草薙兄妹の神殺し物語   作:堕ちた人間

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久しぶりに投稿させていただきます。よかったらお読みください


二人の神殺し 第六話

 そこは今緊張感に包まれていた。片や生真面目そうな風貌で巫女の衣装を纏った少女、万里谷祐理。

 

 片や泰然とした風体でその少女を見つめる草薙兄妹。

 

 この二組の間には明確な力の差がある。両方の緊張感の差を見れば歴然だった。

 

 「初めまして、私の名前は草薙静香と言います。貴方がたが私たちと接触をとることは大体察しがついていました。

 

 なのではっきり言わせてもらいますけど、私たちは貴方がたと手を組むつもりはありません。少なくとも今のところは」

 

 静香は淡々と宣言を相手に突きつけた。

 

 それに対して突きつけられた側の祐理はビクッと身体を震わせた以外は反応はその瞬間は無かった。しかしそのあと数秒間だけ思案にふけった様子を見せ、再び静香たちに向き直った。

 

 その様子には恐れはあれど屈する様は感じられなかった。

 

 「勿論神殺しの御方がいきなり参じた輩を信用なされるとは我々も考えてはおりません。

 

 しかし、我が国に厄災の種が持ち込まれたというのであればそれを放置するという訳にはいかないという、我々に与えられた役目をご理解いただきたくここに申し上げる次第でございます」

 

ユリの言葉にはへりくだる様はみて取れても、強い意志を誇示するものだった。

 

 「それはこれのことですか」

 

 静香は顔に軽い笑みを浮かべて懐から一つの石を取り出した。

 

 それの名前は【ゴルゴネイオン】神の叡智が刻み込まれた魔道書(グリモワール)。そして大地の女神へと導く不朽不滅の神具。

 

 それを見せると万里谷祐理は目に見えて顔色が悪くなった。その顔にはあってほしくない話が現実となったという様が見て取れた。

 

 「如何様なお考えが在ってそのような危険な代物をこの国に持ち込まれたのか、お聞かせ願ってもよろしいでしょうか」

 

 口調が一気に荒くなったのを草薙兄妹は感じた。しかし、反応に関しては似通ったものにはならなかった。

 

 護堂は嫌そうなというか疲労感がにじみ出るような表情で溜め息をついた。

 

 それに対し静香もまた呆れたと言った様子で冷ややかな視線を向けた。

 

 「それじゃ如何すればよかったんですか。それを聞かせてもらってもいいですか。

 

 そしてその前に前提条件として言わせてもらいますけど、放置は論外ですよ。

 

 そのことについてはそこでこそこそと隠れている人の方がわかると思いますけど。」

 

 静香は視線を社の影の暗闇に向けた。

 

 するとそこから青年が一人出てきた。くたびれたスーツをまとった切れ長の目の男だ。全体的に覇気の薄い空気をまとっているが身のこなしに不自然な無駄が在る。

 

 まるで、とってつけたかのような雑音を立てているのだ。

 

 「いやはや、お気づきでしたか。それは失礼をいたしました。羅刹の君のなかなかの御慧眼恐れ入ります。

 私の名前は甘粕冬馬と申します。以後お見知りおきを」

 

 「胡散臭い」。それが社の暗影の中から出てきた青年、甘粕冬馬に静香が持った素直な感想だった。

 

 全体的に芝居じみた不自然さがにじみ出ていて、頭が痛くなってくる気分だった。正直言って最近会ってきたこの手の人間に同じような気質の人間があまりにも多くて食傷気味なのだ。

 

 別にこういった人間が嫌いなわけでもないし、関係者全員がそうなわけではないことはわかっている。しかし、余りにも最近あったこういった手合いが多いので嫌気がさしてきたのだ。

 

 「貴方の口から説明してもらってもいいですか。貴方がこの人のお目付け役なんですよね」

 

 「ええ勿論その様にさせていただきます。まず祐理さん、貴方はその御方が神具を国内に持ち込んだ理由についてお聞きになりましたよね。

 

 そしてその行動がこの日本に厄歳を持ちこむものであり、自分たちのことを省みない行動で、憤りを覚えている。

 

