草薙兄妹の神殺し物語   作:堕ちた人間

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二人の神殺し 第三話

 悪は必要である。もし悪が存在しなければ、善もまた存在しないことになる。

 悪こそは善の唯一の存在理由なのだ。 byアナトール・フランス

 

 

 そこはかつて栄華を誇っていたことがわかる遺跡だった。崩れかけた壁や円柱が立ち並び歴史を感じさせる場所だった。しかし、そこに居る草薙静香の心境は決して穏やかではない。何せ自分の悪い予想が見事に的中してしまったからだ。

 

そこに居たのはのは老人二人に青年が一人。皆恭しく頭を下げている。隣にいる兄、草薙護堂も顔が引きつっている。恐らく兄もこういった手合いを何度も見たことが在るのだろう。自分自身中国で嫌というほど見たこういった手合いは見慣れたものが見ればすぐにわかる独特の空気というものを纏っている。

 

 「初めまして王よ。貴方様にお会いできて光栄です」

 

 老人の一人は慇懃な口上を述べた。その様子が様になっているのが嫌になると護堂は内心不満を漏らした。

 

 「初めまして、俺の名前は草薙護堂と言います。確かに普通とは言い難い存在かもしれませんけど、少なくとも貴方達に恭しくされる様な存在ではないと思うのでそういうのはやめてもらえませんか」

 

 護堂は腰を低くして苦言をていするがそれを受けて老人は軽くほほ笑んだ。

 

 「御冗談を。貴方様の流暢なイタリア語は千の言語という秘儀によりもたらされたものでしょう。それだけでも証拠としては十分です。しかし、我々の聞いていなかった余計な人間がこの場に居ることには驚かされました。そこに居る少女は誰ですか。」

 

 老人は目を細くして問いかけた。この言葉を聞いて静香は「またか」という感想を持った。昨夜エリカさんに穏便な手段でわからせたというのに、また説明しなければならないのかと。隣に居る兄がエリカさんに向かってにらみを利かせているが、それは意味の無いことだ。

 

 そもそも口頭でカンピオーネだと言っても相手は簡単に信じたりなどしないだろう。実際問題だから兄がこうして決闘ごっこをさせられているのだ。予めあれやこれやというよりも、説明をカンピオーネである私自身に話丸投げした方が簡単だという腹積もりだろう。

 

 実際その方が効率がいいのは事実だが、神殺しの魔王相手にいい度胸だと思うところもある。形だけでも説明しておけば後で言い訳が効くというのにそれすらもしないのだから。

 

 「答えを知りたいのであれば、私が直接あなたたちにわからせることもできますけど、それでは芸がないでしょう。なので私とお兄ちゃんが決闘してその耳目に焼き付けさせてあげます。いいよね、お兄ちゃん」

 

 「わかった。ただし、あまり無茶をするなよ」

 

 兄は言われた時一瞬顔色を悪くしたが、直ぐにまんざらでもないと言った風情になった。兄自身も自らの権能を人間相手に使用するのに躊躇していたのだろう。元来権能は同じ神殺しやまつろわぬ神相手に使用するものだ。それを魔術師あいてとはいえ只の人間相手に使用すること自体間違っている。

 

 以前中国で会った神殺しの弟子をしているという少年が言っていたが、神殺しという生き物は鶏の首をはねるのに牛刀どころか核弾頭ミサイルさえ使ってくるような生き物だという。私もこの意見に激しく賛成する。正直言って権能というものは火力過剰すぎて只の人間に対しては余りにも使いにくい。

 

 使うなら神殺し(同族)に使うのが一番だ。

 

 【閑話休題】

 

 始まりは咆哮と日輪とともに来た。

 

 「猪は汝を粉砕する!猪は汝を蹂躙する!」

 

 「大空に在りて地を照らす我が化身よ その輝きをわが身に宿せ」

 

 護堂が呼び出したのはすべてをその鋭き牙とつめによって全てを粉砕すると言われるミスラの化身でもある猪を模した神獣。

 

 それに対して静香が呼び出したのは天地にまたがる幾多にも及ぶ職能を持つ火神の化身のうち大空の化身である日輪の炎。

 

 方や全てを粉砕する破壊の化身。方やすべてを焼き尽くす陽炎。ぶつかり合った結果は双方ともに相討ち。猪の神獣は焼き尽くされ、静香の体に宿った日輪の輝きは瞬く間に消えていった。

 

 しかし、見ている方はいきなり訪れた暗闇とその後もたらされた日輪の閃光によって目がやられ満足に見れていたのは、予め護堂から説明を受けていたエリカだけだった.

