蒼海のRequiem   作:ファルクラム

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第34話「新戦力加入」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国海軍軍令部総長、永野修大将は、その人物の前に立つと、恭しく頭を下げる。

 

 今、永野の目の前にいる人物は、彼にとって至高のお方。本来ならば、御尊顔を拝する事すら恐れ多い存在である。

 

 だが、

 

「良い、顔を上げよ」

 

 相手が鷹揚に許可した事で、永野はようやく顔を上げる。

 

 穏やかな中にも、威厳を感じる相手に対し、恐懼しつつ口を開く。

 

「いよいよです。殿下」

 

 万感の想いと共に、永野は報告した。

 

 戦争が始まって以来、作戦始動は山本伊佐雄以下、連合艦隊司令部が牛耳り、自分達は完全に蚊帳の外に置かれていた。

 

 破竹の快進撃を続ける味方を、苦々しく横で見ていた物である。

 

 だが、それももう終わる。

 

 自分達が戦争を主導し、米英を太平洋から駆逐し、やがてはこの帝国をアジアの王者として君臨させる日が来る。

 

 それはもう、手の届く所まで来ているのだ。

 

 他の誰でもない。自分達こそが、この提督を主導する者として、王道楽土を実現してみせる。

 

 その想いを胸に秘める永野。

 

「永野」

 

 そんな永野に対し、殿下と呼ばれた男は厳かに声を掛ける。

 

「期待しているぞ」

「ははッ」

 

 恐懼して頭を下げる永野。

 

 その双眸には、己の信じる物を心の底から信じる、ある種の狂信者じみた色が宿っていた。

 

 

 

 

 

 戦線の機運は高まりつつある。

 

 それは、帝国海軍の誰もが感じている事だった。

 

 最前線であるガダルカナル、及びラバウルには続々と航空隊が送り込まれる一方、トラック環礁には主力である連合航空艦隊が集結しようとしていた。

 

 ミッドウェー海戦の敗北から既に5か月が経過している。

 

 失われた物の数々が完全に補充されたわけではない。

 

 しかしそれでも、失った部分を新たな存在で埋めて、連合艦隊は戦う態勢を整えようとしていた。

 

 そして、

 

 トラック環礁に集結しつつある艦隊の中に、巡洋戦艦「姫神」を旗艦とする、第7艦隊の姿もあった。

 

 先日のエスピリトゥサント砲撃によって、編成後初となるデビュー戦を果たした第7艦隊は、次の戦いにおいては、第2艦隊同様に連航艦の前衛を務める事になっていた。

 

 今日は、その作戦会議が「大和」で行われる日だった。

 

 そんな訳で、そろそろ出発しなくてはならないのだが、

 

「姫神、そろそろ行くよ」

 

 出発時刻が迫っているのに、自分の旗艦がなかなか姿を現さない為、彰人は迎えに来たのだ。

 

 姫神の部屋の前に立ちノックする。

 

 しかし、返事は無い。

 

「まだ寝てるのかな?」

 

 三度の飯より昼寝好きの姫神の事、予定時間を過ぎても寝ている、なんてことは良くある話である。

 

 とは言え、連合艦隊司令部主体で行う作戦に全体会議に遅刻する事はできない。

 

 可哀そうだが、早く起きてもらわないといけなかった。

 

「姫神、ごめん、入るよ」

 

 そう言って、彰人は扉を開けた。

 

 そこで、

 

 思わず動きを止めた。

 

 部屋の内装は、彰人が使っている艦長室とそう変わらない。執務机一式に、壁際にはベッドと衣装入れ。

 

 布団等の寝具については、安眠優先主義の姫神らしく、そこそこ良い物を揃えているようだ。

 

 内装は至って普通。特に目立つような印象ではない。そこの住人の性格を現しているようだ。

 

 だが、彰人が驚いているのは部屋の事ではなかった。

 

 部屋の真ん中に、姫神が立っている。どうやら、既に起きていたようだ。

 

 入って来た彰人の方へ振り返り、表情の乏しい目を向けてきている。

 

 そして、どうやら着替え中だったらしい。

 

 上はセーラー服を着ているが、下は上げかけのスカートを手に持ったままだ。

 

 可愛らしいお尻を包む、純白のパンツが彰人の目に飛び込んでくる。

 

 髪もまだ縛っておらず、普段はポニーテールにしているのが、今は背中まであるストレートに下ろされていた。

 

「あ、ご、ごめんッ」

 