 それでよろしいですね」

 

甘粕の口ぶりは決して強いものではなかった。しかし、得も知れぬ圧力を感じて祐理は知らず知らずのうちに顔をしかめた。

 

 しかし、それでも「その通りです」と気丈に返事を返したのは祐梨にも多少でも意地が有ったが故だろう。それでも会った時から緊張で震えていた手腕が一層震えが増していることに草薙兄妹は気付いて苦笑を洩らした。

 

 そんな祐理の様子を見ていたもう一方の甘粕は、「困りましたね、いやはや」と思わず愚痴をこぼした。

 

 「良いですか祐理さん。貴方が仰ていることはとても理不尽な事なんですよ。それをご自覚された方がよろしい思います。」

 

 甘粕は苦言とていした。その様子はさしずめ自分の主君の横暴に困り果てる臣下の様でもあった。

 

 その言葉に祐理は顔を強張らせた。納得できないと言った風情だった。しかし、それでも直ぐに感情的になって反発したりはしなかった。

 

 そんな様子に半端に自制心や良識のある人間は損をするものだと、静香はしみじみ感じた。

 

 此処で声をあげられれば楽になれたのに、常識や理性というものが邪魔をする。小利口な人間は一見得したように見えても、所詮その程度の人間だと侮られるだけだ。

 

 自らの感情を抑制しようとするならその感情の存在自体も悟られないようにしなければ、頭が回るだけの小物だとみくびられる。

 

 だから自分は小利口になどなりたくないと常々静香は考えている。そういう意味では期待外れだと言えるだろう、正史編纂委員会という組織は。

 

 「放置することを選択した場合、私たちを一方的に擁護したことになるからですか」

 

 祐理は絞り出すような声で確認の言葉をあげた。

 

 その様子から努力は感じられる。しかし、失望感は否めない。普段の万里谷祐理を知っているからこそ尚更、この程度かという感覚が抜けない。

 

 「その通りです。まず大前提として私たちが神具(ゴルゴネイオン)のことを知ったのはイタリアに到着した後です。その時点ですでに当事者であり見て見ぬふりをするという選択肢はありません。

 

 そしてここで勿論放置するという選択肢もありました。しかし、その場合欧州(ヨーロッパ)の人間を蔑ろにしたことになります」

 

 静香は淡々と言葉を並べるその口調には起伏はあっても感情は介在しない。それは彼女にとって当たり前のことだからだ。故にそこに感情を含ませる余地は存在しない。

 

「かといってその場で対処するという選択肢もありませんね。神殺しとまつろわぬ神の決戦となれば大きな被害が出る。

 

 伊国の方々はそれが避けたいからこそ、貴方がたを招聘したのですから。どれだけ被害を出してもいいというならヴォバン侯爵様当りを招聘して戦っていただければいいのですから、その場で戦ったのでは問題の解決になっていません。

 

 伊国の方々の懇願(オーダー)は「持ち帰って(・・・・・)対処していただきたい」でしょうか?。」

 

 甘粕は薄ら笑いを浮かべていた。甘粕からすればそれ位予想の範囲内だ。

 

 自国にどれだけ被害を出してもいいならそもそもの話、存在自体別の災厄の種になりかねないカンピオーネを呼ばないという選択肢も存在するのだから、持ち帰らないのでは意味がない。

 

 しかし祐理からしたらそれでも不服らしくなりふり構わず声を上げた。

 

 「つまりそれは自らの故郷の安全より伊国の安全を優先したということでしょうか」

 

 「当たり前じゃないですか。どんな連中が居るか判らない場所よりも先に縁を結んでいた場所を優先するなんて。私たちは菩薩や博愛主義者じゃないんですから優先順位なんてつけて当然です。

 

 それとも万里谷さんは羅刹王に愛国心なんて期待しているわけじゃないですよね。そんな殊勝な考えを持っているんだったらカンピオーネなんて呼ばれて恐れられたりなんてしませんよ」

 

 その言い様には確信めいたものを祐理は感じた。そしてそれと同時に愕然とした。

 

