東方儚郵夢(郵便局員が幻想入り   作:ー《真戒》ー

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大変お待たせして申し訳ありません。


集荷二十八件目 パチュリー・ノーレッジ

「残念。生きてたのね。」

 

そんな冷ややかな抑揚のない声がした先を見る。

 

空中にはくらいの球体型のクリスタルと、テーブルと椅子のセットがいくつか浮いており、本が宙を羽ばたきながらその声の人物の所へと飛んでいく。

 

「何。」

 

そこに居たのは、紫色の長い髪の毛を持つラベンダー色 のナイトドレスに身を包んだ少女。髪の毛はさらさらで癖はなく長く、前髪はパッツンと揃えて切られている。

瞳は紫で、表情は無表情。肌の色は、やや白っぽい。

 

彼女は、ふわふわ浮いている椅子に座っており、本を開き机越しにこちらを見ている。

 

「この方は、郵便局員の順です。そして、彼の配達の付き人の文々。新聞記者の射命丸文と蓬来人の白いのの藤原妹紅です。あなたは、パチュリー・ノーレッジ氏でしょうか。」

 

「白いのって何よ。」

 

隣に立っている文が、順と妹紅と自分を紹介し、妹紅の怪訝な問いかけをスルーし、少女パチュリーに問いかける。

 

「如何にも。」

 

無機質な瞳が無関心を表すように一言だけ答える。

 

「あなた方の仲間である紅美鈴氏の手当てが必要です。」

 

「門番は、治癒能力が他の紅魔館勢に比べて高い。その程度の傷で倒れるほど柔ではない。現段階では補充だけで十分。」

 

淡々とした口調でそう答えるパチュリー。その瞳には感情という概念を捨て去っているようにも見えた。

 

「お前、心配じゃないのかよ?」

 

順が声を張り上げる。仲間である紅を気遣う素振りも見せないパチュリーに少し怒っている。パチュリーの瞳が一瞬揺れ、順を見る。

 

「妖怪の体質の原理は、人間のそれとは全く違う。妖怪は、妖力が第一。傷口などある程度の傷は、大体妖力を補充することで治せる。只し、破魔の傷を受けた場合は別だけど。」

 

パチュリーは、抑揚のない静かな口調で説明し、本で口許を隠す。

 

「時に手紙屋。自分の状態を把握できない者が他人の心配をすることなんて出来ない。現にあなたは、今は極限状態の筈。あなたの妖力…否力が限界を示していることが分かる。」

 

「…そんなことはない。」

 

「そう、じゃあ立ってみたら。」

 

パチュリーは興味無さそうにそう言い捨てる。順は若干不機嫌そうに立ち上がろうとする。

 

しかしーーー。

 

「っ。」

 

立ち上がろうと踏ん張るのだが、力が入らない。

 

「小悪魔。また無理をするこのバカを仮眠室に連行なさい。」

 

パチュリーが順達の隣に控えている赤髪の少女、小悪魔にそう指示する。

 

小悪魔は、一礼し順のことを持ち上げる。

 

「ぬぉ!放せ!こら!」

 

順は、じたばた暴れる。

 

「レミィも厄介な客を招く。…その小悪魔は話せない。でも、人の言葉を理解することは出来るから何かあればその娘に言いなさい。まぁ、レミィの精々期待に応えることね。」

 

パチュリーがぱちんと指を鳴らすと、小悪魔は順を担いだままトトトトッと何処かへ走り出す。

 

「うわー!」

 

「あ、ちょ、順さん!」

 

文と妹紅が順を追い掛けようとすると呼び止められる。

 

「蓬来人、文屋。彼を少し休ませるべき。彼は、昔から死にたがり屋。」

 

「こんな危険な場所で順さんを一人になんか…。…て昔?」

 

「大丈夫。ここ(書斎)は、私の城。邪悪(・・)な者は通さない。保証する。そう、昔。」

 

「書斎っていうより、もう図書館ね。…昔っていった?」

 

「ええ。ヴアル魔法図書館とも呼ばれている。妖怪の山のlibrary(しょっぱい辞典)には負けはしない。昔会ってるの。」

 

「それはそれは。」

 

文は少し不機嫌そうに、目を細め葉団扇で口許を隠す。

 

「美鈴を床に。」

 

パチュリーは、そんな文を無視して妹紅に紅を下ろすように促す。

 

「うん。」

 

妹紅が床に紅を下ろしたのを確認するとパチュリーは、指先一つで妹紅から紅の身体を空中浮遊させる。

 

そして、星を指で描くと宙に浮いている球体型のクリスタルが惑星のように回転し、その中心部に人一人分くらいの大きさの緑色の光の球が出来る。その中に紅をいれる。

 

「ノーレッジさん。」

 

「何、文屋。私は、忙しいのだけど。」

 

「あの現象はなんですか?悪夢とは?」

 

文は、慎重に言葉を選びつつパチュリーに話しかける。

 

それに対し、パチュリーは興味無さげに答えつつも本を読み始める。

 

「紅魔館が、異質空間の類いに呑み込まれることで起きる、本来あり得ない筈の現象。悪夢(よる)という呼称を付けた。」

 

