1
2式艦偵は最高速度519キロにも達する高速機である。
これはほぼ零戦の最高速度にも匹敵する数字であり、偵察機の一つの理想形と言うべき「単独で偵察行動を行い、敵機の追撃を振り切り帰還できる」と言うコンセプトに、限りなく近づいた物であると言えた。
実はこの機体、元々は開発中の新型爆撃機をベースにして改良を加えた物であり、これがのちに艦上爆撃機「彗星」として名を馳せる事になる傑作機である。
そもそも「艦上偵察機」と言うコンセプトその物が、他の国にはない帝国独自の物である。普通であれば、偵察能力を持たせた艦攻や艦爆、もしくは水偵に偵察をやらせる事が常である。
特にミッドウェーでの敗北を機に、偵察の重要性が帝国海軍の中でも高まりつつある。今後、ますますの活躍が期待されていた。
その2式艦偵が、雲間を縫うようにして飛行していく。
連航艦を襲撃した敵機は、珊瑚海の西からやって来た。つまり、その方角に敵艦隊がいる可能性が高いと言う事だ。
偵察員が、目を凝らしながら海面を見詰める。
大艦隊と言えど、洋上ではただの点に過ぎない。一瞬でも見誤れば発見できないのだ。
やがて、僅かに見えた雲の切れ間。
その視界の先に、海面に引かれた複数の白い線が見えた。
その中央には、ひときわ大きな艦体を持つ、平たい甲板の艦もある。
間違いない。合衆国艦隊。それも空母を伴った機動部隊である。
その時だった。
突如、上空からエンジン音をとどろかせて、急降下してくる機体があった。
太い頑丈そうなボディを持つ機体。ワイルドキャットである。
放たれる機銃。
しかし、それよりも一瞬早く、パイロットはスロットルを開き2式艦偵を加速させる。
間一髪、銃弾は尾翼を掠めて後方へと過ぎ去っていく。
そのまま加速する2式艦偵。
複数のワイルドキャットが追撃を仕掛けて来るが、立ち上がりを制した事で、2式艦偵に追いつける機体は存在しない。
そのまま攻撃を振り切り、全速力で立ち去って行くのだった。
「これは、見つかったね。完璧に・・・・・・・・・・・・」
駆け去って行く2式艦偵の様子を眺めながら、ホーネットは嘆息交じりに呟いた。
帝国海軍がエスピリトゥサントに総攻撃を仕掛けて来る事を、合衆国軍は事前に掴んでいた。
そこで、エスピリトゥサントを囮にして敵を引き付ける一方、「ホーネット」「エンタープライズ」「サラトガ」を中心とした機動部隊は、敵が攻撃した隙を見計らい、襲撃を仕掛ける作戦が立てられた。
現状、合衆国軍は帝国軍と正面から機動部隊決戦をするだけの力は無い。故に、このような奇策を使った訳である。
作戦は一応成功し、ホーネット達の攻撃によって敵の空母、大小合わせて3隻を撃破した事が確認されている。
しかし、事前の見積もりでは、帝国海軍は今回の戦いに7隻から8隻の空母を投入可能と見られている。仮に7隻だとしても、まだ半分以上が健在と言う事になる。
しかも、今やホーネット達も発見されてしまった身だ。以後は、帝国軍もこちらを優先して叩きに来るだろう。
「正念場って奴ね」
呟きながらホーネットは、少し離れた場所を航行する「エンタープライズ」に目をやる。
ミッドウェーで「ヨークタウン」が沈んだ今、ホーネットとエンタープライズは、この世に2隻だけの姉妹となってしまった。
守ってあげたい。
沈めたくない。
ホーネットは小さな妹の事を想い、胸の中の決意を新たにする。
エンターは、必ず自分が守る。
それが亡き姉、ヨークタウンに対する、ホーネットの誓いだった。
2
連航艦旗艦である「翔鶴」被弾に伴い、指揮を継承したのは2航艦司令官の小沢治俊だった。
本来なら、連航艦司令官である南雲が、旗艦を健在な「瑞鶴」へと移して指揮を続行すべきところではあるが、今は僅かなりと言えども時間が惜しい所である。
そこで「翔鶴」は南雲を乗せたまま、同じく損傷した「瑞鳳」「飛鷹」と共に北方へ退避し、1航艦の指揮は第8戦隊司令官が一時的に継承、同時に連航艦全体の指揮は小沢が取る事となったのである。
その小沢は、2式艦偵から敵空母発見の報告を受け取ると、直ちに行動を起こした。
