少しの欠点も見せない人間は、馬鹿か偽善者である。 byジュベール
イタリアのローマに存在する国際空港そこに草薙兄弟はいた。
「すごいですね。イタリアどころか世界中の一面や二面に謎の大量死事件に関する内容が載ってますよ。特にイタリアを含めた
すぐそばに居るアリアンナさんの驚愕と喜悦の混ざった感想に静香は顔をしかめた。何せ自分自身一度も使ったことのない権能、より正確言えば完全に掌握できた形で初めて使用した(中国にいる年の離れた親友相手になら不完全な形で一度使用したことがあるが)権能が大量虐殺を行ったのだから気分が良いわけがない。
兄との闘いの中で完全に掌握することに成功した件の権能だがどうやら周囲に居る生物の命を無差別に吸収することによって初めて使用できる権能のようだ。自分の使用するこの権能はすべて何らかを破壊・消費することによって使用できるようになる。
何を犠牲にするかはそれぞれ異なるが自分が掌握できているのは7つ。最後の一つが何なのかはわからない。しかし、断定できることがある。私の権能は危険度の高いものほど掌握に時間がかかる。
今回は前回の死の大地被害よりも酷い人畜問わない大量虐殺被害だ。次がどんな被害になるか想像するのも嫌になってくる。
「呼び出した私が言うのもなんだけど、あなたたち兄妹って本当にはた迷惑な存在なのね。護堂が後先考えず何でも破壊して回る
エリカは顔色を悪くして愚痴染みた台詞を呟いた。彼女は静香の権能の影響を受けたせいで未だに倦怠感が身体から取れない状況なのだ。
その様子を見て護堂は妹の権能がどれだけ危険なものなのかを再認識した。エリカの体の頑丈さは彼自身よく理解しているものだった。なにせまつろわぬ神の権能の余波をくらっても立ち上がれるほどタフなのだ。なのに一晩経ってもダメージが抜けないというのは自分にとっても予想外だった。
ニ度と使わせないようにしようと決心した。
「では護堂、静香さん。今回私が護堂を呼び出した本題に移りましょう。これを見て頂戴」
エリカは倦怠感が漂うからだとは思えないほど優雅な仕草で二人に小さな石を差し出した。
もともと魔術的な素養が存在しない護堂と静香ではその石の詳細は如何として理解できない物だった。しかし二人は神殺しとしての直感からこの石から自分たちの仇敵の気配を感じ取った。
「おい、エリカ。これ明らかに普通の石じゃないよな。よくわからないけど」
護堂はハッキリとこれが神に関わるものであることは認識できなかった。しかし、自らがメルカルトと早退したときに感じた緊張感を肌で感じた。故に顔を強張らせ、エリカに問いかけた。
「詳しいことを知りたいのなら、静香さんに聞いたらどう?。彼女は擬似的な霊視を可能にする権能を保持しているのでしょう。私は生憎とそのたぐいの便利なものは持っていないの。視覚や聴覚を拡張する類の魔術なら会得してるけど、普通の人間ではわからない情報を幻視する類の能力は才能や技術より、血統に依存する類のものだからね。知りたいならより詳しい内容を得られる方を選択するのが賢明でなくて?」
エリカは護堂の問いかけに微笑で返答した。彼女自身これの詳細について説明するのはやぶさかではない。しかし、隣に居る静香が気に入らないのだ。正直言って愛する護堂と久しぶりに会うことができると思っていたのに、それに勝手についてきたばかりかニ度も酷い目にあわされた。元来自分はそういったトラブルを楽しむ側の人間だが、自分の逢瀬を台無しにしてくれたことには苛立ちを持っていた。
しかし、かと言って彼女を嫌っているわけではないし、何より私情でカンピオーネに喧嘩を売るほどもの好きではない。これは一種の意趣返しだ。どうせ彼女が何を言おうと情報は即座に提示するつもりだし、いざというときは護堂が止めに入るだろう。
「私の権能はあまり不用意に使うことはできないんですよ。何せ使うたびに何かを焚きつけにして使用する類のものですから、乱用しようものなら周りの影響が怖いです。
まあそういうのを気にしなくてもいいというならそれでも構いませんけど」
静香がにやりと一瞬笑っところをエリカは見逃さなかった。この少女は享楽的な性格をしていることにエリカは気付いていた。
エリカと静香の会話を聞いていた護堂はため息をついて会話に割り込んだ。
「エリカそれ位にしろ…。静香は俺に似て相手が何かしてこない限り何もしない専守防衛的な考えを持っているが、逆にいえば相手が喧嘩を売ってきて黙っている程お人好しじゃない。
