草薙兄妹の神殺し物語   作:堕ちた人間

2 / 7
遅くなって済みません。何分遅筆なもので。


二人の神殺し 第一話

 愛するか愛さないかは、我々の自由にはならない。 byコユネイル

 

 

 そこはイタリアのとある空港。そこに災厄の兄妹が降り立った。その兄弟は見かけだけならば、ごくごく普通の東洋人の兄妹にしか見えない。しかし、彼らがこの地に降り立った理由はお世辞にも普通とは言えないものだった。

 

 「ねえお兄ちゃんって馬鹿なの」

 

 妹である草薙静香は、呆れたとばかりに自らの兄に言葉を投げかけた。

 

 「いきなり何なんだよ。唐突に変な事言い出して。俺のどこが馬鹿だって言うんだ」

 

 草薙静香の兄、草薙護堂は訝しげに問いかけた。彼は自分の妹が兄に対して余計な邪推をする癖があると常々考えている。

 

 「だって、彼女にねだられたからってこんな場所にのこのこやってきている時点でおかしいでしょう。

 

 それに話を聞く限りそのエリカさんってプライドが高くて優雅に振舞いたがるような人なんでしょ。なのに、脅し文句を使ってまで直ぐに来てくれなんておかしいよ。

 

 きっとお兄ちゃん、具体的に言うと羅刹王に来てもらわないと困る用事が有るんだよ。そんなことも解らないの」

 

 その言葉を着て護堂は自分をここに呼び出した彼の少女のことを思い浮かべた。確かに常に余裕を持って華麗に振舞いたがる少女にしては今回の呼び出しはいささか性急で乱暴とさえ思えるものだった。

 

 「けどなぁ、静香。だからって放りだすわけにもいかないだろう。第一神殺しだったら俺以外にもいるのにわざわざ俺に頼まなくちゃいけなくなったのは、俺にも少しは責任があるんだから」

 

 「そんなの後付けでしょ。お兄ちゃんて自制心の類が無いわけじゃないのに、突っ走ったら止まらない性格してるから。今回だって乗りと勢いでここまで来ちゃったんでしょ。わかりきってるよ。」

 

 護堂は妹の勝手な言い分に憤りを感じて、反論しようとしたが二の句が継がれることは無かった。

 

 「初めまして、護堂様。私はアリアンナと申します。エリカ様の使いとしてまいりました。」

 

 護堂たち兄妹の前に現れたのは古典的に見えるメイド服を着た黒髪の女性だった。その風貌はとても落ち着いていて、おっとりとした空気をまとっている。静香から見ると彼女は見た目は良くも悪くも普通の人間のように見えたが、中身は恐らく違うと彼女の女としての勘が言っていた。これは恐らく普段普通に接する分には問題は無いが、少しでも深い仲になると意外な落とし穴が待っているタイプだと彼女は感じた。

 

「あ、はい。俺は草薙護堂と言います。あなたがエリカの言っていた迎えの方ですか?。正直言ってあまりエリカの仲間の人の用に見えませんね。普通に市井で使用人(メイド)でもしているような人に見えます」

 

 「はい。私はエリカ様のもとで修業をさせてもらっているんです。私才能がなくて、結社でくすぶっていたのですが、そこをエリカ様に拾ってもらったんです。今は身の回りのお世話などをさせてもらっています」

 

 草薙静香はこの少女の言い分を聞いて今から会うエリカという兄の恋人のイメージが固まった。隣にいるわが兄はひきつった愛想笑いを浮かべている。しかし、そこに驚愕に類する感情は見て取れない。恐らく「あいつらしいな~」とでも考えているんだろう。これも静香の考えを裏付けた。

 

 恐らくこれから会う少女は人を使うことをあたりまえだと考えている類の人間なのだろう。その上頭の悪くない。大方自分の小間使いのような人間が欲しくなって、この人のよさそうな少女を丸め込んで使用人に仕立て上げたのだろう。

 

 静香は何となく女王様を地で行く自分の母親とかぶってくるようで今から件の少女に会うのが嫌になってくるのだった。

 

 【閑話休題】

 

 「ハアッ、ハアッ。死ぬと思った。まるで絶叫系の遊具に乗ったかと思える様な運転だったな」

 

 草薙護堂は自らがここに来るまで乗っていた車の運転に関する苦言を呈しながら、休息を取っていた。今まで、少なくとも普通とは言い難い人生を送ってきたという自覚を最近持たされたばかりの彼にとっても、今回の道程は心臓に悪いものであった。そして、ふと隣を見ると自分の妹が顔色を悪くして頭を抱えていた。

 

 「同意するよ、お兄ちゃん。正直いってあの人、私が考えている以上に天然(おバカ)な人だったんだね。これを知っててあの人をお兄ちゃんの使いによこしたんだとしたら、エリカさんて相当いい性格してるよ」

 

 静香は顔色を悪くして、口から恨み節の様なものを呟いた。そんな少なくとも良好な精神状態をしていたところに、彼ら兄弟の宿敵が現れた。

 

 

「ほう、いと珍しきことよな。神殺しが平然と並び立つとは」

 

 そこにたたずんでいたのは幼女といっても差し支えがないほどにあさない少女であった。その瞳はまるで夜が溶かし込まれたかの様に深い黒に染まっていた。彼女を見たとき静香は自らの持つ権能の一部、【祭祀の火】を使用していた。その時見えたのは深い闇だった。何処までも深く深淵に続いているとさえ思えるものだった。次に見えたのは月と無数の武器。そして、蛇の姿だった。

 

 「そこの神殺しはわらわのことを見抜こうとしておる。何とも愚かしいことよな。知恵の女神であるわらわを出し抜こうとするとは。

 

 その権能火の神より簒奪したものとみたが、大神から簒奪したと見える権能を何とも浅ましいことに用いる者よな。愚者の申し子という呼び名が現す通りじゃ」

 

 女神はすべてわかっているとばかりに悠然と語りかけた。

 

 「そんなことはどうでもいいわよ。貴方は私たちと戦いたくて来たの。望みもしないし、断りもしないけ」

 

 草薙静香は女神に何故ここに来たのかを問いかけた。その様子を見て女神は滑稽とばかりに微笑を浮かべた。

 

 「此処で貴様らと戦うのも一興かもしれんが。わらわにはほかに目的がある。喜ぶがよい」

 

 女神はその場を闇に溶けるように消えて立ち去った。静香はそれを見届けたところでめまいを感じた。【祭祀の火】はその恩寵を与える相手の精神力を消費することによって使用可能になる権能。

 

 カンピオーネである以上その精神力は並はずれている。直ぐに影響が出る程のものではないが、できれば休息を取りたい状態だ。これが魔女や巫女の血統を継ぐ霊視能力者あたりならば話は別なのだろうが。生憎と彼女の家系は呪術とは無縁の一般人の家系だ。そんな上等なものは持ち合わせていない。

 

 今のはカンピオーネとして持っている直感を無理矢理霊視の域まで底上げしたに過ぎない。【祭祀の火】は引き上げる値が大きければ大きいほど、使用可能にするのに必要な消費量が増加する。元々持っている能力を底上げするものなのだから、その差は大きい。

 

 本来この権能は彼女が倒した神の最も重要な神性である祭火の化身としての権能だ。だから元来神々と通ずる能力を持つ祭司や巫女として素養を持つ人間に対して使用して初めて真価を発揮する権能だ。

 

 だから、例えカンピオーネであっても、その手の素養が生来欠片もその手の素養が無い人間に使用しても、必然的に無理が出る能力だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。