蒼海のRequiem   作:ファルクラム

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第75話「レイテへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海軍乙事件

 

 後世、その名で呼ばれる事になる事件は、海軍のみならず、帝国その物を震撼させた。

 

 現役の連合艦隊司令長官が、軍令部庁舎内において暴漢に襲われ死亡。

 

 この前代未聞の大事件によって、帝国海軍の足並みは大いに乱れた。

 

 混乱は前線にも波及。

 

 司令長官不在の前線部隊は指揮系統が確立できず、押し寄せる合衆国軍に対し、戦線は次々と破綻していった。。

 

 そんな中、死亡した古河峰一の葬儀は帝国本土にて大々的に行われた。

 

 葬儀の形式は国葬レベルで行われ、参列者は2000人規模にも達し、手の空いている海軍関係者は、提督や艦娘も含めてほぼ全員が出席したほどだった。。

 

 弔辞を述べたのは軍令部総長の永野修である。

 

 彼は、古河の生前の功績を称え、故人がいかに優れた軍人であったかを、祭壇の前で長々と述べた。

 

 その永野の弔辞に、居並ぶ参列者たちは流れ落ちる涙を止める事ができなかった。

 

 勿論、古河を謀殺した首謀者は永野本人である。

 

 永野の行為は欺瞞そのものであり、知る人が知れば怒りを抑えきれない事だっただろう。

 

 だが、彼が古河殺害に関わった証拠は何も無い。誰も、彼の欺瞞に気付く事はできなかった。

 

 古河の死により、連合艦隊司令部は解散。新たに司令部が組まれる事となった。

 

 新たな司令長官は、豊田玄武(とよだ げんぶ)大将が選出された。

 

 豊田はこれまで、軍令関係を中心に軍務をこなしてきた人物であり、開戦時には呉鎮守府司令官を経験している。

 

 性格的には大の陸軍嫌いとして有名であり、その激しい性格は闘将と言うイメージが強い。

 

 反面、上層部の意向には忠実であり、軍令部の指示をそのまま容れる傾向が強い人物としても知られている。

 

 まさしく、永野や黒鳥と言った軍令部側の意に添う、理想的な「操り人形」と言う訳である。

 

 豊田は連合艦隊司令長官として就任してから直ちに行った事は、ニューギニア方面への戦力の転出であった。

 

 手始めに、マリアナに展開している航空部隊を再編成し、パラオ経由でニューギニア北西部の拠点群へと送り込んだ。

 

 軍令部の命令通りに、豊田は動いたのだ。

 

 だが、

 

 その動きは「杜撰」の一言に尽きた。

 

 マッカーサー軍が急速に迫る焦りの中、豊田司令部は再編成の済まない航空部隊を次々とニューギニア戦線に投入していった。

 

 だが、整わない戦力を投入したところで、戦線維持に何らの貢献を示す事も出来ない。

 

 結局、ニューギニア戦線に投入された兵力を持ってしても、マッカーサー軍の侵攻を押しとどめる事はできなかった。

 

 更に言えば ニューギニアには最終的には400機近い航空戦力が転出させられたが、それらの戦力は大半が、マリアナから引き抜かれた物である。

 

 そして、航空隊の殆どが戻ることは無かった。大半が、ニューギニアでマッカーサー軍と戦い散って行った。

 

 マリアナ防衛に必要な戦力が、南洋で無為に失われた事になる。

 

 彰人達が苦心の末にようやく完成させたマリアナ航空要塞は、こうして虫食いにあった絹細工の如く、その価値を失っていくのだった。

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上空を乱舞する無数の航空機が迫る。

 

 対空砲火を撃ち上げて迎撃するも、敵の数が圧倒的に多く、全てを阻止する事は敵わない。

 

 やがて、島の上空に侵入した敵機は、悠々と爆弾を落とし始めた。

 

 1944年9月12日。

 

 ニューギニア西部に展開した合衆国陸軍航空隊は、帝国海軍の敷く防衛ラインの一角であるパラオ諸島に対し、大規模な航空攻撃を仕掛けた。

 

 上空を埋め尽くす勢いで飛来したB17、B24と言った重爆撃機群。

 

 それらの攻撃に対し、帝国海軍は無力だった。

 

 パラオの航空隊は既にニューギニア戦線に投入されて消耗し尽くしており、僅かばかりの迎撃機を上げるのが精いっぱいの状態だった。

 

