蒼海のRequiem   作:ファルクラム

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第26話「死闘の幕開け」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第1次ソロモン海戦における大勝利。そしてガダルカナル島奪還。

 

 この二つのニュースにより、帝国海軍は湧きかえっていた。

 

 来襲した敵軍に対し、少数の艦隊で殴り込み、自らは殆ど損害を受ける事無く、敵軍を壊滅に追いやった。

 

 正に、日本海海戦に匹敵するほどのパーフェクトゲーム。

 

 ラバウル帰還直前に「加古」が潜水艦に撃沈されたのは無念だったが、それでも望みうる最高の戦果を上げたのは間違いなかった。

 

「いや、よくやってくれた」

 

 トラック環礁に帰還し、報告に訪れた彰人と姫神を、連合艦隊司令長官の山本伊佐雄大将は、上機嫌で出迎えた。

 

「君達が輸送船団を叩いてくれたおかげで、どうにかガ島(ガダルカナル)を奪還する事が出来たよ。本当にありがとう」

「ありがとうございます」

 

 彰人はそう言って、山本に頭を下げる。

 

 実際のところ、作戦はそう楽観視できるような内容ではなかった。第8艦隊のみ攻撃だけでは不十分であり、2次攻撃として、第11戦隊が再突入しなければ危ういところであった。

 

 敵艦隊をいくら叩いても、輸送船と、そこに積まれている物資を焼き払わないと意味は無い。

 

 もし輸送船団を取り逃したりしたら、ガダルカナル島の合衆国軍が大幅に強化されていた事は疑いない。そうなれば、こうも簡単にガ島奪還はできなかっただろう。

 

 もっとも、あの状況で第8艦隊は最善の手を打ったと彰人は思っている。

 

 合衆国軍の侵攻があまりに唐突過ぎた為、連合艦隊の対応が追いつかなかったのだ。その為、第8艦隊と第11戦隊の出撃自体が、聊か泥縄的な印象が強かった。

 

 要するに、寄せ集めな上に、投入された戦力も少なすぎたと言う訳だ。

 

 むしろ第8艦隊は、少ない戦力でよくやった方だろう。彼等が敵の主力を撃破してくれたおかげで、第11戦隊は大した妨害を受ける事無く突入に成功したのだ。

 

「間も無く、次の作戦が開始される。その時はまた、よろしく頼むよ」

「はッ」

 

 敬礼する彰人。

 

 揃って、傍らの姫神も敬礼するのが見える。

 

 しかし、

 

 意気揚々とする山本に対し、彰人の顔は、どこか浮かない顔を見せるのだった。

 

 

 

 

 

「納得していない。そんな顔だな」

 

 山本の部屋を辞去し、彰人と姫神を自室に招いた宇垣が最初に言った言葉がそれだった。

 

 ミッドウェー海戦で「ワシントン」と交戦した「大和」だったが、損傷は主に高角砲や機銃等、そして舷側副砲の破壊に留まった為、比較的早い段階で戦線復帰する事に成功していた。

 

 ただ、これを機会に大改装が行われ、舷側の副砲は撤去。代わって、両舷合わせて6基の高角砲が追加され、更に機銃の増設も行われている。対空砲火を大幅に強化された状態になった。

 

 新時代の兵器である航空機に対抗すべく、「大和」もまた、時代に即した進化を遂げた形だった。

 

「まあ、そうなんですけどね・・・・・・・・・・・・」

 

 問いかける宇垣に対して、何となく胸の内を見透かされたような気がして面白くなかった彰人は、ややそっぽを向きながら答える。

 

 姫神はと言えば、出されたお菓子を片手に、大和と雑談に興じている。

 

 まあ、向こうの事は置いておいていいだろう。

 

 彰人はこの際、自らの内に燻っている物を、宇垣に聞いて貰おうと思った。

 

 彰人が不満を覚えているのは、今回の海戦結果についてではない。

 

 海戦そのものは大勝利。敵艦隊を殲滅し、輸送船団も壊滅に追い込んだ。これ以上は望みようがないほどの大戦果である事は間違いない。

 

 では、何が彰人にとって不満なのか?

