1
日差しと海風がない交ぜになった空気は、独特の匂いを伴って包み込んでくる。
珊瑚海が齎す海風が駆け抜けていくと、南国特有の日差しの強さも気にならなくなっていた。
「やっぱり、海の上の方が気持ちいいね」
彰人が呑気に声を掛けると、傍らで頷く気配があった。
艦橋の窓を開け放っている為、合成風によって生み出される風が直接吹き込んでくる。いわば天然のクーラーである。
そのおかげで、照り付ける日差しの中にあっても、艦橋内は快適な空気が保たれていた。
普段の無表情振りのせいで判り辛いが、どうやら姫神的にも、この暑さはきつい物があったようだ。
「姫神」は現在、MO遊撃部隊旗艦として、パプア・ニューギニアの東側沿岸を航行していた。
部隊を構成する僚艦は「黒姫」と「島風」の2隻。
要するに、名称こそ違えど元の第11戦隊のままと言う事だ。
遊撃部隊の前方には、「翔鶴」「瑞鶴」を中核としたMO機動部隊が航行しており、この部隊がモレスビー攻撃の際の航空支援部隊である。
後方に目を向ければ、MO攻略部隊が航行しているのが見える。こちらは輸送船団を伴った本隊であり、「祥鳳」「瑞鳳」も、この攻略部隊と行動を共にしている。
「しかし、こう暑いと、嫌になるね。いっそ、海に飛び込んでみたくなるよ」
「私は飛び込みました・・・・・・と言うか、投げ込まれました」
先日の黒姫と島風にされた悪戯の事を思い出し、姫神は不機嫌そうに眉をしかめた。
あの後も結局、2人に付き合わされて昼寝どころではなかったのだ。おかげで出撃以来、姫神はずっと不機嫌そうにしている。
だが、その話を聞いて彰人は可笑しそうに笑った。
「・・・・・・・・・・・・何が可笑しいのですか?」
不機嫌な声を上げる姫神。
こちらは大変だったのに、それを笑う彰人を不審に思ったのだ。
「いや、考えただけで楽しそうだなって思ってさ」
対して、彰人は笑みを浮かべたまま言う。
「その場にいなかった事が悔やまれるよ」
特に、姫神が海に放り込まれてたたき起こされた辺りが面白い。その場に自分がいたら、爆笑した事は間違いなかった。
「不愉快です」
「まあまあ、そう言わないで」
無表情のままそっぽを向く姫神を、彰人は笑いながら宥める。
「この作戦が終わって暇ができたら、みんなで泳ぎに行こうか。きっと気持ち良いよ」
「・・・・・・・・・・・・」
彰人の言葉に対し、姫神はムスッとしたままこちらを向こうともしない。
ややあって、低い声で口を開く。
「・・・・・・・・・・・・考えておきます」
それだけ言うと、姫神はまた、進路前方を静かに見つめ続けた。
一方その頃、
帝国海軍MO部隊の遥か東方に、彼等の動向をつぶさに観察する目があった。
南下する帝国艦隊と、距離を置いて並走するような形を取っている艦隊の中心には、2隻の航空母艦が据えられている。
ただし、形状は明らかに帝国の物ではなく、より機能的に洗練された印象を持っている。
彼女達の飛行甲板には既に、多数の航空機が並べられ、出撃の時を待ちわびていた。
「日本艦隊・・・・・・まさか本当に来るとは・・・・・・」
「ハハ、ジャップは馬鹿ばっかりだからな。アタシらがここにいる事にも気づいてないんだろうさ」
険しい顔で呟く少女に対し、その少女の横に立つ女性は、不敵な笑みを浮かべて返す。
少女はやや大人びた顔立ちに、ストレートに下ろした美しい茶髪が特徴的である。
対して、女性の方は髪をベリーショートに切り揃え、その瞳は獲物を求める狩人のように吊り上げられているのが判る。
事態を重く見ている少女に対し、女性の方はいかにも好戦的な風情である。
そんな女性を、少女はやんわりとした口調で窘める。
「油断してはダメですよレンジャー。向こうは4隻、こちらは2隻。単純な戦力差だけでも倍は違うのですから」
「判ってるよ、ヨーク。けど、折角のカモがノコノコと列作って泳いでるんだ。撃たない手は無いだろ?」
そう言って、女性は少女に笑い掛ける。
何となく、ガサツな姉を、しっかり者の妹が窘めているような雰囲気である。
少女の名はヨークタウン。ヨークタウン級航空母艦の1番艦であり、帝都を襲った「ホーネット」「エンタープライズ」の実姉に当たる。
一方の女性の方はレンジャー。レンジャー級航空母艦の唯一の構成艦であり、ヨークタウンにとっては自身の前クラスと言う事もあり、一つ上の姉のような存在でもあった。