 慌てる彰人。

 

 対して、姫神はキョトンとした目を向けてくる。

 

 そして、

 

「すみません彰人。もう時間ですよね。すぐ支度しますので、もう少し待ってください」

「あ、うん、判った」

 

 普段と変わらない口調で言う姫神に、彰人は頷きつつも廊下へと出た。

 

「ふう・・・・・・・・・・・・」

 

 廊下に出ると、彰人は大きく息を吐いた。

 

 まさか着替え中だったとは。

 

 幼さの残る体付きでも、やはり女の子である。僅かに見てしまった少女の身体からは、瑞々しい魅力が感じられた。

 

 しかし、

 

 自分の下着姿を見られたにもかかわらず、姫神の反応は普段通りの薄い物だった。

 

 見られると言う事に対する羞恥心が薄いのか、

 

 あるいは、

 

「僕が男として見られていないのか・・・・・・・・・・・・」

 

 思いが、呟きとなって零れる。

 

 そもそも姫神に、そう言った微妙な人間関係を感じる思考回路が醸成されているかどうか、そこからして彰人には疑問だった。

 

 何しろ、物事への関心が割と薄い少女である。そこら辺の人間関係の機微についても、いささか薄いのかもしれなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・あれ?」

 

 そこでふと、彰人は我に返って疑問に思う。

 

 自分はなぜ、こんな事で思い悩んでいるのだろうか?

 

 自分は提督、姫神は艦娘。

 

 自分達は共に戦う戦友であって、それ以上でも以下でもない。

 

 姫神が個人的に自分をどう思っているかなど、彰人には関係無い筈である。

 

「気にし過ぎだな」

 

 そう言って苦笑した時、扉が開き、中から艦娘衣装のセーラー服を着た姫神が出てきた。

 

「お待たせしました」

「うん、じゃあ行こうか」

 

 そう言うと、彰人は姫神を伴って歩き出す。

 

 既に舷側に短艇を待たせてある。すぐに出発できる状態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「大和」の会議室は、既に各艦から集まった提督、艦娘、艦長でいっぱいになっていた。

 

 「大和」は、建造時から連合艦隊旗艦となる事が決定していた為、このような大会議を行う為に会議室も広めに取られた設計がなされている。

 

 しかし流石に、連合艦隊司令部+5個艦隊+攻略部隊の人員が一堂に会せば、手狭な印象がぬぐえなかった。

 

 彰人と姫神は居並ぶ一同の末席に腰を下ろしながら、会議の始まりを待っていた。

 

 規模にしたら、ミッドウェー海戦前に行われた作戦会議にも匹敵する人員である。

 

 この事からも、連合艦隊が今回の作戦に見せる意気込みが感じられた。

 

 やがて、正面の扉が開き、連合艦隊司令長官の山本伊佐雄大将、同参謀長の宇垣護少将、それに連合艦隊旗艦艦娘の大和が入室してくるのが見えた。

 

「起立、敬礼!!」

 

 長門の鋭い号令と共に、居並ぶ全員が立ち上がり、山本に対し敬礼をする。

 

 それと同時に、作戦会議が始まった。

 

「まず、自分から、本作戦についての説明をさせていただきます」

 

 立ち上がったのは、作戦参謀の黒鳥陽介大佐だった。

 

 MI作戦の実際的な立案に携わり、その破綻にも大きく関わった男だが、彼はその後も現職に留まり続けていた。

 

 何より、山本自身がミッドウェー後も黒鳥に対する寵愛を続けている事が大きい。

 

 その彼がまた、今回の作戦立案にもかかわっているようだった。

 

「今回の作戦は、米豪遮断作戦と言う大戦略の第2段階となります。目的は、ニューヘブリディーズ諸島、特に米軍が最重要視し戦力を投入しているエスピリトゥサント島の占領、及び、同島防衛の為に敵が繰り出してくるであろう、敵戦力の撃滅にあります」

 

 エスピリトゥサントを足掛かりにできれば、南にニューカレドニア、東にはフィジー・サモアがある。どちらに行くにしても良い中継拠点になるだろう。

 

 そう言う意味で、エスピリトゥサントは最良の要衝であると言える。

 

「今回我が軍は、連合航空艦隊に所属する3個航空艦隊、計8隻の空母を繰り出すと同時に、ラバウル・ガダルカナル両島に駐留する基地航空隊でもって、エスピリトゥサントに対し航空総攻撃を仕掛けます。航空機は総数で700機以上に及ぶ一大戦力になるでしょう」

