1
誰もが、お通夜に出席した参列者のように、悄然とたたずんでいた。
もたらされた報告が伴う衝撃は、居並ぶ全員を思考停止に追い込むには、充分な威力を持っていたのだ。
戦艦「大和」艦橋に居並ぶ連合艦隊司令部面々は、全員が顔面を蒼白にしていた。
宇垣も、
山本も、
参謀たちも、
そして大和も、
誰もが、受ける衝撃の重さに、無関心ではいられなかった。
「《空母『赤城』『加賀』『飛龍』大破、炎上中。ミッドウェー攻略の目途立たず。作戦中止が至当と認む》・・・・・・・・・・・・」
電文を読み上げた黒鳥の声にも、明らかに力が無い。作戦前の溌剌とした雰囲気は、完全に失われていた。
このような事態になる事を、いったい誰が予想し得ただろう?
無敵皇軍。
世界最強の機動部隊。
向かうところには勝利以外にはありえない。
誰もがそう信じ切っていた。
その慢心の上に慢心を重ねた結果がこれである。
もっと機密保持に気を使っていれば、
図上演習の段階で、もっと真剣に問題点を洗い出していれば、
敵空母の動向を掴んだ時点で機動部隊に通報していれば、
索敵を強化していたら、
時間の浪費を防いでいたら、
兵力を集中していたら、
後悔を上げれば、枚挙に暇がない。
「参謀長」
山本が、蒼白の顔を宇垣に向けて話しかけてきた。
誰もが驚いて顔を上げる。山本の方から、積極的に宇垣に話しかけるなど、珍しい事だった。
「第1艦隊はただちに速度を上げ敵艦隊を追撃。夜戦の準備に入れ」
「無理です、長官」
しかし、宇垣は山本の言葉を言下に否定した。
「敵の空母は35ノット近く出せます。対して、こちらの戦艦は、金剛型と姫神型を除けば、最も速いこの『大和』でも27ノット。追いつけるものではありません」
だから、最初からもっと距離を詰めておくべきだったんだ。
喉元まで出かかった言葉を、宇垣は辛うじて飲み込む。流石にこれ以上は、上官批判になりかねなかった。
宇垣の予想通り、あまりに戦場から距離が離れすぎている為、第1艦隊は戦局に何らの寄与もできないまま、全てが終わってしまった。
「既にミッドウェー攻略の意図は失われました。この上は、全軍を退却させるのが妥当と考えます」
「馬鹿なッ」
声を上げたのは黒鳥だった。
その顔は、先程までと違って、怒りの為か赤黒く染まっている。どうやら、宇垣の言葉に憤りを感じている様子だ。
「ここまでやられて、何もせずに引き返せとは、参謀長は臆病風に吹かれたか!?」
「他に手段は無い」
激しく言い募る黒鳥に対し、宇垣はあくまで冷静に返す。
臆病風、などと侮辱されて内心では憤りを感じている宇垣だが、今ここで激昂する事に意味は無い。事はあくまで、冷静に進める必要があった。
「長官。ここは撤退すべきです。指揮は及ばずながら、この宇垣にお任せください」
他の参謀を見渡しても、皆消沈するばかりで、誰もが動けずにいる。
宇垣はGF司令部の中では疎まれ、浮いた存在になりがちだが、ここは自分が積極的に動くべきだと感じていた。
「・・・・・・・・・・・・よかろう」
ややあって、山本は力無く頷きを返した。
自らの「作品」であるMI作戦が決定的に破綻し、気力もろとも海に沈んでしまった感すらあった。
「撤退戦の指揮は参謀長に一任する。必要と思えるなら私の名前を使ってくれても構わん。所要の措置を取ってくれ」
「ハッ」
宇垣は敬礼を返すと、山本から視線を外して参謀たちに向き直った。
「これより、撤退戦を開始する。各員、必要な情報を私に集めろ。各部隊の現在位置、使える戦力。特に輸送船団は護衛部隊を付けて真っ先に逃がす必要がある。最優先で情報を上げろ」
宇垣の言葉に対し、居並ぶ参謀たちは誰もが口を開けて見詰めている。
これが、あの参謀長なのか?
