東方儚郵夢(郵便局員が幻想入り   作:ー《真戒》ー

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今回は、順の戦いが見えます。が、順はぶっちゃけると普通の人間よりかは強いだけで、妖怪相手にはほぼ勝てません。

これは、人間の順の話ですが天狗になれば、また別かもしれませんね。

御気に入り登録ありがとうございます。戦闘シーンは、苦手なんですけど、バライティに富んだ物語を書きたいので敢えて挑戦しました。

ぶっちゃけ後半はなんか、もう、能力が発動しています。


集荷十七件目 いざ、人里へいくんだばー!

「…よし。長老の部屋の前に到着。突入するぞ…3、2、1ゴウ!!!」

 

バァーン!

 

引き戸が蹴破られ、中には長老と、上白沢さん。そして、おかっぱ頭の少女。

 

「約束を守ってもらおうか!!」

 

俺は、奪った脇差しを構える。上白沢さんと、おかっぱ頭の少女は驚いた表情を浮かべ……。

 

 

 

ーー2時間前。

 

 

「…本当に、順様。私は手伝わなくて宜しいのですか?」

 

文は、少し不安げにこちらを見つめており手を組んでいる。

 

「ああ。これは、俺の戦いだ。…俺自身が克たなきゃならない。」

 

「…必要なものはなんですか?」

 

「黒い布を頼む。被って顔を隠せるモノ。それと、鍵爪ロープ。それだけでいい。」

 

「はい。…あの被るものって。」

 

文は、俯きながら問い掛ける。

 

「文が、見ていた昔の俺が被っていたやつで頼む。」

 

俺は、出来る限りの笑顔で頼んだ。文は、少し悲しそうな笑顔を浮かべる。

 

「…無理して昔の順様に戻らなくても…。順様は、生きてきた人生が普通だって言いました。でも、普通じゃなかったです。」

 

首を横に振りながら彼女はそう言った。

 

「普通だよ。俺からしたら、さ。普通ってのはその人生を生きてきた人間が決めるものさ。」

 

「やっぱり、順様らしいです。あなたは、いつもそう。お人好しで、不器用な頑固です。だからこそ、今の順様がいるのでしょうね。」

 

そう言って、文は右手をあげて鴉を呼ぶ。すると、鴉が嘴に黒い何かを持って来て、文の右手にそれを落とし、文はそれをキャッチする。

 

「森近さんが無縁塚で拾ったようです。」

 

それを両手で差し出してくる。そこには見覚えのある形のバラクバラ(目出し帽)。

 

そのバラクバラを捲ると、そこには名前が書いてある、くすんでて前後の文字は読めないが順と書いてある。

 

「…俺のか?」

 

言葉には出さずに文は頷く。

 

「そうか。…なんの因果だろうな。」

 

バラクバラを見つめる俺は自分のなかで、選択肢は間違っていないと言い聞かせる。俺の青春は、汗と血にまみれていた。中学卒した後、親の離婚と会社の倒産が重なり、妹と離ればなれになり、金はなく普通の高校に進学できず、自衛隊高校に入学した。入学してからは殴られたり、先輩による後輩苛め、俗に言う可愛がりを毎日受け、傷だらけになり、教官には殴られたり猥褻な行為を受けたりしたこともあった。

 

卒業後もひどかったけど…。

 

そんなことを思い出す俺を背後から文が抱きしめてくる。

 

「大丈夫です。きっと、上手くいきますから。」

 

優しく彼女は、励ましてくれた。そうだ俺には、仲間がいる。立ち向かえる。過去に…。

 

ーー数分後

 

「はい、鍵爪とロープ。本当にこんなものでいいの?」

 

俺は、鍵爪とロープを博麗さんから借りる。博麗さんは、少し不安そうにしていた。

 

「ああ。俺は、戦争にいくんじゃない。克ちに行くんだ。」

 

俺は、ロープの先端に鍵爪を取り付け、ロープを肩に巻く。帽子を脱ぎ、バラクバラを被る。

 

ダァーンダァーンダァーン…。

 

銃声。爆発音。硝煙の臭い。目を閉じれば、隣にいた仲間が殺されていく光景が甦る。

 

「行ってくる。」

 

目を開けると目の前に、心配そうにする文。そして、幻想郷という世界の景色。

 

「はい。お気を付けて。」

 