 まさに、戦力の手薄になった側面を突かれた形である。

 

 こうして帝国軍の抵抗を排除した合衆国軍は、圧倒的な兵力でもってパラオに対する空爆を強化した。

 

 その結果、

 

 パラオの帝国軍拠点は悉く壊滅。帝国軍はパラオにおける戦闘能力を事実上喪失した。

 

 そればかりではない。

 

 パラオには輸送船や護衛艦艇など、30隻近い船舶が在泊していた。

 

 しかし、これらの船舶に対し、連合艦隊側から退避勧告が出される事が無かったため、多くの船が空爆によって撃沈される憂き目に合ったのだ。

 

 この時期、帝国軍の輸送船不足は深刻化しつつあった。

 

 そんな中で、艦隊に随伴可能な高速油槽船を含む多数の船舶が、パラオで無為に失われた事になる。

 

 この事態により帝国海軍の行動には、大きく制限が加えられる事になる。

 

 軍隊にとって補給が何より大事だと言う事は、改めて述べるまでも無いだろう。そこで輸送船に求められる性能と言うのは「より多くの荷物を、より早く目的地に持って行く」と言う事になる。

 

 たとえば戦国時代、甲斐の武田氏が率いた騎馬軍団は戦国最強と言う呼び声が高いが、多くの人々は、「多数の騎馬武者が足並みをそろえて敵陣に向かって突撃していく」と言うシーンを想像しているのではないだろうか?

 

 まことに残念ながら、その想像は間違いである。

 

 武田の騎馬軍団が最強と言われた所以は、その移動力と輸送力にある。

 

 目標となる戦場により多くの兵力と物資を迅速に輸送し、有利な体制を整えるには、当時としては馬が最良の輸送手段だった。武田氏は良質な馬を大量にそろえる事が出来たからこそ、戦国最強足りえたのである。

 

 その馬が、海上では輸送船に置き換えられる。

 

 より高性能な輸送船を多く取りそろえる事ができれば、艦隊はそれだけ迅速な行動が可能になると言う事だ。

 

 開戦初期、第11戦隊を率いて北大西洋で通商破壊戦を仕掛けた彰人も、定期的に輸送船と合流して補給を受ける事で、長期間に渡って広い海域で暴れまわる事が出来たのだ。

 

 その輸送船が多数失われたと言う事は、今後、帝国海軍の行動に大きく制約が出る事になる。

 

 不幸中の幸いは、「明石」「間宮」を主力とする後方支援艦隊が、既に東南アジア方面への退避を完了していた事だろう。

 

 後方支援艦隊は、マリアナ、トラックの要塞化構想が持ち上がった際に、彰人の提案によって後方への移動が定められた。その為、その泊地をシンガポールのリンガに予め移していたのだ。

 

 この措置により、帝国海軍は辛うじて、南方における継戦能力を維持できたのである。

 

 

 

 

 

「本命を強固に守っていたら、搦め手から攻め込まれた感じですね」

 

 面白くなさそうに、彰人は呟いた。

 

 無理も無い。

 

 正直、今の状況は彰人にとって、面白くない事この上なかった。

 

 自分や宇垣、小沢、亡き古河に、その他多くの者達が苦労に苦労を重ねて完成させたマリアナ要塞が、軍令部の意向によって形骸化させられたあげく、防衛に必要な戦力の大半も、ニューギニアで無為に失われてしまったのだから。

 

 今や、マリアナを守る航空戦力は400機程度に過ぎない。これはそれなりの戦力であるようにも思えるが、実際のところ、再び先の戦いと同程度の戦力で攻めて来られたら防ぎようがない状態である。

 

 そこへ来て、先日のパラオ陥落である。

 

 これで、彰人が構想したパラオ決戦案はご破算となってしまった。今からパラオに増援を送り、戦力を立て直すのは不可能である。

 

 事実上、マッカーサーのフィリピン上陸(帰還)を阻止する事は不可能になった訳だ。正に踏んだり蹴ったりである。

 

「そう不貞腐れても、事態は好転しないぞ」

「判ってますよ、そんな事は」

 

 どうやら、不機嫌さが顔に出ていたらしい。

 

 ここは横須賀鎮守府内に設けられた連合艦隊司令部。

 

 彰人と第2艦隊司令官の宇垣護は今日、マッカーサー軍を巡る作戦会議に出席する為、横須賀鎮守府を訪れていた。

 

