蒼海のRequiem   作:ファルクラム

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第19話「反撃の飛龍」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「飛龍」の甲板を蹴って、第2次攻撃隊が次々と発艦していく。

 

 数は零戦6機、99艦爆18機。合計24機。

 

 本来であるならば、この4倍の数の攻撃隊を放つ事が出来た事を考えれば、わびしい限りである。

 

 しかし、

 

 「飛龍」艦橋にて指揮を執る山口多聞の闘志には、聊かの陰りも無い。

 

「進路90度にて全速前進!!」

「ちょ、多聞丸、それって・・・・・・」

 

 山口が発した命令に、流石の飛龍も仰天する。

 

 山口が発した命令は、真東、つまり敵艦隊が待ち構えているであろう方角に飛び込んで行く進路である。

 

 転舵する「飛龍」に、他の艦が慌てて追随してくるのが見える。

 

 こちらは空母を3隻もやられた身である。本来なら、損害を押さえる為に少しでも距離を置こうとする物である。

 

 だが、山口は躊躇う事無く、その逆をやろうとしていた。

 

「敵の空母が何隻来ているか判らんが、こっちは1隻しか使えなくなった。なら、1隻で複数やるには、及び腰になっている場合じゃないだろ」

 

 不利な状況だからこそ、あえて敵に接近する。少ない戦力で敵を倒すには、可能な限り距離を詰め、攻撃を反復する以外に無かった。

 

 山口の言葉に、艦橋にいた全員が活気づく。

 

 我等が司令官は、まだ闘志を失っていない。

 

 まだ、勝利の可能性を捨てていない。

 

 その事実が、天をも突く勢いで士気を高める。

 

 誰もが意気を上げる中、山口は周囲の海面に目を向ける。

 

 炎を噴き上げて、海上に停止している「赤城」「加賀」「蒼龍」の3隻。

 

 ほんの数分の間に、とんだことになった物である。

 

 特にひどいのは「赤城」と「加賀」である。

 

 2隻は、艦首から艦尾に至るまで、まるで松明のように燃え盛り、今も時折、小爆発を繰り返しているのが見える。

 

「恐らく、誘爆だな・・・・・・・・・・・・」

 

 2隻の様子を見ながら、山口は呟きを漏らした。

 

 発艦直前だった1航艦の各空母には、完全武装した攻撃隊が待機していた。そこに爆弾を落とされた結果、搭載魚雷や爆弾が一斉に誘爆し、艦内から食い破られたのだ。

 

 赤城や加賀、それに南雲司令部の面々が無事かどうか、それを確認する術は無かった。

 

「炎上中の各空母に、駆逐艦を2隻ずつ横付けして消火作業に当たらせろ」

 

 命じながら、山口はもう1隻の空母、「蒼龍」に目を向ける。

 

 見れば、激しく炎上している「赤城」「加賀」に比べて、「蒼龍」は比較的損傷が少ないように見える。

 

 直哉の捨て身の援護によって、爆弾命中が1発に押さえられたのが功を奏したのだろう。あれが無かったら「蒼龍」も危なかったかもしれない。

 

 延焼さえ食い止める事ができれば、「蒼龍」は助かる可能性があった。

 

 とは言え、そちらは蒼龍自身と、彼女の乗組員。それに、消火協力する駆逐艦にゆだねるしかないだろう。

 

 山口と飛龍の任務は、如何にして自分達だけで敵空母を仕留めるか? その一点にある。

 

 と、その山口の耳に、軽快なエンジン音が上空から響いて来るのが聞こえた。

 

 目を向ければ、銀翼を翻して鋭く飛翔する零戦の姿がある。

 

「直哉の機体だ!!」

 

 笑顔を浮かべて、大きく手を振る飛龍。

 

 その様子に、山口は嘆息する。

 

 味方が上げる対空砲火の中に自ら飛び込んで行った直哉。

 

 それで無傷だと言うのだから、感心すればいいのか呆れればいいのか、判断に悩むところである。

 

「タイミングを見て、相沢達を降ろすぞ。彼等には第3次攻撃隊の直掩をやってもらう必要がある」

 

 そう言うと山口は、自分達が目指すべき米艦隊を、鋭く睨み据えた。

 

 

 

 

 

 その頃、

 

 1航艦を襲った惨劇は、後方を航行する第2艦隊でも受信していた。

 