「頑張ってくるのよ。」

 

バラクバラの上に郵便局の帽子を深く被り、俺は二人に見送られ博麗神社を出ていく。

 

石の階段を降りているとき、幻影が見える。

 

『目標!!階段下の二階建ての建物!各個に早駆け!』

 

自分の脇を階段を転がるように降りてすり抜けていくバラクバラを被った幻影の自衛隊員達。

 

「…。」

 

『俺たちは日本の誇りの特戦だろ?順。』

 

石の階段を下りていくと、バラクバラ越しに笑う青年の姿が見える。

 

「ああ。そうだ。俺たちは、特戦だ。」

 

『なら、強くなれ。今のままのお前じゃ誰も護れないぜ?現地の人もな。自分のことも解決できないんじゃあまだまだ。』

 

その自衛隊員は俺の肩を後ろから叩き、追い越して走っていき消える。

 

「まだ、一年か。」

 

『走れ!走れ!』

 

89式小銃を構えて、自衛隊たちは俺をすり抜けて視線の方向に走る。幻影の敵が見える。

 

『くそぉ!!!安全区域なのになんでこんなことに。くそ!皆、住人の避難を急げ!』

 

見える。アフガンの街並み。銃座を取り付けた車の荷台から仲間や、避難しようとする民間人を撃つテロリスト。

 

『なぁ、順。ここじゃあ、死ぬのを待つだけだよな。何もせずに死ぬのと、抗って死ぬのなら…。』

 

「勿論、戦って死ぬ。仲間を殺したやつに報復だ。」

 

自衛隊高校に居たときからの相棒と、敵に追い詰められた刻に話した会話だ。

 

『なら、やろう。俺たちは、特戦。閻魔だって鬼だって殺してやる。往くぞ!!!』

 

「援護射撃を行う。」

 

ダダダダダダッ

 

89式小銃の排莢口から吐き出される真鍮製の金色薬莢。

 

カラーンカラーン

 

薬莢は地面に落ちて跳ね、金属音を鳴らす。弾丸は、螺旋状に彫られたライフリングによって螺旋回転し、弾丸が銃口から発射される。その瞬間。風が弾丸を纏い、加速する。

 

「はしれええええ!!!!」

 

『うおおおお!!』

 

ダァーン…。パキーン。

 

我に返る俺。気がついたら里の付近に到着していた。

 

「…。」

 

心臓を触る。鼓動が早くなっている。少し痛い程に。

 

「さてと。仕掛けますか。」

 

俺は、木上によじ登っていく。まずは偵察だ。登れる安全な高さまで登り、辺りの様子を眺める。南東北西四方向の門があり、その門にはそれぞれ二名の見張り。里のかたちは、綺麗な正方形。

 

里の中に提灯を持ち、刀で武装した人間が彷徨いている。恐らく長老が、手紙を読んで警備の数を増やしたか。…ふと気づいたが俺は、こんなに目がよかったか?

 

「あ、そうだ。俺半分天狗になってたな。外見が元のままになってるだけで、力強すぎて封印しきれないんだったな。」

 

天狗になると遠くが見えるのか。便利だ。

 

「…塀の高さ5メートル。行けるな。人が少ない場所は南西の角。あの辺りはたしか本居さんの店の付近。そして…。」

 

里の中心には大きな屋敷。長老の屋敷だ。幻想郷の人間の殆どが暮らす里だけあって家も多く、影も隠れる場所と多い。

 

「さて。どう進もうか。宿は南西のほぼ反対側。かつ警備が濃い。北東側に重点的になっている。」

 

俺は、顎を撫でこの配置を不審に思う。南西に伏兵の可能性だ。アンブッシュされて、見つかれば、俺の賭けは敗けだ。

 

俺と長老との勝負は、こういう内容だ。俺が、長老以外の誰にも見付からずに長老の屋敷の長老の部屋に到着すれば俺の勝ち。

 

逆に、長老の部下が俺を見つけ連行することが出来れば長老の勝ち。

 

長老勝利で俺は自分の身を差し出す。

 

俺勝利で里に俺が来ても一切関与しないこと。ただし、警備くらいのアルバイトはしてやるよこのやろー。給料寄越せ。

 

とまぁ所謂暴力的なハードコア隠れ鬼的なゲームだ。

 

