蒼海のRequiem   作:ファルクラム

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第10話「各々の一手」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵艦隊の本土接近。

 

 敵機侵入。

 

 帝都空襲。

 

 全てが帝国にとっては、青天の霹靂とも言うべき事態である。

 

 帝国は確かに、今日に至るまで全ての作戦を順調に進めている。真珠湾攻撃によって太平洋艦隊の主力戦艦群を壊滅させ、南方作戦も順調に推移し、間も無く完了しようとしている。

 

 南方作戦が成功し資源地帯を押さえる事ができれば、以後は資源消費を気にせず戦う事ができる。

 

 戦況は間違いなく帝国優勢に傾いている。誰もが、そう信じられていた。少なくとも、つい先日までは。

 

 そんな中で起こった帝都空襲は、正に冷水を浴びせられたに等しい衝撃だった。

 

「なぜ、帝都に敵機の侵入を許したのか!?」

「許されざる失態だぞ!!」

「連合艦隊は何をしていたのか!? 居眠りでもしていたのか!?」

 

 軍や政府の高官達は、口をそろえて非難の大合唱である。

 

 本土の防衛ラインに重大な欠陥がある。本土東側から接近する敵艦隊に対しては、どうしても監視網が甘くなってしまう。

 

 今回の事態は、その事を浮き彫りにした形だった。

 

「いったい、どうしてこのような事態に陥ったのか!? 我が海軍のメンツは完全に丸つぶれだぞ!!」

 

 喚き散らすように言いながら、永野修(ながの おさむ)軍令部総長は、居並ぶ一同をジロリと睨み付けた。

 

 声は不必要と思える程に甲高く、まるで悲鳴のような印象があり、目も怒りの為に相当に血走っているのが判る。

 

 海軍の戦略を担当する軍令部の長である彼は、今回の事件に際して各方面から糾弾を受けている。そのストレス故か、相当にピリピリとした印象があった。

 

 まるで自身に向けられた糾弾を、そっくりそのまま吐き出すかのように、永野は喚いている。

 

 実際のところ空襲によって受けた被害は、そんなに大きい訳ではない。せいぜい潜水母艦から空母へ改装中の「大鯨」が直撃弾を受けて損傷したくらいである。

 

 民間人にも被害が出たのは大変遺憾だが、全体的な損害と言う意味では微々たるものである。勿論、帝国全軍の作戦行動には、何らの支障も無い。

 

 だが、帝都を空襲されたと言う事実その物が、極大のショックとなって帝国を打ちのめした。

 

 非難は敵艦隊の本土接近を許した海軍、ひいては、その戦略トップである永野に集まるのは自然な流れであった。

 

 最終局面で第2艦隊が米艦隊を猛追し、多数の敵機を撃墜したものの、その程度で収まるほどのショックではなかった。

 

「そもそも、なぜ敵空母が本土近海まで接近するのを防げなかったのか? 本土の防衛は万全ではなかったのか?」

「本土の東側に拠点となるべき地が少ないのが問題です。そのせいで、監視体制は洋上の索敵網に頼らざるを得ないのです」

 

 帝国では民間船と、その持ち主を軍属として雇い入れ、それを監視船として活用しているが、今回はそれが、一応功を奏した形である。

 

 しかし小型船による監視網は、航続距離の問題もあって万全とは言い難い物がある。早急に何か、有効な代替案が必要になるだろう。

 

 否、真に問題にすべきはそこではない。

 

 連戦連勝が続いて、帝国海軍全体が、と言うより帝国全体の緊張感が弛緩していたのは否めない。

 

 誰もが、本土が攻撃される可能性について真剣には考えていなかったのだ。米軍の攻撃は言わば、そうした心の隙を突いたに等しい。

 

「問題なのは残っている敵の空母です。これを捕捉し撃滅する事ができれば、二度とこのような事は起こり得ないと判断します」

 

 居並ぶ高官の1人がそのように発言する。

 

 確かに、理屈としては間違っていない。本土近海に米軍の拠点が無い以上、接近は空母を使うしかないのだから。

 

 しかし、真珠湾攻撃から既に数か月が経過し、敵も大西洋から戦力を増強しているのはず。

 

 確認できているだけで戦艦、空母それぞれ複数を含む艦隊が真珠湾に入港、太平洋艦隊と合流したと言う情報もある。

 