「《敵空母艦載機の攻撃により『赤城』『加賀』大破炎上、『蒼龍』被弾、戦闘不能。『飛龍』1隻にて、反撃を試みる》か・・・・・・・・・・・・」

 

 「飛龍」から発せられた電文は「姫神」でも受信していた。

 

 それを一読して、彰人は舌打ちする。

 

 こうなる事は、あらかじめ予想していた。

 

 図上演習の段階で判っていた筈だ。

 

 にも拘らず、防ぐ事ができなかったとは・・・・・・・・・・・・

 

 後悔先に立たずとはよく言った物で、悔やんでも悔やみきれない物がある。

 

 全ては、作戦を強行する為に問題点を放置し、見て見ぬふりをした結果だった。

 

 もっとも、それについて後悔すべき人間は、もっと他にいる筈なのだが。

 

 しかし、今はそんな事を考えている場合では無い。

 

「どうするのですか?」

 

 姫神が、茫洋とした瞳で見上げ尋ねてくる。

 

 第11戦隊は、と言うより1航艦以外の帝国艦隊は全て、今のところ戦局に何ら寄与していない。

 

 帝国史上最大規模の大艦隊で攻め寄せながら、その7割近くが遊兵化している有様だった。

 

 尋ねる姫神の頭を軽く撫でてやりつつ、しばし考え込む彰人。

 

 正直、今からではこちらからアクティブに打てる手は少ない。

 

 だが、いざと言う時の保険は掛けておくべきだった。

 

 顔を上げた彰人は、通信長を見る。

 

「旗艦『愛宕』、近藤司令官に意見具申。《第11戦隊のみで先行。1航艦掩護の要有りと認む》」

 

 第2艦隊は輸送船団を伴っている為、彼等を放り出して前線部隊の援護に行くわけにはいかない。

 

 しかし、第11戦隊は元々、第2艦隊の中でも特殊な立ち位置にある。単独でなら充分に動ける余地があった。

 

 暫くすると「愛宕」から《信号了解》の返信と、更に第11戦隊に対して、1航艦掩護に赴くようにと言う制式命令が下された。

 

 それを受けて、彰人は動く。

 

「速力30ノット。『黒姫』『島風』に打電、《我に続け》!!」

 

 彰人が命じると同時に、機関の唸りを上げて速力を上げる「姫神」。

 

 吹き付ける合成風を受けながら、彰人は険しい表情で進路前方を睨み据える。

 

 いかに俊足を誇る第11戦隊と言えど、今から1航艦との距離を詰めて援護に入るのは難しいだろう。

 

 戦場に到着した時には、既に戦闘が終わっている可能性もある。

 

 そして、そこには「最悪」の可能性も含まれている事は、彰人にも判っていた。

 

 だが、

 

「そうなった時は、そうなった時の事だ・・・・・・・・・・・・」

 

 低く呟く彰人。

 

 見上げる姫神は、その静かな瞳を僅かに揺らめかせる。

 

 その時、姫神が感じた物が何だったのか、感情の薄い少女には、理解できない。

 

 ただ、

 

 見上げた彰人の顔が、姫神の記憶にないくらい険しく引きつらせていたのは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国艦隊攻撃の有志たちが、次々と帰還してくるのが見える。

 

 彼等は勇者である。

 

 真珠湾以来、恨み連なる帝国海軍の主力機動部隊に攻撃を仕掛け、実に3隻もの空母を撃破する事に成功したのだから。

 

 米艦隊に所属する誰もが、歓喜の声を上げたのは言うまでも無い事だろう。

 

 待ち受ける艦隊の将兵や艦娘達も、それぞれ甲板に上がり、勇者達を賞賛でもって出迎えようと待機する。

 

 ヨークタウンも、そうしてパイロット達を出迎えている1人だった。

 

 自分の甲板から飛び立ち、見事に使命を果たしてくれたパイロット達を、賞賛と共に出迎えるのは自分の義務だと思っていた。

 

 だが、

 

 そんな彼女等が見た物は、編隊も組まずフラフラと、まるで空中をよろけるようにして戻ってくる攻撃隊の面々だった。

 

 いかにも危なっかしい飛び方をしている機体が多数。中には煙を吹いている者までいる。

 

 その姿から、帝国軍との激闘のすさまじさが物語られていた。

 