レンジャー級は合衆国が保有する正規空母の中では最も小さい艦であるが、それでも常用補用合わせると100機以上の搭載機数を誇り、実質的な攻撃力は帝国海軍の空母よりも高い。
「レックス姉の仇でもあるんだ。奴等、タダじゃ帰さないからな」
「・・・・・・そうね」
レンジャーの言葉を聞いて、ヨークタウンは少しだけ顔を伏せる。
開戦劈頭に、敵水上艦の砲撃で撃沈されたレキシントン。
その報告を大西洋で受けた時、全ての空母艦娘は泣き崩れた物である。
「レディ・レックス」の愛称で親しまれたレキシントンは、全ての空母の憧れであり、また姉のような存在だった。
包容力があり、誰にでも優しかったレキシントン。
その彼女を失った時の悲しみは、ヨークタウンも忘れる事ができない。
そして、レキシントンの命を奪った日本海軍に対する怒りも、忘れていなかった。
「先行した潜水艦の報告だと、奴等、3群に分かれて行動しているらしい。先頭と最後尾の連中は空母2隻を伴った機動部隊だって話だよ」
「空母を2群に分けているのね。上手い手だわ。でも、真ん中にいる小規模の艦隊は何かしら?」
ヨークタウンは、そう言って首をかしげる。
そんなところに、数隻の艦隊を配置した意味が分からなかった。
「警戒隊か何かだろう。いずれにしても、気にするほどのものじゃないさ」
そう言って、レンジャーは、日本艦隊中央の小部隊の事を気にする事は無くなった。
だが、
レンジャーも、ヨークタウンも気付いていなかった。
まさか、その小部隊こそが、レディ・レックスことレキシントンの仇であるとは。
もし2人がその事を知ったなら、一も二も無くMO遊撃部隊に集中攻撃を仕掛けるよう、提督に進言した事だろう。
「どっちをやる? 前か、それとも後ろか?」
レンジャーの言葉に、ヨークタウンは考え込む。
軍の先鋒部隊と言うのは、初めに敵の接触を受ける可能性が高いため、精鋭部隊が配置される可能性が高い。
事実、ヨークタウンたちはまだ把握していなかったが、MO部隊もまた、最も攻撃力が高い5航戦を先鋒として配置している。
それに対し、後方に配置された本隊は、後方にいると言う状況から、先鋒部隊に比べると油断している可能性が高い。
米艦隊は日本艦隊に対して戦力的に劣っている。ならば、最も叩きやすい敵を先に叩くのが効率的だった。
「後方の部隊にしましょう。うまく奇襲を掛ければ、大打撃を与えられるかも」
「OK、それで行こう」
ヨークタウンの案に、レンジャーも即座に同意する。
2人は頷き合うと、ヨークタウンはその事を提督に進言する。
その間にレンジャーも、自分の艦に戻って出撃準備を整える
やがて、2人の進言通り、MO攻略部隊への攻撃を決定した米艦隊は、艦載機を発艦させるべく、風上に向かって艦首を向けるのだった。
2
MO攻略部隊の指揮官、高木中将は、今回の作戦について、さほど緊張感を持って当たっているとは言い難かった。
彼は弱小のオーストラリア海軍が相手なら、手持ちの兵力だけで充分に勝機はあると考えていた。
唯一の懸念材料である、敵空軍部隊の存在も、4、5航戦の増援によって、充分に抑え込める目途が立った。
後はポートモレスビーを目指しひたすら南下するだけ。そう考えていた。
しかし、
「機影、だと?」
「はい。外周警戒中の駆逐艦からの報告です。東より接近する多数の機影があると」
報告したのは、第5戦隊の旗艦を務める「妙高」の艦娘だ。短く切りそろえた髪が、知的な印象を与える女性である。
同じ妙高型重巡洋艦の「足柄」は、その強武装と高速性能から、列強各国の海軍関係者をして「餓狼」と言わしめた程の性能を持つ。(ただし防御軽視と復元性、居住性の悪さを指摘した蔑称だと言う異説もあるが)
その妙高が、緊張の面持ちで敵機の存在を示唆していた。
だが、妙高の緊張感は、いまいち高木には伝わらなかったようだ。
高木はやんわりとした笑顔を向けると、嘆息交じりに妙高へ言った。
「緊張のしすぎじゃないかね? 敵が来るとしたら南だろう。間違っても東じゃないさ。東には海しかないんだからな。それに、万が一敵が来たとしても、5航戦が迎撃する手筈になっているんだ。気にする事は無い」
「しかし提督、もし米艦隊が増援に来ていたとしたら・・・・・・」
「それこそあり得んよ。黒鳥大佐も言っていただろう。米軍が本作戦の事を知る事は不可能だと」
そう言って、高木は妙高の肩を軽く叩く。
連合艦隊から派遣された黒鳥大佐は、作戦情報が漏れる事はあり得ないと言っていた。ならば、何も心配はいらないだろう。