お前だって本気で話したくないわけじゃないんだろ。いい加減にしないと静香が怒りだすぞ」
護堂は自らの親友に対して呆れが混じった口調で言葉を投げかけた。護堂は常々エリカにはトラブルを好み、時には喜んで首を突っ込み、時には自ら引き起こす悪癖があると考えていた。
しかし、今回は相手が悪かった。それは喧嘩を売る相手としてではない。喧嘩を売っていいか判断する相手としてだ。
静香は兄妹なのだから当然だが自分とよく似ている。神殺しなんて明らかに非常識な存在になるまで自分のことを人間として普通の範囲に入る存在だと思っていたことは勿論のこと、基本的に戦いや争いを好まないスタンスもそうだ。
故によく誤解される。温和な人間、冷静な人間、常識的な人間といった風に。故に畏れない・恐れない人間が多い。だが争いを好まないからといって、実際にそうなったとき危険でなないという訳では決してない。むしろ闘争に発展した際の被害の値は自分より高いだろう。
その程度のことが理解できないほどエリカも人を見る目が無いわけではない。だがエリカ自身自分と静香を同じ類の存在だと誤解していた節がある。確かに静香は自分と似ている部分が多々ある。だからこそ誤解される。草薙静香は常識を重んじるだけで、それを守る能力が高いわけではない。
人を愛する人間がその人間を大事にできるとは限らないのと同じように、静香は常識や良識を重んじても、それを守る能力は少なくとも自分より低い。
草薙護堂という前例を知っているだけに、エリカは静香がその前例と同等のものだと誤認してしまった。それが彼女のミスだ。
「……ごめんなさい。悪ふざけが過ぎたわ。その石は貴方達が予測していた通り神具に類する者よ。しかも地母神の系譜に連なる神格の力を宿した不朽不滅の神具。だから例えカンピオーネの権能でも破壊することはできないわ。だからこそ神殺しの魔王に託すしかないの」
エリカの言葉を聞いて静香は「おおむね予想通りですね。」と頷いた。
「予想どおりって、静香お前この怪しい道具のことがわかっていたのか」
護堂は静香の感想に驚きを覚え問いかけた。静香は神殺しになった経緯は自分と違うが生まれと育ちは自分と変わらない一般家庭の出だ。
故に自分の妹が権能に頼らず予測ができていたのに驚かされたのだ。
その後堂の様子に静香は重苦しく頭を振った
「お兄ちゃんそろそろ自分が羅節王になったて言う自覚を持ちなよ。そうでなくともうちのお爺ちゃんは民俗学者なんだから基礎的な知識ぐらいもちなよ。
まずこの石に描かれているのは髪が蛇の女性。蛇が出てくる時点で大地に関わりのあるものだと判るよね。その上で髪が蛇の女性、そしてここは|欧州だよ。ほぼ間違いなくゴルゴン・メデュサに関わりのあるものだよね。
大地のゆかりのある神格は不死性や不滅といった特性をもつものが多いのは、皆さんも知ってますよね」
静香の問いかけにエリカを含むイタリアの魔術師たちは静かにうなずいた。
「ええその通りです。元来神話が形作られた太古の時代の人間はあらゆるものに不死性を見出してきました。沈みてはまた浮かび幾度となく甦ることから太陽を不死の象徴ともしました。月はそれに加え欠けては満ちる月齢らも不死性を見出しました」
紫貴婦人の若き総帥である青年は前置きを置いた。
「それと同じくらい不死の象徴とされたのはやはり、大地と武具よね。大地神、特に『蛇』と呼ばれる地母神や、その『蛇』を陥れる『鋼』と呼ばれる多くの神々は不死性が語られることが多いわ。
護堂が戦ったサルバトーレ卿の権能、『
エリカは微笑を浮かべ軽やかに語った。
その様子に護堂は嘆息した。それは少し前まで一般人の世界に住んでいた静香がここまで、魔術師たちの世界に浸かっていることに驚きと嘆きを感じたことから出たものだ。
「よーくわかった。わかったから静香、この話はここまでにしないか。正直言って理解できないわけじゃないんだが、嫌気がさしてきた」
護堂は手を前に掲げてストップをかけた。正直言って今の自分には毒気が強すぎる。これ以上は精神衛生上あまり聞きたくないし、理解はできても頭の整理が追い付かない
静香はそんな兄の様子に呆れた様子を見せた。
「お兄ちゃんって順応力は私以上に持っているはずなのに、なんでこっち方面には適応し難いんだろ」
「仕方ないわよ静香さん。護堂は必死に抵抗したいのよ。自分がカンピオーネになって此方側の人間になったという現実に」
険悪な空気を纏っていたはずの少女二人は静香に相槌を打つのだった
遅くなって申し訳ありません