館主であるレミリア・スカーレットがまだ元気だった頃は、賑わっていた紅魔館。
妖精メイド達は歌い、時折、来客を招いてパーティを主催していた紅魔館。
今は、その面影は何処にもなく静まり返り、辺りには血が散乱している。
メイド長が、豹変した影響で妖精メイド達は恐れ、逃げ出した。
それにより、たくさんいた妖精メイド達はその数を大きく減らしていた。しかし、そんな中でもレミリアを慕って残る二人の妖精メイドが居た。
「また、血で床汚れているね。」
「うん。」
彼女達は、黒ずんだ血の汚れが染み込んだカーペットを雑巾で拭いていた。
「ここも、静かになっちゃったね。」
「うん。御嬢様が、夜が終わらない異変を解決しに、巫女と一緒に行った後、だっけ。」
「御嬢様、メイド長…。」
妖精メイドたちはまるで遠き日を思い出すように、瞳を閉じる。
聴こえてくる笑い声。
見えてくる楽しそうに仕事をする自分達。
それは、もうない。
あるのは、血で汚れた壁、破られた壁紙。割られた壺と枯れたバラ。
レミリアの啜り泣く声。
地下から盛んに聴こえる戸を叩く物音、壁から聞こえる物音…。
それがいつもの紅魔館。
だが、ひとつだけいつもと違う。
外からする物音だ。
「…なんのおと?」
妖精メイドの一人が、窓を見つめる。
釣られてもう一人のメイドも窓を横目に見る。
あの門番が誰かと戦っている。相手の姿は見えないが、あの門番が嬉しそうに戦っている。
門番とはあまり関わったことが無い。ただレミリアが元気だった頃は、メイド長とレミリアと笑っている姿を遠目から見ていた。
レミリアが床に伏せてからは、ずっと霧のかかった空を虚ろに眺めているだけだった彼女が今、笑っている。
「門番さん、笑ってる。」
「珍しいね。」
二人は、掃除する手を止めてその戦いを見守る。
「打ち上げた!」
「門番さん、凄い。」
門番に打ち上げられた相手。それは、霧を切り裂くように飛翔。否、滑空し上空から鎌鼬を纏った銃弾を地面の門番に狙って撃っている。
「門番さん押されてる…。」
「侵入されたら大変…。倒さないと…!」
でも、どうやって?自分達より戦闘力の高い門番が押されている。以前なら、妖精メイド皆で束になっていつかの巫女と魔法使いを苦戦させていたらしい。
だが、二人の力は微弱だ。
「…でも、行かないと…。」
「そうだね。メイド長…帰ってきてないし、代わりに御嬢様を御守りしないと。」
彼女達は、スカートを持ち上げ小走りで部屋に向かい槍を取りに行き、エントランスへと急いだ。
彼女達がエントランスに着いた頃には戦う音は無く、寂しいほどに静かになっていた。
これが、静寂か。これが、現実か。そう思い、妖精メイド達は槍を下げる。
「少し、残念そうね。」
「…あなたこそ、残念そう。」
二人は顔を見つめ合い、お互いが少し悲しげな顔に変わっていたことを知る。
久しぶり来た客人が、この扉を開けてくれる。そんな自分勝手な
だが、あるのは静寂。
「掃除に戻ろうか。」
「そうだね。」
彼女達は諦めたように扉に背を向け離れようとする。
「天狗道の…開風!!!」
ーーーーだが静寂を切り裂くように、扉が勢い良く
「いけいけ!!突入しろ!!!」
爆風から聴こえる男性の声。
「うん!」
爆風から転がるように出てくる白髪の少女。その隣に爆風を切り裂いて現れる天狗の少女。
真ん中に、紫芋のような紺色の洋服を着て、服と同じ色のキャップを被りそのギャップに紅く輝く〒マーク。
「毎度様でーす。郵便屋でーす。」
煙から現れた男は、銃を肩に担ぎ、郵袋を持って現れた。
「何をしに、来た。」
妖精メイド達は、緊張した表情を浮かべ槍を構える。心なしか、その槍を持つ手は興奮と動揺で汗で滲んでいた。
「ある人からの依頼でね…。この館に、光を取り戻してほしいと言われて。とりあえず来たわけ。」
「そう。でも、ここで御仕舞い。ここから先は通さない。御嬢様を御守りするのが役目だから。」
「…そうか。協力はしてくれないか。」
順は、少し諦めたような表情を浮かべる。隣で妹紅が、炎を手に灯す。
「…待て、妹紅。」
「ん。」
妹紅は、順に片手で制され、その炎を消す。
「そうだね、確かに。隣の天狗がいきなりドアを吹き飛ばしてちゃ話にならないね。…まぁ、落ち着いて。とりあえず槍を下げてくれ。」
順は、少し申し訳なさそうに帽子を脱いで近づく。
「…断る。」
「断る!」
二人の妖精メイドは、槍を向ける。しかし、その手は震えている。当たり前だろう。彼女達は、ここに勤めてまだ短く、不測の事態にパニックになっている。
「お前達の主を助ける為なんだ。どうか協力してほしい。」