「さて、どうするか。敢えて濃い所を突くのも良さそうだ。」

 

なら決まった。北東から攻める。俺は、木に抱きついて棒を上から滑るようにシュルルルと降りる。

 

「スタート地点は南側。北東側までは、塀の外を外周せねば。」

 

ほどほどのペースでマラソンし始める。暫し、移動していく。門番二人が見える。

 

「なぁ、長老からの話聞いたか?」

 

「あん?なしたさね。」

 

二人の雑談が聞こえる。俺は聞き耳をたてる。

 

「なんでも、一人の妖怪が攻めてくるんだってよ。」

 

「マジかよ。俺たち死ぬんじゃないの?」

 

死にゃしないさ。俺は、殺しはしない。そちらが、喩え殺しにかかろうとも。

 

そんな会話を聞きながら、俺は近場にある石を拾い、靴を脱ぎその場に伏せる。現地にあるものはすべて道具となる。距離20メートル角度60度。目標、5センチ平方の石板。

 

「投擲。」

 

俺は、拾った石を投げる。松明の明かりから見えるか見えない場所に向かって。

 

カーン。

 

甲高い音が周囲に響く。

 

「?なんだ?今の音は。誰かいるのか?」

 

「おい、お前見てこいよ。」

 

「え?マジかよ。…ったく分かったよ。」

 

門番の一人が、こちらに向けて歩き始める。

 

ジャリ…ジャリ…と砂利を踏んで小石と小石が擦れ合う音がする。

 

距離5メートル3メートル2メートル1メートル。

 

「何もねぇな。」

 

くるりとこちらに背を向ける門番。呼吸を整え、静かに立ち上がり、早足で門番を追いかける。靴下は消音効果が高い。歩き方さえ気を付ければ、足音はそんなに発たない。

 

手が届く距離だ。俺は、背後から近づき、右の肘の内側を門番の首に入れ右手で自分の左肩を持ち、身体を密着させ左手を相手の後頭部に当て、そのまま相手の首を肘の内側に押し付け、肘は首をきつくしめる。

 

「…!……っ…。」

 

1秒で落ちたか。これは案外使えるが、おすすめはしない。相手が完全に無防備である必要もある。何よりも、力加減を間違えれば相手死ぬ。

 

意識が落ちたことを確認し、俺は門番の脇差しを拝借する。そして、博麗さんから拝借したロープを切り、猿轡を作り門番の口に縛り付ける。

 

「あとで、直してやるから許せ。」

 

ボキッ

 

ボキッ

 

ボキッ

 

ボキッ

 

四肢の間接を外す。相手を如何に無力化しても気がついたとき動かれれば面倒な時もある。だから、四肢を封じる。口も猿轡で封じる。 さて、あと一人か。

 

脇差しを、腰のベルトに差し門番の両脇を持ち抱き上げる。

 

「こんなところに置いといたら妖怪に食われちまうからな。」

 

肩を貸すような体勢に変え、覆面と帽子を脱ぎゆっくりともう一人の門番に近づく。

 

「すいませーん。あの、この人倒れてました。」

 

門番は、薙刀を構える。

 

「何者だ。」

 

「いやいや、門限で入ることが出来なくて途方にくれてうろうろしていたら、なんだか人が倒れていたので、わたくしお届けに参りました。」

 

肩を貸したまま営業スマイルをする。

 

「…なんと…!ありがたい。何者かに襲われたか…おい。大丈…」

 

その気を失っている門番を受け渡し俺はもう一人の門番の背後に回りながら、帽子と覆面を被り、先程と同じく。羽交い締めを行う。

 

「か…?っ…!(チーーン」

 

「おやすみ。」

 

ボキッボキッボキッボキッキュッ

 

四肢の間接を外し猿轡を嵌めさぁ、これで見張りは始末した。

 

死なないようにするのって大変だなー。さて、内側に運ぶか。が、その前に、策敵。

 

目を閉じ、耳を澄ませる。

 

リンリンリン…。

 

鈴虫の声が綺麗だなぁ…。フゥン違うそうじゃない。どれ。足音はする。が、こちらに向けて数名が歩いているな。

 

よし。ならば。靴を履いてー。上から、強襲しようか。鍵爪よーし。投げ!