 

「この作戦その物、か?」

「はい」

 

 問いかける宇垣に対し、彰人は硬い表情のまま答えた。

 

 米豪遮断作戦。

 

 南太平洋の島々を占領して拠点を築き、アメリカ・オーストラリア間の連絡線を遮断。オーストラリアに揺さぶりを掛ける事によって、連合国から脱落させる。

 

 オーストラリア自体の国力、戦力は大した物ではない。仮に討って出て来たとしても、連合艦隊の戦力ならが鎧袖一色にできるし、何より、主戦力の大半は既に、第1次ソロモン海戦で殲滅する事に成功している。

 

 しかし、南太平洋一帯に広大な領土を持つオーストラリア大陸その物が、連合軍の太平洋上における一大根拠地と化しており、これを放置すれば帝国軍の戦線は南から突き上げられる形で押し込まれてしまう。

 

 米軍が取ると予想される反抗ルートは、ハワイから中部太平洋を伝う最短ルートと、オーストラリアからニューギニア、フィリピン、東南アジアを伝い、南方資源地帯を攻略するルートの二つ。

 

 オーストラリアを脱落させる事が出来れば、その内の後者、つまり南方ルートの方を潰す事ができるのだ。

 

 彰人も、当初はこの作戦案に賛成だった。

 

 どのみち、国力を考えれば、帝国軍には米本土まで攻め寄せるだけの力は無い。ならば、いずれは攻勢の限界が迎え、敵の反抗が始まる日が来る。

 

 その時に備え、敵の反抗拠点を潰して置く事は、後々の有利に繋がるだろう。

 

 そう思っていたのだ。

 

 ミッドウェーの前までは。

 

「この作戦を実行するんだったら、ミッドウェーの前にやるべきだった。けど今、3隻もの空母を失い、洋上の航空兵力が半減した状況では、作戦成功はおぼつきません」

 

 短兵急にミッドウェーを攻めた結果が、帝国海軍の戦略そのものを、根底から狂わせてしまった。

 

 ことこの段に至った以上、戦線を広げる事は自殺行為以外の何物でもなかった。

 

「では、どうするべきなのか、お前の考えを聞いておきたい」

 

 尋ねる宇垣に対し、彰人は自身の中にある存念を口にした。

 

「占領地と、マーシャル、ギルバートと言った外郭の要地を放棄し、全戦力を内南洋に撤収させます」

 

 言いながら彰人は、壁際に掛けられた環太平洋を映した地図に歩み寄る。

 

 宇垣、大和、姫神が視線を集中させる中、伸ばした指は西太平洋に大きく線を引く。

 

「このトラック環礁とマリアナ諸島を徹底的に航空要塞化して、鉄壁の防衛ラインを形成し、敵を迎え撃ちます」

 

 説明を終えてから、彰人は宇垣に目をやる。

 

 彰人の意見は、戦前から帝国海軍が研究していた漸減邀撃作戦を手直しし、決戦海面をフィリピン沖から内南洋外面に変更した物である。

 

 そもそもどんな戦いであっても、攻撃側よりも守備側の方が有利である。攻め手側は長距離を侵攻してきて疲労困憊の中、待ち構えていた敵と戦わなくてはならないのに対し、準備を整えて待ち構えているだけでいい守備側は疲労も少なく、戦力の集中もできる。

 

 故に彰人は現状、戦況が帝国軍有利なうち防衛体勢を整え、敵が来寇した時に撃退できるようにするのが肝心であると考えているのだ。

 

「しかし、物量は向こうの方が多い。時間が経てば、敵は更に強大化して攻め込んでくるぞ」

「こちらの体勢を整える事は大前提です。今なら精鋭を残したまま体勢を整えられます。また、敵がこちらの撤退に付け込んで攻め寄せてくれば幸い、こっちはより有利な体制で迎撃できます」

 

 彰人の言葉に、頷く宇垣。

 

「成程、お前の考えは判った。確かに、一理ある話ではある」

「では、参謀長・・・・・・・・・・・・」

 

 この意見を上申してほしい。

 

 そう言いかけた彰人に対し、宇垣は難しい表情で首を振る。

 

「だが、その意見を通すのは難しいだろうな」

「なッ」

 

 思わず絶句する彰人。

 

 そんな彰人に、宇垣は諭すように言う。

 

「今回の作戦は、軍令部が強硬に言って来た物でな。これは私にも責任があるのだが、先のミッドウェー以降、彼等の発言権が増大してしまっている節がある」

「だからって、こんな清算性の低い作戦が通るなんて・・・・・・・・・・・・」

 

 彰人は呆れたように呟く。

 

 これでは、博打に負けた人間が、次こそ次こそはと金を払い、ドツボに嵌って行くパターンである。

 

 ここで深く考えなくてはならないのは、この場合博打につぎ込まれる「金」とは、前線で戦う兵士達に他ならない。つまり、博打に負ければ負ける程、前線では将兵や艦娘が無駄に死んでいくことになるのだ。それも、他には代えがたい、充分に訓練されたベテラン兵士達や、宝石よりも貴重な艦娘達が、である。

 

 博打を打つのは構わない。時に、戦争とはそう言うギリギリの判断が必要になるときもある。

 

 しかしだからこそ、僅かでも勝率を上げる努力をしてもらわなくてはならないと言うのに。

 

 帝国海軍の上層部は、無謀な作戦(バクチ)で消費される将兵・艦娘の命の事を、あまりにも軽く考えすぎているのではないか?