本を読みながら、パチュリーは空中で指を動かすと、クリスタルの一つが変形し、文達の目の前に青白く光るモニターのようなものになる。

 

「上空監視魔石ベガの様子。」

 

紅魔館を囲むように霧が立ち込めていた。

 

「ん?紅魔館の周りだけ随分と?」

 

妹紅がじぃーっと画面を食い入るように見つめる。

 

「紅魔館の霧を無くしてみる。」

 

画面に写る霧が消失する。そこには……。

 

「何か空間が歪んでいるようにも見えますね。」

 

ドーム状の何かに紅魔館が包まれているのが見えた。

 

「隔離魔法障壁。と私は読んでいる。」

 

「隔離魔法障壁…て?」

 

「空間を閉鎖させる魔法障壁。何処まで行っても同じ場所に着く。その為、紅魔館から出られない。現にそこの妖精メイドの二人もこの紅魔館から出られない。」

 

「…そうなの?」

 

妖精メイドの二人は、黙ってうなずく。

 

「でも、あのメイド長はどうやって出ていっているの?」

 

妹紅は首をかしげる。

 

「推測の域を出れないけど十六夜咲夜の部屋に何かある。と私は思います。」

 

文は葉団扇の先端部でキャスケット帽を持ち上げ、風を起こしてくるくると帽子を弄びながら考える。

 

メイド長である十六夜がおかしくなってからこの紅魔館に異変が起きたのであれば、それは最早その一点に尽きる。

 

しかし、気になった点がある。咲夜と会敵したときのことである。

 

彼女は、順をマルで待っていたかの様に順と接触しようとしていた。そして、その場で順を殺さずに霧のようになって消えてしまった。

 

「十六夜咲夜さんの能力は時間を止める程度の能力のはず。あんな、妖怪とか幽霊染みた能力は持っていない筈です。」

 

パチュリーは、文の言葉に頷く。

 

「そう、その通り。現に文屋も気づいているだろうけど。時間を止めて移動したとしてもあんな風に、消えることなど出来はしないと。」

 

「どういうことだ文?」

 

「彼女が私たちの隣をすり抜けていったときを覚えていますよね?」

 

妹紅に問いかける文。

 

「ああ。順が追いかけようとしたのを、止めたな。」

 

「あの時、霧の動きが無かったのです。」

 

「?どういうことだ?」

 

妹紅の頭のなかに?マークが大量発生する。

 

「物体が動くときには必ず空気の流れが起きます。この時の物体とは物理的に傷を与えれる弾幕の弾も含めてです。つまり…。」

 

「咲夜があなたたちの横をすり抜けたときに、私たちの防衛結界も、文屋の探知能力にも物理的な干渉が見られなかった。」

 

「つまり…あそこに、咲夜は本当は居なかった?」

 

妹紅の答えに首を振り、人差し指を振る。

 

「居たけど肉体を持ったものでは無かったかもしれない。ということよ」

 

「なるほど?ん?」

 

益々妹紅の頭のなかに?マークが生み出され、人差し指を口許にやり首を傾げる。

 

「ヴアル魔法図書館は、外の世界の本とかあったりしますか。」

 

そんな文は妹紅をスルーし、パチュリーに問いかける。

 

「魔界から滲み出た本から外の世界の本まで色々と。」

 

「妖怪、妖魔、悪魔。その類いの本を調べたいところです。」

 

「神話録の36段目の七列目に置いてある。借りたら戻して。私は、レミィを治すための方法を調べたいから。」

 

「な、今から調べるのか?休憩しないの?」

 

妹紅は、少し憤慨しながら悪態を吐く。が文は、キャスケット帽を被り直し、手帖を取り出す。

 

「…私は、順さんの手伝いをする必要がある。だから…。」

 

そう言って、文は本を探しにいこうとする。そこで妹紅が呼び止める。

 

「射命丸、順の居場所を聞いておいた方が良いんじゃないか?」

 

「あ、そうですね。順さんは、何処に?」

 

「図書館の休憩室。彼処は、彼女たち妖精メイドの休憩所でもあるけど。」

 

「「ぇ゛」」

 

後ろの妖精メイド二人が、ぎょっという顔をし、休憩室へと小走りに向かっていった。

 

「あややや。そうですか、添い寝しなくては…!」

 

「いやいや、休ませてやれよ。」

 

スタコラサッサと向かおうとする文の肩を掴む妹紅。

 

「なんでとめるのですか?!」

 

「…でももへったくれもない。普通の人間ならとっくに狂っている程の事象を目の前にして心労が祟っている。そっとしておきなさい。」

 

「じゃあ、調べもの終わったら行きます。」

 

「そうしなさい。」

 

文は、順のことが大好きだ。だが、その好意は何処から来るのか。

 

順の何を知っているのか、妹紅は少し前から気になっていた。

 

「なんで順に、固執するんだ?」

 

「それは…ですね…。」

 

「あ、ごめん。のろけ話は良いや。」

 

そう言って妹紅は頭の後ろに、両手をやりそそくさと逃げていく。

 

「しょうがないですねぇ~!教えてあげましょうか~?」

 

ニヤニヤしながら文は、妹紅の後を追いかけていった。

 

『あれ、私放置。』

 

パチュリー、息していない!