 

ヒューン…カコン

 

門の上に良い感じに引っ掛かったな。クイックイッと引っ張り、門番二人を引っ掛かった塀の位置に運ぶ。

 

「よいっしょっと。」

 

ロープを身体に巻き付け、門番の一人を背負って、その上からさらにロープで俺の身体に固定する。

 

「さて、戦う郵便局員の潜入と行こうか」

 

某ステルスゲームの蛇の声真似を小声でしながら、俺はロープを手で巻き上げながらよじ登っていき、塀の向こう側をちらりと見る。

 

「contact…。1名。塀の下。」

 

やり過ごして少し、距離が離れるのを待つ。それと同時に周囲を確認。最寄りの建物1メートル先にベランダ付きの二階建ての家が見える。

 

……。離れた。ゴウ!

 

塀の上に乗り、そのまま最寄りの屋根の上に向かってジャンプする。

 

ガシャン。

 

瓦割っちゃったな。まぁ、不可抗力だ許せ。ぶっ損事故はしょうがない。多少はね?さて、ここら辺においとくか。

 

俺は、そのベランダに気を失った門番を下ろし、すぐにもう一人の門番も運んでいき、使ったロープと鍵爪をベランダの塀に座って結ぼうとしたときだった。

 

そこで、あることに気づく。

 

視線だ。ベランダがある部屋から感じる。

 

「…おじいさんだぁれ?」

 

小さな五歳くらいの男の子がこちらを見ていた。

 

「…。おじさんかい?おじさんは、郵便屋さん。」

 

あれ?おじさんかな?俺。25歳だけど…。

 

「郵便屋さんってなに?」

 

「郵便屋さん言うのは、人と人を繋ぐ手紙を世界中どこの誰でも届ける人だよ。」

 

あれ、こんなこと話している場合ではないんだけどな。

 

「…天国にいる人にも届くの?」

 

あっ、重たい話になるこれ。

 

「そうだな。閻魔様が、それをよしとしてくれるなら。」

 

「…ふーん。そうなんだ。」

 

男の子は、嬉しそうな表情を浮かべる。顔はよく見えない。でも、照らされる月明かりで仄かに見えるのは、痩せ細っていること。明らかに何らかの病気に掛かっているのだろう。

 

「…おじさんは、外に出れて良いね。」

 

「うん?」

 

男の子は、少し羨ましそうな口調で呟く。

 

「僕、外に出れないんだ。体弱くて。」

 

「そう、か。」

 

この痩せ細りは筋力の衰退による遺伝的な病気かなにかに見える気がする。

 

何だったかな。習ったが忘れてしまった。

 

「…ごめんね、郵便屋さん。引き止めちゃって。お仕事中だったんでしょ。」

 

「ん、ああ。気にするな。全然大丈夫だ。それより…。」

 

その、なんだ。哀れんでいるわけではない。でも、この子に夢を見させてあげたいと思い始めた。

 

「それより?」

 

首を傾げる男の子。

 

「明日、良いものを届けに行こう。君に、差出人がいて、その、なんだ。届けるはずが、この不細工なおじさんたちを間違えて届けちゃったっぽくてね。明日またここに来るよ。」

 

「…ホントに?」

 

男の子は、嬉しそうな声を出す。

 

「楽しみにしてて。」

 

「わかったっ。」

 

そう言って俺は、その男の子のベランダから飛び降りる。…門番のおっさんたちを置き去りにして。

 

「作戦継続…。宿屋まで、距離2ブロック。」

 

姿勢を低くし、影から影に素早く移る。時々おいてある酒樽等がいい闇を産み出している。と、そこで、二人組の見回りの男を発見。…こちらに向けて接近中。酒樽の影にでも隠れようか。奴等は松明を持っていない。つまり、動かなければばれにくい。

 

「何てったってこんな夜中まで俺達が見張りをしてなきゃならねえんだよ。」

 

「本当にめんどくせえなぁ。…お?酒樽じゃねえの?」

 

一人が立ち止まり酒樽を開け、もう一人はそのまま素通りしていく。

 

「止めとけって…。大体お前なぁ、今は仕事中だぞ?それに、どうせ空っぽだから置いてあるだけだしよ。」

 

ゴスン。

 

男が振り返る。すると酒樽を見ていたもう一人の姿がない。

 

「あれ?おい、どこいったん…だ?」

 

男の背後から羽交い締めをする俺。きゅっと締め即落ちさせる。

 