 やがて、損傷の多い機体、負傷者のいる機体から優先して「ヨークタウン」の飛行甲板に降りてくる。

 

 ただちに整備班や医療チームが駆け寄り、機体を格納庫へ運ぶと同時に、負傷者を医務室へと運んでいく。

 

「これは・・・・・・次の出撃は無理ね」

 

 ヨークタウンは、嘆息交じりに呟く。

 

 攻撃は成功した。

 

 「ヨークタウン」隊は見事に役目を果たし、比較的小振りながら、敵空母1隻を撃破した。それは間違いない。

 

 しかし、その代償として、「ヨークタウン」も戦闘力を、ほぼ喪失したと言って良かった。

 

 ワイルドキャット戦闘機の損害は比較的少なかったものの、殊勲のドーントレス爆撃機は8割を喪失。デバステーター攻撃機に至っては、文字通り全滅。1機も帰ってこなかったのだ。

 

 帰還したパイロットにも負傷者が多い。

 

 報告では、帝国軍の空母はあと1隻いるみたいだが、とてもではないが「ヨークタウン」には再攻撃を掛けるだけの余力は無い。

 

 残る1隻は妹たち、「ホーネット」と「エンタープライズ」にゆだねるしかないだろう。

 

 もっとも、損害と言う意味では向こうもそう変わらないかもしれないが、2対1なら、まだ将旗は失われていなかった。

 

 やがて、収容作業も滞りなく行われていく。

 

 全ての機体が「ヨークタウン」の艦内に収容されようとした。

 

 その時だった。

 

 直掩についていたワイルドキャット10機が、弾かれたような動きを見せ、一斉に翼を翻すのが見えた。

 

「何?」

 

 隻眼を振り仰ぐヨークタウン。

 

 そこには、

 

 翼に鮮やかな日の丸を描いた機体が、「ヨークタウン」目指して、まっしぐらに突き進んできている所だった。

 

「敵ッ!?」

 

 思わず呻き声を発する。

 

 視界の中、「ヨークタウン」に突撃してくる機体は、およそ20機強。どう見ても30機はいないだろう。

 

 だが、直掩隊のワイルドキャットよりは、確実に数が多い。

 

 たちまち、空は乱戦模様となる。

 

 99艦爆に襲い掛かろうとするワイルドキャットを、零戦が前に立ちはだかって阻止しようとする。

 

 翼が交錯し、曳光弾が飛び交う。

 

 両軍の航空機が、次々と火を噴く様子が見える。

 

 だが、

 

 阻止しきれない。

 

 隻眼の瞳に愕然とした色を浮かべるヨークタウン。

 

 零戦隊が奮闘している隙に、99艦爆は次々とエアカバーを突破してくる。

 

 艦隊からも、対空砲火が撃ち上げられる。

 

 重巡2隻、駆逐艦6隻の護衛部隊が、傷ついた「ヨークタウン」を守ろうと、必死に火線を撃ち上げる。

 

 何機か、火を噴いて落ちていく99艦爆の姿があるのが見える。

 

 しかし、全体の7割以上が対空砲とエアカバーをすり抜け、「ヨークタウン」上空へと到達した。

 

「クッ!?」

 

 1列縦隊を形成し、一気に逆落としを開始する99艦爆隊。

 

 合衆国海軍のパイロットには決して真似できないような、一糸乱れぬ統率である。

 

 唇をかみしめるヨークタウン。

 

 隻眼の視界の中で、生き残った99艦爆が一斉に爆弾を投下していく。

 

 回避運動と共に、対空砲火を撃ち上げる「ヨークタウン」。

 

 だが、もはや間に合わない。

 

 次の瞬間、

 

 3度の衝撃が、艦体を襲った。

 

「ぐうッ!?」

 

 悲鳴をかみ殺しながらも、激痛に耐えてうずくまるヨークタウン。

 

 爆撃を受けた「ヨークタウン」に激震が走り、艦体が大きく傾く。

 

「ヨーク!!」

 

 近くにいた兵士の1人が、ヨークタウンに駆け寄って助け起こす。

 

「大丈夫・・・・・・まだ、これくらいなら・・・・・・」

 

 気丈に答えるヨークタウン。

 

 99艦爆は250キロの小型爆弾しか搭載できない。それなら、3発喰らった程度で「ヨークタウン」は大した損害にはならない。

 

 だが、

 

