蒼海のRequiem   作:ファルクラム

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第42話「狩猟部隊、再び」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜は、澄み渡るような晴れ間が広がり、淡い月明かりの下、風も無く、穏やかな海原が果てしなく広がっていた。

 

 ここから僅か北にあるソロモン諸島では、合衆国軍が帝国軍を相手に死闘を演じている。

 

 つい先頃には、合衆国軍が反攻に転じニュージョージア島を占領。帝国軍の戦線に楔を打ち込む事に成功していた。

 

 この上陸作戦成功のニュースは、本国でも熱狂的に報道された。

 

 開戦以来、常に守勢を強いられてきた合衆国軍が、限定的とはいえ攻勢に転じた事は大きかった。

 

 全てはここから始まる。

 

 恨み連なるジャップ共を太平洋から駆逐し、偉大なる勝利を祖国、合衆国へと齎す。

 

 合衆国軍兵士の誰もが、その想いを胸に抱いていた。

 

 とは言え、そのような激戦など感じられない程、今夜の珊瑚海は穏やかに澄んでいた。

 

 その珊瑚海を今、ヌーメアを発した合衆国軍の輸送船団が航行していた。

 

「平和なもんだ」

 

 船団を指揮する司令官は、護衛艦隊旗艦である軽巡洋艦「ボイス」の艦橋にて、口元に笑みを浮かべながら、傍らの艦長にそう言う。

 

 現在彼は、輸送船12隻、巡洋艦4隻、駆逐艦8隻から成る船団を指揮し、ニュージョージア島へと向かって北上していた。

 

 輸送船の中身は、基地施設建設に必要な資材や燃料、更に増援の陸軍部隊である。

 

 これからソロモン諸島を合衆国軍の完全支配下に置く為に、どれも必要な物ばかりだった。

 

「ついこの間まで、この辺が激戦区だったなんてのは想像もできない穏やかさだな」

「しかし司令官、油断は禁物では? 多少離れているとは言え、ここは敵の勢力圏からギリギリの場所にあります」

 

 緩んでいる司令官の言葉に、艦長は苦言を呈する。

 

 いつ敵が現れてもおかしくは無い状況に、艦長としては緊張せずにはいられないのだ。

 

 対して、司令官は肩を竦めて苦笑する。

 

「君の勤務態度は称賛に値するがね、そんな調子では帰りまで保たんぞ。もっとリラックスしたまえ」

「はあ、しかし・・・・・・・・・・・・」

「いいかね。ジャップの艦隊と航空部隊は、この間の海戦で壊滅し、残った連中も損傷して動く事はできない。よって、我々が攻撃を受ける可能性も低いと言う訳だ」

 

 そう言って司令官は胸を逸らす。

 

 そんな司令官の言葉に、艦長もまた、半信半疑ながらも一応は納得する。

 

 南太平洋海戦で帝国海軍に大損害を与えたのは事実だし、彼等の注目は今、ソロモン諸島に向いている筈。ならば、こんな珊瑚海くんだりまで来ている余裕は無いだろう。

 

 司令官が言うように、自分の考えすぎかもしれない。

 

 そう考えて、艦長は前に向き直る。

 

 ともかく、明日の朝にはニュージョージア島の味方と合流できる。それまでの辛抱だった。

 

 ゆっくりと進んで行く輸送船団。

 

 異変が起きたのは、それから1時間ほどが経ってからだった。

 

「レーダーに感。前方から接近する反応有りッ 数、約8!!」

 

 レーダーマンからの報告を聞き、司令官は顎に手を置いた。

 

「こいつは、あれだな。先発した味方部隊がヌーメアに戻る所なんだろう」

 

 この船団以外にも、連日のようにヌーメアやエスピリトゥサント目指して輸送船団が航行している。司令官は、その内の1隊が自分達とすれ違おうとしているのだろうと判断したのだ。

 

「しかし司令官。航路については同一の物を使ってはならないと言う規則がある筈ですが?」

 

 合衆国海軍では複数ある航路を使い分けて運用している。これは、衝突事故を防ぐと同時に、複数の航路を使い分ける事で、敵の通商破壊戦によるリスクを下げる事が目的だった。

 

 故に、違う船団同士の航路がかち合う事は、通常ならあり得ないのだが。

 

「何か手違いがあったんだろう、先方にこちらが味方である事を伝え、衝突に注意するよう伝えろ」

 

