Fate/DD night   作:ゆきざかな

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第6話:士郎 はじまりの戦い

2月2日 衛宮邸

 

 居間で明かりをつけずに、一人の少女が目をつぶり横になっていた。

 だが眠っているわけではない。フェイルーンのエルフであるミーシャは、そもそも眠ることはない。

 1日4時間ほどのトランス状態で瞑想することにより、人間が8時間の睡眠をとったのと同じ効果を得ることができる。

 

 

 ここ二日間のミーシャの行動といえば、

 昼間は、図書館に通い200年の歴史や最近の行政実態などを調べ、観光案内や市のサービスセンターで冬木氏の現在の土地知識を得ることに費やした。

 これでも十分とはいえないが、肝心なのは積み重ねだ。ミーシャ自身知識欲に対して貪欲なので、苦ではないが疲労はたまっていた。

 さらに、交番という市民のためのサービスおよび保安施設で、「アインツベルン」「ゾォルケン」という苗字の住民を探してもらったのだが成果は無かった。

 

 そして家に帰れば、桜や士郎から電化製品や調理器具の講習を受け。

 深夜には士郎の魔術の行使に付き合い、魔術の訓練について間違っているところは無いか監督した。

 もっとも、ミーシャはこの世界の魔術にそこまで詳しくない。士郎の魔術行使の度に魔術回路を生成する方法が危険なのは判ったが、魔術関連の材料(マテリアルコンポーネント)もないこの家では、矯正を行う手段までは見つけることはできなかった。

 

 桜は今日の夜から明日明後日まで家の用事で来れない。ご飯が出来てないと知った藤村大河は、暴れるだけ暴れてさっさと帰っていった。

 そのため、士郎が戻ってくるまでやることが無いので、ここ二日間の疲労を取るためにも休憩をしているというわけだ。

 

 そう言えば、士郎に「一緒の場所で暮らすのだから、せめて名前を呼んで欲しい」といわれていたなぁ、とぼんやりミーシャが考えていると。

 ガラガラと扉の音が――ただし力なく途切れ途切れに――響きだした。

 

 士郎が帰ってきたようだが、様子がおかしい。足音が不規則でうめき声さえ聞こえる。

 見れば時計は12時を過ぎていた。

 

 明かりをつけ急いで玄関に出迎える。鉄の匂いが漂ってくる、紛れも無くこれは血だ。

「――シロウさん!」

 ミーシャは急いで、よろよろと玄関に上がろうとする士郎に近づき状態を確認する。

 士郎の制服は胸の部分が破れ、そこを中心に大量の血が真っ赤に染め上がっている。さらに胸元のシャツまで染み込んでいる。

 

「無傷?」

 とにかく無傷なら問題はない、と状況の齟齬は跡においておこうと判断し、ミーシャは士郎を居間で横になるのを手伝った。

 

「シロウさん何がありましたか?」

 強張った表情でミーシャが状況を確認する。

「殺されかけた……が、誰かに傷を治してもらったんだ」

 正確には殺されたのだが、ミーシャに余計な心配をかけたくなかったので、士郎はそこまで話すのをためらった。

 

「誰だったんだアレ。礼ぐらい言わせてほしいもんだけど」

 結果無事だったことを聞かされたミーシャは、安心して目じりが下がる。士郎もそれをつられ気を抜いた瞬間、痛みが戻って来た。

 

「あ……が……!」

 そして、同時に競りあがってくる嘔吐感。うずくまる士郎の背中をミーシャがさすっている。

「……くそ、しばらく夢に見るぞ。」

 

 毎晩の訓練の賜物。深呼吸を数回するだけど思考はクリアになり、体の熱も嘔吐感も下がっていく。

「大丈夫だ。落ち着いてきた」

「仕方がないです。《死者の蘇生(Raise Dead)》を初めて体験した人も似たような状態になります。二度目は、もっと受け入れやすくなりますから。」

 とんでもないことをさらっと言うミーシャに、士郎は若干引く。

 

 

 

 

「それでアレのことなんだけど」

 水を汲んできてくれたミーシャに、士郎は半ば独り言のように語る

 青い男と赤い男の校庭で尋常ならざる戦い。それを目撃して青い男に始末されて…

 そこまで話してある事実に気づく。

 

「まさか、聖杯戦争?」

 

 士郎は昨日ミーシャに聞かれていた、魔術師同士の殺し合いについて思いをはせる。

 それが今行われようとしている、そして遠坂も信じられないことだが参加していると。

 今日学校で、遠坂に問いただそうか悩んでいた矢先にこれだ。

 関わるのか関わらないのか、その選択をしていないまま巻き込まれてしまった。

 

「そうですね、赤い男が白い髪の浅黒い男でしたら。それは遠坂さんのサーヴァントです。」

 ミーシャの目が問いかけている、この件に対してどうするかと。

 