 それらの艦が合流した以上、捕捉撃滅と言っても、簡単にはいかないだろう。

 

「宇垣君、連合艦隊の意見は?」

 

 話を振られ、宇垣護連合艦隊参謀長は顔を上げた。

 

 今回の事件において、実働部隊側の責任者として、宇垣はこの場に出席していた。

 

「・・・・・・今回の一件は、確かに由々しき事態であり、早急な対策が必要なのは確かです」

 

 話を振られ、宇垣は口を開く。

 

 本土空襲を阻止できなかった責任は、連合艦隊に対するものが最も大きいと言える。それだけに、この場にあって宇垣に対して非難の目を向けて来る者も少なくなかった。

 

 だが、当の宇垣はと言えば、少なくとも見た目には表情に変化は見られない。正に「黄金仮面」の面目躍如というべきかもしれない。

 

 一同の冷たい視線を受け流しながら、宇垣は自身の鞄を取り出す。

 

「そこで、山本長官より、これをお預かりしてきました」

 

 そう言って、宇垣は自らが携えた書類を、一同の前へと差し出した。

 

「宇垣君、これは?」

「今回の事件より前から、山本長官が構想されていた作戦を、連合艦隊司令部のスタッフで書類化した物です。上手くいけば、今後二度と、今回のように本土が攻撃を受ける可能性はなくなるでしょう。どうか御一考いただきたく思います」

 

 尋ねる永野に対し、宇垣は表情を変えないまま、そう答える。

 

 一同が覗き込んだ、その書類。

 

 そこには「MI作戦」という文字が、表紙に書かれていた。

 

 

 

 

 

 会議を終えた宇垣が軍令部の建物を出ると、待っていた少女が駆け寄ってきた。

 

「お疲れ様です。参謀長」

「すまない、少し時間がかかったな」

 

 宇垣は待っていた大和に片手を上げて歩み寄った。

 

 今回の東京行きに際し、宇垣は大和に同行を頼んだのだ。

 

 今日の大和は、普段の白と赤のセーラー服姿では無く、白地の軍服にスカート履きと言う軍服姿をしている。艦娘としての恰好では目立つ為、正装をしてきたのだ。

 

 MI作戦の書類を纏めるに当たって日数が足りず、まとめ作業は移動の汽車の中でもやらなくてはならなかった程である。

 

 その為、宇垣は大和に同行と手伝いを頼んだのだ。

 

 大和は割と何でもこなす事ができる為、こういう秘書的な仕事にもうってつけだった。

 

「でも、宜しかったのですか? 私も会議に出席しなくて・・・・・・・・・・・・」

「ああ・・・・・・・・・・・・」

 

 大和の言葉を受けて、宇垣は険しい顔で考え込む。

 

 今回の会議において、軍令部から連合艦隊に対する突き上げは充分に予想された事であり、実際に永野などは、殆ど犯罪者でも見るような眼つきで宇垣を見ていた。

 

 そんな中に大和を連れては行きたくないと思った為、宇垣は彼女に、会議が終わるまで待っているように言ったのだ。

 

「今回は、作戦の意見具申がメインだったからな。それなら私だけでも充分だと思っただけだ」

「そうですか・・・・・・・・・・・・」

 

 宇垣の言葉に対し、大和は少し落ち込んだ様にうなだれて見せる。

 

 自分はまだ誕生して間もない存在であり、あまり信用されていないのかもしれない。とでも思ったのかもしれなかった。

 

 そんな大和の様子を横目で見ながら、宇垣は口を開いた。

 

「お前はよくやってくれている。今回にしてもそうだ。ついて来てくれて助かったよ」

「参謀長?」

 

 顔を上げる大和に、宇垣はフッと僅かに笑みを浮かべる。

 

「さて、会議で腹が減った。美味い店を知っているから食いに行こう。奢ってやるぞ」

「はい。お供します」

 

 そう言うと大和は、先を歩く宇垣に追いつくと、寄り添うようにして、ともに歩きだす。

 

 そんな大和に、宇垣はチラッと目を向ける。

 

「どうかしましたか?」

「いや・・・・・・・・・・・・」

 

 言い掛けてから、宇垣は少し言いにくそうに口を開いた。

 