 司令官はそう楽観的に構えて命じる。

 

 やがて、「ボイス」の通信員が無電で、前方の部隊に対して「ワレ、ボイス」と信号を送った。

 

 次の瞬間、

 

 突如、闇の彼方で強烈な閃光が迸った。

 

「な、何ィ!?」

 

 驚愕する司令官。

 

 その間にも砲撃が続く。

 

 「ボイス」の周辺で立ち上る、巨大な水柱。

 

 巡洋艦のスマートな艦体が、激しく揺さぶられる。

 

「馬鹿者がッ すぐにやめさせろ!! こっちが味方である事を伝えるんだッ 平文で構わん!!」

 

 焦った司令官は、更なる命令を飛ばす。

 

 その間にも繰り出される砲撃。

 

 弾着が、徐々に「ボイス」へと近付いて来る。

 

 「ボイス」の方でも「ワレ、ボイス、ワレ、ボイス」と繰り返し通信を送っているものの、一向に砲撃がやむ気配はない。

 

「なぜだッ なぜ、連中は砲撃をやめん!?」

 

 焦燥に、司令官は声を震わせる。

 

 その時、「ボイス」に強烈な衝撃が走り、艦体が大きく揺さぶられる。

 

 飛んできた砲弾がついに「ボイス」を捉え、前部甲板を直撃したのだ。

 

 砲弾が命中した艦首は大きくもぎ取られ、そこから海水の流入が始まる。

 

 つんのめるように速力を低下させる「ボイス」。

 

「司令官!!」

 

 ついにたまりかねたように、艦長が声を上げた。

 

「あれは敵ですッ すぐに反撃命令を!!」

「違うッ あれは味方だッ 反撃なんぞしたら同士討ちになってしまうぞ!!」

 

 この段になっても尚、司令官は自分達を砲撃しているのが味方の誤認によるものだと信じ切っていた。

 

 焦った艦長は更に叫ぶ。

 

「冷静に考えてくださいッ これは戦艦の砲撃ですッ 護衛部隊に戦艦はいませんよ!!」

 

 艦長の言う通り、吹き上げる水柱と衝撃波は、間違いなく戦艦主砲によるそれである。そして度重なる損害で戦艦も不足している合衆国軍には、船団護衛に戦艦を用いる余裕も無かった。

 

 その間にも「ボイス」には命中弾が重なる。

 

 飛来した砲弾によって第1、第2砲塔は爆砕され、更に艦内部に達した砲弾によって、機関も損傷している。

 

 もはや埒が明かないと思った艦長は、司令官から目を放すと、クルーに向き直った。

 

「艦首回頭ッ 第3砲塔、並びに後部第4、第5砲塔射撃準備!! 僚艦に打電《前方の敵艦隊に対し、各自、応戦を開始せよ》!!」

 

 前方の存在が敵であれ味方であれ、もはや座してみている事はできない。

 

 そう感じた艦長は、独断専行を承知の上で反撃を試みる事にしたのだ。

 

 だが、彼の勇気ある決断は、聊か遅きに失した。

 

「ま、待てッ 味方だと言っているだろう!! まずは確認を・・・・・・・・・・・・」

 

 尚も司令官が言い募ろうとした時だった。

 

 殆ど水平射撃に近い形で正面から飛んできた砲弾が、「ボイス」の艦橋を正面から捉えた。

 

 炸裂する砲弾が、「ボイス」の艦橋を根こそぎ吹き飛ばして消失させる。

 

 当然、そこにいた司令官、艦長以下、幕僚達の運命が一瞬にして決せられた事は言うまでも無い事であった。

 

 頭脳を失い、炎に包まれた「ボイス」。

 

 やがて、その艦体はゆっくりと、艦首から海面に沈降していった。

 

 

 

 

 

「敵旗艦沈黙、行き足止まりました!!」

「主砲目標変更、敵2番艦!! 準備出来次第撃ち方始め!!」

 

 第7艦隊旗艦、巡洋戦艦「姫神」の艦橋に立ち、同隊司令官の水上彰人大佐は闇の中で行われている砲撃戦に対し、的確な指示を送る。

 

 合衆国軍の大規模な輸送船団が、今日この海域を通る事を特信班の解析で事前にキャッチした彰人は、貴下全艦隊(巡戦1、軽巡1、駆逐艦4)の戦力を投入して襲撃を敢行した。

 