「俺は判らなくても、自分に出来ることをやるって決めてるんだ。」

 士郎は自分に言い聞かせるように宣言した。

 

「まずは――!?」

 

 屋敷の結界が、天井につけられていた鐘をならし侵入者を知らせる。

「こんな時に泥棒――いや、敵だ!」

 相手はあの青い男だろうと士郎は予想する。この部屋まで侵入してくるのは時間の問題だ。ならば、とっとと準備を行うだけだ。

 

 

------------

 

 

 数十秒後、いつの間にか現れた槍を携えたソレは、一直線に士郎の下に降り脳天から串刺しにせんと降下し――

 だがミーシャの支援呪文、《加速(Haste)》《猫の敏捷力(Cat's Grace)》の効果により敏捷度が向上している士郎は、難なくかわす。

 

「余計な手間を。見えていれば痛かろうとオレなりの配慮だったんだが……さっきとぜんぜん動きが違うじゃねえか。」

 気だるそうに男は槍を持ち替える。ソレ位の能力向上では警戒に値しないとの余裕だろう。

 士郎とミーシャの表情の固さから、それは冷徹な事実だと証明している。

 

「……まったく、一日に同じ人間を二度しかも、今度は妖精(シー)のお嬢ちゃんも一緒に殺すハメになるとはな。人の世は血生臭いということか」

 青い男は二人の事など目もくれず、悪態をついている。

 

 士郎はやる気のない男の姿を警戒しながら、ジリ、とミーシャの手を引いて逃げようと少しずつ後ろに下がる。

「じゃあな。今度こそ迷うなよ坊主」

 ため息をつくように男は言い槍を士郎に向ける。

 

「シロウさん、早く全力で逃げてください!」

悲鳴のような声でミーシャが逃走を促す。同時に《怪物金縛り(Hold Monster)》の呪文を青い男にぶつける。

 

「――は!舐めるな」

 

 が、その呪文を男は難なく耐える。並みの怪物なら難なく動きを封じる強力な呪文も、サーヴァント(セーブ判定の高い)相手では分が悪い。

 ましてやミーシャにはあずかり知らぬことであるが、青い男はスキル:対魔力Cを持っている。

 怪物金縛り程度(レベル5呪文)じゃ、10回に1回効果が出るかどうかだ。

 

 士郎の二度目の死から救ったのは、ポスターから作り上げた急造の剣である。

 武装をしていないと勘違いしていた青い男の無造作に突き出した槍は、紙の剣に阻まれ右腕を掠めるに留まった。

 

「ほう……代わった芸風だな、おい。ただの坊主かと思ったが、なるほど……微弱だが魔力を感じる。心臓を穿たれて生きている、ってことはそういうことか」

 槍の穂先が士郎に向けられる。

 

「それからお嬢ちゃん。妖精(シー)なだけあって、不思議な魔術を使うな。大人しそうだが芯はしっかりしているしツラも悪くない、殺すのが惜しくなってくるが、そういうわけにはいかないんでな。坊主の後に死んでくれ。」

 心底残念そうに語るが、殺意は微塵も衰えない。

 

 その言葉に士郎は半歩前に出てミーシャを庇うように立つ。

「シロウさん!」「ほう」

 非難の声と感嘆の声が同時に上がる。

 

「いいぜ―――少しは楽しめそうだ」

 青い男は士郎の腕を確かめるように槍を振るう。士郎は何とか凌いでいるがどんどん急造の槍が折れ曲がる。

 いくら魔術で強化されていてもこのままでは、士郎が殺されるのも時間の問題だ。

 だが、青い男は手を止めない、もう一人の魔術師の出方を確認しながら、そのまま士郎の命を絶とうとする。

 

『今から見えない壁を作ります。それを利用して一緒に外に出ましょう』

その間にミーシャが《下級テレパシー結合(Telepathic Bond, Lesser)》で精神結合を行い、内緒のメッセージで、士郎に作戦を送ってきた。

『判った、脱出口は後ろの窓だ。俺がガラスを破るから続いてくれ』と士郎は許可を与える。

 

 ミーシャの《力場の壁(Wall of Force)》にあわせ、士郎は向きを変え窓に向かっていく。

 

「おいおい、隙だらけだぞ――拍子抜けだ。やはりすぐに死ねよ坊主」

そろって背中を向けた二人の隙を見逃すほど、青い男は愚鈍ではない。当然のごとく突撃をかけようと踏み込んだ瞬間。

 

「勝手に言ってろ――間抜け――!!!!」

「――そういうことかい。」

 不可視の壁に突っ込みぶつかると、士郎たちは期待していたが、青い男は信じられない機動を用い鼻先で急停止する。

 ミーシャの呪文を警戒していたのだ。

 

 だが、青い男が壁に阻まれている間に、二人は窓から外に飛びのき、青い死が存在する居間から逃げ出すことができた。

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