直掩に必要な零戦のみを残すと、残る全力を発見した機動部隊に差し向けたのだ。
「蒼龍」「龍驤」「瑞鶴」「隼鷹」「祥鳳」の飛行甲板を蹴って、次々と攻撃隊が飛び立っていく。
既にエスピリトゥサント攻撃で消耗しているが、待機していた部隊に第1次攻撃隊の帰還機を加えた部隊は、総数で84機に上る。
被弾、後退した3空母の艦載機が丸ごと失われたのは痛かったが、それでも充分な打撃力を備えた編成となっていた。
その攻撃隊の中に、直哉が駆る零戦22型甲の姿もあった。
エスピリトゥサント攻撃から帰還し、補給を済ませてから慌ただしい再出撃である。
だが、疲労は無い。
敵艦隊を捕捉し、必ずや空母を仕留めると言う気力に満ち溢れていた。
攻撃隊の先頭を進むのは、「蒼龍」飛行隊長である、江草大尉の駆る99艦爆である。彼が、今回の攻撃隊の隊長を務めていた。
江草もまた、直哉同様に連続出撃となるが、その飛び方に疲労の色は見えなかった。
やがて、眼下に空白い航跡を引いて航行する艦隊が姿を現す。
その中央に座する空母からは、既に迎撃の為、戦闘機が発艦しようとしている様子が見える。
どうやら、予めレーダーによって、帝国軍の接近を察知していたらしい。
直ちに、迎え撃つべく直哉たち制空隊も前へと出る。
江草の99艦爆と並走する直哉機。
敬礼してくる江草に対し、直哉もまた敬礼を返す。
同時に、機体を加速させて、前方へと突出した。
たちまち、零戦とワイルドキャットの間で乱戦が始まる。
火線が空中で激しく交錯し、両軍の戦闘機が火を噴いて落ちていく。
直哉もまた、突撃しながら6丁の機銃を斉射。すれ違いざまに1機のワイルドキャットを撃墜する。
機体を旋回させながら、海上の様子を確認する直哉。
「敵空母は・・・・・・2隻、か」
合衆国軍が保有する空母3隻。その内の2隻が眼下にいる。
既に、江草以下の攻撃隊は、その内の1隻に狙いを定めて攻撃態勢に入ったいる。
雷撃隊が海面近くまで下りて横列隊形を作る一方、江草の直率する艦爆隊は、縦列隊形で急降下を開始する。
教科書に載せても良いくらい、鮮やかな雷爆同時攻撃である。
見れば、もう1隻の空母にも、別の艦爆隊が殺到しようとしていた。
空母の側も必死に回避運動を行いつつ、対空砲火を撃ち上げて接近を阻もうとしている。
何機かの機体が火を噴いて落ちるのが見えた。
だが、爆弾を投下した江草の機体を先頭に、後続する99艦爆から、次々と爆弾が投下されていく。
直撃弾の吹き上げるの炎が、視界の中で踊る。
行き足が止まる空母。
飛行甲板は無惨に裂け、巨大な穴によって内部の構造が露出しているのが上空からも確認できる。
衝撃によって砲手がなぎ倒されたのか、対空砲火もまばらになっている。
そこへ、低空から接近した艦攻隊が魚雷を一斉に投下する。
白い航跡を引き、海面下を疾走する魚雷。
それらが、空母の艦腹に炸裂すると同時に、巨大な水柱を噴き上げた。
「よしっ」
直哉が見ただけでも、命中した魚雷は3発以上。空母1隻を仕留めるには充分な量である。
視線を転じれば、もう1隻の空母も炎を噴き上げているのが見える。そちらにも爆弾を命中させる事が出来たようだ。
空母1隻撃沈確実。もう1隻は、直哉の見立てでは撃沈は難しいだろうが、それでも発着不能くらいには追い込めたようだ。
1度の攻撃の戦果としては、充分すぎるくらいである。
「よし、後は離脱するだけ・・・・・・・・・・・・」
そう思った時だった。
1機のワイルドキャットが、下から突き上げるように直哉の零戦22型甲に向かってくるのが見えた。
突撃しながら、ギャレットは機銃を1連射。それが回避されると、苛立ち交じりに舌打ちする。
「クソッ 勘のいい奴めッ!?」
不意を突けたと思った攻撃をあっさりと回避された事が悔しかった。
眼下では2隻の空母、「ホーネット」と「エンタープライズ」が炎を上げているのが見える。
「エンタープライズ」の方は、まだマシだろう。艦首付近に1発の直撃弾を受けたようだが、機関は無事らしく、煙を上げながらも退避行動に移ろうとしてるのが見える。上手くすれば、着艦も可能かもしれない。