 

 彰人はそう思わずにはいられなかった。

 

 そんな彰人の心情を見抜いたように、宇垣は鋭い視線を向ける。

 

「お前の言う事はもっともだ。だが、現実問題として、こちらも既に動かざるを得ない段階まで来ている」

 

 言いながら宇垣は、机の引き出しから報告書を取り出した。

 

「空母を含む敵艦隊が、南太平洋に集結していると言う情報が入った。恐らく目的は、先に我が軍が奪還した、ガダルカナルの再奪取と思われる」

「敵が動くんですかッ!?」

 

 早すぎる。

 

 彰人は思わず、そう呟く。

 

 こちらの体勢は、まだほとんど整っていないと言うのに、敵は早くも動き始めたのだ。

 

「状況は悪いが、こちらも迎え撃たねばならん」

「じゃあ、連航艦を出すんですね?」

 

 先の組織改編によって編成された連合航空艦隊の出番が、いよいよ訪れた事になる。

 

 だが、宇垣は険しい表情を崩さないまま続けた。

 

「と言っても、出撃できるのは1航艦と2航艦のみだ。3航艦の3隻は飛行隊再編成の為に、出撃が危うい状態だ。まあ、『翔鶴』と『蒼龍』の修理が間に合ったのは幸いだったが」

 

 珊瑚海で大破した「翔鶴」と、ミッドウェーで中破した「蒼龍」は、生き残った数少ない正規空母と言う事で最優先で人員と資材が回され、突貫工事を施し、数日前に辛うじて修理が完了したところだった。

 

 しかし、折角の新艦隊も、これでは戦う前から戦力を削ぎ落されているに等しい状況だった。

 

「そこでだ、水上。お前にやってもらいたい事がある」

「何なりと」

 

 頷く彰人。

 

 決戦が始まると言うなら、戦場に赴く事に否やは無い。むしろ、ミッドウェーの時のように、殆ど蚊帳の外に近い場所に置かれる方が不満だった。

 

 彰人にとって、最前線行きはむしろ、望むところであった。

 

「急な出撃で、護衛に着く艦が足りん。すまんが、お前の戦隊は2航艦の指揮下に入ってもらう」

 

 第2航空艦隊。

 

 ミッドウェーで生き残った正規空母「蒼龍」と、軽空母「龍驤」を中心とした艦隊である。

 

 となると、今回の戦いは防空戦闘が中心になる可能性が高かった。

 

「判りました。第11戦隊は2航艦司令部指揮下に入り、以後は同艦隊の護衛に努めます」

「よろしく頼む」

 

 敬礼する彰人に、頷く宇垣。

 

 その目には、腹心の部下に対する揺るぎない信頼が宿っていた。

 

 

 

 

 

 彰人が姫神を伴って出て行った後、宇垣は執務室に残り、1人で考え込んでいた。

 

 彰人が言っていた事は、宇垣も感じていた事である。

 

 ミッドウェーで敗れ、主力の3空母を失った以上、帝国海軍の攻撃力は大幅に低下したと判断せざるを得ない。

 

 今は無理に攻勢をかけるのではなく、占領地を確保した上で防衛線の構築に努めるべき時である。

 

 その点において、宇垣の考えは(あれほど極端ではないが)彰人と一致している。

 

 こんな考えは別に難しい事ではない。少し考えれば、誰でも思いつく事なのである。

 

 にも拘らず、軍令部は無理な侵攻作戦を継続しようとしている。

 

 軍令部には、戦略を考えれるだけの人間がいないのか、あるいは・・・・・・

 

「誰か、強い影響力を持った人間が、ごり押しをしている、か?」

 

 つい、そんな事を呟いてしまった。

 

 それは何年か前から、都市伝説のように海軍内部で囁かれている噂。

 

 曰く「帝国海軍には『影の提督』と呼ばれる人物が存在する。その人物は絶大な権力を有し、海軍のみならず、陸軍や政治家、財政界、法曹界すら意のままに操る事ができ、帝国の全てを牛耳っている」との事だったが。