「警備の任務なのに灯り一つ持たないお前らは間抜けだ。」

 

手を離すとその見回りは、地面に崩れる。

 

「さて。酒樽の影に隠しておくか。」

 

俺は、見張りを引き摺って、壁に寄りかからせ、酒樽に手を乗せておく。

 

どうだ。飲んだくれの完成だ。

 

宿屋まであと少し。だが、どうも警備が厳重。十人もそんなところ護らなくてもー。まぁでも、仕掛けた爆弾がもう少しで起動するはずだ。

 

「だ、たすげでくれええええ!!!!!!!!」

 

ほら来た!先ほどの門番が目覚めたようだ。宿を警備していた人間が根こそぎそちらの方へ向かっていく。

 

「よいしょっと。」

 

俺は、助走をつけて飛び上がり、屋根の上によじ登り屋根の上に乗って伏せてやり過ごす。

 

宿の前には十人ほどの見張りが屯していたが今では入り口に二人くらいしかいない。俺は側面に周りながら、鍵爪ロープの取り付け状態を確認する。宿の屋根の高さは、今いる高さのほぼ倍。

 

「鍵爪取り付け状態よし、投擲角度70度、目標屋根の上。狙いよーし。」

 

チャンスは一度しかない。ヒュンヒュンと鍵爪が先端に付いたロープを回す。

 

ヒュンヒュン…ヒューーン!

 

放物線を描いて、そのまま鍵爪は、屋根に引っ掛かる。ちゃんと引っ掛かっている。よし。ここからだ。スピード勝負だ。そして、運も必要だ。というのも、もし今からやることに屋根が耐えきれなかった場合は、少々困ったことになる。

 

目を閉じる。息を整え深呼吸する。脈拍は早い。やはり緊張する。

 

いくぞ。ロープを体に巻き付けそのまま屋根を蹴る。

 

 

ゴゴゴゴゴゴ

 

振り子の原理を利用し、俺は宿の壁に脚をつける。

 

ゴンッ

 

良い音がしたが、幸い辺りには気づかれていなさそうだが…。というか、あんな騒ぎがあったと言うのになぜ人っこ一人居ないのだろうか。おかしい。普通なら出てくるはずだが…。

 

「あ、そっか。なんらかの理由で里の人間を家の外に出さないようにしているのか。」

 

ギシギシ。ロープを手に巻き付け、そのままよじ登っていく。

 

「…くそ。ロープがそろそろ限界か。」

 

よじ登りながらロープを見つめる。大分傷んできている。これ以上の酷使は出来なさそうだ。

 

ギシッギシッギシッ

 

手が痛い。やはり、一年もやってないと体が鈍る。

 

「…っふぅっ。ふっ…。」

 

なんとか登りきれた。汗がひどい。秋の夜は涼しいが、体が熱い。

 

息を整えていると、ベランダにおいていった門番の人たちが運ばれていくのが見え、見張り人たちが至るところへむかって走っていくのが灯りの動きで見える。

 

「…ここから、だな…。」

 

ため息をついて空を見上げる。すると、そこには…。

 

「あやややや!見つかっちゃいました。」

 

なんでいるのあんた。ってそのカメラを見ればわかるか。上手く撮ってくれよ?

俺は、鍵爪を取り外し屋根から、ベランダに飛び降りる。

 

「確か鞍馬の間だったか。」

 

鞍馬の間を探す。が、明かりが消えていてどこが鞍馬の間か分からない。

 

「…思い出せ。」

 

目を閉じて文と鞍馬の間に入ったことを思い出す。

 

『こっちですよ鞍馬様。こっち…。こっち。』

 

声が聴こえる。鏡のようになっている窓を見るとぼんやりと"彼女"の姿が見える。暗黒の鏡の面に俺とその隣に彼女がいるようだ。隣を見る…がしかし居ない。

 

「…。なんと。」

 

彼女は、ベランダ間の仕切りをすり抜けながら移動していく。

 

「ほっ!よっ!」

 

見失わないように、俺は彼女を仕切りを外側から乗り越えるようにベランダから追跡する。

 

「日本でやったら不法侵入で捕まるな。」

 

そんなことを軽く呟きながら、導かれた部屋の窓を見る。

 

『…。』

 

フュォッ!

