「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん。」」」
「え?」
「え?」
「‥‥え?」
レティシアの石化を解いた途端、十六夜達三人は口をそろえてそう言った。
俺はその様子を眺めてみる。
「所有権は俺達で3:3:2:2でもう話は付いた!」
「何を言っちゃってんでごさいますかこの人達は!?」
「いやそれに俺を入れるなよ? 俺は分け前はいらないって言った筈なんだからな。」
話が来たんだけど、メイドはいらないので俺の分はそっちで分けるように言ったと思うんだが? なので、俺の方も見ながら言ってきた黒ウサギにそう言う。
「おいおい。お前だって元・魔王様をぶっ飛ばしたんだから、もらう権利はあるぜ。」
「ハル君は三割よ。」
「よりによって、3の方か‥‥」別に俺は、0で良いんだけど。
「‥‥まあ良いか。」いらないにはいらないが、いても困ることでも無いからな。
「まあ良いか、じゃありませんよ! なんであっさりと意見をひるがえしているのデス!?」
「考えてみれば、俺らは彼女、レティシアを助けたという訳だからな。何かしらの形で返してもらうのが妥当だ。」
「それは、そうですが‥‥。レ、レティシア様も何か言ってください。」
レティシアは考えるような仕草をした後、
「んっ‥‥ふ、む。そうだな。今回の件で、私は皆に恩義を感じている。コミュニティに帰れた事に、この上なく感動している。だが親しき仲にも礼儀あり、コミュニティの同士にもそれを忘れてはならない。君達が家政婦をしろというのなら、喜んでやろうじゃないか。」
そう答えた。つまりは、了承したわけだ。
「レ、レティシア様!?」
予想外の言葉に困惑している黒ウサギをよそに、飛鳥は嬉々として服の用意を始めていた。
「私、ずっと金髪の使用人に憧れていたのよ。私の家の使用人ったらみんな華も無い可愛げも無い人達ばかりだったんだもの。これからよろしく、レティシア」
レティシアを無事に救出した後、俺は屋敷の屋根の上に陣取っていた。周囲から隔絶させる結界を張っていると、
「やれやれ、ハルが居残る位だからどんな場所と思えば、想像よりも楽しいことになってるね。」
背後から掛けられた声に振り返る。
「ああ。ロレンか。それに、カミト。思ってたよりも早かったな。」
薄汚れたローブを着た青髪の少年、ロレンと銀髪の少年、カミトにそう返す。
「よう。ハル。」
いつもどおりの不機嫌そうなカミトに微笑しながら、ロレンに言う。
「それで、持ってきてくれたのか?」
「もちろんね。そろそろ君ならアレを押さえつける事はできそうだしね。」
「しかしよぉ、マジで大丈夫なのかよ? いきなり解いちまって。」
「カミト。君はハルの事を信用したらどうだい?」
「いや‥‥、ハルは信用してんだけどな。でもよ「カミト。」‥‥ああ。わかったわかった。」
「それじゃあ、始めようか?」
そう言ったロレンはローブから血のような色の刃の短剣を出した。
「『ハル=トレヴァースに問おう。汝はかつての力を取り戻し、新たな己となることを望むか?』」
雰囲気がガラリと変わったロレン。こいつの力、”死霊術師”(ネクロマンサー)としての能力の一つで霊を降ろしたものだ。これは、トレヴァース家の先祖の霊だろう。
「望む。俺は力を取り戻して、更なる境地に到達したい。」
「『ならば、この刃の洗礼を受けよ。』」
向けられた短剣を受け取り、霊力を感じられるそれを右手の甲に突き立てる。
「ッ!」
痛みに声を押さえ込み、刃に血を吸わせる。
「ぐっ、‥‥うあああ!」血を吸われる倦怠感と引き換えに流れ込んできた大量の魔力に身を灼かれる感覚に声をもらす。
その感覚が急に消えた。
「っ。はあっ。」倒れそうになった身体をかろうじて支え、ロレンに目を向ける。
「まあこんなところかな? 後は馴染むのを待って、完成だね。」
「完成ってか、マジで大丈夫なのかよ?」
「さあね。ハルの元々あった能力を戻しただけだから、拒絶は無いだろうし、それ対策で魔法式を打ち込んだわけだからね。」
二人の会話を聞きながら、維持が出来なくなった結界の支配権をロレンに移す。
「それじゃ、話した通り、頼んだよ。カミト。」
「ん‥‥ああ。わかったわかった。」
「‥‥? 何を話してるんだ?」
俺だけついていけない。
「ええと、言っちまうと、手前の経過観察って体でオレもこっちに滞在するって事だ。」
ああ。なるほど。まあせっかく来たんだし、しばらくいてくれても俺が助かるからな。
