに反応したが、凛には知る由もない。

 

 

 

 

 ミーシャが辞した後、アーチャーが出した中国茶を飲みながら凛は疑問を口にした

 

「アーチャー。彼女が魔術師だって判断した基準は?」

 アーチャーは、これは失礼したといった表情を浮かべ答える。

「彼女が屋敷の前で呼び鈴を鳴らしたとき、霊体で確認を取ろうとしたらご丁寧に挨拶されてな。どうやら彼女は霊体が見えるらしい」

「なによそれ? 何でそんなこと黙っていたのよ!」

「すまない言いそびれていた。何度も起こしても起きないネボスケのマスターに戸惑っていたからな」

「――――!」

 凛はこの憎まれ口だけは絶対治らないだろうと心の中で悪態をつきながら、話を切り替える。

「じゃ、とりあえず後についてきてアーチャー。あなたに呼び出された世界を見せてあげるから」

 

 お茶を飲み終えると凛は、外に出る支度を始めた。

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