 

「・・・・・・バカバカしい」

 

 自身の中に浮かんだ考えに、宇垣は苦笑する。

 

 これでは、三流の推理小説である。

 

 宇垣自身、書を書く事が好きで、この戦争が始まって以来、常に日記をつけ続けている。

 

 しかし、それはあくまで、連合艦隊司令部の中で自分自身が見聞きしたことをありのままに書いているのであって、フィクションに走る気は無かった。

 

「俺は海軍の提督であって、小説家になった心算は無いんだがな」

「はい? どうかしましたか参謀長?」

 

 お茶を淹れる手を止めて、大和が振り返ってくる。

 

 彼女も、先のミッドウェーにおいて念願の水上砲戦を経験し、その存在感を内外に示す事が出来た。

 

「大和、また戦いが始まる。しかし、今度は恃みの機動部隊も、今まで通りの戦力は発揮できないだろう。万が一の時はお前が頼りだ。よろしく頼むぞ」

「はい、お任せください」

 

 頷く少女を、宇垣は頼もしげに見つめる。

 

 間もなく、彼女の妹である「武蔵」が戦力化される。更に「信濃」も戦艦として建造を続行される事が決定している。

 

 これからますます敵の抵抗が激しくなれば、大和達に頼らざるを得ない状況も生まれて来る事だろう。

 

 その時、できれば彼女の艦橋に立つのは自分でありたい。

 

 それが宇垣にとっての、偽らざる本音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀翼を連ねて、航空機が飛んでいく。

 

 薄い翼は、どこかカミソリのような鋭さを見せていた。

 

 ガダルカナル島を奪還する事に成功した帝国海軍は、同島のルンガ飛行場(米名:ヘンダーソン飛行場)に零戦を中心とした航空部隊を展開。更に南にあるニューへブリディーズ諸島エスピリトゥサントに狙いを定めていた。

 

 対して、米軍の動きも素早かった。

 

 ガダルカナル島が陥落したと見るや、ただちに南太平洋に増援部隊を派遣。

 

 ニューカレドニア島ヌーメアに拠点を築き主力艦隊を展開する一方、戦いの舞台となるエスピリトゥサント島にある3つの飛行場に、それぞれ大規模な航空部隊を展開。一歩も引かない構えを見せていた。

 

 ここにガダルカナル島、及びラバウルに展開する帝国軍と、エスピリトゥサント島に展開する合衆国軍との間で、激しい航空攻防戦の幕が上げられる事となった。

 

 この日の戦闘は、帝国軍が仕掛ける形で始まった。

 

 既に重爆撃機を中心とした部隊の展開を終えていた合衆国軍だったが、護衛に着く筈の戦闘機は、航続力が足りずガダルカナルまで足を延ばすのが難しい。

 

 その為、戦いは自然と、帝国軍が仕掛け、合衆国軍が守ると言う構図が多くなっていた。

 

「来たぞ。全機、陸攻隊を守れ!!」

 

 戦闘機隊隊長の声が、レシーバーから聞こえてくる。

 

 零戦隊の後方からは、1式陸攻と96式陸攻の混合編隊が続いている。彼等の事を、何としても守り抜かなくてはならない。

 

 その時だった。

 

 隊長機を頭上から追い越す形で、飛び出していく1機の零戦があった。

 

 その姿に、思わず隊長は舌打ちする。

 

「あいつッ」

 

 その零戦が誰のものであるかは、すぐに判った。

 

 部隊の問題児。

 

 隊長の自分ですら手を焼く厄介者。

 

 そして、

 

 敵と見れば、誰よりも早く突っかかって行く命知らず。

 

 その為、ついた渾名は「死にたがり」。

 

 しかし、操縦の腕は、部隊の誰よりも優れていた。

 

 今も、皆が見ている前で、瞬く間に1機目の敵を撃墜して見せる。

 

「クソッ 全機突撃だ!!」

 

 やけくそ気味に叫ぶ隊長。

 

 殆どなし崩し的に、両軍は戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 視界がぐるりと一回転し、再び上下の感覚が元に戻る。

 

 慌てふためくように散開する敵。

 

 少年にとっては、格好の獲物である。

 

「逃がさない」

 

 低い呟きと共に、エンジンスロットルを上げる。

 

 加速する零戦。

 

 逃げようとする敵が、視界いっぱいに広がる。

 

 すかさず、引き絞るトリガー。

 

 放たれた20ミリ弾は、やや下方に弾道を下げつつも、目標とした敵機を捕捉、爆砕する。

 