 

 黒鳥が上げた数字に、一同は感嘆の声を上げた。

 

 真珠湾攻撃の時ですら、空母から飛び立った攻撃隊は総数で350機だった。それを考えれば、ほぼ倍以上の数の航空機が、本作戦に投入される事になる。

 

 勿論、今回は空母だけでなく、基地航空隊も合わせた数字であるが、それでも誇るべき数字である事は間違いなかった。

 

「戦闘機増強の方針に従い、今回の作戦に合わせて増産させた『秘密兵器』も既に、ガダルカナル島に運び込んであります。これらを駆使すれば、制空権確保は充分可能であると判断します」

 

 そう言うと、自信満々に胸を張る黒鳥。

 

 しかし、

 

 彰人はこの数字を頼もしく思うと同時に、そこに潜む脆さも感じ取っていた。

 

 この作戦に投入されるのは、帝国海軍が現状で保有する航空戦力の、ほぼ全力に等しい。つまり、ここでもし大打撃を蒙ったりしたら、すぐには戦力を補充する目途が立たないのだ。

 

 作戦に成功しても失敗しても、消耗してしまった時点で終了。ニューカレドニアにも、フィジー・サモアに攻め込む事も出来ない事は明白である。そして、どれは同時に、米豪遮断作戦その物の破たんをも意味していた。

 

 故に今回の作戦は、いかに航空戦力の消耗を防ぎながら戦うか、がカギとなる。ただ勝つだけでは不十分だった。

 

「次に、予想される敵の戦力です」

 

 黒鳥に促され、一同は資料のページをめくる。

 

「先に・・・・・・・・・・・・」

 

 言い掛けてから、黒鳥はチラッと彰人と姫神を見て来たが、すぐに自分の手にある資料へと視線を戻して続ける。

 

「先に、第7艦隊、及び挺身攻撃隊がエスピリトゥサントにある3カ所の飛行場を叩いた事で、同島に駐留していた航空部隊は、ほぼ壊滅させる事が成功しました。その後も、ガ島とラバウルの航空隊が定期的な攻撃を仕掛け復旧作業の妨害を続けている為、同島の戦力は、現在に至るまで回復していないのが確認されています」

 

 添付された写真には、穴だらけの写真と、航空機の破片と思われる残骸が散乱している様子が映されている。

 

 写真は、戦艦の砲撃のすさまじさを無言の内に語っていた。

 

 恐らく、攻撃隊に同行した偵察機が撮影した物だろう。

 

 撮影された日付は3日前となっている事からも、合衆国軍の復旧作業が殆どはかどっていない事は真実なようだ。

 

 だが、

 

 彰人は何かが引っ掛かった。

 

 エスピリトゥサントが壊滅状態にある。それは間違いないだろう。

 

 今が攻める最大のチャンスであると言う判断も、頷けるものがある。

 

 しかし、

 

 これまで激しい抵抗を続けてきたエスピリトゥサントの合衆国軍が、ここに来て防戦すらままならない状況に追い込まれている。

 

 その状況そのものに、彰人は引っ掛かりを覚えていた。

 

「提督?」

 

 傍らの姫神が訝るような視線を向けて来るのに対し、笑顔を返す彰人。

 

 考えすぎ、だとは思わない。しかし確証がある訳では無く、漠然とした勘に過ぎず、更に言えば、その勘ですら、何かしらの証拠に基づいている訳ではない。文字通りの「嫌な予感」に過ぎなかった。

 

 考えすぎるのもどうか、と言ったところだろう。この事は、頭の隅にでも覚えておこうと思った。

 

「次に敵艦隊ですが、先の第2次ソロモン海戦において、敵の空母を1隻撃沈、1隻大破、2隻中破の損害を与えております。この事から考えますと、敵は今回、繰り出せる空母の数は、多くても2隻と言う事になり、この程度であるなら、8隻もの空母を有する我が軍に敵し得ないと判断します」

 

 損傷させた空母の内、比較的傷の浅い「ホーネット」「エンタープライズ」は、今回出てくる可能性は大いにある。

 

 しかし、大破した「サラトガ」は、出撃を見合わせるだろう、と言うのが連合艦隊司令部の判断だった。

 

「戦艦は現時点までに、新鋭戦艦が6隻が就役している事が確認されています。その内の1隻は、先の戦いで撃沈しておりますので、残りは5隻です。これは、水上砲戦になった場合、充分に警戒する必要があると考えます。そこで今回、これらを押さえる為に、第1戦隊の投入を決定しました」