 

どうやら、部屋の前に到着したらしい。彼女は、立ち止まり無表情で霧となって消える。

 

「よし、エントリーする。」

 

窓に手をかけ、横に引く。

 

カラカラカラ

 

軽い音とともに窓は開き、なかに入ることができた。そこには、文の日用品と、文が畳んでくれたであろう郵袋が置かれている。

 

そして、その横には赤い鼻高天狗のお面。

 

「天狗のお面は、俺のものじゃないし置いていくか。」

 

月明かりを頼りに、俺は郵袋の中に、文の服だとか…下着だとか…カバンだとかを詰め込んでいく。

 

郵袋は、頑丈にできており30キロ以上の荷物をいれることが出来る。が、あまり重いと動けなくなる。

 

残留物の最後の一つの文の万年筆を回収したときだった。

 

バァン!

 

「!」

 

電気が付いて扉が勢いよく開く。ドタドタと見回りの男たちが部屋の中に押し寄せてくる。

 

「…!」

 

「見つけたぞ妖怪。よくも仲間をあんな姿にしやがったな。」

 

十人以上だろうか。全員が刀に手をかける。俺も脇差しに手をかけ息を整える。

 

「戦うのは嫌いだ。どうか引いてくれないか。」

 

「笑止。こちらとて仲間をやられた。引くことなど出来はしない。」

 

刀に手をかけたまま見回りの男が鋭い眼光でこちらを睨む。

 

「…そちらが引かないのなら」

 

チャキッ

 

俺は刀を抜く体勢になる。

 

「この人数で勝てるはずがなかろう。挑んでくるか若僧。」

 

すると相手もまた、刀をいつでも抜けるように少し鞘から刀を抜く。

 

ドクンドクンドクンドクン…。

 

どれ程の時間が流れただろうか。紅葉の葉が風に吹かれて開いた窓から吹き込んでくる。

 

紅葉は、舞う美しくひらひらと。その光景は普段であればいとをかしであることだろう。要するに風情があっただろう。だが、この場は違った…。舞う紅葉が床に落ちた時だった。

 

チャキン!

 

見回りの男たちは刀を抜いて襲いかかってくる。

 

俺もそれと同時に、脇差しを勢いよく抜き走り出す!!!……ただし後ろに!!!

 

「さらばだー!!」

 

さらだばーともさらばだーとも聴こえる滑舌の悪い捨て台詞と共に窓へ向かって走っていく。

 

「馬鹿め!ベランダには逃げ場など…!」

 

俺はその言葉を無視してベランダから飛び降りる。

 

「なにいいいいいぃぃ!!!!」

 

背後から男たちの声が聴こえる。が、俺は一瞬感じる浮遊感と、その後のことを考えることで精一杯で、無視していた。

 

地面に落ちた直後に、前に向かって転がって、落下の衝撃を逃がし、ダメージを軽減させる。

 

「何回も自衛隊でやってたけど、一年後でも出来て良かったぜ!!!ひゃっはぁぁあ!!写真とれてるぅ?!!」

 

叫びながら空を見上げると、親指たててグッジョブしてにっこりしている文が見える。

 

その背後には、見覚えのある人物たち。

 

藤原さん、博麗さん、霧雨さんがいた。藤原さんは、ポケットに手を入れたまま仏頂面しながらチラチラ見て、博麗さんはすこし品定めするようにこちらを見ているようだ。霧雨さんは、頑張れよー!と手を振っていた。

 

ーー秋風よ吹き抜けろ

   思いも人も追い抜いて

    紅葉を闇夜に舞い散らすーー

 

「死ねえええい!!」

 

ガキーーーーン!!!!

 

♪東の国の眠らない国

 

走り出した俺に向かって降り下ろされる刃。見張りの一人が俺に攻撃を仕掛けてくるのを、金属音を鳴らし、火花を散らしながら峰で受け流す。

 

「っ!だから、戦う気はないでしょって言ってるでしょうが!!!」

 

受け流した後、相手の目と口、顎を狙うように右手を衝き出しそれと同時に脚をかけて脚を引く。

 

「ぬぁ!!」

 

ドシャァ!

 

くるりと男の体が回り、派手に頭から転倒する。それを構う暇なく、再び他の見回りの男が刀を振り上げ斬りかかる。

 

 

脇差しをクルリと回して受け流し、そのまま逆手に持ち、一気に踏み込んで峰で鳩尾を強打し、そのまますり抜けていく。

 

「くそがぁ!!」

 

キィンキィンキィンキィンキィンキィンキィン!!