 敵はニュージョージア島に物資を送る為に、必ず輸送船団を繰り出してくる。

 

 それを狙っての通商破壊戦である。

 

 偶然も、第7艦隊に味方した。

 

 敵の指揮官はどうやら、自分達に接近してくる艦隊が味方であると最後まで思い込んでいたらしい。

 

 沈黙する直前まで「ワレ、ボイス」と打電を続けていた。

 

 同士討ちの危険性を恐れ、最後まで発泡を躊躇ったのが運の尽きである。

 

 旗艦の巡洋艦は、「姫神」の砲弾を大量に喰らい、既に沈没し始めているのが遠望できた。

 

 更に、2番艦に対して砲撃を続ける「姫神」。

 

 今度は旗艦を砲撃した時よりも早く、3射目で狭叉、斉射移行後、砲撃2回で沈黙に追い込む事に成功した。

 

「良い感じだ。みんな、電探射撃にも慣れて来たみたいだね」

 

 彰人は自身が指揮する艦の実力が着実に上がっている事に対し、満足げに頷く。

 

 今まで、電探(レーダー)と言えば、敵の接近を察知するだけの機能しか期待できなかったが、彰人はその測距能力を利用して、砲撃にも応用を始めてみたのだ。

 

 先の南太平洋海戦における戦闘詳報を読んだ彰人は、合衆国軍が既に、レーダー射撃を実用化しつつあると感じていた。

 

 特に敵の旗艦「インディアナ」が示した砲撃の精度は凄まじく、たった1隻で「霧島」を撃沈し、「比叡」「黒姫」を大破に追い込んでいる。

 

 彰人は「インディアナ」の戦闘力の裏に、レーダーの存在があったと思っていた。

 

 ミッドウェー海戦以後、帝国海軍でも電探(レーダー)の早期普及が叫ばれるようになってはいるが、元々、エレクトロニクス分野への関心が低かった帝国海軍では、なかなか一朝一夕に解決しないのが現状だった。

 

 幸いと言うべきか、任務の特性上、「姫神」には比較的早い段階で電探が搭載され、乗組員もその運用に慣れ始めていたのだが。

 

「とは言え、光学照準に比べると、まだまだ甘いのが現状です。改善点は多々あります」

「そうだね。完全実用化にはまだまだ遠いよ」

 

 姫神の言葉に、彰人はやれやれとばかりに肩を竦めた。

 

 これについては、両軍に対して言える事だが、この時期のレーダーの探知精度は、お世辞にも高いとは言い難い。せいぜい「無いよりマシ」と言ったところである。

 

 これについては合衆国軍も同様であり、射撃に関しても光学照準を主体にしつつ、レーダーが補助する、と言うのが一般的だった。

 

 2番艦を血祭りに上げた「姫神」は、更に3番艦に対し砲撃を開始する。

 

 その頃になってようやく、合衆国艦隊の護衛部隊も反撃に転じてくる。

 

 巡洋艦の主砲が「姫神」に向けて放たれる。

 

 しかし慌てて撃っているのだろう。

 

 砲弾は見当違いの場所へ飛んで行って、空しく水柱を上げるにとどまった。

 

 対して彰人は「姫神」を全速力の35ノットで航行させつつ、敵艦の正面に占位。丁字を描きながら砲撃を続行する。

 

「第13戦隊の状況は?」

「はい。敵駆逐艦部隊を突破。これより輸送船団を攻撃するとの事です」

 

 通信長からの報告に、彰人は作戦成功の手ごたえを感じる。

 

 当初から手はずを整えていた通り、敵の巡洋艦を「姫神」が引き付ける一方、「阿賀野」以下第13戦隊が駆逐艦を排除して、敵船団を攻撃する手はずになっていた。

 

「よし、こちらも仕上げに掛かるよ。13戦隊が船団攻撃を完了するまで、敵巡洋艦の目を引き付ける」

「了解」

 

 彰人の言葉に頷きつつ、砲撃を続行する姫神。

 

 その砲撃が弾着すると同時に、闇の彼方で爆炎が躍るのが見えた。

 

 砲弾が炸裂した時の閃光ではない。

 

 内部からの爆発により、艦体を強引に引きちぎられる巡洋艦。

 

 恐らく「姫神」の放った砲弾が巡洋艦の弾薬庫に飛び込んで炸裂。そこに収められていた数百発の砲弾を、一斉に誘爆させたのだ。

 

「目標変更、敵4番艦!!」

 

