蒼海のRequiem   作:ファルクラム

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第69話「決戦発動準備」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、黒鳥陽介が富士宮邸を訪れると、1人の陸軍将官と廊下ですれ違った。

 

 大将の階級章を付けているその人物は、目が細く、どこか商家の主と言った風情をしている。

 

 脇によけて敬礼する黒鳥に視線を向ける事無く通り過ぎていく陸軍将官。

 

 その人物の背中を首をかしげながら見つめると、黒鳥は足を速めるようにして富士宮の私室へと向かった。

 

 室内には既に、富士宮と共に軍令部総長の永野修も待っていた。

 

 今日、黒鳥が富士宮の下を訪れる事は予め伝えておいたため、先に来ていたのだろう。

 

「遅れて申し訳ありません」

「いや良い。むしろ、時間よりも少し早いくらいだ」

 

 そう言って富士宮は時計を指し示す。

 

 確かに、予定時間よりも10分ほど早かった。

 

「それより、今しがた廊下で陸軍将官の方とすれ違いましたが、私の記憶違いでなければ、あれは杉本元次(すぎもと げんじ)大将だったと思いましたが?」

「良く知っているな。その通りだよ」

 

 黒鳥の言葉に、永野は顔を綻ばせて頷いた。

 

 杉本元次と言えば現陸軍参謀長である。これは、海軍で言えば軍令部総長に匹敵する大物である。

 

 そのような人物が、海軍のトップである富士宮の元を訪れている事に対し、黒鳥は奇異な感じがしていた。

 

「驚いたか?」

 

 そんな黒鳥の反応を楽しむように、富士宮が口を開いた。

 

「我々の同志は海軍のみならず陸軍にもいると言う事だ」

「それにしましても、現職の陸軍参謀総長までもとは・・・・・・いや、恐れ入りました」

 

 そう言って、黒鳥は素直に頭を下げる。

 

 改めて、富士宮の懐の広さに思い知らされていた。

 

「それよりも大佐、どうだった。例の件は?」

 

 身を乗り出すように尋ねてくる永野。

 

 今日、黒鳥がここに来たのは、ある事案を報告するに当たり、富士宮を交えて意見の交換を行う為だった。

 

 言わば、富士宮陣営における最高意思決定機関、と言う訳だ。

 

 だが、それに対して黒鳥は渋面で応じる。

 

「ダメでした。やはりGF司令部は兵力の移動に応じません」

 

 その報告に富士宮は嘆息し、永野はあからさまに舌打ちする。

 

「古河めッ けしからんにも程があるッ いったい誰のおかげで今の地位に着けたと思っているのだ!?」

 

 吐き捨てるように永野は叫んだ。

 

 黒鳥が報告したのは、次期作戦実施における海軍の兵力投入についてだった。

 

 現在、ラバウルに司令部を置いた合衆国南太平洋軍、つまりマッカーサー軍が北部ニューギニアの海岸伝いに侵攻を開始している。

 

 これに対し、ニューギニア方面守備を担当する陸軍は必死の抵抗を試みているが、主力の大半をビルマ戦線に取られてしまっている状況では防衛線の構築もままならず、徐々に押され始めている。

 

 そこで軍令部はニューギニア方面の陸軍支援の為に、艦隊と航空隊を派遣しようと考えていた。

 

 渾作戦と銘打たれたこの作戦は、数次に渡る輸送隊を組織し、最終的に大兵力をニューギニア方面に展開、侵攻してくるマッカーサー軍を撃退しようと言う物だった。

 

 だが、肝心の連合艦隊が、ニューギニア方面への兵力抽出に応じようとはしなかった。

 

 ニューギニア方面へ兵力を移動させたら、マリアナの守りが手薄になる。と言うのが理由だった。

 

「奴等は何もわかっていないッ マリアナには既に充分な兵力を置いているではないかッ それを考えれば敵が攻略を断念するであろう事は明白だと言うのに」

「永野閣下のおっしゃる通りです。仮に敵がマリアナに来るとしても、それはまだ先になる、と言うのが軍令部の見解です」

 

 言い募る永野と、それに同調する黒鳥。

 