 

  昨夜、レストランでの打ち合わせを終えた後、護堂から静香の権能について幾つか説明があったのだ。護堂自身静香の権能について知っていることはそう多くないが、確実なものを三つ聞かされていた。

 

 一つ目は周りを暗闇にすることによって太陽の炎を操る権能

 

 二つ目は空に在る雲を吸収して稲妻を操る権能。

 

 三つ目は著しく体力を消耗する代わりに霊視を得る権能。

 

 この三つ以外は本人が話したがらないし、使用するところを直截見たことがないという。

 

 だからこそ視界が暗闇で染まった時咄嗟に視界を閉じ、視力が潰されること防いだのだ。そしてエリカ自身静香の権能がどういうものなのかについて見当がついていた。恐らくあれは米国の王ジョン・プルートー・スミスの権能と同質のものだ。何かしらを(にえ)にすることによって複数の権能を行使することができるものなのだろう。その分護堂と同じように力技に固執することはできず知略と機転が要求される権能だ。

 

 ふと思考の海に浸っていると静香の言霊が聞こえてきた。どうやら先程とは逆に今度は静香の方から仕掛けるようだ。

 

 「我即ち全ての生きとし生ける者たちに命火(めいか)を灯すものなり 故に我が身は強壮にして頑健なり」

 

 「全ての敵と敵意をもつ者たちよ 我を恐れよ 」

 

 二人の言霊が響き合った。護堂が使ったのはエリカもよく知っている雄牛の権能だが静香の権能は護堂からも聞かされていない物だった。っと、そこで思考が途切れた。視界が揺らいだことを最初に感じた。次に身体重に疲労感や倦怠感が襲い、頭が朦朧としてくる。ふと隣を見ると一緒に見ていた総帥たちも膝をつき、一人は完全に地面に突っ伏していた。その状態に異常を感じ周辺を見渡すと、周りの草木の全てが枯れ果て、鳥や獣、蟲の死骸が散らばっていた。そういったものたちも二人のカンピオーネに近いものから腐り土に帰っていく。

 

 もしこれが権能によるものだとしたら恐らく静香の権能によるものだろう。彼女の権能がJ・P・Sのものと同じ分類(カテゴリー)に入るものだという証明にもなる。

 

 しかし恐ろしい権能だ。

 

 使用するのに周囲に存在する生物の命の無差別に奪い贄とするのだから危険極まりない。静香が今まで使用しなかったというのも頷ける。恐らく私たち魔術師の様に魔術や魔力に対する耐性の強い人間は耐えられるが、一般人はまず間違いなく即死だろう。最悪多数の人間が居る町中などで使えば一気に死人の町の出来上がりだ。最も助かったのはあくまでも死をもたらすというものがあくまでも権能の副次的なものであるという点だろう。カンピオーネの権能の中にはヴォバン侯爵の権能の様にどんな存在であろうと問答無用で死をもたらすものもある。

 

 静香の権能はあくまでも自らの肉体を強化することが主な目的で、死をもたらすのはあくまでも権能を使用する際に発生する副産物(おまけ)の様なものだ。だからこそ私たちはからに不調を感じる程度で済んでいるのだろう。魔術への抵抗力がある程度高ければある程度は無効化できるのだから妖精博士(フェアリードクター)がつかう【幸運の加護】の様な魔術無効化手段に類するものが有れば確実に打ち消すことは可能だろう。

 

 

 結局戦いの決着はわからなかった。気づいたらローマ郊外に在るホテルで目を覚ました。途中で気を失ったということが理解できた。

 

 その後結社の人間を呼んで自分たちを運ばせたという話を護堂と静香から聞いたが、ついぞ決闘の勝敗はわからなかった。

 

 そして、天変地異に襲われたかのように抉られ、焼かれ、壊され、原形をとどめていない元遺跡が戦いの痕跡を雄弁に語るのだった

 

 

 

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