敵の増援は無い。こちらは何の心配もせず、ポートモレスビー攻略に手中すればいいのだ。
「もっと力を抜きたまえ。米豪遮断作戦はまだ始まったばかりなんだ。今からそれでは、終盤前に息切れしてしまうぞ」
「はあ・・・・・・・・・・・・」
高木の言葉に、尚も納得できないと言った感じの妙高。
しかし、司令官が判断を下した以上、それを覆す事もできなかった。
だが、
妙高の懸念は、不幸な事に杞憂ではなかった。
事態は、程なく顕在化する。
「左30度!! 敵味方不明機接近ッ 数、約40!!」
絶叫に近い見張り員からの報告に、誰もが絶句した。
「馬鹿なッ 敵機だと!?」
中でも一番狼狽しているのは、高木だろう。
敵は来ない。その前提で作戦を進めていた彼にとって、敵機来襲は全くの寝耳に水と言って良かった。
「4航戦旗艦『祥鳳』より入電ッ 《直ちに直掩隊発艦の要有りと認む》!!」
「ま、待てッ!!」
通信長からの報告に、高木はとっさに制止を掛ける。
「まだ敵機と決まった訳じゃない。まずは5航戦に確認を取ってから・・・・・・・・・・・・」
高木は、向かってくる敵が味方、5航戦の艦載機が何らかの理由で北上して来たかもしれないと考えたのだ。
もしそうなれば、同士討ちの危険性もある。
しかし、
「提督、そんな事をしている内に敵がきてしまいます!!」
焦慮に駆られたように、妙高が叫ぶ。
今はもう、そんな事を気にしている場合では無い。そもそも100歩譲って高木の言う通り、向かってくるのが5航戦の艦載機であるなら、自分達の方へ向かう意味が分からない。
だが、今の高木は、その程度の事を判断する余裕すら失われていた。
その頃、
「祥鳳」と「瑞鳳」率いる第4航空戦隊司令官は、攻略部隊司令部からの指示を待たずに、発艦準備を進めようとしていた。
華奢な艦体を持つ小型空母2隻が、機関を最大まで上げて増速しつつ回頭、風上に向かって突進する。
合成風力を作り出す事で、発艦に必要な滑走距離を稼ぐのだ。
「頼むぞ、祥鳳」
「判っています。お任せください」
司令官の言葉に、祥鳳はやや大人びた顔に険しさを滲ませて頷きを返す。
その視線の先では、エレベーターを使って艦内の格納庫から零戦が飛行甲板に上がってくる様子が見える。
しかし、立ち上がりを制されたのは痛い。
今から発艦準備に入ったとしても、敵が攻撃を開始するまでに、どれだけの数が上空に上げられるか判らなかった。
加えて「祥鳳」と「瑞鳳」は目立つ。敵が真っ先に狙ってくるのは目に見えていた。
「とにかく、1機でも多く上げないと・・・・・・・・・・・・」
呟きながら、祥鳳はチラッと、自身の後方を航行する「瑞鳳」を思い浮かべる。
何かあったとしても、大事な妹だけは絶対に守り通す。
その想いを新たにしつつ、飛行甲板を蹴って発艦していく零戦隊を見守った。
MO攻略部隊に敵機来襲。
その報告は、直ちに遊撃部隊にももたらされた。
電文を素早く一読し、彰人はあからさまな舌打ちをする。
「だから言ったんだ・・・・・・・・・・・・」
温厚な青年提督にしては珍しく、苛立ちを顕にして呟く。
出撃前の会議で、米軍が増援として現れる可能性を言及した彰人に対し、軍令部参謀の黒鳥大佐は自信満々に「米艦隊は来ない」と言い切っていた。にも拘らず、この体たらくである。
珊瑚海の東側には連合軍の大規模拠点は無かったはずだから、そちらの方角から来たと言う事は、間違いなく空母艦載機だ。陸上機を運用するには大掛かりな飛行場が必要になるが、仮に連合軍が帝国軍の侵攻を察知してから建設を開始したのだとしても、間に合う筈がない。
可能性としては空母以外に考えられない。
オーストラリア海軍には空母は無いし、イギリス軍が貴重な空母をこんな所に派遣したとも思えない。
消去法で言って、米空母以外に考えられなかった。
だが、苛立ちをぶつけるのは後の事だ。今は喫緊に片付けなくてはならない事案がある。
「取り舵一杯、進路反転180度!!」
「『黒姫』『島風』に信号、《我に続け》!!」
彰人は二つの指示を素早く指示を飛ばす。
まずは、来襲した敵を撃退しない事には話にならなかった。
「姫神」が大きく艦首を巡らして、元来た道を戻り始める。
それに、後続していた「黒姫」と「島風」も続く。
「今から戻っても、間に合わない可能性が高いと思います」
回頭する艦の動きを足元に感じながら、姫神は済んだ瞳を彰人に向けてくる。
確かに、いかに高速が売りの第11戦隊とは言え、航空機の速度には敵わない。