 祐理自身カンピオーネという存在のことはよく理解していたつもりだった。しかし、それでも無意識的に常識というものに縛られていたことに気付いたからだ。

 

 それが自らの育ちの良さから来るものだとということにも気付いた。

 

 自分の良識や秩序というものを重んじる性格がカンピオーネがどれだけ規格外な存在かを聞かされていても、どこか常識の枠組みで見ていたことに気付いたのだ。

 

 確かに国や(たみ)がどうこうといった考えで動く人間なら災厄の化身といった呼ばれ方をするはずがない。それに相手に自分たちへの善意を強要するなど無礼にも程が在る。

 

 善意とはそれを振るう側が自発的に持つからこそ成立するものであって、される側の人間が望むことではない。やってしまえばそれはゆすりやタカリと同質の恥ずべき行為だ。それに今気付かされた。

 

 「誠に申し訳ありませんでした。私の早計で御無礼をしてしまいどうかご容赦いただきたく思います」

 

 祐理はお嬢様らしい慇懃な礼をした。しかし、その様子にはまだ不服であると言った風情に取れてならなかった。

 

 そのことは兄も気づいていた様で今度は兄から話し出した。

 

 「万里谷の言いたいことはそれだけかな?。それとその礼儀を払っているというより脅えている様にとれる口調やめてもらえると嬉しいな。

 

 そうしてくれるとこっちも話しやすいし」

 

 護堂はできるだけ相手に威圧感を与えないように落ち着いた口調で万里谷に話しかけた。

 

 それは護堂が彼女に敵意も悪意も存在しないという意思表示でもあった。

 

 「そうですね。慇懃な態度もある程度崩してもらって構いませんよ。礼節に反したものでないのなら私たちも気にしませんから」

 

 二人の言葉を聞いて祐理はまず驚きを示した。そして同時に得心もいった。

 

 彼らにとって自分はそこらに居る羽虫と同等なのだ。どれだけあがこうとも私たちは決して彼らを侵すことはできない。だから礼儀なんてものには気にも留めない。

 

 刃を向ければ殺し、壊せばいい。だからそれ以外のことは気にするまでも無い。

 

 と、祐理はなんとも的外れの様に思える感想を抱いていた。

 

 しかし、実際のところこれは意外と当たっていたりもする。何故ならこの時二人の神殺しはこんなことを考えていたからだ。

 

 【護堂】・「こんな女の子に畏まれてもやりにくいしな~」

 

 【静香】・「礼儀なんて払っても払わなくてもどうでもいいです。それより早く話を進めてください。一々話し方が迂遠でまどろっこしいんですよ」

 

 この二人表現の仕方はほぼ別物なのに、意訳すれば「面倒くさい」という点に収束する感想を抱いているあたり、実につながりというものを感じさせる兄弟である。

 

「では失礼されていただきます。私が申し上げたいのはお二人には事を起こさざるを得ないとしても、せめて人気のない周りへの被害の生じにくい場所で戦うという選択肢が有ったのではないかということです」

 

 祐理は何故この二人は態々人的・物的ともに被害が大きくなると予想される東京で事が起きるのを待っているのかと疑問に思っていた。この御二方がそこに頭が回らないとは祐理自身があり得ないと思った。

 

 しかし、その疑問に対する二人の反応は生ぬるい視線を伴ったものだった。

 

 護堂は「ハハハ…」という乾いた笑い声をあげ、静香は理解の悪い子供に勉強を教える母の様に思案顔を浮かべた。

 

 「え~とさ…、万里谷。言いたいことはわかるんだけど、なあ…」

 

 「うん…、お兄ちゃん」

 

 二人は何とも煮え切らない返答でどう返事したらいいか迷っている口調だった。その反応に祐理はいいえれぬ居心地の悪さを感じた。

 

 しかし、祐理が返答する前に護堂が口を開いた。

 

 「あのさー、万里谷。お前の言い分はわかった。でもそんなことしても意味の無いどころか、逆効果になる可能性が高い」

 

 「それは何故でしょうか」

 

 護堂は子供を諭すような和らげな口調で意見を口にした。それに対する祐理の疑問は代わりに静香が答えた。

 