 マリアナの要塞化は着々と進められており、大軍が展開している事は合衆国軍の方でも掴んでいる筈。ならば、正面からの攻略は避けて、暫くは様子見に徹するだろうと言うのが軍令部の公式見解である。

 

 もっとも、これは多分に「希望的観測」が含まれている。

 

 要するに、帝国としてはマリアナを攻められるのは色々と都合が悪い。だから、わざと大兵力を見せ付けて合衆国軍に回避してもらおう、と言う魂胆だった。

 

 合衆国軍のマリアナ侵攻がまだ先になる、と言うのも何ら根拠があって行っている訳ではない。たんに、「その方が都合がいい」からに過ぎなかった。

 

 だが、連合艦隊側の意見は多分に異なる。

 

 いかに兵力を固めておこうが、敵は必要なら正面から挑んでくることも厭わない。まして、情報では既に、相当数の敵艦隊が太平洋入りしていると言う事を掴んでいる。

 

 兵力に勝っている合衆国軍が、マリアナ攻略を躊躇う理由は無い。よって、マリアナの敵が来襲する時期は近い。と言うのが連合艦隊側の主張である。

 

 この二つの意見が対立した結果、渾作戦は事実上中止に追いやられる結果となった。

 

「古河長官以下、連合艦隊司令部には戦友愛と言う物が欠如しているとしか思えません。今こうしている間にも、ニューギニアでは友軍が圧倒的な兵力のマッカーサー軍相手に苦しい戦いを演じていると言うのに」

 

 苛立ちをぶつけるように吐き捨てる黒鳥。

 

 そもそも、そのマッカーサー軍の侵攻ルートを封じ込めるために実施された米豪遮断作戦を、緒戦で中止に追い込んだのは黒鳥であり、それが今日の苦境の一端になっているのだが、当然の如く、黒鳥にその自覚は無かった。

 

「だが、どうする?」

 

 口を開いたのは富士宮だった。

 

「連合艦隊の戦力が当てにできないとなれば、ニューギニアに兵力を送る事もできまい。北上してくるマッカーサー軍の備えは陸軍頼みと言う事になるが」

「・・・・・・・・・・・・この際、それも仕方がないかと」

 

 絞り出すように永野は言った。

 

 軍令部は戦略を立案する組織であって、戦術面、特に兵力の運用に関しては連合艦隊の管轄にある。

 

 その作戦実施部隊である連合艦隊側から拒否された以上、軍令部としては切歯扼腕しつつも諦めるしかなかった。

 

「殿下、それに永野閣下も、今回の件を受けて私なりに、ある考えが浮かびましたので、聞いていただけないでしょうか?」

 

 神妙な顔つきでそう言う黒鳥に対し、富士宮と永野は顔を見合わせると頷きを返した。

 

「申してみよ」

「はい」

 

 鷹揚に促す富士宮に対し、黒鳥は顔を上げた。

 

「殿下の下には陸軍の要職にある人物を始め、多くの賛同者がいる事は判りました。しかし、我々は海軍です。ここはやはり、いざと言う時に我々の自由になる海上戦力を確保しておくことも重要かと」

 

 要するに黒鳥は、自分達も固有の戦力を持つべき、と言っているのだ。

 

「それはつまり艦艇、もっと言えば艦娘を陣営に引き込むべき、と言う事かね?」

「さようです」

 

 尋ねる永野に、黒鳥は我が意を得たり、と言った調子で頷きを返した。

 

 同時に、目を怪しく光らせる。

 

「それが、いざと言う時の布石にもなるかと」

「成程な」

 

 黒鳥の意図を理解した富士宮が頷く。

 

 確かに、手元に海上兵力が無いと、いざと言う時に後れを取る事になりかねない。

 

「だが、既に就役している艦艇は全て連合艦隊に配属されている。今から彼女達を我々の陣営に引き入れるのは難しい。かと言って生半可な戦力しか持たない艦を引き入れても戦力にはなりえんだろう。何か当てはあるのか?」

 

 問いかける永野に対し、黒鳥はその質問を待っていた、とばかりに笑みを浮かべた。

 

「います。1人、うってつけの人材が」

 