 

「…とと、ここら辺ですね。」

 

文は、パタパタと翼を羽ばたかせて浮遊し本を探す。

 

「…射命丸。部下の鴉達があんな姿になったのに、なんでそうもしていられるんだ?」

 

ピタリと文の手が止まる。

 

「そうですねー。私は今も悲しいです。悲しんで、その先どうするのですか。って考えたら無理矢理でも前に進まなきゃならないんです。」

 

「天狗にしては珍しいな。身内の死には痛いほどにうちひしがれて、殺した相手を地獄の底まで追いかけて復讐を果たすと思ったのだが…。」

 

「あははは、そうですね。私以外の天狗達はきっとそうですね。でも、泣かないし、泣けない。彼らに生きろ(・・・)と見送られたのですから。」

 

「見送られた…か。そう、だな。そう考えれるのならどれ程幸せか。」

 

妹紅は、悲しそうな笑みを文に見せる。

 

その裏にある物。それは、自分を忌み嫌った者達。そして、死を見て見送り続けた彼女の行き着いた先を物語っていた。

 

「それに、ですね。」

 

文は、少し目を閉じる。

 

「目標があるんです。」

 

「ん?夢じゃなくて目標か。」

 

「そうですよ、夢では人と同じく儚くなりますから。だから、目標です。」

 

そう語ると文は、本探しを再開する。

 

「藤原さんは、あっちをさがしてください!妖怪辞典なるものすべてさがしてください!捜索ですよ、捜索!」

 

「あ、はい。」

 

妹紅は、妙にあやややしてる文を流しつつ本を手に取りながら考える。

 

文は、順に拘る。だが、何故自分は順に拘るのだろうだと。

 

確かに、自分が嘗て恋した人物に似ている。だが、彼は…。

 

ーーーワタシガコロシタ。

 

この手で…。

 

自分の手を見つめる。過去の罪とは決して消えることなんて無い。そんなことは、分かってはいる。分かってはいるのだが救いを求めてしまう。

 

「もし、彼に謝れるのなら…。罪を償えるのなら…。」

 

嗚呼…。私は、何をしているのだろうか。彼と順を重ねて、いくら人助けをしようとも罪など償えはしないのに…。

 

「…。あー、いやだ。すっかり辛気臭くなって…。」

 

妹紅は、本を探し続ける。そして本棚に挟まる本を手に取る。

 

「マエリ■リ■・ハー■著【幻想神話録】。」

 

パラパラと妹紅はページを捲る。夢魔、悪魔、サキュバス、天使等妖怪とは違う分類の存在の図鑑のようだ。

 

「こんなの居るのね~。」

 

そんなことを溢しながら妹紅は本を眺める。パラパラと小気味よくページを捲っていく。がそこであるページに目が止まる。

 

「【???】。なにこれ、名前読めないじゃない。 」

 

白い球体が描かれている。

 

「“魔界生息の闇の精霊の一種。何らかの理由で世界(人類)を護るために自らの意思で世界に留まる存在。夢という世界を産み出し普段はそこで自身の戦争の犠牲となった幽霊達と生活している。有事の際は人類側の巫女の手によって召喚が可能で、召喚されたのち世界の危機的状況の打破を行う。また同意を得た場合のみ、死した()()を術式により召喚させることが可能。過去の例では、平安時代後半にて行われた妖怪大戦争にて、天狗として参加(厳密では天狗ではない模したもの)し赤子に乗り移ったのち東風谷という現人神に遭遇し、境遇を哀れまれた???は命までは奪われず人間たちへのある程度の見せしめという表向きで封印された。その後900年以上の時を得て封印を解かれ人間の男として、人魔大戦争に参加。人類側の裏切りにより死亡。その後、人類の歴史は舵を失い崩壊”…した?一体どういうこと?」

 

妹紅はのめり込むように読む。

 

「藤原さーん。」

 

が、読んでいると何処かで文が呼んでいる声がした

 

「今行くー。」

 

読んでいた本を元に戻して、彼女は声の主の元へと飛んでいく。

 

「あ、いたいた。持つの手伝ってください。」

 

妹紅が文のところへ行くと文は、本を両手で抱えつつ、風で本を空中に何冊か浮かせている。

 

「目ぼしいものは見つかったの?」

 

「…敵に対しての候補はいくつか上がりましたが、レミリアさんを救う手だてはまだ。あ、これ持ってください。」

 

文は、風に乗せて本を妹紅に渡す。

 

「やっぱそうよねー。」

 

ぱしりと受け取りため息をつきつつ次々と送られてくる本を抱える。

 

「こっちにテーブルがあります。そこで、調べましょう。」

 

文は、ゆっくりとした速度で飛翔し、宙に浮いているテーブルに向かう。

 

「本当に、文屋と学舎の先公(慧音)は読み書きが好きねぇ…。」

 

半ば呆れながら、妹紅は文の後に続いた。

 

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