 彰人の指示が、艦橋内に鋭く響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 控えめなノックに、宇垣は顔を上げる。

 

 いい加減、付き合いも長くなり始めているせいか、ドアの向こうにいるのが誰なのか、そのノックの感じだけで判るようになっていた。

 

「開いているぞ」

「失礼します」

 

 静かな声とともに入って来たのは、予想通りの少女だった。

 

「参謀長、出撃中の第7艦隊から入電しました。《我、敵船団攻撃に成功。巡洋艦3隻、駆逐艦7隻、輸送船12隻撃沈》との事です」

「そうか」

 

 大和の報告に対し、宇垣は満足そうに頷きを返した。

 

 大戦果である。

 

 特に輸送船を全滅させた事は大きい。

 

「作戦が図に当たったな。これで、敵も慌てるだろう」

「はい。水上大佐の言う通りになりましたね」

 

 大和の言葉を聞きながら、宇垣は作戦開始前の会議で彰人が提示した意見について想いを馳せた。

 

 

 

 

 

 ソロモン諸島からの撤退とガダルカナル島守備隊の救出。

 

 その作戦案が決定してから連合艦隊司令部は、宇垣参謀長を中心として具体的な作戦案の詰めへと入っていた。

 

 とにかく、南太平洋海戦で大打撃を受けた帝国海軍には、使用できる戦力が少ない。

 

 その少ない戦力の中で救出部隊の選出を行わなくてはならなかった。

 

 そんな中で彰人は、自身の中にある作戦案を一同に披露して見せた。

 

「敵はニュージョージア島を占領したとは言え、基地戦力化にはまだもう少し、時間がかるはずです。飛行場は完成を急いでいるようですが、完全に作戦行動を行えるようになるまでには、まだしばらく時間がある筈です」

「じゃあ、大佐は、その橋頭堡に攻撃を仕掛けるべきと考えているのですか?」

 

 尋ねたのは、ストレートに下ろした長い髪に、額には鉢巻を撒いた少女である。

 

 一見すると、清楚な印象のある少女の名は神通。第2水雷戦隊旗艦「神通」の艦娘である。

 

 2水戦は水雷戦術に重きを置く帝国海軍の中でも、特に最精鋭を謳われており、個艦の性能、乗組員の技量共に世界最強を謳われている。

 

 しかし反面、その最強を支えている物が、他部隊を遥かに凌駕する訓練量である事も有名な話だった。

 

 2水戦の訓練は過酷で、時に命を落とす乗組員までいると言うから戦慄である。

 

 中には2水戦に配属と聞かされただけで尻込みした艦娘も過去にはいたと言う。

 

 そんな2水戦の旗艦を務める神通である。そのたおやかな外見とは裏腹に、訓練時の苛烈な性格は隊の内外に知れ渡っていた。

 

 神通の質問に対し、彰人は首を振る。

 

「それも必要だけど、その前にやっておかなきゃならない事がある。まず、ニュージョージア島にいる敵を弱体化させるんだ」

「つまり・・・・・・・・・・・・」

 

 話を聞いていた宇垣が口を開く。

 

「通商破壊戦か?」

「はい」

 

 宇垣の質問に対し、彰人は頷きを返した。

 

 かつて彰人が制作したレポート「海上ゲリラ戦構想」を読んだ宇垣には、彰人が何を考えているのか、大凡の見当はついているのだろう。

 

 戦力と言うのは何も、艦船や航空機、基地の事ばかりを差すのではない。

 

 砲弾や銃弾、燃料、資材、果ては食糧、衣類、医薬品もまた、戦線を支える立派な「戦力」である。

 

 通商破壊戦は、そうした比較的攻撃しやすい敵戦力を狙って攻撃するのが基本である。

 

 本来、彰人が開戦前に構想していた通商破壊戦とは、こう言った形で行うべき物だった。

 

 味方勢力圏の一角を敢えて敵に明け渡して占領させ、そこにやって来た輸送船団を航空隊、水上艦隊、潜水艦隊で徹底的に叩き、敵の補給線を締め上げる。そうする事によって、こちらは少ない兵力で敵に大打撃を与える事ができるのだ。

 

 真珠湾以来の攻勢作戦のおかげでご破算になりかけていた作戦だが、皮肉な事にここに来て日の目を見ようとしていた。

 