 そう告げる黒鳥の目には、怪しげな笑みが浮かべられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、彰人は「姫神」の執務室で、落ち着かない時間を過ごしていた。

 

 一緒にいるのは旗艦艦娘であり、恋人でもある姫神だけ。

 

 本来なら、2人だけの甘い時間を過ごしたいところであるが、今日ばかりはそうも言っていられない。

 

 今日はこれから来客があるのだ。

 

 彰人はさっきから、席を立ったり座ったりと、一つの所に留まっていられない様子である。

 

 そんな彰人に対し、

 

「彰人、少し落ち着いてください」

 

 姫神は、少し呆れたように言った。

 

 そんな彼女はと言えば、いつも通り、淡々とした調子で佇んでいる。

 

 と、

 

「姫神」

 

 彰人は静かに言った。

 

「リボンの位置上過ぎ。それにスカートもちょっとずれてるし、髪に変な寝癖になってる。あと、ほっぺにご飯粒付いてるよ」

「あ・・・・・・・・・・・・」

 

 ダメ出しを喰らい、いそいそと身支度を整える姫神。

 

 そんな感じで、暫く2人で勝手にそわそわしながら過ごしていた時だった。

 

 司令官室の扉がノックされる音が響いてきた。

 

「失礼します」

 

 凛と響く声と共に、1人の少女が部屋の中へと入って来た。

 

 長い髪をポニーテールに結び、吊り上った目をした少女。

 

 白いセーラー服に、赤いスカートが特徴の少女である。

 

 少女は彰人と姫神を見ると、ビシッと踵を揃えて敬礼する。

 

「申告します。本日付で第13戦隊旗艦に着任しました、阿賀野型防空軽巡洋艦3番艦の矢矧です。よろしくお願いいたします」

 

 良く通る声が響き渡る。

 

 どこかフワフワとした感じだった姉とは、だいぶ印象が異なっている。

 

 どこかキリリと引き締まるイメージがあった。

 

 だが、

 

「ちょっと、面影が似てる、かな?」

「そうですね」

 

 彰人の言葉に、同意見と言った感じに姫神が頷きを返した。

 

 先のトラック環礁海戦以後、一時的に本土に戻って修理と再編成を進めていた第7艦隊は、合衆国軍の動向に変化があったと言う報告を受け、修理が完了次第、パラオに戻る手筈になっていた。

 

 だが、その前に新戦力を受領し、編成に組み込む事になっていた。

 

 その一環として彰人は、旗艦「那珂」を失っていた第5水雷戦隊を解隊し、全戦力を第13戦隊に組み込む事にした。

 

 これにより第13戦隊は、駆逐艦9隻まで戦力を向上させていた。

 

 そして、その第13戦隊の艦娘達を指揮統率する為に着任したのが、目の前にいる矢矧である。

 

 阿賀野型の3番艦に当たる彼女は、姉たちにはある魚雷発射管を撤去され、空いたスペースに40ミリ3連装機銃2基と、28連装噴進砲2基を増設していた。

 

 対艦攻撃力こそ低下したものの、「阿賀野」よりも対空防御力を増した形であり、航空攻撃に撃たれ弱い駆逐艦を、その対空火力で守る事が期待されていた。

 

 第7艦隊にはこの他に、大淀型軽巡洋艦の「大淀」「仁淀」も配備されている。これらの艦は元々、潜水艦隊旗艦として偵察能力と通信能力を強化した艦だったが、阿賀野型同様、時代の流れに即した形で改装が施され、砲撃力と対空砲火が増設されていた。

 

 これで第7艦隊は、巡洋戦艦2隻、重巡洋艦3隻、軽巡洋艦3隻、駆逐艦9隻、合計17隻と言う編成になった。

 

 トラック環礁海戦時に比べれば隻数では低下したものの、攻撃力は強化された形である。

 

「とにかく、よろしく頼むよ」

「はい」

 

 彰人の言葉にうなずいてから、矢矧は思い出したように付け加える。

 

「前任者の姉、阿賀野に負けないよう、立派に勤め上げたいと思います」

 

 その言葉を聞いて、彰人はクスッと笑う。

 

 見れば、傍らの姫神も、おかしそうに口元に微笑を浮かべているのが見えた。

 