山本長官から疎まれ、司令部では殆ど発言らしい発言をしなかった宇垣が、今、居並ぶ誰よりも正確に状況を認識し、的確な指示を矢継ぎ早に飛ばしている。
その光景が、皆には信じられなかった。
「急げ!!」
そんな参謀たちを、宇垣は叱咤する。
「1分の遅れは100人の死に繋がると思えッ 今こうしている間にも、前線ではまだ戦いが続いているのだぞ。1人でも多く、彼等を助けるのだ!!」
その言葉に、弾かれたように参謀たちが動き出す。
そこからの宇垣は、正に鬼気迫ると言って良い働きを見せた。
全軍に作戦中止・全軍撤退の通達が成されると同時に、各部隊の旗艦宛に、現在位置を報告するように指示を送る。
程無く、送られてきた報告を基に、宇垣は撤退計画を立案、指示を飛ばす。
第2艦隊へは攻略部隊を乗せた輸送船団を護衛して後退を指示。更に各潜水艦へ、真珠湾からミッドウェーへかけての索敵ラインを強化するように命令し、万が一、敵艦隊に追撃の動きがあった場合の備えとした。
4空母脱落による航空打撃力の不足に関しては、アリューシャン攻略支援に向かった第4航空戦隊、空母「隼鷹」「龍驤」を呼び戻す事で対応する。
更に第1艦隊は速度を上げて前進。退却してくる1航艦の収容に当たる。
最大の懸念材料は、突出しすぎている1航艦の安否だったが、幸いな事に空母を全滅させて満足したのか、米軍の追撃は鈍りつつあるようである。このまま行けば、問題無く収容できる事だろう。
宇垣はそれに加えて、戦艦7隻の医務室を開けるように指示。1航艦との合流後は、彼等が抱えている大量の負傷者を、広い設備のある戦艦に収容するよう手配した。
こうして、粛々と撤退戦が繰り広げる中、宇垣の下に一通の電文が舞い込んで来た。
「参謀長、第11戦隊より通信です」
「11戦隊から?」
自身が腹心と恃む部下、水上彰人中佐率いる第11戦隊が、何を言って来たのか?
電文を受けとり、宇垣は素早く一読する。
《当戦隊はこれより、ミッドウェーへ接近、同基地に対する艦砲射撃を実施する》
電文にはそうあった。
「今さら、ミッドウェーを叩いてどうしようと言うのだ? やるなら機動部隊が壊滅する前にやるべきだったろうに」
参謀の1人が、小馬鹿にするように電文を見ながら言った。
既に勝機が失われた以上、ミッドウェーを叩いたところで何の意味も無いだろう。
彼等には、第11戦隊の行動は、無駄な物にしか映らなかった。
だが、
「いや・・・・・・・・・・・・」
電文を呼んだ宇垣は、その短い文面から、彰人が何を意図しているのかを類推する。
この状況で、あえて本来の攻撃目標であるミッドウェー砲撃を行おうとする彰人。
そこにある意図を悟ると、宇垣は顔を上げた。
「長官」
提督席に腰掛けて、宇垣の指揮を眺めていた山本が顔を上げる。
そこへ宇垣は詰め寄った。
「意見具申いたします」
その表情は、いつも以上に真剣そのものであり、半ば鬼気迫るものがあった。
2
連合艦隊が宇垣指揮の下、退却を開始した頃。
米軍側でも、退避する動きが見られようとしていた。
航空戦では勝利した合衆国艦隊ではあったが、全体の戦力としては、未だに帝国海軍に対して不利である事は判っている。
もし、帝国艦隊が水上部隊による夜戦を挑んできた場合、戦力の劣る合衆国艦隊が敗北する事は目に見えている。
その為、指揮官のレイナード・スプルーアンスは、艦隊の一時避退を決断したのだった。
そんな中、1隻だけ、艦隊から遅れる形になっている艦があった。
「ヨークタウン」である。
傷が癒えない身で海戦に参加し、帝国軍の攻撃を一身に引き受ける形になった「ヨークタウン」は、最終的に爆弾3発、魚雷2本を受け、航行不能に陥っていた。
ヨークタウン自身も、艦体に受けたダメージがそのままフィードバックし、重傷を負っている。
今も自室のベッドに横たわり、軍医の治療を受けている最中だ。