 宇垣の第2艦隊は現在、呉に停泊し、出動準備に備えていた。

 

 そして、それは彰人の第7艦隊についても同様である。既に出撃準備は完了し、横須賀港で待機させてある。

 

 あとは出撃のタイミングを待つばかりだった。

 

「長官はどうする心算なんですかね。既に航空兵力は半壊状態。まあ、かき集めればまだ、戦えない事も無いんですけど、それでマッカーサー軍に挑むのは無謀ですよ」

「長官も、そこら辺の事は判っているだろうさ。何か策があるのだろう」

「・・・・・・だと、良いんですけど」

 

 不承不承と言った感じに返事を返す彰人。

 

 やがて、2人は会議室の扉を開く。

 

 そこには既に、幾人かの海軍士官が顔を揃えていた。

 

 中に走った顔も有り、連合機動艦隊司令官の小沢治俊などは、2人を見付けると手を上げて挨拶してきた。

 

 促されて、2人も席へと座る。

 

 それからしばらくすると、GF司令部の幕僚達が、揃って会議室へと入って来た。

 

 その中央にいるいかつい顔の人物が、新連合艦隊司令長官に着任した、豊田玄武大将である。

 

「それでは、これより対マッカーサー軍を目的とした全体会議を始める」

 

 そう言って会議の開始を宣言したのは、新たにGF作戦参謀に就任した神徳人(かみ のりひと)大佐である。

 

 彼はあの、帝国海軍のパーフェクトゲームになった第1次ソロモン海戦の立役者でもある。

 

 大の精神論者であり、更にヒトラーかぶれである事は帝国海軍内ではかなり有名な話である。

 

 同時に「艦隊の殴り込みマニア」としても知られており、特に水上艦艇を目標となる戦域の突入させる作戦に長けていた。

 

 そんな神の司会の中、作戦会議が始まった。

 

 

 

 

 

 彰人達が作戦会議を始めた頃、

 

 姫神は1人、鎮守府内の庭を散策していた。

 

 彰人と一緒についてきたのは良い物の、作戦会議中は特にする事が無いため、こうして散策に出て来た訳である。

 

 それは、同時に見納めの意味合いも含んでいた。

 

 間もなく、フィリピン方面での戦いが始まる事になる。そうなると当然、第7艦隊も出撃する事になるだろう。

 

 ここに戻ってくるのは、また当分先になるかもしれない。

 

 そう思って、今の内に目に焼き付けておこうと思ったのだ。

 

 一通り見て回り、室内に戻ろうとした時だった。

 

「ちょ、ちょっとごめんッ どいてどいてェ!!」

「はい?」

 

 突然の声に、姫神が訝るように振り返った。

 

 次の瞬間、

 

 ドゴスッ

 

「むぎゅ」

 

 突然、ぶつかってきた相手に押し倒された姫神。

 

 そのまま、間抜けな声を残して、地面に押しつぶされる。

 

「わ、ご、ごめんッ 大丈夫!?」

 

 必死に声をかけてくる相手。どうやら女性、それも年齢的にはまだ少女であるらしい。

 

 だが、

 

「ムガ、ムガガ(訳:いえ、大丈夫です)」

 

 姫神は返事をするも、声はくぐもった調子に押し殺されてしまう。

 

 それどころか、姫神の視界は暗闇に遮られている。

 

 と、

 

「ムガ、ムガガガ」

「キャッ ちょ、くすぐった・・・・・・・・・・・・」

 

 姫神が言葉を発する度、少女は何やら悩ましい声を発してくる。

 

「ムガー!!」

「ちょ、だから、しゃべらないで・・・・・・ってば・・・・・・」

 

 相変わらず、姫神には自分に何が起きているのか、把握する事ができなかった。

 

 実はこの時、姫神にぶつかった相手は、彼女の顔面に座り込む形になっているのだ。

 

 純白のパンツに包まれた柔らかいお尻が、姫神の顔面に押し付けられている。

 

 男なら喜ぶべきシチュエーションだろうが、あいにく女の身の姫神には只管苦しいだけだった。

 

 何はともあれ、

 

 横須賀鎮守府と言う帝国海軍の中枢にあって、2人の少女が間抜けな大騒ぎを演じている事だけは確かな様子だった。

 

 

 

 

 

