宛てがわれた部屋で眠かったので俺はさっさと寝た。
翌日、昨夜あった騒ぎは十六夜が起こしたものらしいな。何を企んでいるかは興味ないけど。
噴水広場に向かう。
「あー! 昨日のお客さん。もしや今から決闘ですか!?」”フォレス・ガロ”のコミュニティに向かう道中、昨日のカフェテラスの猫耳店員に声を掛けられた。
「‥‥ふむ。」他メンバーが会話をしてる中、朝からなんとなく感じていた嫌な予感の正体が把握できた。
「黒ウサギ。話してるところ悪いが、”フォレス・ガロ”のコミュニティは何処だ?」
「あ、はい。ここから近いですが‥‥、どうしたのですか?」
「説明は後でするが、嫌な匂いがする。早めに行きたい。」そう言うと耀が首を傾げながら返した。
「匂い? 何もしないけど?」
「ああ、そういう匂いじゃないからな。どちらかというと、魔力によるものだしな。」昨日、寝る前に俺だけ能力の片鱗すら見せてなかったから説明を求められて説明をし、俺は常人より感受性が強いせいで魔力を匂いとしても感じられると言っておいたので”ノーネーム”一同は納得した。
「‥‥分かりました。急ぎましょう」黒ウサギにただならぬ雰囲気が伝わり、早足気味に”フォレス・ガロ”の居住区を目指す。
「皆さん! 見えてきました‥‥けど。」
目に入った光景に目を一瞬疑った。他のメンバーも同様。鬱蒼と生い茂る木々はまさしく森だ。
「‥‥。ジャングル?」
「虎の住むコミュニティだしな。おかしくはないだろ。」
「いや、そうだとしてもこの木‥‥ただの木じゃないな。魔力の流れが乱れてる。」何かで強制的に書き換えられたかのように。 俺の言葉にジンはそっと木々に手を伸ばした。
「”鬼化”してる? いやまさか」ジンは呟いた。
「ジン君。ここに”契約書類”が貼ってあるわよ。」アスカが声を上げた。そちらを見れば門柱に貼られた羊皮紙にゲームの内容が記されていた。
『ギフトゲーム名 ”ハンティング”
・プレイヤー一覧 久遠 飛鳥
春日部 耀
ハル=トレヴァース
ジン=ラッセル
・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐
・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は”契約”(ギアス)によってガルド=ガスパーを傷つける事は不可能。
・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記条件を満たせなくなった場合。
・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、”ノーネーム”はギフトゲームに参加します。
”フォレス・ガロ”印』
「ガルドの身をクリア条件に‥‥指定武具で打倒!?」
「こ、これはまずいです!」読み終え、ジンと黒ウサギが悲鳴のような声をあげた。
二人にアスカは心配そうに問いかけた。
「このゲームはそんなに危険なの?」
「いえ、ゲームそのものは単純です。問題はこのルールです。このルールでは飛鳥さんのギフトで彼を操る事も、耀さんやハルさんのギフトで傷つける事も出来ない事になります‥‥!」
「つまりは、その指定武具以外はかすり傷すら与えられず全て無効化か。厄介だな。」特定の武器意外じゃ殺せないとか吸血鬼かよ?