勿論、艦娘である以上、艦体が修理されない事には傷が癒える事は無いのだが、それでも治療を受ける事によって身体の傷はある程度軽減されるし、血止めや痛み止めを打つ事によって、癒やされる事も多い。
「まったく、君は不死身だな」
「その言葉、皮肉にしか聞こえませんよ」
軍医の言葉に、ヨークタウンはそう言って苦笑する。
珊瑚海でボロボロに傷付けられながら、無理やり戦線復帰し、かと思ったら集中攻撃を受けて再び大破した身だ。不死身と言われればその通りなのだろうが、要するに、常に死に掛けていると取れなくも無かった。
「ともかく、もうジャップ共は撤退したって言う話だ。あとはパールハーバーに帰るだけなんだし、ゆっくり休め」
「そうですね・・・・・・・・・・・・」
そう言って、ヨークタウンは隻眼に微笑を浮かべる。
間もなく重巡による曳航作業が開始される。そうすれば、「ヨークタウン」は真珠湾に戻って、今度こそ入念に修理してもらえることだろう。
それまでの辛抱だ。
そう思って、目を閉じ、少し眠りにつこうとした。
次の瞬間、
強烈な衝撃が、「ヨークタウン」の艦体を、容赦なく刺し貫いた。
「ガァッ!?」
迸る激痛に、思わずベッドの上で身体を大きくのけぞらせるヨークタウン。
この時、「ヨークタウン」の舷側には、凶兆を告げる牙の如く、白い水柱が立ち上っていた。
魚雷である。
同時に、艦を横付けして救助作業に当たっていた駆逐艦「ハムマン」も直撃を受け、こちらは轟沈している。
徐々に傾斜していく「ヨークタウン」
「飛龍」の航空隊によって負わされた傷が、今の魚雷攻撃によって更に深く抉られた形である。
艦内には海水が席巻し、急速に艦底部を満たしていく。
隔壁が損傷している為、それらの浸水に対して、対処する事も出来ない。
正に、今の魚雷は「ヨークタウン」にとって、トドメの一撃以外の何物でもなかった。
「ごめんなさい・・・・・・・・・・・・」
ヨークタウンは、ベッドの上で力無く、軍医を見ながら言う。
「どうやら、私は『不死身』じゃなかったみたいです」
「ヨークタウン」を海中から襲った刺客。
まさに、「海中の狙撃兵」とでも称すべき存在は、米駆逐艦が放つ爆雷攻撃を回避しながら、既に退避行動に移ろうとしていた。
「クッ 流石にきついわね。けど、これくらいなら何とか逃げ切れるかな・・・・・・」
潜水艦の中で、少女は呟きを漏らす。
赤み掛かった長い髪をポニーテールに纏め、服装はスクール水着の上からセーラー服を羽織ると言う、ある種、煽情的な格好をした少女である。
帝国海軍所属、海大Ⅵ型a潜水艦「伊168」。
通称イムヤ。
それが、彼女の名前である。
「苦労した甲斐があったな。おかげで大物食いができた」
「まったくね」
苦笑交じりの艦長の言葉に、イムヤもまた肩を竦める。
「ヨークタウン」攻撃に当たり、「伊168」は、警戒網をすり抜ける為に米艦隊の周囲をサメのようにグルグルと回り、更に当の「ヨークタウン」の真下を通り抜けるなどの大胆かつ慎重な行動を繰り返して射点を確保。必殺の雷撃を敢行したのである。
数度にわたる攻撃に耐えきった「ヨークタウン」だったが、これで完全に死命を制された形である。
「さて、長居は無用よ。逃げるとしましょう」
「同感だな」
イムヤの言葉に、艦長も同意の頷きを返す。
潜水艦とは本来、攻撃と潜伏に特化した脆い存在である。装甲は薄く、僅かでも損傷すれば、もう潜航する事ができない。速力も遅く、水中ではせいぜい6~8ノット程度しか出せない。
万が一、他の艦、特に駆逐艦などに捕捉されれば、助かる術は殆ど無いと言って良いだろう。
だからこそ、潜水艦が取るべき戦術はシンプルである。
即ち、姿を隠して接近し、必殺の雷撃を敢行、その後、相手がこちらを捕捉する前に離脱する。
勿論、やられた側も黙ってはいない。