 

薙ぐ、受け流す、強打!!打つ打つ!打つ!!その攻撃のすべてを受け流しつつ、前進し、長老の屋敷を目指していく。

 

「くそ!止まらない!!長老が狙われる!!弓を用意!!!構え弓ーーー!!!」

 

屋敷が見える距離まで来たときだった。空を見上げれば無数の弓。

 

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!!!!!

 

「っ!!」

 

風切り音すら聴こえるほど恐ろしい数の弓。だが、越えられぬ壁などはない!!!

 

【伝説を具現化する程度の能力発動】

 

『いけえええ!!順!!!』

 

あのときと同じ。無数の弾を俺達は掻い潜って走った!矢弾を肩に受けても、胸に受けても!!俺達は歩みを止めなかった!!

 

俺の目の前には、その時の相棒の後ろ姿。弾を受けようが何が起ころうが勇ましく進んだあの頃…!

 

「うおおおおお!!!」

 

俺は、弓を掠って傷を負っても弓が刺さってもその脚を止めずに疾走する。

 

「止まらない?!止まらないのか!!!あの天狗はぁ!!!!」

 

見える。矢がわずかに俺を避けて飛んできているということを。

 

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!

 

視える。彼女が、刀を奮いその矢を受け流しているということを。

 

キィンキィンシュバッバシュッシュキィン‼

 

あのときもそうやって守ってくれていたのか…。ありがとう。お陰で俺は、まだ駆けれる!!!!

 

『駆けて!!』

 

自身の脚に風を纏い俺のことを後押しする。

 

ーーこの瞬間風になった。

 

ビュオオオオッ!!!

 

全てを突き抜け、通りすぎたあとに残ったもの。それは…。

 

「…ぁ…ぁ…」

 

戦意を喪失した屋敷を護る男たちと、破損した弓のみだった。

 

「…人間だ!俺は!」

 

目の前には長老の屋敷の扉。俺は、その扉を開ける。

 

重みのある扉だ。俺は、そのまま廊下を走る。普通の人間の脚の速度で。

 

…ここか。ここだな。

 

「…よし。長老の部屋の前に到着。突入する…3、2、1ゴウ!!!」

 

バァーン!

 

引き戸が蹴破られ、中には長老と、上白沢さん。そして、おかっぱ頭の少女。

 

「約束を守ってもらおうか!!」

 

俺は、奪った脇差しを構える。上白沢さんと、おかっぱ頭の少女は驚いた表情を浮かべ、上白沢さんはこちらに向かって走ってこようとし、その瞬間。床に脇差しを刺す。

 

「…順?」

 

「上白沢さん。俺は、殺しはやらないです。…でも、この長老が変なことを企てているのなら話を聞かなければならないです。」

 

「上白沢殿下がるがよい。…さて、阿求殿。記録されましたかな?」

 

「ええ。しっかりと。この男はこの里を護る"人間"として相応しいでしょう。」

 

おかっぱ頭の少女阿求は、こちらを見る。

 

「若者よ。名は何と申すのじゃ。」

 

長老は、少し楽しげに目を細める。

 

「順。」

 

「では、順よ。御主の力で託したいことがあるのじゃ。それは、御主の要望通りの内容。里の警護をしてもらいたい。良いかの?」

 

「…ちょっと待てちょっと待て!!一体、なんのことだ?!これは、どういうことなんだ?!」

 

俺は思わず息を荒げて、長老と上白沢さんを交互に見る。

 

「分からぬのかぁ?若者よ。お主が出した要求。」

 

バッ!

 

紙が開かれる。

 

/\/\/\/\/\/\/\

長老勝利で俺は自分の身を差し出す。

 

俺勝利で里に俺が来ても一切関与しないこと。ただし、警備くらいのアルバイトはしてやるよこのやろー。給料寄越せ。

 

\/\/\/\/\/\/\/

 

「ほれ、ここの部分じゃ。」

 

そういって警備のアルバイトくらいしてやるよこのやろー。給料寄越せの部分を指差す。

 

「っ!!!」

 

俺は、絶句していた。自分で余計なことについて書いていたと言うことに。

 

「天狗は、頭がいいと思っていましたが?」

 

阿求さんは、手で口を隠し、くすりと笑う。ぐぬっ!!!どういうことだ!