だが、「ホーネット」の方は明らかに致命傷だった。
この時、「ホーネット」は爆弾3発と魚雷4本を喰らい、完全に海上に停止している状態だった。
魚雷を喰らった左舷側に大きく傾斜している。既に総員退艦も命じられている様子だった。
エンタープライズは、またしても姉を失う結果となった訳だ。
「俺達が、ふがいないばかりに・・・・・・・・・・・・」
エンタープライズを想い、唇をかみしめるギャレット。
いつもそうだ。
ミッドウェーの時も、前回の戦いの時も、自分達はいつも帝国軍に後れを取り、守るべき空母に傷を負わせてきた。
ミッドウェーの時は、ヨークタウンがやられ、今またホーネットが沈もうとしている。
これは全て、帝国軍を阻止できなかった自分達の責任である。
「絶対に、許さんぞ!!」
錨と共に叫ぶギャレット。
その瞳は、たった今、仕留め損ねた零戦へと向けられる。
既に零戦は、旋回しつつ反撃体制に入ろうとしているのが見えた。
「調子に・・・・・・乗るな!!」
操縦桿を引き、急上昇を掛けるギャレット。
その照準器が、スマートな機体を捕える。
機銃のトリガーに指を掛けた。
次の瞬間、
照準器の中から、零戦の姿が消え去った。
「ッ!?」
息を飲むギャレット。
これまでに何度も見た光景が繰り返される。
とっさに退避に移ろうとした時には、既に遅かった。
衝撃が、背後から機体を襲う。
以前に喰らった事がある、20ミリ機関砲の衝撃には劣るものの、それでも金属を掻きむしるような不快な音と衝撃。
頑丈さを誇るワイルドキャットの機体が、致命的な損害を受けたのが判った。
飛び去って行く零戦の機影。
対照的に、ギャレットのワイルドキャットは、煙を拭きながら速度を落としていく。
徐々に、高度も落ち始めていた。
機体の進路変更に必要不可欠な方向舵が破壊され、進路を維持できなくなったのだ。こうなっては、飛行機はおしまいである。
「クソッ!?」
屈辱に塗れながら、コックピットのハッチを開くギャレット。
そのまま空中に身を躍らせる。
程無く、パラシュートが開き、ゆっくりと海面へ近付いて行った。
「ホーネット」と「エンタープライズ」が連航艦を発した攻撃隊の襲撃を受けている頃、
離れた海面を航行していた「サラトガ」もまた、帝国軍機の攻撃を受けていた。
「サラトガ」は今回、万全とは程遠い状態での出撃であった。
先の第2次ソロモン海戦におて爆弾多数の命中を喰らい、機関にまで損傷を受けた「サラトガ」だったが、急ピッチで飛行甲板を張り替え、機関を調整し、格納庫の体裁を整え、辛うじて出撃に間に合わせたのである。
正にミッドウェーの「ヨークタウン」の再現である。
そんな状態である為、艦載機運用と対空戦闘には支障は無い物の、機関は28ノットが限界であり、艦内の隔壁も殆どが損傷したままだった。
そんな中の帝国軍機襲来だった。
が、
「・・・・・・何だ、あれ?」
自身に向かってくる帝国軍の機体を見て、サラトガは呆けたようにあんぐりと口を開ける。
見回せば、艦長以下、他の幕僚達も似たような表情をしているのが見える。
つまり、「サラトガ」に向かって来ているのは、機動部隊の艦載機では無く、基地航空隊と言う事になる。
が、問題はもう1種類の機体の方だった。
小型の機体が護衛用だと言う事は判る。
しかし、その機体の下部にはなぜか、着水用のフロートが見える。
要するに、水上機だ。
「何だありゃ? ジャップはとうとう、偵察機に護衛をさせる程、戦力が枯渇したのか?」
隣で艦長が、指差しながら失笑する。
零戦も何機か姿を現しているが、大半が件の水上機である。
これなら、損傷中の「サラトガ」でも切り抜ける事は可能だろう。
「直掩隊、迎撃に向かいます!!」
既に発艦していたワイルドキャットが、迎撃の為に展開するのが見える。
彼等に任せておけば、「サラトガ」が攻撃を喰らう事は無いだろう。
そう思った。
その時だった。
ワイルドキャットが襲い掛かろうとしていた水上機が、突如、鋭い機動でターンを見せたかと思うと、あっという間にワイルドキャットの背後へと回り両翼の機銃を1連射した。