現に「伊168」の周囲には、投下された爆雷の衝撃が容赦なく襲ってきている。
その一発でも至近で炸裂すれば、その瞬間に「伊168」は、外殻の薄い装甲が破られ、乗組員もろとも海の藻屑となる。
しかし、それらが殊勲の潜水艦に致命傷を負わせる事は無かった。
やがて、爆雷攻撃を背に受けながら、「伊168」は深海深く、姿を消して行った。
3
あれがミッドウェーか。
巡洋戦艦「姫神」の艦橋から、彰人は奇妙な感慨と共に呟きを漏らした。
闇夜に黒々と浮かぶ島影は、全体的なシルエットが如何様になっているのか、この場所からは知る事はできない。
だが、
あの島がまるで悪魔の如く、帝国海軍の精鋭航空部隊を壊滅に追いやったのは事実だった。
「砲撃目標は計画通り。我が戦隊はイースタン島の方を叩く」
彰人はそのように指示を飛ばす。
ミッドウェーを臨める位置まで進出したのは、第11戦隊ばかりではない。
ミッドウェー砲撃を宣言した後、第11戦隊は上級司令部である第2艦隊司令部の命令により、第7戦隊の重巡4隻と合流を果たしていた。
最上型重巡洋艦の「最上」「三隈」「鈴谷」「熊野」によって構成された、
最上型重巡は元々、15・5センチ砲3連装5基15門を搭載した大型軽巡洋艦だったが、ロンドン軍縮条約破棄に伴い、主砲をワンランク上の20・3センチ砲へ換装し、重巡として生まれ変わった。
因みに、取り外された15・5センチ3連装砲塔は、姫神型巡洋戦艦や大和型戦艦の副砲として再利用されている。
いわば「姫神」「黒姫」にとっても、縁浅からぬ部隊である。
もっとも、この改装については、1発辺りの威力は上がったものの発射速度の大幅な低下を来したから、却って火力が低下したとする意見もあり、賛否が分かれているのだが。
しかし、今この局面にあって4隻合計で40門に達する砲撃力は、第11戦隊としてもありがたい物があった。
射撃計画では、第11戦隊がイースタン島の飛行場を砲撃、第7戦隊がサンド島の燃料タンクと港湾施設を叩く事になっている。
通常、水上艦が陸上基地と砲戦を行うのはご法度とされている。
理由としては、陸上基地の方が圧倒的に有利だからだ。
これは、水上艦は浮力の関係がある以上、どうしても搭載できる砲に制限があるのに対し、いわば不沈砲台である陸上基地なら、どんな大型砲でも用意する事ができ、かつ強靭な要塞を建築する事ができる。
更に陸上基地は決して沈む事は無いし、いくら破壊されても資材さえあれば回復できるのに対し、水上艦は沈没すればそれまでである。
これらの事から、水上艦の方が圧倒的に不利である。とされる考えがあったからである。
実際、過去に陸上砲台と撃ち合いを演じた戦艦が、反撃を喰らって撃沈された例がいくつもある。
しかし彰人は、特信班に情報解析をさせ、ミッドウェーには強固な陸上砲台は無いと確信した為、今回の艦砲射撃に踏み切ったのである。
それに、今回の艦砲射撃の目的は、島の米軍施設を徹底的に破壊する事自体が目的である。
その理由としてはまず、米艦隊の目を第11戦隊に引き付け、撤退する輸送船団や1航艦を掩護する事。ミッドウェーを砲撃したとなれば、敵の目は否応無くこちらに向くだろう。その間に、他の部隊を撤退させるのである。
更に、不首尾に終わったミッドウェー攻撃を完遂する事。
今回の作戦では、ミッドウェーの占領も作戦内容に入っている。とは言え、その達成はもはや不可能。ならばせめて、ミッドウェーの基地施設を徹底的に破壊する事で、米軍の反抗開始を少しでも遅らせる事が狙いだった。
やがて、イースタン島の上空に、ひときわ明るい光が出現する。
事前に発艦させて置いた水上偵察機が、マグネシウム入りの照明弾を投下したのだ。
照らし出される光の中。
午前中に、1航艦の友永隊が叩き損ねた飛行場の姿が明るく照らし出される。
その様子を見て、彰人は鋭く叫んだ。
