俺と犬野郎は店の外へと出ていった。
「そういやぁ、テメェLv.1だったなぁハンデやろうか?」
「ああ、貰おうか」
「はっ!ハンデ貰わなきゃ勝てないのかよ!」
「え?何?Lv.5の貴方はLv.1の俺にハンデなしじゃないと勝てないと。そうなんだ。じゃあ・・・」
「わーったよ!ハンデは俺に手と足以外を地面に着けられたらテメェの勝ちだ」
「どーも」
「あと俺のツレが帰るまで付き合ってやるよ」
「え?ツレってアイズさん?残念、全く脈無しですよ?大丈夫?あんなセクハラしておいて何でツレ扱い出来るの?」
「ぐぬぬ」
「あれ?図星?うっわぁー恥ずかしー」
「クソが!」
俺に向かって狼野郎が拳打を打ち出してくる。
「カハァ!」
拳打と飛ばされ壁に当たったことで腹に溜まっていた空気が全て吐き出される。
速すぎる・・・これがLv.5!
「おいおい、もう終わりかよ!」
狼野郎がそう俺を煽る。
「・・・まだ・・・まだぁ!」
「っは!威勢だけは良いな!」
「言ってろ。直ぐにブッ飛ばしてやる」
「抜かせ!」
速さは分かった。
俺は拙いながらも拳打を手全体を使い受け流すように弾き狼野郎から受けるダメージを最小限にする。
しかし、Lv.5の冒険者の拳打の衝撃や風圧はLv.1の俺の手を傷つけるには十分だった。
薄皮が切れ血が出て皮膚が赤く染まる。
(速いし痛い・・・けど防げない訳じゃない!)
「おいおい、血が出てるじゃねぇかよ!雑魚は肌も弱いのかよ!」
「うるせぇよ!」
痛みと出血で手の感覚が無くなる。
手で足りないなら腕を使え。
両腕を鉄壁の盾にしろ!
「しゃらくせぇ!」
暫くは防いでいれたが腹にボディブローを一発入れられてしまう。
「ガハァ!」
俺は倒れ地に伏せ腹を押さえる。
「やっぱり雑魚は雑魚だな!これだからLv.1の雑魚は!」
脇腹が軋む。
「・・・かったのかよ」
身体を上げようとすると痛みが雷のように全身を駆け抜ける。
「んぁ?」
でも良い、痛みで気を失わないですむ。
「・・・じゃなかったのかよ」
まだ・・・戦える。
「なんだよ!」
「テメェも元はLv.1の雑魚じゃなかったのかよ! テメェは何の努力も無しに今の力を手に得たのかよ!」
「うるせぇ・・・うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!」
「図星かよ」
「雑魚がぁ!黙りやがれぇ!」
狼野郎は俺から距離を取った。
そのまま右腕を引きこちらに向かって突進してきた。
それを見た俺は即座に狼野郎に向かって前傾姿勢で駆け出す。
『馬鹿な!あいつ死ぬぞ!』
そんな声が聞こえた瞬間狼野郎は腕を繰り出した。
(頼む、今だけでいいんだ。動いてくれ!)
拳が繰り出された数瞬間前に俺は感覚の消えた両手を無理矢理地面に着いた。
「っっ!」
身体を捻り俺の左足が奴の右腕と頭の間に侵入し。
そのまま奴の顎に向かって蹴り抜かれた。
沈黙が立ち込める。
少しすると誰からともなくざわめき声が立ち初めた。
『おい、ベートさんが一撃入れられたぞ!』
狼野郎はクラクラと体が上手く操れなく倒れた。
「テメェ!何しやがった!」
「リヴェリア教えてやってくれ」
狼野郎がほざくと金髪の小人族の少年・・・いや、小人族はいつまでも見た目が幼いらしいらしいから分からないか。
あの人がロキ・ファミリアの団長か。
一応、団長さんって呼んでおくか。
「ああ」
リヴェリアと呼ばれた深緑を連想させるような髪をしたエルフの女性が表れた。
「生き物には等しく脳が存在する。これは知っているな?」
「馬鹿にすんじゃねぇ!んなことは知っている!何で俺が立てないのかを聞いてんだ!」
「顎は顔全体のバランスと直結している。頭全体つまりピンポイントで言うと脳を揺らされたことでお前は脳震盪を起こしたんだ。安心しろ意識障害も言語障害も起こしていない記憶喪失になる事もないだろう」
どんなに頑強な奴でも人型なら強く脳を揺らされれば全く動けなくなる。