「妻以外の女と、こうして外を歩くのは何年ぶりの事かな、と思ってな」

「参謀長には、奥様がいらっしゃるのですか?」

 

 驚いたように目を見開く大和。

 

 考えてみれば、宇垣ほどの年齢で妻帯していない方がおかしいだろう。まして、海軍と言えどある種の「役所」的な雰囲気がある。未婚の者は、懇意にしている提督からお見合いを進められる事もあると言う。

 

 対して、宇垣は自嘲気味に笑った。

 

「少し前に、他界したがな」

「あ・・・・・・すみません」

 

 慌てて謝る大和。言いにくい事を言わせてしまったと思ったのだろう。

 

 対して、宇垣は手を振りながら苦笑する。

 

「気にするな。と言うか、先に言い出したのは俺の方だぞ」

「そ、そうでしたね・・・・・・」

 

 恐縮する大和。

 

 対して宇垣は、遠くを見つめるように懐かしげな瞳をする。

 

「俺にはできすぎた人でな、海軍士官の妻と言う事で、苦労ばかりを掛けてしまった」

「参謀長・・・・・・・・・・・・」

 

 大和はそっと宇垣の傍らに立つと、控えめに腕を取って絡ませる。

 

「大和?」

「今日は、私がお付き合いさせていただきます。奥様の代わりには物足りないかもしれませんが」

 

 そう言って上目遣いで見上げてくる大和。

 

 それに対して、宇垣は暫く黙したまま大和を見ていたが、やがて「そうか」と呟くと、そのまま大和を伴って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「蒼龍」の執務室にこもり、山口多聞は紙の上にペンを走らせていく。

 

 その表情は真剣そのものであり、まるで剣士が果し合いに臨んでいるかのようだ。

 

 インド洋において行われた第1航空艦隊の作戦は、成功裏の内に終了した。

 

 1航艦は徹底した航空攻撃を実施し、インド洋におけるイギリス軍拠点を攻撃。その大半を使用不能に陥れる事に成功した。

 

 対して、劣勢のイギリス東洋艦隊は、正面からの対決では勝機は薄いと判断しインド洋の西側へと退避。これにより、インド洋の制海権は事実上、帝国海軍が握る事となった。

 

 その後、帝国海軍はインド洋における敵補給路を封鎖する為、巡洋艦を中心にした通商破壊部隊を展開し、1航艦は本土へと引き上げた。

 

 その帰路の中で、本土空襲の情報が舞い込んで来た。

 

 帰還途上の1航艦にも、直ちに敵艦隊追撃の命が下ったが、その時の1航艦は、まだ台湾沖を航行中であり、当然ながら敵艦隊を捕捉する事はできなかった。

 

 そうした一連の事態を受け、山口は現在の海軍、そして帝国を取り巻く状況に、ある種の危機感を覚えていた。

 

 今の帝国は、あまりにも緊張感が無さすぎる。初戦の勝利によって、緩み切っているのだ。

 

 敵を侮り、危機的状況に陥っても対応する動きが鈍い。都合の悪い事は「そんな筈はない」「あり得ない」として見ぬふりをする。そんな風潮が広がり始めている。

 

 それが、今回の本土空襲騒ぎである。

 

 これは由々しき事態である。放置すれば、いずれは重大な事態を招くような気がしてならなかった。

 

 今回の事で、本土の連中が目を覚ましてくれれば良い。

 

 しかしもし、目を覚まさなかった時は?

 

 その時の為に、山口はペンを取っていた。

 

 自分はある種の「爆弾」を、味方に投下しようとしている。その事は、山口自身も認識していた。

 

 だが、それくらいやらないと、海軍上層部の目は覚めそうにない。

 

 これは今、誰かがやらなければならない事だった。

 

「・・・・・・・・・・・・よし、これは、こんな感じで良いな」

 

 一つの書類を書き上げてから、山口は次に掛かろうと再びペンを取った。

 

 その時だった、

 

「多っ聞丸~!! 遊びに来たよ~!!」

 

 突然、ドアが蹴破られる勢いで開け放たれ、思わず山口はつんのめり、書き掛けの書類にペンを押し付けてしまう。

 

 見れば、開け放たれた扉の向こうで、飛龍が楽しげに手を振っている。

 