火を噴いて墜落するワイルドキャット。
同様の光景が、空中のあちこちで見受けられる。
「な、何なんだ、あれは!?」
驚愕するサラトガ。
艦長たちも同様に、信じられない物を見たように目を見開いている。
直掩隊のパイロット達も、まさか偵察機に反撃されるとは思って無かったらしい。
たちまち隊形を見出し、散り散りに逃げ惑う様子が見て取れた。
この時、サラトガ以下、合衆国艦隊の全員が、致命的な勘違いをしていた。
サラトガ達が偵察機だと思い込んでいた機体。
だが、実のところその機体は、偵察機ではなかった。
正体は、2式水上戦闘機。
れっきとした空戦能力を備えた戦闘機である。
そもそも、水上戦闘機などと言う発想が無い合衆国軍に、その正体を見極める事は不可能だった。
帝国海軍では、敵拠点を占領した際、滑走路を備えた航空施設が完成するまでの間、制空権を維持する為に、水上戦闘機と言う、他には無い機種を開発していたのだ。
しかも、この2式水戦は、ただの機体ではない。
種明かしをすれば、元は零戦をベースにしてフロートを付けて水上機能力を付加した機体である。
その為、最高速度では零戦に劣るものの、攻撃力と機動力は全く変わりない代物と言って良かった。
作戦会議の場で黒鳥が自信満々に言った「秘密兵器」とは、この機体の事だったのである。
戦闘機の不足を補うと同時に、滑走路が必要無い水上機であれば、海岸線の茂みに隠しておき、いざと言う時にすぐに発進する事もできる。と言う訳だ。
意表を突かれた形のワイルドキャット隊は、2式水戦に追い回されて、「サラトガ」の防空どころではなくなってしまう。
そこへ、低空へと舞い降りてきた1式陸攻が、魚雷の発射体勢に入る。
「クッ 寄るなァ!!」
盛んに対空砲火を上げて、1式陸攻の接近を阻もうとするサラトガ。
周囲の巡洋艦や駆逐艦も、同様に対空砲火を撃ち上げて「サラトガ」を掩護してくる。
低空に向けられる集中砲火の嵐。
的の大きい1式陸攻は、次々と被弾して海面へ突っ込んで行く。
だが、それでも、仲間の屍を踏み越えるようにして、残った1式陸攻が「サラトガ」へと迫ってくる。
そして、ついに魚雷が投下された。
「面舵一杯!!」
艦長の絶叫が響く。
同時に「サラトガ」は、少しずつ艦首を右に振り始める。
向かってくる魚雷に艦首を向け、正対させる事で回避しようと言うのだ。
しかし、先の戦いでの古傷が残り、思うように艦体が動かせないサラトガに、全ての魚雷を回避する事は不可能だった。
衝撃が襲う。2度。
「グゥゥゥゥゥゥ!?」
突き上げる激痛に、歯を食いしばって耐えるサラトガ。
元より、この身は巡洋戦艦として設計された身体だ。空母として完成した後も「世界のビッグ4」の異名で呼ばれた身。傷を負っているとは言え、魚雷2本の命中くらい、耐えられないはずがない。
そう思った次の瞬間、
まるでトドメと言わんばかりに、炎を纏った1式陸攻が、「サラトガ」目がけて突っ込んで来た。
パイロットが負傷し、機体も損傷を負った事で静観の望みは無いと判断したのかもしれなかった。
いずれにせよ、突っ込んで来た1式陸攻は、真っ直ぐに「サラトガ」艦橋に激突。レーダーや通信用のアンテナをなぎ倒し、艦橋そのものを炎に包みこんだ。
3
黄昏時が近付く中、戻ってきた攻撃隊の姿を見て、小沢は思わず嘆息した。
「少ないな・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
思わず漏れた小沢の呟きに、蒼龍もまた、同意するように俯いた。
帰還した攻撃隊の数は、出撃した数の半分にも満たないように思える。
これが、今朝には連航艦だけで合計280機、基地航空隊と合わせると400を超える規模を誇った攻撃隊だとは、とうてい思えなかった。
生き残った機体も、大半が損傷を負っているのが見える。
中にはパイロットが負傷しているのか、着艦待ちの順番を待てず、不時着水する機体も少なくは無い。
そうした機体には、駆逐艦が急行して救助に当たっている。