『父さんが自分より強い相手と戦うときは覚えていろ』と教えてくれたことだ。
「ありがとうリヴェリア。ベート、君は彼にハンデを与えたとはいえ、雑魚と罵った相手に地に伏せられて負けたんだ。それに何も言わずに黙って聞いていたけど、自分達の落ち度で他の冒険者を危険に晒した上にそれを笑い話にするなんて・・・」
「ふざけるなよ」
その温厚そうな少年のような見た目からは想像ができないような凍てつくような声がその場に居た奴等ほぼ全員を戦慄させた。
『お、おい団長があそこまで怒るのは初めてじゃないか』
『あ、ああ十年以上このファミリアにいるけど団長のあんな冷てぇ声は初めてだ』
『アイズさんが独断専行したときも諭すように叱っていただけだったな』
『ああ、今の団長は叱るって言うより』
『完全にキレている!』
「ちっ!悪かったな!」
「さて」
団長さんが俺の方に振り向いた。
「君はさっき言っていた少年のなんだい?」
「仲間。そして一番の親友です」
「そうか」
そう言って団長さんは俺に微笑むと。
「すまなかった」
俺に向かって頭を下げた。
「え?」
「家のファミリアの団員のせいで君の親友を危険な目に遭わせた。本当に申し訳なかった」
「え、いやいや!あの狼野郎が謝るならまだしも団長さんが謝る必要なんて!だから頭を上げてください!」
「いや、団員の不祥事は団長の僕の不祥事だ。だから謝らせてくれ」
「はぁ、分かりました。では狼野郎に一言だけ言わせてください」
「分かったベートを連れてきてくれ」
団長さんは頭を上げてそう言うと。
狼野郎はファミリアの奴に肩を担がれながらは俺の目の前にやって来た。
「んだよ」
「お前は幸せ者だな」
「は?」
「いい団長さんじゃねぇか」
「はぁ?当たり前だろ。俺等の・・・団長なんだからよ」
狼野郎は恥ずかしげに、しかし少し誇らしげにそう言った。
「でもよ」
「んぁ?」
「今、その団長さんに頭を下げさせてんのはお前だ。その事の意味をよく考えろよ」
「それは・・・」
「団長さんに謝れ。そして、お前が馬鹿にした奴が成長していたらちゃんと謝ってくれ」
「ああ、強くなってたら考えてやるよ」
狼野郎の顔はベルを馬鹿にしていた頃のふざけた顔を消えていた。
団長さんに申し訳ないと言わんばかりの表情をしていた。
狼野郎は自分の気持ちを伝えるのが恥ずかしいのか頬を軽く掻いていた。
「フィン、あれだ・・・悪かったな」
「ああ、もう大丈夫みたいだね」
「ああ」
「君が馬鹿にした子が成長していたらちゃんと謝るんだよ?」
「強くなってたら考えてやるよ」
「さて、帰るかな」
俺は二人を見ながら呟いた。
リヴェリアさんに身内の無礼の詫びだと回復魔法をかけてもらって腕が全快しミアさんにベルの分の代金を払って通りを歩き出した頃にはもう空が暁に染まっていた。
「ふわぁ、徹夜なんて久し振りにしたなぁ」
「・・・あの」
俺が欠伸をしていると金髪蒼眼の少女アイズ・ヴァレンシュタインが話しかけてきた。
「なんだ?」
「ごめんなさい・・・私が彼を怖がらせてしまった」
アイズさんの顔は哀しそうだった。
「えっと、アイズさん」
「アイズでいい」
「分かった、アイズ」
「なに?」
「多分ベルは君に憧れている。助けてくれた君をあたかも英雄のように称えてる」
「でも!」
俺はアイズの頭に手を乗せ撫でながらこう言った。
「だったらさ、ベルが危ないとき守るんじゃなくて助けてくれないか?」
「え・・・」
「あ、ついでに俺も頼むな」
「うん・・・分かった」
アイズそう言ってニコッと微笑んだ。
ドキッと心臓が高鳴ったような気がした。
「さてそろそろ本当に帰るかなぁ」
「あ・・・君の名前は?」
「シキ・クレン、Lv.1のしがない冒険者さ」
「シキ・・・それが君の名前」
「ああ、これからなんとなく長い付き合いになると思うからさ。よろしくなアイズ」
「うん・・・シキ」
ちなみに別パターンでベートを背負い投げしたあと重心を踏みつけて動けなくするってのがありました。