 その傍らでは、直哉と蒼龍が、困ったような苦笑を浮かべているのが見える。どうやら、2人とも飛龍に付き合わされた口らしい。

 

 構わず、部屋の中に踏み込んでくる飛龍。

 

「多聞丸ッ こんな昼間から閉じ籠ってたら、その内、キノコでも生えて来ちゃうよ。たまには外出ないと」

 

 そう言って、突っ伏したままの山口の肩をバンバンと叩く。

 

 と、

 

 そこでゆっくりと、山口が顔を上げる。

 

「ん、多聞丸?」

 

 キョトンとする飛龍。

 

 対して山口は、何やら凄味のある雰囲気を滲ませながら、ゆっくりと振り返る。

 

「ひ~~~りゅ~~~う~~~」

「「「ッ!?」」」

 

 一同が思わず後ずさる中、

 

 次の瞬間、山口は腕を伸ばすと、飛龍の頭を小脇に抱え込む。

 

 そして、そのまま思いっきり締め上げた。

 

「イタタタ、痛い痛い、多聞丸、痛いッ!!」

 

 強烈なヘッドロックを喰らい、苦し紛れに山口の腕をバンバン叩く飛龍。

 

 しかし、山口は一切、腕を緩めようとしない。

 

「痛い痛い、マジで痛いって!! ごめんなさ~い!!」

 

 マジ泣きし始める飛龍。

 

 そこで、ようやく飛龍を解放する山口。

 

「ったく、人の邪魔すんな。あと、『多聞丸』はやめろって言ってんだろ」

 

 そう言いながら山口は、机の上の書類に目をやって嘆息する。

 

 飛龍の「突入」のせいで、書き掛けの書類が一部、インクで汚れてしまっている。

 

 これは書き直す必要があった。

 

「そう言えば、前から聞こうと思っていたんですけど・・・・・・」

 

 一連のやり取りを見ていた直哉が、恐る恐ると言った感じに発言する。

 

「何で、『多聞丸』なんですか?」

 

 飛龍がなぜ、山口の事をそのように呼ぶのか、直哉は前々から気になっていたのだ。

 

 成程、山口の名前は多聞(たもん)だ。それを考えれば「多聞丸」と言う呼び方も判らなくはないのだが、しかしやはり、渾名としては違和感がある。そもそも渾名とは、相手の名前を呼びやすくして親しみを増す目的もある。それを考えれば、却って呼びにくくなっている気もした。

 

 それに対し、山口は罰が悪そうに頭を掻きながら振り返る。

 

「昔の武将に楠正成(くすのき まさしげ)って言うのがいただろ。あれの幼名が多聞丸なんだが、うちの両親が楠正成のファンでな。それで、こんな名前を付けたんだよ」

「ああ、なるほど・・・・・・」

 

 納得したように、直哉は頷く。

 

 確かに、歴史や昔の武将が好きな両親だったら、子供の名前に、それらに纏わる物を使うと言うのは充分考えられた。

 

「ったく、いくら何でも今時、息子の名前に『たもん』はねえだろ」

「良いじゃん『多聞丸』格好良いよ」

「お前は黙ってろ」

 

 言い募る飛龍にピシャリと返す山口。

 

 だが、そんな山口に構う事無く、飛龍は手にした箱を差し出す。

 

「ほらほら、お土産もあるし。一息入れようよ」

 

 そう言って箱を空ける飛龍。

 

 同時に、中からほんのり甘い香りが漂ってくる。

 

「じゃじゃーん。間宮さんの羊羹だよ~ 前に多聞丸が好きだって言ってたから、買ってきちゃった」

 

 見れば確かに、箱の中には四角く切られた黒い羊羹が、薄いシートに包まれて収まっている。

 

 間宮のスイーツはどれも一級品だが、中でも人気が高いのが羊羹である。その秘伝とも言われるレシピは、艦娘の間宮禁制とも言われており、本当に親しい人間や数人の艦娘以外、絶対に教えないとさえ言われている幻の品である。

 

 その羊羹を手に入れる為に、長蛇の列ができる事もあるらしい。

 

 土産としては、一級品である事は間違いないだろう。

 

 元々、甘い物には目が無い山口も、これには心動かされる物があったらしい。飛龍の態度に嘆息しつつも、張りつめていた肩の力を抜く。

 