「目標、左舷90度。イースタン島敵飛行場ッ 撃ち方始め!!」
彰人の命令とと共に、
「姫神」の前部甲板に集中配備された4連装2基8門の50口径30センチ砲が、一斉に火を噴いた。
唸りを上げて飛翔する、重量400キロの30センチ砲弾。
更に、後部の15・5センチ副砲も、片舷に向ける事の出来る6門をイースタン島に向けて砲撃に加わる。
遅れて、後続する「黒姫」「島風」も射撃を開始する。
ややあって、イースタン島上空に、真っ赤な閃光が炸裂する。
燃焼力の高い三式通常弾が、時限信管の設定に従い炸裂したのだ。
降り注ぐ炎が、その真下にある飛行場を薙ぎ払っていく。
滑走路は炎に包まれ、格納庫は爆砕される。
昼間の航空攻撃を凌ぎきった米航空機も、三式弾のあおりを受けて吹き飛ばされ、ほんの包まれて炎上する。
ほぼ10秒おきに飛来する、合計16発の30センチ砲弾が炸裂する度、イースタン島を取り巻く炎は拡大の一途をたどる。
30センチと言えば戦艦としては小振りな砲だが、陸上兵器と比較した場合、かなりの大型砲に分類される。
勿論、最後尾の「島風」も6門の12.7センチ砲を振り上げて、巡戦2隻に続いている。
それに対し、合衆国海軍が打てる反撃の手段は、何も無かった。
彰人が睨んだ通り、ミッドウェーには強固な要塞陣地も、大口径の海岸砲も備えられてない。あくまで飛行場と、若干の港湾施設がメインの島なのだ。
航空機を緊急発進させて攻撃をしようにも、今は夜間であり、飛行機の発着は難しい事に加えて、既に飛行場は砲撃によって穴だらけにされている為、それも敵わない。
繰り返し撃ち込まれる巨弾を前に、ただ成す術も無く焼き払われていく以外に無かった。
第11戦隊がイースタン島の飛行場を砲撃するのと並行して、第7戦隊の重巡4隻もまた、サンド島への砲撃を行っていた。
姫神型巡戦の30センチ砲に比べれば1発の威力は劣るものの、それでも20・3センチ砲40門を揃えた時の砲撃のすさまじさは、群を抜いている。
サンド島には燃料施設があり、まずはそこが第1目標とされた。
砲撃は凄まじく、残っていた燃料タンクは次々と爆砕され、続いて流出した燃料にも引火し、大爆発を起こす。
要塞陣地が構築されていない陸上施設は、ひどく脆い存在でしかなかった。
4隻の最上型重巡は、更に目標を港湾施設へと変更し、砲撃を続行する。
放たれた砲弾が次々と炸裂し、荷揚げ用のクレーンや、停泊用の桟橋が爆砕されていく。
やがて、砲撃停止命令が下される頃、サンド島もまた、イースタン島同様、炎に包まれていた。
「よし、戦果としては、これで充分だろう」
島全体を包む炎を見て、司令官の栗田少将は満足したように頷く。
どの程度のダメージを与えたのか、それは実際に確認してみないと判らないが、少なくとも早期に回復する事は不可能な程度には破壊してと思う。
目を転じれば、遠方に浮かぶイースタン島も炎に包まれているのが見える。どうやら、あちらの攻撃も、成功した様子だった。
「熊野。全艦に、終結命令を出してくれ」
「了解ですわ」
栗田の言葉に、少女は優雅に一礼を返す。
ブレザーに身を包み、長い茶髪をポニーテールにした少女は、「熊野」の艦娘である。
やがて、命令に従い、終結を始める第7戦隊。
その時だった。
「後方より接近する艦影有り。戦艦と思われます!!」
見張り員からの報告に、栗田と熊野が振り返る。
「どうやら、第11戦隊が合流して来たみたいだな」
「そのようですわね」
後は両隊で合同して、退却するだけ。
そう思った時だった。
だしぬけに、闇夜に輝く閃光。
同時に、巨大な砲声が轟く。
「まさか!?」
驚愕する熊野。
その横では、栗田が顔面蒼白になった、状況を見詰めている。
やがて、
砲撃着弾を示す白い水柱が、闇夜にも不気味に立ち上った。
第21話「敗走」 終わり