「ですが、敵も警戒して、船団には護衛を伴っているのではないでしょうか?」

「勿論です。けど、戦艦や空母と言った大型の戦力は、敵もこの1年で大半を失っています。それらの艦を船団護衛に回すだけの余裕は、敵にも無い筈です」

 

 参謀の1人が出した疑念に対して、彰人はよどみなく返事を返す。

 

 勿論、こちらが作戦を続行すれば、敵も護衛戦力を強化してくるだろうが、こちらはガダルカナル島救出までの時間を稼げればそれで良いのだ。その為なら、せいぜい2~3回の攻撃で事足りると彰人は考えていた。

 

 そんな彰人を見て、宇垣は口を開く。

 

「お前の事だ。その作戦には自分が行くつもりなんだろう?」

「勿論です」

 

 問いかける宇垣に対し、彰人は一瞬の迷いも見せずに答える。

 

 敵の戦力も消耗しているとは言え、敵の勢力圏内に足を踏み入れるのだ。そんな危険な任務を他の者に任せる気は、彰人には無かった。

 

 

 

 

 

 そして彰人は宣言通り、自ら第7艦隊を率いて珊瑚海へ出撃し、通商破壊戦を繰り広げている。

 

 既に3つの船団を壊滅させ、20隻以上の輸送船を撃沈している。

 

 戦果としては充分であり、戦機も熟しつつあった。

 

「大和、補給状況はどうなっている?」

「はい。水雷戦隊の子達は既に補給が完了しています。あとは私と、それに重巡の人達が終わればすぐにでも行けます」

 

 駆逐艦のように数が多く、また燃料積載量の少ない艦は優先的の補給され、後から戦艦や重巡のような大型艦が補給される。

 

 その為、大和達の補給が終わり次第、ソロモンに向けて出撃する手はずになっていた。

 

 そんな大和に対し、宇垣は笑い掛ける。

 

「お前にとって2度目の実戦だ。よろしく頼むぞ、大和」

「はい参謀長。お役にたてるよう、全力で戦います」

 

 対して、大和もまた嬉しそうに返事を返すのだった。

 

 

 

 

 

 一方で、ハワイの太平洋艦隊司令部は、帝国海軍の動きに苦虫を潰していた。

 

 ニュージョージア島を占領して帝国軍の補給路に楔を打ち込んだまでは良かったものの、そこから先が思わぬ停滞を見せている。

 

 第7艦隊の通商破壊戦によって基地建設に必要な資材や、防衛用の弾薬、更に兵士達の食糧、医薬品など多くが失われた形である。

 

 おかげでニュージョージアの基地化は予定より遅れ気味であり、前線兵士達にも不満が見え始めていた。

 

「今回の敵通商破壊部隊のパターンですが・・・・・・」

 

 会議の席において、太平洋艦隊参謀長のレイナード・スプルーアンスは、直属の上司でもある太平洋艦隊司令長官のレスター・ニミッツを見ながら発言した。

 

「開戦初期の頃、北太平洋で暴れまわっていた部隊と、行動がよく似ているように思えるのですが」

「ああ、あの部隊か。確かに、あれは厄介な連中だったな」

 

 当時の事を想いだし、ニミッツは苦い表情を作る。

 

 開戦初期、真珠湾で主力戦艦群を壊滅させられた直後、帝国海軍は水上砲戦部隊を主力とした通商破壊部隊を北太平洋に繰り出した。その部隊の示した猛威は凄まじく、合衆国海軍は多くの輸送船を撃沈され、あまつさえ虎の子だった戦艦「コロラド」まで失う痛手を蒙ったのである。

 

「あの連中が、また出て来たと言う訳か。目的は何だろうか?」

 

 単純に考えれば、ニュージョージア島への輸送妨害だが、それだけが目的であるとは思えない。必ず、他に何か目的があり、問題の部隊(第7艦隊)はその支援の為に動いていると思われた。

 

「普通に考えれば、ニュージョージア島の奪回ですが・・・・・・・・・・・・」

「しかし、そこまでして戦線を維持するメリットが彼等にあるかな?」

 

 参謀たちはそう言って首をかしげる。

 

 当初、帝国海運がソロモン諸島の維持を目的としていたと知れば、彼等は皆、呆れかえる事だろう。

 

 と、

 

「撤退の可能性は、無いだろうか?」

 

 スプルーアンスは、そう切り出した。

 