 

 黒鳥の言葉に、一同は感嘆の声を発する。

 

 これまで温存していた第1戦隊を出す事から考えても、連合艦隊司令部の本気さが伺えるようだった。

 

 帝国海軍最強の戦艦を揃えた第1戦隊を出すのであれば、水上砲戦になった場合、大抵の敵艦は圧倒できる筈。と考えているのだろう。

 

 やがて、大まかな説明が終わり、質疑応答の段階に入ると、真っ先に手を上げた物がいた。

 

 蒼龍である。

 

 2航艦旗艦として出席している彼女は、自身の経験から疑問に思った事があったらしい。

 

 促されて立ち上がると、蒼龍は静かな口調で口を開いた。

 

「先ほど、黒鳥参謀の説明によりますと、大破した『サラトガ』が出て来る事は無いとおっしゃりましたが、その事には疑問があります。ミッドウェーの時、敵は大破した『ヨークタウン』を3日で修理して戦線に復帰させました。その事を考えると、『サラトガ』が出てくる可能性も、考えておくべきだと思います」

 

 蒼龍の言葉には、一定以上の説得力があった。

 

 実際にミッドウェーの最前線で戦い、そしてその「ヨークタウン」を含む米空母に、妹分の飛龍を沈められているのだ。

 

 損傷した敵艦は出てこない、などと言われたところで納得できるものではなかった。

 

「その心配はない」

 

 対して、黒鳥は断言するように言った。

 

「『ヨークタウン』の時とは事情が異なる。今回の『サラトガ』に関して言えば、かなりの損害を与えた事が確認済みだ。どう考えても間に合うとは思えん」

「それこそ、ミッドウェーの時に同じ言葉を聞きました。『「ヨークタウン」が出て来る事はあり得ない』と。今度は、最悪のケースを考えておくべきです」

 

 言い募る蒼龍。

 

 と、

 

「蒼龍の意見が正しいだろう」

 

 議論を聞いていた山本が口を開いた。

 

「最悪のケースを考え、用心をしておく事は決して無駄にはならないはずだ。まして、我々は甘い見積もりを重ねた結果、ミッドウェーで敗れている。同じ轍を二度踏む事は避けたいところだ」

 

 山本の言葉に対し、黒鳥は黙して頭を下げる。

 

 長官がそう言うなら、と言った感じの態度にも思えたが、そこに言及する心算は無かった。

 

 どのみち、それでも敵が使える空母は3隻。航空機もせいぜい300機程度。ならば、700機以上の航空機を擁する我々の敵ではない。と考えているのかもしれなかった。

 

 ともかく蒼龍の指摘のおかげで、ミッドウェーの時のような慢心を空変えたまま戦端を開くと言う事態だけは避けられた事は僥倖だった。

 

「それでは、これが今回の出撃における編成表となります」

 

 そう言うと黒鳥は大和に目配せし、新たな冊子を回すように指示する。

 

 渡された冊子には、出撃艦艇の一覧が記されていた。

 

 

 

 

 

○第1航空艦隊

第1航空戦隊「翔鶴」(旗艦)「瑞鶴」「瑞鳳」

第8戦隊「利根」「筑摩」

第10戦隊「長良」 駆逐艦10隻

 

○第2航空艦隊

第2航空戦隊「蒼龍」(旗艦)「龍驤」

第7戦隊「鈴谷」「三隈」

第3水雷戦隊「川内」 駆逐艦8隻

 

○第3航空艦隊

第3航空戦隊「隼鷹」(旗艦)「飛鷹」「祥鳳」

第5戦隊「妙高」「羽黒」

第4水雷戦隊「那珂」 駆逐艦6隻

 

○第2艦隊

第1戦隊「長門」「陸奥」

第3戦隊「金剛」「榛名」

第12戦隊「比叡」「霧島」

第4戦隊「愛宕」(旗艦)「高雄」「摩耶」

第2水雷戦隊「神通」 駆逐艦8隻

 

○第7艦隊

第11戦隊「姫神」(旗艦)「黒姫」

第13戦隊「阿賀野」 駆逐艦5隻

 

○第8艦隊(攻略部隊)

第6戦隊「鳥海」「青葉」「衣笠」「古鷹」「天龍」

他 駆逐艦4隻 輸送船10隻

 

 

 