「次だ」

 

 幼さの残る声は、短い呟きを引きながら駆け去って行く。

 

 既に味方も戦闘を開始。大空は乱戦の巷と化している。

 

 そんな中、少年の目は、注高度から接近しつつある、敵戦闘機に引き付けられた。

 

「・・・・・・・・・・・・あれは」

 

 奇妙な形の機体である。

 

 魚のようなボディを左右に連結し、その中間にはもう一つ胴体がある。上空から見れば、ちょうど3つの胴体が翼によって連結されている形である。

 

 左右の胴体先端部分にはエンジンとプロペラがあり、中央はコックピットブロックになっており、その先端部分に武装が集中している。

 

「ロッキードの二つ胴!!」

 

 敵機の渾名を叫びながら、少年は翼を翻す。

 

 「ロッキードの二つ胴」、あるいは「双胴の悪魔」と呼ばれる、合衆国陸軍の重戦闘機。

 

 ロッキードP38ライトニング

 

 大出力のエンジンを二つ搭載した事で絶大な速度能力を誇り、更に機首部分に複数の機銃を集中配備した事で攻撃力も高い。

 

 重戦闘機の名にふさわしく防御力も高く、零戦の攻撃力を持ってしてもなかなか火を噴かない。

 

 機動性こそ零戦に劣るものの、その重量級の機体を利用した急降下速度は凄まじく、一旦降下を始めたら、零戦では絶対に追いつく事ができなかった。

 

 既にエスピリトゥサントにも大量配備され、猛威を振るいつつあった。

 

 だが、

 

 少年は機体を僅かに右に旋回させながら、急速にライトニングへと接近していく。

 

 米パイロットの方でも零戦の接近に気付き、急降下で逃れようとしているのが見える。

 

 しかし、

 

「遅いッ!!」

 

 少年は相手が動くよりも早く射程距離へと接近。1連射を浴びせる。

 

 装甲が厚いライトニング。しかし、確実に命中弾を刻めば、落とせない相手ではない。

 

 火を噴くライトニングを尻目に、少年は次の目標を探す。

 

 だがその時、

 

「ッ!?」

 

 背後に、影が躍るのが見えた。

 

 とっさに操縦桿を引き、零戦を宙返りさせる。

 

 既に馴染となった、体中が逆流しそうな感覚に身を委ねると、一瞬遅れて火線が「頭上」を走って行くのが見えた。

 

 遅れて、自身に攻撃を加えた敵機が見える。

 

 空中戦において最も危険な瞬間は、自身が射程距離に敵機を捉えた瞬間である。攻撃の直前、いかなるパイロットであっても、意識は目の前の敵に集中してしまう。そこを、別の敵に背後を突かれてしまい、命を落とすパイロットが多かった。

 

 少年はその鉄則を守り、攻撃直前に背後を気を配った為、自身に接近する敵機の存在にいち早く気付く事が出来たのだ。

 

 零戦特有の小さな宙返りで、襲ってきたライトニングの背後へと回る少年。

 

 すかさず、20ミリ機関砲を1連射。

 

 弾数の少ない20ミリ砲は、それで打ち止めになったが、同時にライトニングの方も火を噴いて落ちて行った。

 

 全体的に見て、空中戦は互角の様相を示し、一進一退の攻防戦を見せている。

 

 しかし、

 

「ダメだね、これは・・・・・・」

 

 眼下の様子を眺めながら、少年は嘆息交じりに呟く。

 

 エスピリトゥサントにある飛行場の1つに、陸攻隊が攻撃を仕掛けているのが見えるが、戦果ははかばかしいとは言えない。

 

 合衆国軍の戦闘機隊が激しい抵抗を見せた為、陸攻隊は目標に取りつく前に3分の1近くが撃墜され、更に対空砲火によって被害が拡大、結局攻撃に成功したのは、全体の半分程度であろう。

 

 これでは、飛行場を無力化したとは程遠い状況だった。

 

 やはり遥かに離れたガダルカナル島や、ラバウルからの航空攻撃だけでは無理がある。エスピリトゥサントを攻めるには、機動部隊との連携が必要不可欠なのだ。

 

 嘆息する。

 

 結局、今回の攻撃は何の意味も無かった。ただ、悪戯に損害を出しただけである。

 

 やがて、隊長機から帰還命令が下される。

 

「・・・・・・・・・・・・帰ろうか」

 

 零戦を操る少年は呟きながら、翼を大きく翻した。

 

 

 

 

 

第26話「死闘の幕開け」      終わり

 

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