「やってくれましたね・・・・・・・・・・・・」

 

 飛び去って行く日本機を睨み据え、ヨークタウンは低い声で呟く。

 

 飛行甲板には大穴が開き、艦載機の発着は不可能になっている。

 

 更に、被害は艦内にも及び、爆弾の一部は、真珠湾の工廠において、作業員たちが不眠不休で修理してくれたボイラーを直撃してしまっている。

 

 艦底部に浸水は無いので、沈没だけは免れるだろう。しかし、速力の低下は免れない。

 

 最低限の修理を最速で施し、ギリギリ空母としての機能を復活させる事で参戦に間に合わせた「ヨークタウン」だったが、これで完全に戦闘力を失ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ヨークタウン」に「飛龍」の第2次攻撃隊が襲い掛かっている頃、

 

 その「飛龍」では、早くも第3次攻撃隊の準備が進められていた。

 

 とは言え、航空隊の損害もバカにならない。

 

 今の「飛龍」、と言うより第1航空艦隊が放つ事ができる航空隊は、零戦6機、97艦攻10機。合計16機が精いっぱいだった。

 

 真珠湾攻撃時、第1波、第2波合わせて350機もの攻撃隊を繰り出した1航艦が、惨めな事になった物である。

 

 そして、その制空隊を形成する6機の零戦の中には、直哉の機体も含まれていた。

 

「ごめん、飛龍」

 

 発進準備が整うのを待つ間、尋ねて来た飛龍に、直哉は頭を下げた。

 

 既に飛行甲板には、零戦と97艦攻が上げられて整列されていく光景がある。

 

 そんな中で、飛龍は頭を下げる直哉に、キョトンとした顔を返す。

 

「ふえ、何が?」

「僕は、蒼龍を守りきれなかった・・・・・・・・・・・・」

 

 飛龍が託してくれた想いを守りきれず、直哉は敵機阻止に失敗して「蒼龍」の被弾を許してしまった。

 

 その事が後悔となって直哉を締めつけていた。

 

 だが、

 

「そんな事・・・・・・・・・・・・」

 

 飛龍は、困ったような笑みを直哉に向ける。

 

「あの状況じゃ、あれだけできれば上出来だよ。て言うか、直哉は無茶し過ぎ。あそこまでしろなんて、あたし言ってないよ」

 

 飛龍は咎めるような口調で直哉を睨む。

 

 直哉は「蒼龍」を助けるために、彼女の対空砲火の真っただ中に突っ込んで行ったのだ。

 

 一歩間違えば「蒼龍」の対空砲で、「撃墜」されるところだった。

 

「ごめん、でも、あの時はあれ以外に方法が思いつかなかった」

 

 実際に、直哉は「できる」と思ったから実行した。そして、実際にやってのけたのだ。

 

 と、

 

「今回は仕方が無かったから許すが、二度とあんな真似をするんじゃないぞ」

「あ、多聞丸」

 

 振り返ると、そこには友永を伴った山口が歩み寄ってくるのが見えた。

 

 敬礼する周囲の作業員たちを制して作業に戻るように言うと、山口は直哉へと向き直る。

 

「蒼龍を救った事は感謝するが、それでお前が戦死したら元も子もないんだからな」

「はい、すいませんでした」

 

 悄然とする直哉の肩を、山口は軽く叩く。

 

 山口自身、任務を果たした部下を厳しく叱るのは不本意であるが、それでも戒めの為に譴責を行わなくてはならなかったのだ。

 

「で、その『蒼龍』だが、先ほど通信が入って、消火に成功したそうだ。一応、20ノットで自力航行できるみたいだから、駆逐艦の護衛を付けて本土に還す事になった」

「本当、多聞丸!?」

 

 途端に、飛龍は笑顔を浮かべる。

 

 安否が判らなかった蒼龍の無事を知り、素直な喜びを見せていた。

 

 飛行甲板に大穴が開き、速力も低下した「蒼龍」は戦線の復帰する事はできない。

 

 しかし沈みさえしなければ、本土にもして修理する事は充分可能だった。

 

「さて、残る問題はこっちだ」

 

 そう言うと、山口は気合を入れ直す。

 

 ちょうどその時、兵士の1人が駆け寄ってくるのが見えた。

 

「提督、第2次攻撃隊より入電です。読みます。《我、攻撃終了。これより帰投す。敵空母1隻に爆弾命中多数》!!」

 