今から行っても、敵の攻撃には間に合わない可能性が高いと指摘する姫神の主張は正しい。
しかし、
「行かないよりはマシだよ」
彰人は厳しい目をしたまま、さばさばした口調で言う。
元々、こういう時の為の遊撃部隊である。本隊に危機が迫っている以上、その掩護に動くのは当然の事だった。
それに攻略部隊には同じ第2艦隊の「祥鳳」と「瑞鳳」もいる。彼女達を助けるために、無理にでも掩護に行くべきだった。
そこでふと、彰人はある事を思い出して姫神を見た。
「そう言えば、出撃するときに、新型の対空兵装を積み込んでいたよね」
「はい。いつでも使えるように整備してあります」
彰人の言葉に、頷きを返す姫神。
帝国海軍が、防空戦闘の切り札とすべく新規に開発した砲弾。上手くいけば、今後の防空戦闘を一変しる、画期的な新兵器。
それが今、「姫神」と「黒姫」の弾薬庫に試験的に積まれている。
「必要になると思うから、装填しておいて。黒姫も」
「了解しました。クロにも伝えておきます。」
「うん、お願い」
巡戦少女が返す静かな返事を聞きながら、彰人は北の空に目を向ける。
そこでは今、敵の攻撃を受けてMO攻略部隊が奮戦している筈である。
最悪の事態に陥る前に、何とか間に合ってくれればいいのだが。
彰人は祈るような気持ちで、「姫神」の機関出力が上がる音を聞いていた。
3
MO攻略部隊に来襲した敵艦載機は、予想通りと言うべきか、2隻の空母、「祥鳳」と「瑞鳳」に殺到していた。
唸りを上げて襲い掛かってくる米軍機。
それに対して、緊急発進した日本軍機も必死の反撃に転じる。
しかし、数が違い過ぎた。
日本側は「敵は来ない」と思い込んで油断していた為、迎撃態勢がほとんど整っていない状態だった。その為、迎撃に上がる事が出来た零戦の数は10数機に過ぎなかった。
それに対し、奇襲に近い形になった「レンジャー」「ヨークタウン」隊は、合計で100機からの航空機を繰り出してきている。
いかに零戦の性能を持ってしても、10倍の敵を阻止する事は不可能に近かった。
たちまち両軍は乱戦の様を呈し、蒼空に曳光弾の軌跡が刻まれる。
そんな中、一部の米軍機が零戦のエアカバーを突破し、艦隊へと迫りつつあった。
狙われたのは、「瑞鳳」である。
低空まで舞い降りたデバステーター雷撃機が、腹に抱いた魚雷を小柄な空母の左舷から向かってくる。
「クッ かわして見せます!!」
対して瑞鳳は機関出力を上げ、最高速度の28ノットで駆けまわりつつ、対空砲火を撃ち上げる。
同時に舵機室では、操舵手が必死になって舵輪を回して回避に努めている。
しかし、空母は元来、個艦戦闘力の低い艦である。
勿論、「妙高」以下の艦隊も掩護射撃を行ってくれてはいるが、その火線が敵機を捉える事はない。
脆弱な対空砲火は次々と突破され、デバステーターは「瑞鳳」へと迫ってくる。
ようやく、1機のデバステーターが対空砲火の火線に捉えられて火を噴いたころには、他の機体は魚雷投下体勢に入っていた。
軽い水飛沫と共に、水面下の航走を開始する魚雷。
しかし、対空砲火によって時間を稼いだのが功を奏したのか、魚雷が向かってくる頃には、既に「瑞鳳」は転舵が完了し、魚雷との正対を終えていた。
やがて、魚雷は「瑞鳳」の両舷を高速で駆け抜けていく。
どうにか、回避に成功したようだ。
「ふう、やりました・・・・・・」
額に浮かんだ汗をぬぐいつつ、安堵の溜息を漏らす瑞鳳。
遅ればせながら、「瑞鳳」の危機に気付いて引き返してきた零戦が、魚雷を放ったデバステーターに取りついている。
魚雷を投下し終えて退避しようとしていたデバステーターだが、遥かに軽快な運動性を誇る零戦に捕捉され、次々と炎を上げて海面に突っ込んで行く光景が見えた。
だが、その時だった。
独特の風切り音が彼方から聞こえ、思わず瑞鳳は振り返る。
その音が聞こえる方向にいるのは、確か・・・・・・
「祥鳳!?」
とっさに姉の名を呼ぶ瑞鳳。
見れば、「祥鳳」目がけて、ドーントレス爆撃機が急降下に入ろうとしていた。
「祥鳳」の方でも、何とか攻撃を回避しようと必死に回頭しようとしているが、急降下爆撃は雷撃よりも命中率が高い。
見る見るうちに迫って来たドーントレスが、次々と腹に抱いた爆弾を切り離していく。
それに対し「祥鳳」は、回避運動によって3発までの爆弾を回避する事に成功する。
林立する水柱の中を、どうにかすり抜けるようにして全速力で航行する「祥鳳」。
このままなら、回避に成功するか?