「彼等はガダルカナル島の戦力を後方に引き上げる為に、ニュージョージア島の基地化を妨害しようとしている。そう考えれば、辻褄が合うのだが」

「しかし参謀長。数隻単位の小艦隊では、島の守備隊全てを撤退させるのに時間がかかりすぎると思います」

 

 スプルーアンスの言葉を否定するように、参謀の1人が発言した。

 

 数隻の艦艇では合衆国軍の動きを妨害、攪乱できても部隊を収容する事はできないはず。それが参謀の考えだった。

 

「・・・・・・・・・・・・恐らく、別に本隊がいる可能性が高いな」

 

 ニミッツは考えを纏めるようにして呟く。

 

 現在、珊瑚海で通商破壊戦を行っている部隊が、単独で動いている可能性は低い。他に、主目的を持つ別の部隊がいると見るべきだった。

 

「現地部隊に警告を送れ。恐らく近日中に帝国軍は行動を起こすだろう」

「了解しました」

 

 ニミッツの命令を受けて、スプルーアンスは参謀達に指示を出す。

 

 今回、両軍ともに先の戦いの傷が癒えないまま、戦いに赴く事となる。

 

 しかし、合衆国軍は上陸支援部隊として、充分な数の兵力をソロモン諸島に送り込んでいる。

 

 帝国海軍がどのような戦力を繰り出してくるにせよ、後れを取るとは思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニューアイルランド島カビエン。

 

 地図上で見ればラバウルの北西に位置するこの島は、空襲が激化するラバウルを避け、一時的な艦隊泊地として機能していた。

 

 主に使用しているのは、ラバウル駐留の第8艦隊である。

 

 見回せば、同艦隊の主力である、重巡洋艦「鳥海」「青葉」「衣笠」と言った、錚々たるメンツが見て取れる。

 

 そのカビエンの一角に、第7艦隊は間借りする形で仮泊していた。

 

 現在、トラックから派遣されてきた給油艦が「姫神」に横付けし、燃料タンクに重油を注ぎ込んでいる。

 

 この作業が終わり次第、再び第7艦隊は出撃する事になる。

 

 だが、今度の出撃は、これまでのような通商破壊戦ではない。むしろ、ここからが本番だった。

 

 出撃に向けて各部署のチェックを終えた彰人は、ふと艦内を巡視している時、舳先に立っている姫神の姿を見付けた。

 

 何をしているんだろう?

 

 そんな事を考えながら、近付いてみた。

 

 姫神型巡洋戦艦のシルエットは、砲塔配置以外は大和型戦艦と酷似している。その為、艦首部分は緩やかな上り坂になっており、注意して歩かないと転んでしまう乗組員もいるくらいだった。

 

「姫神」

 

 すぐ後ろまで近付いてから声を掛けると、姫神は相変わらず感情の色が薄い瞳で振り返った。

 

 吹き付ける風が、少女の髪とスカートをはためかせている。

 

 少し強い風の中、しかし姫神は揺れを殆ど感じさせない体で立っていた。

 

「どうかしたの・・・・・・・・・・・・」

 

 言い掛けて彰人は、何かを思い出したように聞き直した。

 

「黒姫がいないと、やっぱり不安?」

 

 今まで姫神は、殆どの戦闘で黒姫と行動を共にしてきた。北太平洋作戦の時のように、一時的に別行動を取った事はあるが、基本的に一緒にいる事が多かった。

 

 その黒姫は今回、修理の為に内地に向かった為、「姫神」単独での作戦参加になった。

 

 その事に不安を覚えているのでは、と思ったのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・少し」

 

 ややあって、姫神は言葉を返した。

 

 対して、彰人は微笑を向けながら、少女の頭にそっと手をやる。

 

「大丈夫だよ」

「彰人・・・・・・・・・・・・」

 

 これまで何度も見て来た彰人の笑顔。

 

 だがなぜだろう?

 

 姫神はギュッと、胸の前で手を結ぶ。

 

 この一見すると頼りない提督に「大丈夫」と言って笑い掛けられると、いつもそれだけで胸の奥が温かくなるような気がした。

 

 不思議と、自分の中にあった不安が薄らいでいくような気がした。

 

「僕が付いている。だから、大丈夫だよ」

「・・・・・・・・・・・・はい」

 

 呟くように返事を返す姫神。

 

 やがて、その小さな体をそっと、彰人に寄り添わせるように委ねた。

 

 

 

 

 

第42話「狩猟部隊、再び」      終わり

 

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