「それで、ロレンは?」
「僕は一度帰るよ。一応ハルの安全は確認したからね。気が向いたらまた来るよ。」
また来るのか‥‥。まあ来るなら良いか。
一段落ついたあたりでようやく、六人はハルの姿がない事に気づいた。
「‥‥あいつどこに行った?」
「いつ、消えたのかも分かりませんし、場所も‥‥」
「かなりマイペースとは聞いていたけれども、ここまで空気を読まないのかしら?」
「‥‥いた。」
敷地内を探し回っていた一同は、耀の言葉でその目線の先を追った。
「‥‥で、マジで大丈夫か?」
「死にはしない程度だと思うが。‥‥まあ、吸われた血の量が量だからな。回復はしてきてるけど。」
銀髪の少年と会話をしているハルの姿が見つけられた。
「ん? おいハル。そこにいんのがお前の言ってた連中か?」
「そうだ。お前も気が合うんじゃないか?」
「そうかよ? オレとまともに気が合うのは手前だけだと思うけどな。」
「ロレンは別なのか?」
「あいつは‥‥相手してっと疲れるし、何よりイライラすんだよ。」
「それは同意だが。」
二人の会話を聞いていた一同は、ハルと銀髪の少年はそれなりの仲であると察しられた。
「まあいいか。待たせてるわけだし、そろそろな。」
「ああ。わかったわかった。」
話を終えて、ハルと銀髪の少年は六人の方に来た。
「ハルさん。そちらの方は?」
「ん‥‥ああ。オレか。オレはカミトだ。そいつの友人ってとこだ。」
指でハルの方をさしながら、銀髪の少年、カミトは答えた。
「人に指差すなよ。」
紹介は終わりだと言わんばかりのカミトとハル。
「 いやいや。短すぎるだろ。他にねえのかよ? 」
「他って何だよ? ってか、手前誰だよ。 」
「十六夜様だぜ。他にって言ったらあるだろ。」
「訳わかんねえな。ハル。どうすりゃ良いんだ?」
話を振られ、あくびをしていたハルは目をカミトに向ける。
「さあ? 悪いが今は頭に血が回らない。」
「っああ。そうだったな。儀式の直後だしな。」
「儀式って?」
飛鳥の疑問にハルが答えた。
「カミトと一緒に来てた奴に頼んで、俺が封印していた能力の解除をしたんだが、体力と血を持ってかれた。」
「能力解除って、まだ隠してたのですか!」
「明日にでも見せる。寝かせて。」
その言葉で黒ウサギはハルの顔色が悪い事に気づいた。気力のみで身体を支えているハルは今にも倒れそうな様子だった。
「大変デス! 急いで横にさせなければいけません!」
「私に任せて。」
大慌ての黒ウサギに耀はそう言い、ハルを連れて屋敷に向かって行った。
「‥‥で、お前は一体何者だ?」
残された面子はカミトに視線を集中した。
「何者だって聞かれても、ハルの友人としか言えねえし‥‥。逆に手前らは何が聞きてえんだ?」
代表として質問した十六夜に返答したカミトは、逆に質問した。
「‥‥そうね。貴方はハル君の友達というならハル君の秘密を教えてくれるかしら?」
「へえ? そいつは名案だな。お嬢様。」
問題児二人はハルを弄るネタを要求してきた。
「あいつの秘密? ‥‥そうだな。」
考え込んでいたカミトはニヤリと笑みを浮かべた。
「動物を愛でるのが好きって事を隠してるってのはどうだ? 本人は隠してる”つもり”だからな。」
「随分と、面白い話ね。」
面白いネタを見つけたと笑う問題児二人とカミト。
耀の手を借りつつ、部屋に戻った。
「主、体は無事か?」
床に寝そべっていたフェンリルに頷きながら腰をおろす。
「ああ。耀。ありがとな。」
耀に礼を言う。
「うん。どういたしまして。」
「我からも礼を言う。」
フェンリルがそう言った。
「‥‥ああ。仲良くなってたのか。」
「うん。この前、撫でさせてもらった。」
へえ。珍しい。フェンリルが他人に触れられるのを許すとは。
「うむ。中々のものだった。」
しかも気に入ったのか。かなり良かったのかもしれないな。
「‥‥そうか。ならいいか。」
小さくつぶやき、フェンリルに向けていた目を外す。
「それじゃ、耀。おつかれ。」
「おやすみ。」
耀が部屋から出た後、ベッドに横になったままフェンリルに話しかけられた。
「それで。主は文字通り強化されたのか。」
「ああ。そうだ。といっても、まだ定着に時間がいるな。」
今は、そのせいで体力や魔力が下がっていて、すごくだるい。
「寝れば改善されそうだが。」
「まあ、そうだな。」
能力にも制限が掛かってるし、今日はもう寝よう。
「寝るときくらい、上衣を脱ぐべきだろう?」
なんかフェンリルが言ってたけどスルーしとこう。