黒白の英雄譚   作:夜空 太陽(新アカ)

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二十三話 後悔と弟子

「はぁ、そんなこったろうと思ったよ」

 

俺は岩の影からリリルカを強いたげる声を聞いていた。

事は簡単だ。

リリルカは俺達に何かを仕掛けるつもりなのに気づいた俺は確実にリリルカと二人きりになれる場所を探した。

結果、リリルカを嵌めようとしていた男の一人であろうリリルカと揉めていた男を見つけその近くの岩に隠れていた。

男の仲間がリリルカを見つければ尾行し男が見つければそいつを追い払えば良い。

それでも、黙って傍観してるなんてベルに対する裏切りだ。

 

「んなこと始めっから分かってるよ」

 

それでも、リリルカはケジメを付けなきゃいけない。

それでも・・・。

それはきっと搾取や死ではない筈だ。

 

「・・・助けて」

 

リリルカの悲痛の叫びが洞窟型のダンジョンに虚しく消えていった。

 

「っ・・・!」

 

俺は無意識に岩の影から出ようとしていた。

俺は気づかずに歯を噛み締めていた。

 

「ああ、これは駄目だ」

 

ったく。

父さんのこと言えねぇな。

 

「おいおい、良い姿じゃねぇかリリルカ」

 

俺は岩の影から出てリリルカを嘲笑うように言った。

 

「シキ・・・様?」

 

「テメェは・・・ああ、こいつに騙された奴か。おい、お前もこいつをハメ殺そうぜ」

 

ソーマ・ファミリアの・・・なんだっけ?

リリルカがなんか言ってたような。

まあ、屑で十分か。

ソーマ・ファミリアの屑がそう下品な笑顔で言った。

嵌めるが違う意味に聞こえるんだが。

主に陥れるじゃなくて性的な意味で。

 

「ふーん。それも良いかもな」

 

俺はリリルカに近づく。

 

「だろ?一発目はお前に・・・「なんて言うと思ったのか?」え?」

 

俺は屑との距離を瞬時に詰めると右手の莫耶で屑の左腕を斬り飛ばした。

というか、やっぱりそっちの意味かよ。

 

「ぐあぁぁぁぁ!」

 

屑の苦痛から生じた叫びがダンジョンに響く。

 

「テ、テメェ何しやがる!」

 

「ほう、腕を飛ばされて直ぐに喋れるのか。流石に神の恩恵(ファルナ)を受けているのは伊達ではないようだな」

 

俺は感心したように苦痛に耐える屑を見下した。

 

「テメェ!」

 

「次は右腕をもらう」

 

ピタッと屑の動きが止まる。

 

「その次は左足、そのまた次は右足」

 

「何を・・・」

 

屑の顔が段々と青白くなっていく。

 

「最終的には首を貰う」

 

「テメェそんなことをしたら死刑・・・」

 

「ならねぇよ。一応パーティメンバーが襲われたんだ。正当防衛が成立する」

 

「ふざけんな!」

 

「お前の言い分なぞ知らん。こいつの罪は俺が決める。二度とこいつに近づくなよ?次にリリルカにちょっかいを掛けたり嘘をついたならば・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

命の保証はしない(殺すぞ)

 

屑は顔を青冷めさせ逃亡した。

厄介な置き土産を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、リリルカ」

 

「シキ様?何故此処に?」

 

「お前に聞きたいことがあったんだ」

 

「え?」

 

リリルカは恐らく自分の手で決着を着けたかったとでも思っていたのだろう。

 

「お前は後悔しているか?」

 

「え?」

 

「え、じゃねぇよ。あの屑に襲われたときベルを裏切ったことを後悔しているのかって聞いてるんだ」

 

リリルカの顔が陰る。

良く見るとリリルカは唇を噛み締めている。

すると、リリルカは決心した様に口を開いた。

 

「後悔・・・しています」

 

そのリリルカの声は辛そうだった。

 

「何故?」

 

「裏切ってしまったこと・・・そして、自分が裏切るという手段を取るくらい弱いことに・・・」

 

「強くなりたくはなかったのか?」

 

「成りたかったですよ!でも!」

 

「お前は強くなろうとしたのか・・・お前は努力したのか?」

 

俺はリリルカの叫びを遮るように言った。

 

「え?」

 

「毎日、得物を素振りするでも随分違う。そんなことを一つでもしたのか?」

 

リリルカの表情がさらに陰る。

 

「・・・してません」

 

「はぁ、どうせ小人族(パルゥム)だからって諦めてんだろ?」

 

「そうですよ・・・小人族は他の種族より弱い。人間族(ヒューマン)の劣化盤なんて言われています!」

 

「しかし、ロキ・ファミリアの勇者(ブレイバー)フィン・ディムナも小人族だぞ」

 

「あの方はファミリアに恵まれています!あんな巨大なファミリアなら強くなって当たり前です!」

 

「ふざけるな!フィン・ディムナが恩恵(ファルナ)を受けた時彼のファミリアは彼一人だったそうだ」

 

リリルカは開いた口が塞がらないといった様子だ。

 

「俺がお前を強くしてやる」

 

「え?」

 

俺はある短剣を投影する。

刀身はチンクエディアの様であり柄には宝玉が嵌め込まれておりこの世の言語ではないようなAZOTHという記号が書かれている。

 

「これは魔力を溜め込む短剣アゾット剣・・・を改造した物だ。改造したのは俺の父さんだ。本来なら溜め込んだ魔力を魔法を使うときに足しするだけだが。このアゾット剣は溜め込んだ魔力と己の意思で唯一度だけ望んだ魔法を発動させるものだ。まあ、強すぎる能力ゆえに意思が弱かったら発動しないけどな」

 

「これをリリに?」

 

「その代わりにお前は俺の弟子になるんだ」

 

「弟子?」

 

「ああ、俺は誰かを育てられるほど強くはない。けどな、俺はリリルカお前を強くするって約束してやる」

 

「リリは・・・」

 

俺は刀身を刃に触らないように持ちリリルカのギリギリ手が届く位置に柄を差し出した。

 

「強くなりたければこの剣を取って立ち上がれ」

 

リリルカは震えながら手を出してくる。

リリルカの目にはまだ怯えが残っている。

 

「大丈夫だ。俺がお前を強くしてやる」

 

「・・・はい!」

 

リリルカがしっかりとアゾット剣の柄を握った。

 

「さあ、弟子よ。最初の試練だ」

 

「はい?」

 

思いっきり忘れていたがあの屑が残した厄介な置き土産とは。

"死にかけ"のキラーアントだ。

キラーアントは死に貧すると仲間を呼ぶフェロモンを出す。

つまり、

 

「キラーアントの団体さんの御到着」

 

「ええ!?」

 

俺たちの周囲に十五を優に越えるキラーアントの群れが出来ていた。

 

 

 

 




ちなみにキラーアントさんは空気を読んで。
「行くか?」
「いや、待ってようや」
「せやな」
みたいなことをして待っていました。

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