「ッ!」
嫌な予感を察知し、ハルは息を呑んで即座に耀の手を掴んで引き寄せると同時に、空いた手にいつの間にか出現させた抜き身の刀を握っていた。
「わっ!?」
耀の驚きの声を無視し、接近してくる褐色の光を睨み刀を振った。
刀の手前で壁に当たったかのように停止した光は、パリンっという音を立てながら砕け散った。
「‥‥ふう。」第二波が無いと判断し、刀をおろしたハルは小さく息をついた。
「耀。大丈夫か?」
「う、うん。でも、これは‥‥?」
今はもう、離れているがハルに掴まれた手を見つめて、僅かに赤面していた耀だが、周囲の景色に呆然と声をあげる。
「石化、ってところか。」
人も壁も、全てが石に変化している様子にハルは感心したようにつぶやき、刀を出現させた鞘に納めた。
「これは、レティシアを石化させたのと同じものか。」
刀を片手に下げたまま、石化した騎士に手を当てて調べ、小さくつぶやく。
石化、その言葉を聞いて、耀は恐怖を感じていた。つい先程までの白亜の宮殿が今や、灰色の石の世界に変化していて、もし、ハルに助けられなければ自分も周りの騎士のように石になっていた。
「‥‥なるほど。なら、これをやったのは‥‥ってことか。」
科学者や研究員のような目で興味深げに石化した騎士を調べていたハルは、立ち上がると宮殿の最奥に目を向けた。それから、耀に視線を移して、口を開いた。
「耀。耀は飛鳥の様子を見に行ってくれないか ?」
「ハルはどうするの?」
「十六夜達のとこに行ってくる。」
「分かった。でも、気をつけてね。」
そう答え、ハルと別れた耀は一目散に飛鳥の所へ向かった。
耀がハルの言うことに従ったのは、飛鳥の事が心配だったという事と、自分がついて行っても足手まといになってしまうと感じたからだ。
(でも、必ず)
必ず、追いついてみせる。今はまだ敵わないとしても、どんなに時間を掛けてでも十六夜やハルに追いついてみせる。そう、耀は固く心に誓った。
耀と別れた後、最上階を目指して走っていたら、あっという間に着いた。
「おいおい。元・魔王様がこの程度か?」
「GYAAAAAaaaaa!?」
十六夜が拘束具と捕縛用ベルトを体中に巻いた女性のような、『何か』を圧倒していた。
おそらく、あれが”アルゴールの魔王”とかいうやつだろう。
「しかし‥‥、俺が来る必要は無かったか?」
もう、十六夜一人で良いんじゃないか?
そう思ってつぶやくと、その呟きが聞こえたのか、黒ウサギがこちらを見て、
「ハルさん!? どうしてここに!?」
「えっ!? 無事だったんですか!?」
「おう、ハル。」
ジンと黒ウサギには驚かれた。
「!? 馬鹿な! どうして石化していない!?」
ルイオスにも驚かれたが、あいつはいいや。
石化してなかったのがそこまでの驚きとは、驚いた。
「GYAAAAAaaaaa!!!」
なんて、ふざけてたらアルゴールから襲いかかられた。
「ふむ」
そちらへ目を向け、片手で腰の刀、”月影”を掴む。
アルゴールを一瞥したハルは腰に提げた月影に手を伸ばすと、僅かに動作をしたと思えば、刀を鞘に納める音を鳴らした。
「Gya!?」
音が鳴った瞬間、アルゴールの体からは大量の血が吹き出した。
「なっ!?」
「い、今のは?」
「まったく見えませんでした。」
ルイオス、ジン、黒ウサギが驚きの声を上げる中、十六夜だけはハルが何をしたか理解でき、感嘆の口笛を吹いた。
「おい。今のって居合い切りかよ?」
十六夜が情報として知っていたそれを目の前でやってのけたハルはそれを自慢する様子も無く、ただ頷いた。
「で、襲われたからとっさに斬ったけど、これってルール違反になるのか?」
焦ったような表情でハルは黒ウサギに聞いた。
「それは大丈夫デスよ。アルゴールも部下という扱いになるのでルールを犯したことにはなりません。」
「ああ。ならいいや。」
安心したように、息をついたハルは虫の息のアルゴールに目を向け、小さくため息をついた。
「しかし、一撃で決められないとは、少し怠けてたせいか。」
一撃で決める気だった、というつぶやきをしたハルは片手を上衣の中に入れ、黒い拳銃を出した。
「‥‥よし、と。多少痛いが我慢してくれよ?」
慣れた手つきで銃口をアルゴールに向け、引金を引いた。
「Gyaaaaa‥‥aa‥‥」
アルゴールに一発、弾丸を打ち込み脱落させる。
「それじゃ、後はよろしく。」
拳銃、”チェリーツインズ”の片割れ、”ブラックチェリー”をしまい、十六夜にそういう。
「いやいや。なにあっさりと人の楽しみ奪ってんだゴラァ!!」
「? ああ‥‥。すまなかった。攻撃されたから、つい。」
「つい、で星霊を瞬殺しないでくださいヨ!」
「星霊? 白夜叉と同じか?」
「Yes。この箱庭内の最強種の一角の”星霊”デス。」
へえー。白夜叉と同じ種類だったのか。あいつと違って弱々しいから分からなかったな。その理由は分かるけど。
「まあいいや。聞かなかったことにするから。」
白夜叉程の圧迫感も感じられない、こんな存在を”星霊”と認める気にはなれない。
「聞かなかったことにしないでください! 」
「あー、うん。そんなことはさておき、俺は飽きたからどっかで寝てるから終わったら教えてくれ。」
「あ、はい。わかりまし、って、なんというマイペースっぷり!?」
「‥‥俺でも引くぞ。そこまでマイペースだと。ってか、スルーされた俺の怒りはどこにぶつければ良いんだ?」
「いやそんなの、そこで話についていけてない七光にぶつければ済むと思うが?」
誰にも迷惑が掛からないし、ゲームには勝てるしでお得づくめだ。
「ああ。なるほどな。それじゃあ、そうするか。」
ぽんっと手を打った十六夜は、再起動し始めてるルイオスに向き直った。
勝負の方はアルゴールを失ったせいか、弱体化していて十六夜にヤケになってかかっていって、返り討ちになっていた。