草薙兄妹の神殺し物語   作:堕ちた人間

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お久しぶりです。次話投稿させていただきます。


二人の神殺し 第五話

 そこは東京都・文京区に存在する社とは思えないほどに人気がなかった。それは単純に時間帯や立地の問題というより、何者かに隠されているように感じられるものだった。

 

 その社の名は七雄神社。普通に生活する分には名前を聞くことさえない、ごくごく普通の社だ。しかし、この国の呪術に携わる立場からは重要な立ち位置になる社だ。

 

 その社の一角の部屋である少女が物憂げな表情をしていた。

 

 「嫌な予感がするわ。なにも無ければ良いのだけれど」

 

 少女の名前は万里谷祐理。彼女の今日の気分はすこぶる悪い。昨日家への帰途の途中には黒猫が横切り、今日ここへ来る途中には靴紐が切れ、しまいには今髪をすいていたら櫛が折れた。

 

 それにどうも嫌な胸騒ぎがしてならないのだ。これは丁度幼いころ味わったあの感覚に似ている。という、考えを巡らせてそれを停止させた。縁起でもないし、何より思い出したくない。そう思えたからだ。

 

 「少しよろしいですかなお譲さん。顔色を悪くしているところ悪いのですが」

 

 

考えを巡らせていた彼女に声をかけてきたものが居た。声をかけてきたこと自体には驚かなかった。しかし、大して大きくも無い声がよく聞こえる距離まで近づいてきたのに物音一つしなかったことには驚いた。

 

 何せ彼女が今いる場所は玉砂利の上だ。こんな近くまで近づいてくるのなら玉砂利を踏む音が当然するはずなのに、それが無い。気配を消して近づいてきたということだろう。

 

 忍び足(スニーキング)や暗歩、無音移動(サイレントムーブ)といった呼ばれ方をするこの手の技術は程度の差はあれど、少し練習すればその辺の子供にも使えるようになるくらい有り触れたものだ。

 

 しかし、その分練度の差が顕著に出るものでもある。自分にはその手の心得は無いがそれでもその道の人間のものだと否応なしに理解させられるほどこの人物のものは練達したものだった。

 

 「私の名前は甘粕と申します。姫巫女である貴方様にお願いしなけれないけないことがあり、参上つかまつった次第です」

 

 その男は元々道化じみた空気をまとっていたが、仰々しい喋り方をしたので祐理は余計道化の様だと感じた。

 

 しかし、そのことより祐理の目を引いたのは彼が話すのと同時に差し出した名刺だった。

 

 「は、はい。ご用件は理解できます。しかし、正史編纂委員会の方が私に何の御用ですか。失礼ながら私にはあなたか普通の仕事をしている方には思えません。それこそ陰惨な類の仕事がご専門では?」

 

 人はよく感情を隠すために表情を消そうとするがそれはかえって逆効果だ。人間は必ず何かしら表情を持っている。例え表情に乏しい人でも全く表情がないなどあり得ない。表情を無理に消そうとするとかえって怪しく見えてしまう。

 

 感情を隠すのであれば隠すより偽った方がよほど容易だし、効果的だ。これは人間がまとう空気にも言えることだ。

 

 祐理にはこの青年が自分の異質な空気を隠すために、こんなわざとらしい芝居じみたふるまいをしているように見えてならない。

 

 「いやはや、やはりお分かりになってしまいますか。ご慧眼感服いたします。さて、無駄話が過ぎましたね。本題に移りましょう。実はこの日の本に危機が迫っているのですよ。それの対処にご協力願いたくて貴方様をお伺いした次第です」

 

 青年はいくつもの感情が入り混じった複雑な表情で、自分たちが頭を委託している事柄について詳細に語って見せた。

 

 その顔と口振りには本当は信じたくない、あってほしくないという青年の願望が垣間見えた。内容を子細漏らさず聞きとっていた祐理自身も現実のことだと思いたくなくなったのだからそれは当然だろう。

 