「そんな、甘い言葉に騙されない。あなた方は御嬢様を退治しに来た敵だ。」
両手をあげて順が二人の妖精メイドに近づく。
「近づくな。刺す。」
「…お前達の主は、このままだと危険だ。手遅れになる前に外部が協力しなければこの紅魔館は、崩れてしまうかもしれない。終わりになってしまうかもしれない。これは、君たちを否。この屋敷を護るためなんだ。君たちが、ここに残っているのは、御主人様を護るためだろう?好きなのだろう?だから、協力してほしい、協力させてほしい。だから…槍を下ろしてくれ。」
順は、怯まずに槍の矛先まで近づき槍に、ゆっくり触れようとする。が、にらみ続ける妖精メイド達。
「お前達の助けになりたいという心は本気だ。もし、私の心に応えてくれるなら、槍を下ろしてくれ。応えれないのなら、刺してくれ。刺される覚悟は出来ている。」
順は、二人の妖精メイドを見つめ、その両手を槍に添える。
「…………っ。」
妖精メイド達は、その手に導かれるままゆっくりとその槍を下ろす。
「…ありがとう。」
「あの門番を倒したのだから…見習いの私たち程度の見習いでは勝てっこないと判断しただけだから勘違いしないでね。」
「ああ。そう捉えておく。…とりあえず、スカーレット氏にお会いさせていただきたい。無論、武器は持ち込まないし、後ろの二人は部屋の中までは連れていかない。」
そう言って、順は89式小銃を安全装置をかけ、弾倉を引き抜き、槓桿を引いて薬室に弾丸が入っていないかを確認し、文に差し出す。
「お預かりしますね~♪」
「妹紅、これを。」
拳銃から弾倉を引き抜き、拳銃のスライドを引いて、弾丸が入っていないか確認し銃口を下に向けて、持ち手側を妹紅に差し出しつつ、ベルトから小太刀を引き抜き、柄を妹紅に向けて差し出す。
「うん、預かっておく。」
妹紅は、両方受け取り頷く。
「二人とも、決して引き金を引くなよ?暴発したら洒落にならないからな。」
「わかりました。」
「うん。」
「では。ご案内します。」
妖精メイド達は、順達の前を歩いて案内していく。
廊下は掃除が行き届いて無いのか、至るところがボロボロで、蜘蛛が巣を張っている。そんな様子を見ながら、歩いていると…どこかで誰かが壁を叩いている音がする。
「?なんの音だ?」
「最近変な物音がしていまして。」
「……ふむ?」
とそんな会話を妖精メイドとしながら妖精メイド達についていくと、一つの扉の前に着く。
「ここが、御嬢様のお部屋です。多分、もうお目覚めだと思います。」
「ありがとう。では、文、妹紅。」
「いってらっしゃい。」
「気を付けて。」
順は郵袋から手紙を取り出し、目の前の扉を三回ノックする。
「…入りなさい。」
そんな小さな声が聴こえる。
扉を開けて、順は中に入っていく。
その同時刻。
霧のなかをゆらりゆらりと歩く銀髪の血濡れたメイドが紅魔館の門に到着していた。紅が、迎える。
「…おかえりなさい、メイド長。随分とまた、殺したんですね。」
メイド長、と呼ばれた女は、血で滲んだ麻袋を引き摺りながら虚ろな瞳で紅を見る。
「誰か通したわね。」
「気のせいですよ。」
紅は、知らないふりをする。
「うそつき。」
すれ違い様に囁くメイド長。次の瞬間。紅の首からは、赤い液体が噴射していた。
「え…?」
紅は、両膝をついて崩れるようにうつ伏せに倒れ、自分の斬られた箇所を手でさわり、確かめる。
「さ、くや…さん…。どうして…。」
血溜まりに沈んだ紅。
「…あはは…そうなんですね…。やっぱり、あなたは…違う…。あの人は……。」
紅の意識が徐々にフェードアウトしていく。その刹那、自分を楽しませてくれた、笑顔を取り戻したいと言ってくれた者の顔を思い出す。
「…御嬢様を御願いしますよ…。」
そう呟き、紅は意識を失う。
ゆっくりと紅に向かって歩きながら、咲夜がナイフを振りかざしとどめを刺そうとしたときだった。
「カァァ!!!」
紅が意識を失ったのと同時刻。順は、レミリアと対面していた。
ナイトドレスに身を包み、ウェーブのかかった水色のショートヘアの少女。肌の色は白く、瞳は文よりも紅い。真紅だ。その少女は、ベッドから上半身を起こしていた。
「あなたが来ることは、解っていたわ。」
「ほう、予知能力でもお持ちで?」
二人の最初の会話だ。うふふと笑いながらレミリアは、口元を隠す。
「…運命を操る程度の能力しかないわ。」
「じゃあ、これは必然だ?」
「そうよ。あなたは、私の手の中。なんてね。」
二人は、そんな会話をしている。
「紅茶。紅茶が飲みたいの。」
「ん?客人に入れさせるつもりか?」
「不法侵入者が客人を名乗るとは何を言ってる。」