 「祐理さん。まず基本的にまつろわぬ神とカンピオーネは同質の存在なんです。自己至上主義を地で行くとでも言えばいいんでしょうか。基本的に相手の都合を考えるという要素が欠落した存在なんです。

 

 そんな存在に相手の都合に合わせるという考えは存在しません。唯我独尊、自己中心的というべきまつろわぬ神にとって用のある存在というのは出向くものではありません。出向かせるものです。」

 

 静香は自信たっぷりに言い放った。その口ぶりに迷いめいたものは存在しなかった。

 

 その余りに確信めいた口ぶりに祐理は言葉を失い茫然とした。しかし、そこは気力で持ちこたえて会話を続行した。

 

 「まさか…、出向かせるというのは?」

 

 祐理の頭の中に広がったのは常識ではありえないはずの光景だった。しかし、だからこそ現実味があった。

 

 何故なら、カンピオーネもまつろわぬ神もまた常識の外にいる存在なのだから、この場ではこれが正常だ。

 

 「ええ恐らく大きなのろしを上げてくれると思いますよ。相手がどんな神格なのかにもよりますけど、町一つ供物にささげるぐらいは覚悟しておいた方が賢明です」

 

 「俺がメルカルトと戦った時なんて、なんてことも無いと言った風情で町一つ海に沈めようとしていたから、楽観視しない方がいい。

 

 むしろ神様が下手な考えを起こす前に対処に当たらないと余計な被害が増える可能性の方が高い」

 

 護堂や静香の言った言葉はまつろわぬ神に一定以上の造詣がなければできない予想だった。

 

 しかし、だからと言って祐理が勉強不足だという意味にはならない。元来媛巫女という職に与えられた役割(ロール)は文字通り巫女としてこの七雄神社の様な社を守護すること。なまじ関わるとしてもそれに適した人間がいる。

 

 そして祐理は生来の体の弱さと相まってそういったこととは殆ど関りを持たずに職務に従事してきた。故にまつろわぬ神の情報に精通している方がおかしいのだ。

 

 ましてやここ日本ではまつろわぬ神の存在などほぼ他人事で、対岸の火事の様なものだった。情報に関しても英国の賢人議会からのレポートを読んで間接的に知る程度で生の情報など当然手に入らない。

 

 そんな日本の魔術関係者に上等な対応を求めるということ自体筋違いだ。

 

 そしてそんな日本が用意した交渉役(生贄)が年若い世間知らずなお嬢様という点で考えていることが透けて見える。

 

 静香は先程から作り笑いを絶やおさない甘粕という青年に目を向けた

 

 恐らく本来の実務的な交渉役は此方の青年なのだろう。明らかにこの世慣れしていない少女は交渉向きではない。これは一種の美人局や接待係(ホステス)に近い。私たちのご機嫌とりのために呼び出した人間なのだろう。気の毒だとは一切思わないが。

 

 「ではお二人はどのような方策をお考えなのでしょうか。遺憾ながら私には理解しがたいようなので改めてお聞きしますが」

 

 話し方が先ほどより踏み込んだものに変わった。おそらく育ちのいいお嬢様にはこのあたりが限界なのだろう。

 

 しかしそれで私たちは悪感情を持ったりなどはしない。こちららから相手の懐に踏み込んだのにそれで相手が遠慮を見せなかったから反論するのは礼節に反するし、私もお兄ちゃんも実務的な話し合いをしに来たのだからこちらのほうが好都合だ。

 

 「それは要するに「果報は寝て待て」というやつなんじゃないかな。下手にあれこれ手を打って被害を悪化させる可能性を残すより、自然体で何事も起きていないようにしていたほうが隠す手間も省けるんじゃないかな」

 

 「ではそのように取り計らいましょう。どのみち長らくまつろわぬ神といった存在と縁遠かった、正確に言えば情報量が圧倒的に欠如している私たちの場合実際に自らの耳目で実感しているお二方に従ったほうが賢明のようです」

 

 今まで会話を祐理に任せきりにしていた甘粕という青年の言葉でその場で閉幕と相成った。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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