ヘスティアが帰らなくなってから数日後。
今日は怪物祭の日だ。
「いらっしゃーい!」
俺は焼きそばを焼いていた。
豚肉とキャベツ、玉ねぎを鉄板で炒め火が半分くらい通ったら蒸しておいた中華麺を入れ、また炒める。
少ししたら自家製の焼きそばソースを加える。
また、炒め水気を飛ばす。
ガネーシャ・ファミリアから渡されたタッパーに入れて完成だ。
「焼きそば三つくださーい!」
「あいよ!」
同じくガネーシャ・ファミリアから渡された紙袋に焼きそばのタッパーを三ついれ手渡す。
「焼きそば三つで六百ヴァリスになります!」
客は俺に六百ヴァリスを渡すと去っていった。
「ありがとうございました!」
俺の焼きそばの露店は思った以上に繁盛している。
祭りは多少ぼったくるくらいが丁度いい。
いやー、儲かる儲かる。
なぜこんなに儲かっているのかというと・・・。
「シキさん」
「ん、おおシルじゃねぇか」
最初の焼きそばを焼き終えると匂いに釣られたのかシルが現れた。
「どうも。焼きそばください!」
「おう。ほら、二百ヴァリスだ」
シルはポケットに手をいれると青ざめた。
「・・・お財布忘れてしまいました」
見るからに落ち込んでいるので演技ではないようだ。
「はぁ、しょうがねぇな」
「え?」
俺はシルに焼きそばが入った紙袋を差し出した。
「ほれ、何時もベルが世話になっている礼だ」
「ありがとうございます!」
「その代わりに宣伝してくれよ?」
「はい!宣伝して回ります!」
「頼んだぞ!」
それから続々と客が現れて、今やガネーシャ・ファミリアのスタッフが列整理をしている。
シルの情報拡散能力すげぇな。
「スミマセン!五百食売り切れです!」
たった今、全ての食材を使いきってしまった。
今は四時くらいか。
えっと、利益は。
(値段200-材料費50)×売った数499×場所代0.8=59880
59880ヴァリス!
約六万ヴァリス!
計算していたら興奮してしまいガッツポーズをしてしまった。
「あの~、食材持ってくるので、また焼いてもらってもいいですか?」
「ああ、はい。いいですよ」
俺はそういうと焼きそばのタッパーを入れた箱全てを運び外に出た。
「では、一時間ほど休んでいてください」
「了解で・・・」
ドッガァン!
急に屋台が崩壊した。
いや、正しくいうと崩壊させられた。
潰れた屋台の上に乗っていたのは体が鉄で出来ているように見える鉄の皮膚を持つ1.5Mくらいの翼を持たない二足歩行の龍・・・メタルリザードだった。
「てめぇ!何しやがる!」
俺は護身用に持ってきていた剣を抜き斬りかかった。
しかし、かなりの硬度で剣は通らなかった。
「硬いな」
回りを見たがlevel1の冒険者か一般人なのかみんな呆然としていた。
「ちっ!此方だ!」
俺はメタルリザードを引き連れ人が少ないところに向かって走った。
「はぁ!はぁ!」
十分くらいは走っただろうか。
俺は随分人の少ない所に出た。
「ここなら大丈夫か」
壁に三方向をおおわれた広間のような場所で立ち止まるとメタルリザードが加速し襲いかかってきた。
「GAAAA!」
メタルリザードが前足の爪で俺を引き裂こうとするが俺は剣で防ぐ。
バックステップで離れる直前下がりながらも斬りつけたが鉄の皮膚で遮られる。
「やっぱりこのナマクラじゃ斬れないか」
剣と鉄の爪の剣戟が打ち鳴らされる。
俺が斬りかかるとメタルリザードが爪で防ぐ。
メタルリザードが爪で切り裂こうとすると俺が剣で弾く。
十数回ほどは打ち合っただろうか剣と爪が弾き合い俺とメタルリザードは間合いをとった。
剣の刃はボロボロになっていた。
その時だった。
俺から見て左側の壁の一部がドアのように開き中から薄桃色の髪を少し長めのショートヘアーにしている俺と同じくらいの歳と思われる少女が現れた。
「なっ!?」
手に荷物を持っているということは隠れた店とかだったのだろうか。
中に戻ろうとしないということは中から外の一方通行だったのだろう。
「GAAAAA!」
あろうことかメタルリザードが少女に向かっていった。
「させるか!」
俺は少女の前に回り込んで剣を横薙ぎに振るった。
するとメタルリザードは剣を牙で噛んで止めその強靭な顎で砕いた。
「ヤバッ!」
メタルリザードはそのまま俺に向かって突進してきた。
俺は吹き飛ばされ5M先の石の壁に背中をぶつけた。
「ガハッ!」
肺の中の空気が全て吐き出される。
「ゲホッ!ゲホッ!」
口の中が切れたのか咳には少し血が混じっていた。
何回か咳き込むと呼吸が落ち着く。
隣の少女を見るとやはり俺と同じくらいの歳に思えた。
幼さを残した顔が青冷め瞳が恐怖に染まっている。
「・・・助けて」
誰に求めるもなく少女の口からその言葉が溢れ落ちた。
きっと、俺に向けられた言葉じゃない。
目の前でボコボコにやられた俺に向けられた言葉じゃない。
分かってる。
でも、俺は・・・俺は・・・。
────俺は・・・それでも目の前で脅えているこの娘を助けたい!
そのとき俺の背中から暖かい感覚を感じた。
そして、一度失った言葉が再び魂に刻まれる。
「下がってろ・・・ってのは少し可笑しいな」
「これ以上戦ったら!」
「いいからそこで待ってろ」
「武器もないのに!」
「大丈夫だ。今から"創る"」
「え?」
メタルリザードが少し俺から間合いを取った。
「悪いな」
「GAAAAAA!」
その直後メタルリザードが突進してくる。
───このままじゃ死ぬ。
───武器だ、この状況を覆す武器がいる。
俺は魂に刻まれた言葉を詠唱した。
「───
メタルリザードの突進が俺に当たり止めを刺す筈だった。
その刹那、俺は腕を振り抜く。
次の瞬間メタルリザードの鉄の皮膚に罅が入っていた。
俺の両手には二降りの剣が握られていた。
黒と白の二刀一対の夫婦剣。
メタルリザードに罅を入れた夫婦剣の真名は。
干将・莫耶
俺の父───ゼクス・クレンの最も愛用していた武器だ。