 祐理は静かにため息をついて、空を見上げた。過去の追憶を頭に浮かべながら。

 

 【閑話休題】

 

 「お兄ちゃんわかっているとは思うけど下手な事は云わないでよ。相手方は私たちの様子見をしに来た様なものなんだから。

 

 とりあえず私が返答をするから。お兄ちゃんはできるだけしゃべらないようにして」

 

 「わかっってるよ。そうしておく。こういう交渉の類はお前の方が適任だからな」

 

 今日も今日とて妹に尻を敷かれるかの様に頷く草薙護堂。彼が妹とこんな会話をする理由を説明するためには時間を昨日の夕暮れ時に巻き戻す必要がある。

 

 その時は丁度草薙護堂が学校から帰宅した時だった。突然ロクに会ったことも無い隣のクラスの美少女からお呼びの電話がかかってきたのだ。

 

 だというのに何故か彼の女性関係に口うるさい妹がやけに神妙な顔をしていたので、おかしな電話がかかってきたという疑問を一旦横に置くことにした。

 

 静かに訳を聞くとその少女はどうやら呪術や魔術といった界隈に身を置く人間らしいのこと。何故そんなことを知っているかということは聞かないでおいた。なにせ常々自分に神殺しとしての自覚を持てと口うるさく語る静香のことだから、調べておいたのだろうと自己完結した。

 

 静香いわく来るべくしてきたことだと語っていた。その理由があまりにも今更な事で「なんだ」と思わず口にしてしまったが、確かに日本に限定すればまだだったと思いなおし、こうして指定された社に向かって歩を進めることにしたのだった。

 

 「しかし、その万里谷って子、巫女だって話だよな。俺たちのことを見抜く力でも持ってるのかな。静香の権能みたいなやつ」

 

 「お兄ちゃん順番が逆だよ。本来私の力は霊視等に属する第六巻を強化することが本質なんだから。そういう見抜く力が在るから、私の力が存在するのであって逆はあり得ないよ。実際私の権能全く素質の無い人間に使っても効果は欠片も無いことがわかってるから。

 

持っているかどうかという話なら間違いなくYESだとおもうよ。だってわざわざ私たちに当てる人材なんだからそのまんまじゃなくても類似したものは持っていると思うよ。でも、だとしたら今から行く場所に居るのは万理谷さん一人じゃない可能性が高いね」

 

 「なんで予想できるんだ?」

 

 

 静香の口ぶりに確信めいたものを感じた護堂は疑問を口にした。普通に考えてこれが本当に静香の言うとおり様子見の様なものならばで、きるだけ人数を絞ってカンピオーネの被害の対象になる人間を減らそうと考えるのではないか。

 

 「静香だって気づいてるだろ。指定された場所に近づけば近づくほど、人気が少なくなってる。人為的なものであることは明白だ」

 

 静香は感心したとばかりに「へ~~」と声を上げた。

 

 「お兄ちゃんも少しは周りのことに目敏くなったんだね。感心したよ。

 

 けどお兄ちゃんは踏み込みが甘いね。そもそも、神殺しの魔王と接触するんだから、騒動が起きた時の対策よりも騒動を未然に防ぐことの方が重要だよ。ましてや相手がどんなタイプなのか判らないんだから尚更だよ。

 

 お兄ちゃんは最初に在った自分の同類が所謂馬鹿という言葉を贈るにふさわしい人だったから話が通じないのが当たり前だと思っているけど私たちがそもそもそれに該当しない例外なんだし、私たち以外にも交渉の類に応じる羅刹王は存在するんだよ」

 

 静香は自分の兄の読みの甘さに呆れながらしゃべっていた。しかし、その会話が続くことは無かった。

 

 「その通りです。現在いらっしゃる神殺しのお方の内、J・P・S(ジョン・プルートー・スミス)様やアレクサンドル・ガスコイン様などは比較的穏やかな気性で知性的な方々と存じています。」

 

 二人の目の前に居た少女がそう語りかけてきた。

 

 

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