レミリアと、順はまるで旧知の仲のように話す。しかし、レミリアと順は、会うのは初めて。これは、レミリアが成す会話力と、順が持つ会話力とが合わさりお互いに打ち解けているようだ。
「じゃあ、しょうがない。入れるか。と、その前に手紙を。」
順は、郵袋から手紙を取り出して差し出す。
「ええ。見せてもらうわ。」
手紙を受け取り、レミリアは丁寧に開ける。
「お湯とかは?」
「用意してあるわ。一式。」
「本当に来る前提だったんだな。」
順が紅茶を用意している最中、レミリアは手紙を広げる。
「やっぱり咲夜のことね…。」
ため息混じりの彼女は、思い詰めたような表情を浮かべる
「ん、そうなんですか。その咲夜と言うのは紅さんが言っていたメイド長…と言うものですか?」
「そう。十六夜咲夜は、私の大切なメイド。優しくて完璧なまで仕事をこなせる娘だった。…私に従う従者だった。でも、永夜異変を解決した後、私が永遠亭の従者に病をかけられベッドから出れなくなって暫く経った頃。彼女が無秩序に人を襲い始めた。そして、人間の里との安全協定圏内で、血と内臓を集め、何かをしようとしている。」
紅茶を用意しながら、順は考えた。何かの儀式をしようとしているのではないか?と。
「呪いかなにかしようとしてるんじゃないの?」
「呪い、か。確かに魔界から伝わった呪いやその類いは人の体液や臓物を使う。…だけど、咲夜がそんなことする娘ではないと信じたい。」
失礼なことを言ったかもしれない。レミリアの表情がよりいっそう曇り、順は少し考え込む。恐らくレミリアは、咲夜を殺さないで欲しいと思っている。だが、幻想郷のルールを破りかねない存在となっている咲夜を止める手段が今の段階には無く悩んでいる。
「なるほど。…この異変の解決は一筋縄では行かないな。…と、紅茶が出来た。」
そう悩んでいるのを察しつつ、順は出来上がった紅茶をティーカップに注ぎ入れる。
「ありがとう。コクン。…ん妖精メイド以外に淹れてもらったのは久しぶりよ。まずい紅茶ばかり飲んでいると多少はマシに思えるわね。これもあまり美味しくないけど。」
「そりゃどーも。」
そりゃそうだ。プロが煎れた訳じゃあない。そんな言葉を順は引っ込めた。
「…咲夜…。」
彼女はとても不安げに窓の外を見つめる。なぜ変わってしまったのか何が、彼女を変えてしまったのか。レミリアには、それが分からなかった。
「よし、決めた!」
「何?」
そんなレミリアを見て順は、決める。自分が出来ることをして誰かのために手助けしよう、と。そんな順を見て、レミリアはキョトンとする。
「俺が、スカーレット氏の病を治して、十六夜さんを助けれるように協力する。…本当は、専門家に任せた方がいいんだろうけど自分も出来ることをして困っている人を助けたい。」
役に立たないかもしれないけど困っている人を助けたい。文や妹紅に助けられてばかりでは無く、自分も誰かの力になりたい。そう順は思っていた。
「そう。…本当だったら、霊夢にお願いしようかなって思っていた。…でも、あの
レミリアは、頷くと、順を見つめる。
「そうね。あなたに、任せてみようかしら。…特例として紅魔館当主、レミリア・スカーレット紅魔館の中を探索することを許可するわ。でも、気を付けて。妖精メイドたちから聴いたかもしれないけど、変な物音があちこちからする。何か化け物が潜んでいるかもしれないから気を付けて。あと、もしも咲夜に遭遇したら…出来れば殺さないで欲しいわ…もう無理ってなったら仕方ないけど。」
やっぱりそうきたか。と順。だが、腹は決まっている。
「わかった。因みに、スカーレット氏の治療を調べているパチュリーさんは、何処に?」
「エントランスから左から降りれる階段をしばらくいった先にある地下のヴアル魔法図書館にて私の治療について調べてくれている。彼女は協力者となる。でもエントランスから右側にいった先にある地下への階段の先にある奥の扉は開けないで。
「わかった。…改めてスカーレット氏、宜しくお願いします。」
「ええ、こちらこそ。…貴方のお名前は?」
「え、えーっと、順と言います。苗字だとかはちょっと分からない。記憶がないから。」
「そう、分かったわ。順ね。苗字ね…。
レミリアは、ふふ。と少し楽しげに笑う。その笑顔の裏には新しい玩具が面白いのかどうかを品定めするような意味が隠されていることに順は気づかなかった。
「?」
そんなレミリアから協力を得た順。彼は、異変を解決できるのか。忍び寄る闇を、振り払えるのか、彼の冒険はこれからだ。
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いつも、読んでくださりありがとうございます。