決して少なくない犠牲と引き換えに、攻撃隊が上げた戦果は誇るべき物だった。
敵空母1隻撃沈、1隻大破。更に基地航空隊が1隻大破の損害を敵に与えている。
これで、合衆国軍が保有する空母は、全て行動不能にした事になる。
「問題は、残る1隻の空母だ」
小沢は、難しい顔で呟く。
基地航空隊が攻撃した空母は、後の暗号解析で「サラトガ」である事が判明している。
その「サラトガ」が、航行不能になって漂流中である事が判明した。
できればこれにトドメを刺し、本作戦における一つの目標である、敵機動部隊撃滅を完遂したいところではある。
しかし、連航艦は既に戦力の半分を喪失。残り半分も、大半が再出撃不能な状態にある。しかも時刻は黄昏時。これ以上攻撃を続行するなら、明日以降と言う事になる。
基地航空隊の損害は更に大きく、今日1日の戦闘で、8割近い機体が失われたと言う。事実上、基地航空隊はここで脱落を余儀なくされたに等しかった。
勿論、修理可能な機体に関しては、夜間に修理を施す事になるが、その間に合衆国軍は、「サラトガ」を曳航して退避させてしまうだろう。
どうにか、今夜中に何とか決着を付けたいところではある。
「・・・・・・ここは、カードを切るべきか」
呟くと、小沢は蒼龍へと向き直った。
「第2、第7両艦隊へ通達しろ」
残されたカードは、もはやこれしかなかった。
「残る敵空母は、艦砲で仕留める」
第37話「連航艦反撃」 終わり
偵察機が1機、夜の帳が降りつつある空を飛行していた。
目的は、合衆国艦隊の動向を探る事。
機体は第7艦隊所属。「黒姫」の2号機である。
小沢から水上戦闘の指示が来た時点で、彰人は敵艦隊の陣容を詳しく知る為に動き出したのだ。
ここに至るまで、両軍とも航空戦に終始し、戦艦は戦場の外で待機していただけである。
故に、互いの戦力分析が急がれた。
やがて、偵察機の眼下に、複数の戦艦を含む艦隊の姿が見えてきた。
間違いなく、合衆国艦隊である。しかも、進路は真東に取っている。
真東と言えば、帝国艦隊がいる方角である。つまり、合衆国艦隊も、水上砲戦を企図して行動を開始しているのだ。
と、その時だった。
突如、放たれる砲弾が、偵察機の至近で炸裂する。
こちらの存在に気付いた合衆国艦隊が、対空砲火を撃ち上げて来たのだ。
急いで退避に移りつつ、得た情報を打電する。
だが次の瞬間、すぐ脇で炸裂した砲弾の破片が、容赦なく機体を切り裂いて行く。
やがて、燃料タンクに引火すると、炎の塊と化して落下していった。
「敵機、撃墜しました閣下」
「うむ、ご苦労だったな、インディアナ」
旗艦からの報告に、提督は満足げな頷きを返す。
痩身で目には丸メガネをかけた人物。細面の顔からは海軍軍人と言うより、大学の教授のような印象を受ける。
クラウス・リー合衆国海軍少将は、今年で50歳に達する年齢であり、合衆国軍の中では「長老格」と言っても差し支えない人物である。
しかし、そのような立場にありながら、その頭脳は合衆国軍随一とも言われる緻密さを誇っている。
特に最新兵器であるレーダーへの関心は強く、その研究にも余念がない。
合衆国海軍随一のレーダー研究の権威と言って良かった。
先程、闇夜に紛れて接近を図ろうとした帝国軍の偵察機を撃墜できたのも、レーダーによるところが大きかった。
「・・・・・・とは言え、これで偵察機の接触は3回目か。いい加減、敵もこちらの陣容を知った事だろうな」
「そうですね。ですが、それでもこちらの有利は動かないと思います」
インディアナの言葉に、リーも頷きを返す。
それだけの自信を発する材料が、彼等にはあった。
リー指揮下にある戦艦は彼の旗艦である「インディアナ」と、同じサウスダコタ級戦艦である「マサチューセッツ」「アラバマ」。そしてノースカロライナ級戦艦の「ノースカロライナ」「ワシントン」の合計5隻。
つまり、ここ1年以内に合衆国軍が竣工させた最新鋭戦艦が、全て揃っている事となる。
正に、水上砲戦としては理想的な編成だった。
「さあ来い、帝国軍。この珊瑚海を、貴様らの墓場にしてやるぞ」
そう呟くと、リーは口元に不敵な笑みを浮かべた。