そう思った次の瞬間、
衝撃が彼女に襲い掛かった。
轟音と共に発生する爆炎。
「ああァ!?」
全身に激痛が走り、悲鳴を上げる祥鳳。
爆弾命中のダメージが直接襲い掛かり、軽空母の少女を痛めつける。
立て続けに2発の爆弾が飛行甲板に命中し、格納庫内に飛び込んでいた。
幸い、「祥鳳」の艦載機は、殆どが戦闘機である為、可燃物は正規空母に比べれば少ない。その為、誘爆が起きる危険性も少ないだろう。
しかし、基準排水量1万トンそこそこの小型空母にとって、爆弾2発の命中は無視できない。
爆弾炸裂の衝撃で艦内は破壊され、更に行き足も鈍る「祥鳳」。
衝撃で砲員がなぎ倒されたのか、対空砲火も一時的に弱まっている。
そこへ、更なる攻撃が襲い掛かろうとしていた。
複数の雷撃機が、高度を下げつつ「祥鳳」に襲い掛かろうとしていた。
速度が低下し行き足が鈍りつつある「祥鳳」には、もはや回避する力は残っていない。
「だめッ 祥鳳、早く逃げて!!」
絶叫する瑞鳳。
彼女が見ている前で、姉にトドメを刺そうと襲い掛かってくるデバステーター。
その腹に抱いた魚雷が不気味に輝いた。
次の瞬間、
横合いから突風のように放たれた砲撃によって、複数のデバステーターがバランスを崩して吹き飛ばされた。
「えッ!?」
驚く瑞鳳。
そこへ、更に砲火が重なり、直撃を受けたデバステーターは、バランスを保てずに海面へ突っ込んで行く。
振り返ったその先。
その姿を見た瞬間、瑞鳳は顔をほころばせた。
そこには、急報を受けて引き返したMO遊撃部隊。第11戦隊の姿があった。
「姫神」と「黒姫」は左舷側に備えた4基の長10センチ高角砲を放ち、負けじと、後続する「島風もまた、連装6門の主砲を振り立てている。
「『祥鳳』被弾、現在炎上中・・・・・・他の艦は対空戦闘を継続中の模様」
抑揚を無理やり押さえたような声で行われた姫神からの報告に、彰人は内心の苛立ちを誤魔化すように、手を強く握り締める。
考えられる限り、最悪の事態になってしまった。
祥鳳が生き残れるかどうかは、ここからでは判別はできない。しかしより大きな問題なのは、「敵は来ないと」頭から決めつけ、結果として奇襲を許してしまった事である。
だが、そんな事は後回しだ。全部終わってから、作戦反省会ででも追求すれば良い。
「MO遊撃部隊全艦に通達。対空砲火で『祥鳳』を掩護しつつ、敵機の撃退に努めよ」
「了解」
彰人の指示に、姫神も小さく頷きを返してくる。
普段は大人しく無口な姫神だが、そんな彼女もまた、祥鳳が傷付けられたと言う事態に怒りを覚えている様子である。
やがて、残った米軍機も零戦に追い回されて撤退していく。
その様子を、彰人は安堵と共に眺めるのだった。
第12話「珊瑚海南進」 終わり
レックスは初っ端で沈めてしまったので、代わりの方にお越しいただきました。