「あの、何か?」

 

 矢矧が不審そうに首をかしげる中、彰人は口を開いた。

 

「ごめんごめん、けど、何も阿賀野の事を意識する必要はないよ。君は君のやり方でやってくれればそれで良いんだ」

 

 性格的にはマイペースだった阿賀野だが、あれはあれで立派に戦隊を纏めて指揮していたのだ。

 

 人にはそれぞれ自分なりのやり方と言う物がある。

 

 矢矧は矢矧なりのやり方で第13戦隊を統率してくれればそれでよかった。

 

「そうだ、良い機会だから紹介しておこうかな」

 

 そう言うと、彰人は姫神に目配せする。

 

 すると姫神は、心得ていると言った感じに扉へと近づいて行く。

 

 何事だろう、と矢矧が首をかしげながら見守っていると、姫神がドアノブに手を掛けて思いっきり引っ張った。

 

 次の瞬間、

 

『わァァァ!?』

 

 悲鳴と共に、数人の少女達が室内になだれ込んで来た。

 

「ムギュゥ」

「ちょっと島風ッ どいて!!」

「無理無理~」

「これはひどいね」

「レディに何て事するのよ!?」

 

 電、雷、島風、響、暁。

 

 第13戦隊の古参メンバーが、団子状態になって床に転がっていた。

 

 対して、

 

「紹介するよ矢矧」

 

 彰人は何事も無かったように話し始めた。

 

「この子達が、君に預かってもらう子達だ。他にも4人いるけど、そっちの紹介はおいおいね」

 

 どうやら島風たちは、新任の旗艦がどんな人物なのか気になって覗きに来たらしい。

 

 覗き、などと言う事をやっている時点で「レディ」とは程遠いような気がするのだが。

 

 そんな島風たちに対し、

 

 矢矧はスッと近付いていくと、彼女達の前に膝をつく。

 

 そして、

 

「よろしく」

 

 そう言って、微笑みながら手を差し伸べる。

 

 そんな少女達の様子を、彰人は微笑ましそうに眺めている。

 

 だが、

 

 こんなゆったりした気分でいられる時間も、もうそんなに長くないかもしれない。と言う事を彰人は自覚していた。

 

 既に彰人の所にも、ハワイに大艦隊が集結しつつあると言う報告が上げられてきている。

 

 その規模は、トラック環礁海戦時の比ではないらしい。

 

 敵の目標がマリアナである事は、火を見るよりも明らかだった。

 

 決戦の時は近い。

 

 と、

 

 いつの間にか傍らに来ていた姫神が、彰人の腕に自分の手を絡めてきていた。

 

 一瞬、驚いたような顔をする彰人。

 

 見上げる姫神の顔には愛おしげな微笑が浮かべられている。

 

 不思議と、その笑顔を見るだけで彰人は己の内にある不安が小さくなっていくのを自覚していた。

 

 彰人もまた、そんな姫神に微笑を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 港に停泊したその艦隊は、想像を絶している

 

 海を圧する規模の大艦隊とは、正にこの事だった。

 

 ハワイ、真珠湾に集結を果たした合衆国軍第5艦隊は、かつてない存在感を齎していた。

 

 以下が、その編成となる。

 

 

 

 

 

 第1機動群

航空母艦「ホーネット(II)」(旗艦)「ヨークタウン(II)」

軽空母「ベローウッド」「バターン」

重巡洋艦「ボストン」「キャンベラ」「ボルチモア」

防空巡洋艦「オークランド」「サンファン」

駆逐艦14隻

 

第2機動群

航空母艦「バンカーヒル」(旗艦)「ワスプ(II)」

軽空母「モントレー」「カボット」

軽巡「サンタフェ」「モービル」「ビロクシー」

駆逐艦12隻

 

第3機動群

航空母艦「エンタープライズ」「レキシントン(II)」(旗艦)

軽空母「プリンストン」「サン・ジャシント」

重巡洋艦「インディアナポリス」(艦隊総旗艦)

軽巡洋艦「バーミンガム」「クリーブランド」

防空巡洋艦「レノ 」

駆逐艦13隻

 

第4機動群 司令官

航空母艦「エセックス」(旗艦)