 通信兵の声も、後半は歓喜の為に上ずっている。

 

 同時に、飛行甲板の上で大歓声が起こる。

 

 赤城たちの仇。

 

 敵空母に一矢報いたのだ。

 

 僅かだが、勝ち運が上向きつつあった。

 

 山口は、友永に向き直る。

 

 友永は、間も無く発艦する第3次攻撃隊の指揮官でもあった。

 

「聞いての通りだ。1隻撃破したが、敵空母はまだいるだろう。できるだけ無傷の空母を叩いてくれると助かるが、もし発見できない場合は、同じ艦を叩いてくれても構わない」

「判りました」

 

 そう言って頷く友永。

 

 何にしても、沈みかけていた運が再び上向こうとしている。これに一気に乗じたいところである。

 

 その時だった。

 

 整備員の1人が、友永に駆け寄ってくるのが見えた。

 

「どうかしたか?」

「すいません隊長。実は・・・・・・・・・・・・」

 

 申し訳なさそうに、整備員は報告してくる。

 

 その整備員の説明によると、友永が乗る97艦攻は片翼の燃料タンクに穴が開いていると言う。

 

 そう言えばミッドウェーを攻撃した際、対空砲を喰らって損傷していたのを思い出す。

 

 片翼のみのタンクでも飛べない事は無いのだが、それではいざという時に航続力が足りなくなる可能性があった。

 

「すみません。すぐに替わりの機体を用意しますので!!」

「いや待て、機体はそのままでいい」

 

 駆け出そうとする整備員を制して、友永は言った。

 

 見かねたように、山口も口を出してくる。

 

「無理せず、万全の機体で出た方が良い。君にもしもの事があったら取り返しがつかんぞ」

「今は機体に余裕がある訳ではありませんからね。それに・・・・・・」

 

 言いながら、友永は直哉に向き直る。

 

「エースが護衛についてくれているんです。恐れる物は何もありませんよ」

「成程な」

「責任重大だね、直哉」

「ちょっと、プレッシャー掛けないで!?」

 

 口々に言い募る、山口と飛龍に、焦る直哉。

 

 そんな直哉の反応を見て、周りからも笑いの渦が起こる。

 

 3空母が戦列から脱落し、今や状況は圧倒的に不利だと言うのに、誰も絶望を感じている者はいない。

 

 これなら大丈夫。

 

 これなら勝てるはずだ。

 

 誰もが、そう信じていた。

 

 やがて、全ての機体が整列を終え、発艦準備が整う。

 

「直哉!!」

 

 愛機に駆け寄ろうとする直哉を、背後から飛龍が呼び止める。

 

「お願いね」

「うん」

 

 飛龍に、笑顔で頷きを返す直哉。

 

 そんな2人の様子を見ていた友永が、少し興味深そうに声を掛けて来た。

 

「君達は、恋人同士か何かか?」

「こいッ ブッ!?」

 

 あまりに直球な質問に、思わず吹き出す直哉。

 

「な、何言ってるんですか隊長!? ぼ、僕は、べ、別に、ひひ、飛龍の事なんて何とも・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・判りやすい反応だな」

 

 撃墜王の見せる滑稽な有様に、友永は嘆息する。

 

 飛龍の方がどう思っているのかは知らないが、少なくとも直哉が、彼女に対し好意を抱いているのは確かなようだった。

 

「彼女を、大事にしてやれ」

「ちょ、隊長、だから僕は!!」

 

 抗議する直哉を無視して、さっさと愛機に乗り込む友永。

 

 やがて、叫んでも意味が無いと思ったのか、直哉もまた駐機してある零戦に駆け寄って行く。

 

 何にしても初々しい限りだ。

 

 人間と艦娘。

 

 立場は違えど、そこに恋愛感情を持ちこんではいけないなどと言う法も無い。

 

 中には、現役、退役問わず、艦娘と所帯を持った海軍士官もいる。

 

 直哉と飛龍。

 

 あの2人も、やがてそうなって行くのだろうか?

 

 そんな事を考えていると、やがて発艦開始の合図が送られてくる。

 

 同時に、制空隊の零戦が、滑るように甲板を蹴って、上空へと舞い上がって行った。

 

 

 

 

 

 

第19話「反撃の飛龍」      終わり

 

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