「――――自分のコミュニティがどういう状況に置かれてるのか理解できてんのかい?」
ガルドのこの言葉に、ん?と感じた。
同じく引っかかったのか飛鳥が遮るように手をあげた。
「事情はよくわからないけど、貴方達二人の仲が悪い事は承知したわ。 それを踏まえたうえで質問したいのだけど――――」
飛鳥が鋭く睨む。 だが睨む相手はガルドではなく、
「俺も聞きたいんだが? ジン?」
゙ノーネーム゙リーダーであるジンだ。
「ねえ、ジン君。 ガルドさんが指摘している、私たちのコミュニティが置かれている状況‥‥というものを説明していただける?」
「そ、それは」
言葉に詰まったか。 それがこちらへ何か隠している証拠となった。 そして、ジンも今のは大失敗と気づいただろう。
その動揺を逃さず畳み掛ける。
「ジン、お前は自身をコミュニティのリーダーと名乗った。 それなら黒ウサギと同じようにこちらへコミュニティとは何か、説明する義務がある筈だろう?」
追求は静かに、だが刃物のように鋭く責める。
それを見ていたガルドは獣の顔を人へ戻して含みがある笑顔と上品ぶった声音で言った。
「ミスター、貴方の言う通りだ。 コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。 しかし彼はそれをしたがらないでしょう。 よろしければ゙フォレスト・ガロ゙のリーダーである私が、コミュニティの重要性と小僧――――ではなく、ジン=ラッセル率いる゙ノーネーム゙のコミュニティを客観的に説明させて頂きますが。」
飛鳥と共に一度ジンを見る。 ジンはただ俯いて黙り込んだままだ。
話す気は無いのだろうか。
「‥‥そうね。 お願いするわ。」
飛鳥はガルドへそう答えた。
「承りました。 まず、コミュニティとは呼んで字のごとく複数名で作られる組織の総称です。 受取り方は種によって違うでしょう。 人間はその大小で家族とも組織とも国ともコミュニティを言い換えますし、幻獣ば群れ゙とも言い換えられる。」
「ふむ。 そうだな。」
つまりは個と個の集まりだろう。
「そしてコミュニティは活動する上で箱庭に゙名゙ど旗印゙を申告しなければなりません。 特に旗印はコミュニティの縄張りを主張する大事なもの。 この店にも大きな旗が掲げられてるでしょう? あれがそうです。」
ああ、あの六本傷はそう言うことか。 カフェテラスの店頭に掲げられた旗を見てそう考える。
「つまりあれば六本傷゙ってコミュニティの縄張りってことか。」
「そうなります。 理解が早く助かります。 続きですが、もし自分のコミュニティを大きくしたいと望むならば、あの旗印のコミュニティに両者合意で『ギフトゲーム』を仕掛ければ良いのです。 私のコミュニティはそうやって大きくしましたから。」
自慢げに語り、ガルドは自身のピチピチのタキシードの胸に刺繍された虎の紋様を指さした。 見回してみればそれと同じ紋が周辺の商店や建造物に飾られていた。
「その紋様が縄張りを示すというなら‥‥この近辺はほぼ貴方達のコミュニティが支配していると考えていいのかしら?」
その言葉にガルドは肯定を示した。
(ふぅん、それなりの勢力は持ってるか。)
ガルドの話だとここらで残っているのは本拠が別区あるいはここより上にあるコミュニティと名を持たない奪う価値のないコミュニティのみらしい。
嫌味の込められた笑いを向けられ、ジンは顔を背けてローブをただ握り締めるのみ。
その後、かつての゙ノーネーム゙に関してとなぜ名無しになったのかを教えられた。
(魔王‥‥か)
この箱庭において敵に回してはいけない存在らしいな。 たった一夜にしてコミュニティを崩壊させだ天災゙ それが魔王だという。
魔王、そんな存在が実在するとはと思ったがここは異世界、箱庭だ。 それくらい普通なのかもしれないな。
それらの話が終わり、それぞれ出されたカップを片手に話を反復。
「なるほどね。 大体理解したわ。 つまり゙魔王゙というのはこの世界で特権階級を振り回す神様etcを指し、ジン君のコミュニティは彼らの玩具として潰された。 そういうことかしら?」
「そうですレディ。 神仏というのは古来、生意気な人間が好きですから。 愛しすぎた挙句に使い物にならなくなることは良くあることなんですよ。」
ガルドはカフェテラスの椅子の上で大きく手を広げ皮肉げに笑った。
「名も、旗印も、主力陣全てを失い、残ったのは膨大な居住区画の土地のみ。 もしこの時に新たなコミュニティを結成してたなら、前コミュニティは有終な美を飾ってたんでしょうがね。 今や名誉も誇りも失墜した名も無きコミュニティの1つでしかありません」
引き際を間違えた、というところか。
その後も長々と話をし、ジンを嘲笑するような笑みを浮かべるガルドへ言う。
「で、貴方はジンを黒ウサギにコミュニティを丸投げする、形だけのリーダーといいたいわけか。」
「そうです。 そんな場所に貴方方を入れさせるのはこちらとしても心苦しいので、もしよろしければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに来ませんか?」
突然の提案にジンは驚きと怒りでテーブルを叩き抗議した。
「な、何を言い出すんですガルド=ガスパー!?」
ガルドもガルドで獰猛な瞳でジンを睨み返した。
「黙れ、ジン=ラッセル。 そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材はコミュニティに残ってたはずだろうが。 それを貴様の我が儘でコミュニティを追い込んでおきながら、どのツラで異世界から人材呼びだした。」
「そ‥‥それは。」
反論は出来ないだろう。
ジンが完全に口を開けなくなったと判断したガルドがこちらへ目を向けた。
「‥‥で、どうでしょうかご三人。 返事はすぐにとは言いません。 コミュニティに属さずとも貴方達は箱庭で三十日間の自由が約束されています。 一度、自分たちを呼び出したコミュニティと我々゙フォレス・ガロ゙のコミュニティを視察し、検討してから――――」
「結構よ。 だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの。」
ガルドの言葉を遮り、アスカはきっぱりと言った。
は? という感じでジンとガルドはアスカの顔を窺った。 予想外過ぎたからだろう。
アスカは何事もなかったようにティーカップの紅茶を飲み干し、耀と俺に笑顔で話しかけてきた。
「ハルくん、春日部さんは今の話をどう思う?」
「別に、どっちでも。 私はこの世界に友達を作りに来ただけだもの。」
へえ、そうなのか。
「あら意外。 じゃあ私が友達一号に立候補していいかしら? 私達って正反対だけど、以外に仲良くやっていけそうな気がするの。」
自分の髪を触りながら飛鳥は耀に問う。 それにヨウはしばしの無言のあと、小さく笑いながら頷いた。
「‥‥うん。 飛鳥は私の知る女の子とちょっと違うから大丈夫かも。」
嬉しげに泣く三毛猫と盛り上がる二人。 周りそっちのけである。
「友達成立おめでとう。 それで二人が良ければ俺も友人その2にしてもらえないか? 俺には同年代の友人はさっき話したのと後一人しかいなくてな。」
図々しくはあるがそう申し出る。
「うん。 ハルも違うみたいだから良いよ。」
「おや? あっさり承諾されるとは思ってなかったな。 正直言えば。」
そうつぶやき、微笑を浮かべる。