 

「あなたのお友だちの天狗はこの事をあなたが出た後に知らされていたようですよ?」

 

…。まじ?え?アイツ、だからあんなに楽しそうに写真撮ってたの?というか、なんでアイツら楽しそうに見てたの?

 

そんなことを考えていると霧雨さん、博麗さん、文、藤原さんが入ってきたようだ。

 

「いやー!なかなかスゴかったなぁ!順!」

 

霧雨さんは、白い歯を見せながらウィンクする。

 

「…。」

 

無言の俺。

 

「順、ま、まぁまぁよかったよ。…その、基本とか全然だから火の妖術教えてあげるわ。」

 

藤原さんは、ポケットに手を突っ込んでそっぽ向いている。

 

「これで、異変解決の要員が増えたって訳ね。やったわ。」

 

「…。」

 

無言の俺。

 

ぎゅっ

 

「あややや。天狗の力を押さえていてもあれくらい戦えるのでしたら妖怪の山でも暮らせますねっ!順様っ♪」

 

やわらかい感覚がまた背中に当たっている。が、俺はそんなことより、何が起きているか分からなかった。

 

すると、人差し指を立てて博麗さんは説明する。

 

「確かに、順の力を長老は、狙っていたわ。でも、その狙っていたと言うのは要するに、里を護る力として求めていたわけ。勿論人の出入りだとかも含めて。そういう意味で、あなたを覚醒させようとしていたのよ。」

 

「は、はぁ?」

 

つまり、俺が里の警備のアルバイトくらいしてやるよこのやろー。という文章で長老の本懐が解決していたと?

 

「なぁ、でも、見回りの人以外居なかったよね?!」

 

「そもそもこの世界は、私の結界術による場所の遮断と、慧音の歴史を隠す程度の能力で"すべての里の人間は隠されていた"のよ。」

 

「え?!見張りの人間とかは?!」

 

「見張りの人間とか見回りの人間は、紫の式神。と言っても本人曰くただの出来損ないらしいわ。」

 

…、そうなのか。あの子も式なのかな?

 

「あのさ。男の子に会ったんだけどそれはどうなん?」

 

「多分式神だぜ。」

 

霧雨さんは、胸を張ってどや顔する。一体どこからそんなことが…。

 

「さ、慧音。結界を解くわよ里の人間を戻して。ふー。お札剥がして回らないと。」

 

博麗さんと、慧音さんは、なにやらその結界やら隠した人間を元に戻したりする作業があるらしいな。

 

なんだろう。妙に腑に落ちない。そんなことを考えていると、ぎゅっと文が抱き締めてくる。

 

「順様、お疲れですよね?…ゆっくり休んでください。」

 

「こ、こら!ベタベタくっつくと順に迷惑だぞ!」

 

藤原さんは、文を引き剥がそうと必死に文を引っ張る。

 

「こーーーのーーー!!!」

 

ギューーーーッ!!→

 

「やめなさい!やめてください!!」

 

が、文の力は強く離れる気がしない。

 

ギューーーーッ!!←

 

「いだだだだだ!!!文と藤原さん痛い!!」

 

「あややややや!!順様が痛がってますよ妹紅さん!!」

 

「文だとぉ?!私のことも妹紅と呼べぇ!!というか、離れろ射命丸文!!!ぐぬぬぬぬー!!」

 

でも、この騒動で俺は、思い出に悩まされることとなる。目を閉じれば戦場。今まで封印してきた記憶。それは、恐怖心と共に、密かにゆっくりと俺を蝕んでいくことになるとは思いもしなかった。

 

 

扉は開かれてしまった…。

 

 

キャーキャーワーワー!

 

賑やかな長老の部屋。それを眺める阿求さんと、長老。

 

「平和じゃのぉ。」

 

「ですね。」

 

二人は文と藤原さんの二人と俺を巻き込んだキャットファイトを遠目で見てお茶を啜っていたのだった。

 

◇ ◇ ◇

 

「ミツケタ」

 

グシャッ

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continue → 

 




これで、人里騒動編は幕を閉じます。

次回から再びなんか色々ぶっ壊れた感じの小説を書いていきますー。

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