「そうです。すいません、僕の落ち度でした。初めに”契約書類”を作った時にルールもその場で決めておけば良かったのに‥‥」
「気にするなよ。過ぎたことをあれこれいうよりは目の前の事に集中しようぜ。幸い策はある。」
「へえ? どんなのだ?」
「敵さえ分かればどうにか出来るさ。とだけ言っとくよ。」俺の余裕のある言葉のおかげかジンは落ち着きを取り戻した。
女性サイドも黒ウサギのおかげで大丈夫そうだし、と門へ目を向ける。さてと”ハンティング”の名の通り狩りでもやらせてもらおうか、虎風情。
門をくぐり、門が閉じるとそれが合図だったのか、植物が門を絡めるように退路を塞いだ。
見回してみると植物により人が通れるような道は無く、視界も狭い。だが樹の上なら見えそうだな。と瞬時に情報を整理する。
「大丈夫。近くには誰もいない。匂いで分かる。」
耀の助言に続き、報告する。
「あの虎は屋外にはいないだろう。どっかの家の中に潜んでるな。」
「あら、そこまで分かるの?」
「ああ、入った時に使い魔を飛ばしてその視点を見た限りはな。」無効化されなかったからセーフだろうし。答えながら使い魔へ命令を送る。
(ガルド、または武器を見つけろ。)
「「使い魔?」」飛鳥と耀が同時に聞いてきた。
「魔法に関しては説明したが、その魔法の中に獣とかとの契約魔法が有ってな。それで契約したやつを今朝試しに呼んだら来たんだよ。」そういったあたりで使い魔から返事が来た。
「ふむ、この近辺にはいないか。なら、本拠方面か。」指示を出しながら移動する。
それと、使い魔の話をしたあたりから耀の目がいつにもまして輝いてたが‥‥まあいいや。害意はなさそうだし。
本拠の近くにつき、無残な姿となった館が目に入った。
「見て。館まで呑み込まれてるわよ。」
飛鳥の言葉通り、虎の文様が施された扉は取り払われ、窓も砕かれ、外装はツタに蝕まれている。
「ふむ。入ってみるか。」
「待ってください! ガルドがいたら危険です!」
「大丈夫。ガルドは二階。」俺の言葉にジンが止めようとしたが、耀がそう言ったのでおとなしくなった。
中も酷いものだ。金を掛けたであろう家具は打ち倒され、散在している。
一階に探知を走らせてみるが武器の類やそれを示すヒントらしきものは見つからない。三人も見つけられなかったようで首を横に振った。
「なら二階か。ジン、飛鳥、悪いがここで待っててくれないか?」
「どうしてかしら? ジン君はともかく私まで待たせるのは」
「僕だって、ギフトを持ってます。足手まといには。」
「理由はあるさ。上では何が起こるか分からない。だから二人にはいざってときのために退路の確保をしておいてもらいたい。それと俺は別にジンを足手まといとは思わない。伸びしろがあるからこそ任せたいんだ。」
その理由に二人は納得してくれた。なので耀と共に階段を物音を立てずに登る。
「ああそうだ。ヨウ。」登りきる寸前、ヨウに言う。
「何?」
「ヤバイと感じたらさっさと逃げてくれ。俺は気にしなくていい。」いくらあの二人よりは身体能力に優れてるとはいえ不死じゃないしな。
「‥‥分かった。」心からは納得してなさそうだな。まあ、最悪アイツに引っ張らせよう。今も館の外で待機してるし。
そう考えながら扉を蹴り開けて入ると中には少し想定外のがいた。
「ギ‥‥」
「―――‥‥GEEEEEYAAAAAaaaa!!」
言葉と人の原型を失った虎の怪物が、立ちふさがっていた。その背後には、白銀の光が見えた。
「っ!? これはっ!」感じ取った魔力で危険と判断、虎の怪物が突進を仕掛けてきたので躱しながら耀へ叫ぶ。
「逃げろ!」ヤバイ。これは危険だ。そう判断する。
部屋の外へ出て焼き石だと思うが扉を閉める。
