左からの木刀の一振りを寸ででかわし、アルベルは距離を詰める。
手加減なしの左の手刀をクラピカの首目掛けて突き出す、わざと寸前でクラピカはそれを軽く避け、伸びきった腕が戻りきる前に、右手に持つ木刀でアルベルの脇腹を叩きつけた。
「グッ!」
アルベルはクラピカの追撃を危惧し後方に大きく飛び退いた。
「甘い!」
それを予期していたのかクラピカが前進し、木刀の間合いを生かした左からの突きを放つ。
先ほどの脇腹のダメージのせいでアルベルはうまく体を動かす事ができず、木刀の先端がアルベルの腹部にめり込み表情を歪ませた。
「ッゥ、ガハッ!」
痛みで膝を付きそうになるのをこらえ、一歩踏み込み自分の間合いに入ろうとする。
が、すでにクラピカは右手に持つ木刀をアルベルの首に添えていた。
アルベルは自分が負けたのを理解し両手を上げる。
やや遅れクラピカが両方の木刀を下ろした。
「僕の勝ちだよね?」
「あーちくしょ、素手なら勝てるのに……」
「得意な武器を使うのは当然だよ、アルベル」
フフンと鼻をならし自慢気に俺に言ってくる。
くそ、コイツ性格曲がって来てないか、昔は俺に殴ったりする事すら躊躇したり、すぐに謝って来たりしてたのに。
今じゃあこの有り様だ、もう全身痛過ぎる、木刀の一撃は骨まで達するぐらいの痛みだ。
集落からちょっと離れた修練場でクラピカと組み手をしていたが、俺は何度も負けている。
さっき言った通り素手なら負けないんだがな。
「もう一回だ!」
負けてられないのだよ、こちとらプライドがあるのだ。
「いいよ」
なにその余裕?
「ぬわぁああぁ! パァパァスゥゥ!」
雄叫びをあげ俺はクラピカに飛びかかった。
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負け越しました、7戦1勝6敗
1勝はクラピカのスタミナがなくなって勝てただけだから、全然嬉しくない。
ダメだ勝てない、真剣を使わず木刀を使っていたが、本来の得物の真剣を使ってたら俺は全敗していただろう。その前に即死か。
「イタいッ、優しく塗りたまえ!」
「はいはい、まったくもう……」
で、今俺は半裸でクラピカにクラピカ印の塗り薬を、背中の怪我した部分に薬を塗ってもらってる。
ちょっと気持ちいいと思ってしまう自分がイヤだ。
「はい、出来上がり」
「おう」
脱いでいた服を着て立ち上がる、体が痛い。
「アルベルってさ、もうちょっと闘いながらでも周り見た方がいいよ」
「注意散漫って事か?」
「うん、アルベルは避ける事に専念するあまり、位置的に不利な場所に追い詰めやすいんだ、僕が武器持ってる優位性もあるけど」
「もしかして俺の動きって読みやすいのか?」
「そんな事はないと思う、ずっとアルベルと稽古してるから動きのパターンを覚えただけだよ」
コイツ、サラッととんでもない事言いやがるな、俺とばっかりやってるとは言えそんな事出来るって凄い事何じゃね。
やはり原作での天才っぷりは本物だ、俺何かクラピカの行動パターンを読むとか言う高度な事は出来ない。
「アルベルも何か武器使ったら? 避けるだけじゃなく、受けを使えたら戦闘に幅が出るよ」
「武器ねぇ……」
使いこなせない物を使うのはね、逆に混乱しそう何だよな。
とりあえず後で倉庫を漁ってみるか、あそこには色々転がっている。
「戻るか、日が暮れちまった」
「うん」
修練場からクラピカの家に戻る最中とある異変に気付く、村の入り口から近い民家に灯りがうっすらともっているのだ。
クラピカも気付き警戒するように目を細め、腰に差していた木刀を抜き、ギュッと手に握りしめた。
クラピカの雰囲気が変わる、軽い興奮状態になったのか瞳がゆっくりと真っ赤にそまり、緋の眼に変わる。
俺の賭が勝ったのなら、侵入者とのイザコザは控えないといけない、クラピカを宥めねば。