「・・・・・・・・・・・・一息入れるか。蒼龍、悪いが茶を淹れてくれ」

「はい」

 

 言われて、蒼龍は嬉々として茶棚へと駆け寄って行く。

 

 程無く、テーブルには人数分の羊羹とお茶が用意され、即席のお茶会ムードが作られた。

 

「そう言えば提督」

 

 間宮羊羹に舌鼓を打ちながら、蒼龍はふと気になった事を尋ねた。

 

「この間からずっと、部屋に閉じこもりっきりですけど、何を書いてらっしゃるんですか?」

 

 根を詰めて働き通す山口の事を、蒼龍も心配していたのだ。

 

 対して、山口は茶に口を付けながら、チラッと自身の執務机の方を向き、険しい表情を作る。

 

「今はまだ言えない。だが、いずれ必ず、必要になる物だ」

 

 そう、この帝国が、本当にこの戦争で負けない為に、必ずや、この書類が必要になる時が来る。

 

 山口は、そう確信していた。

 

「ふーん、多聞丸も色々と大変だね。インド洋に行ったと思ったら、帰って来るなり休みもせずにそんな物書いたりして」

「お前と違って働くのが好きだからな」

「うわっ それってひどくない!?」

 

 プクッと頬を膨らませる飛龍。

 

 そんな少女の様子を見ながら、山口はふと思い出したように話題を変えて口を開いた。

 

「良い機会だから、お前達には先に言っておこう。俺は近々、旗艦を『飛龍』に変更する予定だ」

「え、多聞丸、あたしの所に来るの!?」

 

 途端に、先ほどとは一転して気色を浮かべる飛龍。

 

 山口が自分の所に来る事が、よほど嬉しいらしい。

 

 対して、山口はと言えば、やや嘆息交じりに飛龍を見やりながら続ける。

 

「蒼龍は働き詰めだから、少し休ませてやりたいんでな。まあ、聊か不本意ではあるが・・・・・・」

 

 そう言ってぼやき気味に言う山口。

 

 とは言え、その目は決して嫌がっている様子ではないように直哉には思える。

 

 何だかんだ言いつつ山口も、決して飛龍を疎んじている訳ではないのだ。

 

 そんな中で1人、蒼龍だけが浮かない顔をしている。

 

「提督、私は・・・・・・・・・・・・」

「お前の艦体は整備も必要だ。無理せず休め。これからの戦い、お前達にはまだまだ、頑張ってもらう必要があるんだからな」

 

 そう言って、山口は蒼龍の肩を軽く叩く。

 

 そこへ、横合いから飛龍も、蒼龍に抱きついた。

 

「そうそう、多聞丸の事はあたしに任せて、蒼龍はゆっくり休んで。また一緒に戦おうよ」

「飛龍・・・・・・・・・・・・」

 

 純真な飛龍の笑顔に、蒼龍も釣られるように笑顔を浮かべた。

 

 そんな2人の様子を、直哉は微笑ましそうに眺める。

 

 飛龍は割と何でも考えなしに突っ走っているように見えるが、その実、誰よりも本質を見ている場合が多い。

 

 今回の事にしたところで、山口がずっと部屋に閉じこもり、ろくな休憩も取らずに何かを書いていると蒼龍が話したところ、真っ先に「じゃあ、お見舞いに行こう!!」と言い出し、蒼龍と直哉を引っ張る形でやって来たのだ。

 

 しかし反面、その性格から来る危うさもまた、直哉は感じていた。

 

 飛龍は目的を見定めれば、そこに至るまでに最大限の努力をする反面、それ以外の事は目に入らなくなってしまう傾向がある。

 

 一方で蒼龍は、飛龍に比べると思慮深い一面を持っている。何事にも落ち着いた印象があり、それでいて控えめで、常に一歩引いたような言動が目立つ。

 

 そのせいで、聊か割を食っているような印象が無くも無いが。

 

 性格は驚くほどに正反対な2航戦コンビは、それでいて抜群に仲がいい。

 

 準同型艦で、本来なら血縁の無い飛龍と蒼龍。しかし、あるいはだからこそ、2人は互いに気兼ねない関係でいられるのかもしれない。

 

 そんな2人の関係を、直哉は何となく、羨ましく思うのだった。

 

 

 

 

 

第10話「各々の一手」      終わり

 

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