階段を中程まで降りた辺りで扉の砕ける音が聞こえた。
飛鳥達に逃げるよう言いながら体を反転させ、人の姿を失ったガルドに向き直る。
「っ!」狙いをこちらに向け、攻撃をしてきたので躱しながら後ろに下がる。
階段を降りきったあたりで壁を蹴り破り外に出る。
「外には来ないか。 それにこの匂いは‥‥」やはりあいつらか。と考えながら三人が通ったと思われる道を通って合流する。んだが‥‥
「? 耀はどこだ?」1人、ヨウだけ見当たらない。
「いえ? ハルさんと一緒じゃないんですか?」というジンの返事から悪い予感がした。
「まさか‥‥」
「‥‥もしかして、春日部さん、一人で?」
「おそらくな。」一人で武器を取りに離脱したか。
「え!? な、なら耀さんは」
「その通りだジン。あの中に戻ってたよ。」小さくため息をつき、二人に言う。
「ちょっとあいつを連れ戻してくる。あの出来損ない吸血鬼に単身で勝てるわけないからな。」
「吸血鬼?」飛鳥が首を傾げるが説明するヒマは無いので
「ジンなら知ってるだろうし、悪いがジンに聞いてくれ」そう言い残し、来た道を駆ける。
「まったく、面倒くさいんだけどなぁ。」俺の本来の性格はめんどくさがりなんだけどさ。文句をブツブツ言いながら並走する使い魔、白銀の毛並みを持つ狼へ言う。
「フェンリル。周囲の警戒だ。耀と行き違いは勘弁だからな。」
「了解した。主。」フェンリルはそう言い、周囲の警戒を始めた。
館の前に戻ってきた。外には耀の姿は無いのでやっぱり中に居るのだろう。
「外で待機しろ。俺は中に入って探す。」フェンリルに言ってから館内に入る。
「上か」上から物音してるしそこ以外ないか。
階段を登って上階に行き、砕けた扉の向こうに、いた。今まさしくガルドが止めを刺そうとしていた
なので、どうせ効かないと思うけどガルドの目の前に小さい火の玉を出現させ、目くらましにする。
「GEEEEEYAAAAAaaaaa!!」予想以上に効果を発揮した。ああそうか。こいつって獣だったな。火に恐怖したのか。そう考えながらガルドが火の玉から離れ、耀との距離が開いたので、その隙にヨウの元へ行く。
(意識は無いか。傷は右腕か。深くはないが出血が多いな。)早めに治療しないと危ないかもな。と考え、耀の近くに落ちてた白銀の十字剣を拾い上げる。
(一度引くよりここで決めるか?)吸血鬼を殺す、その為に創られた”死徒”の力を持つ俺ならある程度は渡り合えるだろう。
「いや、やめておくか。」ただの吸血鬼ならどうにかなるが獣が吸血鬼になったのは身体能力も攻撃も桁違いだからな。ヘタに長期化させたら耀が危うい。
瞬時に判断し、ヨウを抱えあげ
「っ。」‥‥る前にガルドが復活してこちらに飛びかかってきた。とっさに躱したがヨウに意識が向いてたから少し肩にかすったな。
もう一度火の玉を出現させ、牽制して耀を抱え上げて窓を突き破って逃げる。
やはり、ガルドは館の外には出てこない。
「誰?」
「俺だ。」飛鳥の呼びかけに答えながら茂みから出る。
「ハ、ハル君!大丈夫なの!?」
「俺は別に大丈夫だ。耀の方が重傷だ。」そう答えながら、ヨウをそっと地面に下ろす。
「っ! 春日部さん!?」
「ま、まずい! 傷そのものよりも出血が! このままだと‥‥!」慌てる二人
「落ち着け。処置さえすれば良いだろ。」
「し、しかし、ここには止血できるものは無いです!」
「だから落ち着けと言ってるんだ。リーダーが冷静さを欠くな!」ジンに一喝し、耀の腕に手を近付ける。
「とりあえず、傷ふさいどくか? 他人の怪我なんて治したことないしなぁ‥‥」つぶやきながらとりあえず出血を止めるくらいにしておく。他人の怪我を治療したことないし、自分の場合は余程の重傷でもない限りは放っといたら勝手に塞がるし。