 

 

 前回出撃時の編成に、第7艦隊と第3航空艦隊、そして攻略部隊を伴った第8艦隊が加わった形である。

 

 正に、連合艦隊が現状で出撃させ得る、ほぼ全力を投入したに等しい状況だが、

 

 彰人はチラッと、山本の方に目をやる。

 

 結局のところ、第1戦隊を出撃させると言っても、「大和」は後方に温存したままになっている。

 

 「長門」「陸奥」は出撃させるようだが、もし敵が使用可能な5隻の新鋭戦艦全てを投入して来たら、この2隻だけで対抗するのは難しいのではないかと思う。

 

 全力投入、と言いつつも結局のところ戦力を後方において温存したがる体質は、ミッドウェーの頃から全く変わっていない。

 

 彰人は己の内にある不安が、徐々に顕在化していくのを感じずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議を終えて、「姫神」へと戻ろうとしていた彰人と姫神。

 

 今回の作戦について、今度は第7艦隊の皆を集めて説明し、協議をする必要がある。

 

 第7艦隊に与えられた任務は、機動部隊の前衛だが、同時に、状況に応じて敵の勢力圏へと進出し、後方攪乱に出る事もあり得る。

 

 つまり、いつも通り、海上の特殊部隊としてゲリラ行動を取る事も許されると言う訳だ。

 

 戦力を増強された事で、以前よりも戦術の幅が広がっている。今なら、より多くの戦果を上げる事ができる筈だった。

 

「姫神、早速帰ったら、細部の詰めをやるよ。悪いけど、今日は昼寝の時間はあげられないよ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 彰人の言葉に、姫神は僅かに眉を吊り上げる。

 

 どうやら、機嫌が悪くなっている様子だ。

 

 対して、彰人は笑いながら、少女の頭を撫でてやる。

 

「そう機嫌悪くしないで。終わったら、ちゃんと時間をあげるから」

「・・・・・・期待しています」

 

 尚も拗ねた様子で返事をする姫神。

 

 と、

 

 そんな2人のやり取りの傍らで、クスクスと笑う声が聞こえてきた。

 

 訝りながら振り返る、彰人と姫神。

 

 するとそこには、1人の少女が笑顔を向けて立っていた。

 

「お二人は。すっごく仲がいいんですね。羨ましいです」

 

 どこか、フワフワとした印象の喋りをする少女だ。

 

 ストレートに下ろした黒髪に、ふんわりした感じの表情。体付きは細身ながら、女性的な胸が強調される程大きいのが目を引く。

 

 服装は白地に赤いリボンやスカートのセーラー服。

 

 艦娘の衣装と言うのは大体、同型艦同士で共通している場合が多く、それが艦型識別の目安となっているのだが、この服装の艦娘は、あまり見た事が無い。しいて言うなら大和の衣装に似ているが、それとも微妙に異なった。

 

「えっと・・・・・・」

「誰ですか?」

 

 揃って首をかしげる彰人と姫神。

 

 そこで、相手もハタと思い至ったらしい。思わず口に手を当てて慌てる。

 

「あ、ごめんなさーい。まだ自己紹介していなかった」

 

 あたふたと身なりを整え、踵をそろえる少女。

 

「こんにちわー 本日付で 第7艦隊、第13戦隊旗艦として配属になりました、軽巡洋艦の阿賀野でーす」

「あ、そう言えば・・・・・・」

 

 彰人もそこで、ようやく思い出す。そう言えば、先ほど見た編成票にも名前があった。

 

 第7艦隊結成の際に、近く竣工予定の新鋭軽巡が配属される事は決まっていた。生憎、先のエスピリトゥサント砲撃作戦では合流が間に合わず、彼女抜きでの出撃となってしまったが。

 

 見覚えの無いのも当たり前だった。彼女は最新鋭軽巡として配属されたばかりなのだから。

 

「僕は第7艦隊司令官の水上彰人大佐、こっちは艦隊旗艦の姫神。よろしく」

「どうも」

 

 答礼を返す彰人と、短く挨拶する姫神。

 

 それに対して、阿賀野も笑顔を見せる。

 

「よろしくお願いします。阿賀野の実力、期待していてくださいね」

 

 新たに加わった艦娘。

 

 整えられた戦力。

 

 それらを携え、帝国海軍は南洋の地を目指す。

 

 決戦の地、エスピリトゥサントを目指し、全てが動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

第34話「新戦力加入」      終わり

 

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