軽空母「カウペンス」「ラングレー」

軽巡洋艦「ビンセンス」「マイアミ」

防空巡洋艦「サンディエゴ」

駆逐艦14隻

 

第7機動群

戦艦「ワシントン」(旗艦)「アイオワ」「ニュージャージー」「ケンタッキー」「イリノイ」

大型巡洋艦「フィリピン」「ハワイ」「サモア」「プエルトリコ」

重巡洋艦「ニューオーリンズ」「ミネアポリス」「サンフランシスコ」「ウィチタ」

駆逐艦14隻

 

※(Ⅱ)と書かれている艦は2代目。

 

 

 

 

 正規空母7隻、軽空母8隻、戦艦5隻、大型巡洋艦4隻、重巡洋艦8隻、軽巡洋艦12隻、駆逐艦67隻。合計111隻、艦載機総数は900機に達する大艦隊である。

 

 開戦から2年半。

 

 ついに合衆国海軍は、帝国海軍を圧倒し得るだけの大艦隊を完成させたのだ。

 

 特筆すべきは空母だろう。

 

 正規空母は歴戦の「エンタープライズ」以外は、全て新造のエセックス級に切り替わっている。

 

 エセックス級はヨークタウン級航空母艦の拡大発展型であり、より大型の艦体に100機もの航空機を収容可能であり、防御力やダメージコントロールの強化、更に戦訓を鑑みて対空火器の大幅な増設が行われていた。

 

 軽空母の方は、巡洋艦の船体をベースにして建造されたインディペンデンス級空母になっている。巡洋艦をベースにしたのは建造期間の短縮とコストの低下を狙っての事だが、艦載機総数は45機に達し、帝国海軍の主力空母である「隼鷹」「飛鷹」に匹敵する優秀艦である。

 

 正に、合衆国が持つ物量を如何無く投入して完成した大艦隊である。

 

「今度は勝てる」

 

 旗艦「インディアナポリス」の艦橋では、トラック環礁海鮮に引き続き、安泰の指揮を執る事になったレイアード・スプルーアンスが、満足そうに指揮下の艦隊を眺め渡していた。

 

 ミッドウェー海戦から合衆国海軍の指揮を執り、今日まで戦い続けてきたスプルーアンスにとって、目の前の大艦隊は正に理想の具現と言って良かった。

 

 この大艦隊でもって、帝国にトドメを差す。

 

 その事実に対し、スプルーアンスは己の胸が熱くなるのを自覚するのだった。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 合衆国艦隊に出撃の兆候あり。

 

 この報告を、彰人はパラオへの移動中に受け取った。

 

 電文を見るなり険しい表情を見せる彰人。

 

 対して、傍らの姫神は、案ずるように見上げて来た。

 

「・・・・・・・・・・・・ついに来たか」

 

 彰人は低い声で呟くと、少女の頭を優しく撫でてやる。

 

 ハワイに集結した合衆国艦隊の目的がマリアナである事は明白であり、その過程で出て来るであろう帝国海軍を撃滅する構えであるのは明らかだった。

 

 彰人はこれあるを予感してマリアナ諸島の防備を徹底的に強化し、迎え撃つ体勢を整えて来た。その真価が、ついに試されようとしているのだ。

 

「姫神、僕は止められるだろうか? これから起こる、鉄と炎の巨大な海嘯を」

 

 低い声で問いかける彰人。

 

 対して、

 

「大丈夫です」

 

 姫神はそっと呟くと、彰人の手を取り、温もりを確かめるように自らの頬に押し当てる。

 

「彰人には私が着いています。だから、大丈夫です」

「姫神・・・・・・・・・・・・」

 

 少女の言葉が、彰人の心に勇気を与えてくれた。

 

 笑いかける彰人。

 

 その手が、姫神の手を握り締める。

 

「行こうか、姫神」

「はい、彰人」

 

 そう言うと、互いに頷き合う彰人と姫神。

 

 同時に、全てが決戦に向けて動き出す。

 

 帝国の命運は正に、マリアナを守りきれるかどうかの一点に掛かっていた。

 

 

 

 

 

第69話「決戦発動準備」      終わり

 

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