「凄い。ここまで高度な回復は僕達のコ ミュニティにある治療用のギフトを黒ウサギが使う事でしか出来ないのに」
「まあ、俺に出来るのはこの程度だな。後はこのゲームを終わらせてからだな。」
驚愕するジンにそう返し、上衣の裏にしまっていた十字剣を取り出す。
「これだな。ガルドを倒す指定武器は。」
「そのようですね。 って、ハルさん!それよりもケガは」
「大丈夫だ。今から治す。」そう答え、”死徒”の治癒能力を使うまででもないので簡単な止血をする為に上衣、”黒火”を脱ぐ。
「ふむ、この程度なら魔法を使うまででもないな。」黒火はボロボロになったが、皮膚は表面だけで済んでいるし、まあ、シャツが使えなくなってしまったが替えを亜空間から出せば良いか。と、ぼろ布になったシャツを包帯替わりにし、替えのシャツを亜空間から出す。
とりあえず、止血を済ませ黒火を着直す。
「さてと、それじゃ早めに決断するか。耀の出血は止めたが失った分までは戻らない。」
「そうね。なら‥‥」立ち上がろうとする飛鳥をジンが焦る声で止めようとしたのでそれを止める。
「落ち着け、ジン。降参する必要は無い。あの程度ならやり方によるがアスカ一人でも勝てる。」
「貴方はやらないの?」
「ああ。俺は耀を看てることにするよ。」そう答えるとアスカは十字剣を手に取って走り去った。
(フェンリル、飛鳥を頼む。)
(了解した。使い魔づかいの荒い主。)フェンリルの皮肉に苦笑しつつ、ジンの方を向く。
「さて、ジン。何か言いたいんだろ?」
「はい。なぜ、ハルさん自身でなく飛鳥さんに行かせたんですか?」
「簡単だ。はっきり言ってしまうと、現段階でまともな戦力は、俺とイザヨイ、後は黒ウサギだが、彼女は多分ルールかなにかで参加が制限されてる。となると、実質即戦力は二人。ここまでは良いか?」そう問いかけるとジンは黙って首肯した。
「耀と飛鳥に関しては持ってる能力自体は強力なんだが、経験不足という点が多少不安だ。その内、怪我じゃ済まなくなるし、その前にある程度経験を積ませるのが良いと判断した。ってのが理由だ。」
「そうなんですか‥‥。でも、勝てるのでしょうか?」やれやれ、と首を振り答える。
「勝算が無ければ任せはしない。それに、飛鳥のギフト、”威光”だったか? あれはおそらく、”支配”のしかたを変えれば恐ろしく化けるな。」成長が楽しみで仕方ない。
「もっとも、経験を積ませるならできれば耀にもやらせたかったけどな‥‥。」怪我しちゃったからな。と、苦笑混じりにつぶやき、近くの木の幹に腰をおろす。
数分後、辺りの木々が一斉に霧散し、それがゲーム終了だと分かった。
支えを失って倒壊を始める廃屋を魔力に”分解”してジンと耀を守っているとかなりの速度で走る黒ウサギと十六夜が見えた。
こちらに着いた黒ウサギに耀の怪我の状況を伝える。
「一応、最低限の応急処置はした。が、出血が多い。」
「分かりました。すぐにコミュニティの工房に運びます。あそこなら治療器が揃ってますから。ハルさんも念の為、来てください。」
別に行動に支障はないから断ろうと思ったが、その治療器が気になったから了承する。
「十六夜さんとジン坊ちゃんは飛鳥さんと合流してから共に帰ってきてください。」
「わ、わかったよ。」
ジンが答えたのを確認し、黒ウサギは耀を抱え、かなりの速度で走っていく。一瞬置いてかれそうになったわ。うん、ビックリした。
とりあえず、置いてかれる前に脚力を軽く強化して並走する。多分これ、脚力強化無しだったら後ろを追うことになってるな。
タイトルの割に特に活躍しない主人公である。
今のところ、彼(ハル)のスペックは未知数と言った感じです。はい。
フェンリルは多分、勝敗が確定したあたりで”ノーネーム”に帰ってますよ?