小声で話しかける。
「落ち着け」
俺の言葉はクラピカの耳に届いていない、灯りの付いた民家をジッと睨み付けている
憶測だが、クラピカの頭の中であの日の懺劇がよぎったのかもしれない、トラウマになったからしょうがないとはいえ、今は不味い。
クラピカを何とか落ち着かさないとダメだ。
俺はガシッと片手でクラピカの頭を掴み、強制的に俺の方を向かせる。
クラピカがハッとした表情になり、戸惑った様子の顔で俺を見る。
「クラピカ」
「ア、アルベル……」
「大丈夫だ、俺は傍にいるだろうが、どこにもいかねーから」
なるべく優しくゆっくり喋り、クラピカを真っ直ぐ見て伝えた。
スッとクラピカの瞳の色が元に戻って行く。
はぁ良かった……。
「だから落ち着け」
「……ごめん」
「気にすんな」
クラピカが掴まれた頭がくすぐったいのか、顔をプルプルと揺らす。
俺も流石にやってる事が気持ち悪くなって手を離した。
「あっ」
何、名残惜しいみたいな顔してんだ気持ち悪い奴だな、ぶっ飛ばすぞ。
「何だよ、落ち着いたなら何か言えよ」
「えーと、どうしようか?」
「まぁいい、あの家に誰か居るのは間違いないだろ」
「そうだね、あそこは僕達使ってなかったし」
どうする、クラピカにあそこにいるのは敵じゃないかもしれないから行こうぜ、とは言えん。
だが何としても接触する必要がある、しかしクラピカにどう言えばいい。
仕方ない俺1人で行くか? もし賭けに負け敵だった場合どうする。
埒があかないどちらにせよ会わないと確認しようがない、行くか行くしかないか。
「アルベル」
「どうした?」
「僕は接触は避けるべきだと思う、この集落に人が来る事情がわからない、もしみんなをあんな目に合わせた奴がここに戻って来たのなら僕達の命はない、信じたくないけど、父さんや大人の人達に勝ったぐらいだし、到底今のアルベルと僕じゃあ何の抵抗もできずにやられるのが落ちだよ、悔しいけど今だけここから離れよう」
原作クラピカなら問答無用で突っ込んで行きそうなんだが。
とんでもなく冷静に判断しやがった、しかもかなりの正論だし。ぐうの音も出ない。
俺の存在でクラピカの思考の方も変化したのか、もしかしたら俺がストッパーの役目を果たしているんだろう。
失う物がない人間と失いたくない物の人間の違いが出てくる。
「ちょ、ちょっと待て」
「何?」
「俺は接触するべきだと思う」
「どうして?」
どうしよう。
「か、勘?」
「はぁ?」
「だ、だから勘だって」
「何言ってるの?」
クラピカがお前何言ってんの、馬鹿なの、死ぬのって言いたげだ。
仕方ない強行策だ。
「俺が1人で行ってくる、ここで待ってろ」
なぜかクラピカが下を向き全身をワナワナと震わせる
顔をあげカッと目を見開き俺を怒りの形相で睨む、その瞳は真っ赤に染まりまたもや緋の眼の状態になっていた
「ふざけないでよ! アルベル!」
「えっ?」
クラピカが村中に響くような大声で怒鳴り始めた。
「1人で行くって何だよ! 僕の傍に居るって言ったばっかりなのに……、それにもしアルベルになにかあったらどうするだよ! そんな事になったらアルベルまでいなくなったら、僕はぼくは……」
クラピカはひとしきり怒鳴り終え後、うって変わって落ち込み出した。
やっちまった、クラピカがここまで俺の事を心配すんのか。
予想出来なかった事じゃなかったんだが、単純に俺のミスだ。
「すまん、クラピカ俺が悪かった」
クラピカに頭を下げる
「あっ、こんな時にこっちこそごめん」
「いいって」
何か変な空気になっちゃった、どうしよう。
あれ。
何か視線を感じる。
視線を感じた方向に目をやると、2人の人間がこちらを見ていた。
そりゃあそうか、あんなにデカい声出してたしな。
さてどう転ぶか。
次回からオリキャラが出て来ます。