「あははー ごめんね、あたしもぼうっとしてたからさ」

「・・・・・・・・・・・・もう良いです」

 

 数分後。

 

 ようやく解放された姫神に、少女はバツが悪そうに笑いかけてくる。

 

 一方で姫神はと言えば、流石に気分が良い筈も無く、さっきから仏頂面を顔面に張り付けていた。

 

「ほんっとごめんね。このとーり」

 

 そう言って手をすり合わせてくる少女に、姫神はチラッと目をやる。

 

 結構な美少女である。スレンダーな体付きと細身の顔。リボンで縛ったポニーテールが健康的な美を強調している。

 

 頭身は姫神よりも高いが、どこか幼い印象のある少女だった。

 

「ねね、あなた、艦娘?」

「え、あ、はい。そうですけど」

 

 鎮守府にいる年端もいかない少女と来れば、艦娘くらいの物である。

 

 と言う事はつまり、この少女も艦娘なのだ。

 

 だが、姫神の記憶にあるどの艦娘とも一致しない。

 

 新鋭艦だろうか?

 

 そう思って内心で首をかしげていると、少女の方から手を差し伸べて来た。

 

「よろしく」

 

 促されるまま、姫神も手を差し出す。

 

 その手が、しっかりと握られた。

 

 女の子らしい、柔らかい掌の感触が伝わってくる。

 

「あたしは信濃。よろしくね」

 

 そう言うと、少女はニッコリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵の狙いが判っていると言うのは、ある意味で助かる事である。

 

 デイビス・マッカーサーがフィリピンを狙っているであろう事は、彼がフィリピンを追い出された瞬間から定まっていた事である。

 

 狙いが判っていれば、戦いようもあると言う物である。

 

 だが、問題は味方の兵力不足だった。

 

 一連の戦闘で兵力を消耗した帝国軍には、多島海になっているフィリピン全域をカバーするだけの力は残っていない。

 

 となると当然、兵力を集中する必要性が出てくる訳だが、

 

 問題はマッカーサーがどこに来るか、である。

 

「最も可能性が高いのは東側に海岸を持つ島々です。その中で最有力候補は4つ。北部のルソン島、東部のサマール島、レイテ島、南部のミンダナオ島です」

 

 説明する神は、そう言ってそれぞれの島を指し示す。

 

 それらを聞きながら、彰人は自分の頭の中で情報の整理を始めていた。

 

 恐らく、ルソンの線は無いだろう。

 

 現在、帝国陸軍は残存兵力をかき集め、ルソン島の防衛力強化を図っている。

 

 これまでの例から考えて、敵はまず、兵力の手薄な所から攻めていいるパターンが強い。勿論、必要なら正面から攻め込んでくることも厭わないだろうが、なるべくリスクは減らそうとするはずだ。

 

 しかしルソンは、ニューギニアからも離れており、マッカーサーからすれば航空支援が受けにくい場所にある。

 

 マッカーサーの立場になって考えれば、まず橋頭堡を確保し体勢を整えた上で、初めて帝国軍との決戦に臨みたいと考える筈だ。となれば、いきなりルソンを突いてくる可能性は低いと考えるべきだった。

 

 そうなると、残る候補地はレイテ、サマール、ミンダナオの3カ所となる。

 

 このうちミンダナオは面積が広大過ぎて、制圧に時間がかかる上、ルソンまでの途中に経由しなくてはいけない島がたくさんある事から、初期の上陸地点としては不適切である。

 

 そしてサマールは、大規模な船団が停泊できるだけの余裕を持った海面が無い。

 

 となると、残るは、

 

 レイテ

 

 と言う事になる。

 

「私は、レイテに敵が来る可能性が高いと考えます。彼の島は東側にレイテ湾を有し、大規模な船団の停泊、揚陸に最適です。加えてマニラからもある程度の距離が保たれていますから、上陸部隊を展開するには最適と考えます」

 

 ちょうどいいタイミングで、神参謀がそのように述べた。

 

 どうやら彼も、彰人と同じ考えであるらしかった。

 

 となると、残る手段はどのように艦隊を進め、レイテに来た敵を叩くか、と言う事にある。

 

「そこで、GF司令部としては、このような作戦案で行きたいと考えています」

 

 そう言うと、神は作戦の説明に入った。

 

 それによるとまず、第1、第2機動艦隊から成る連合機動艦隊は本土にて待機。万が一、敵が本土方面に現れた場合に備えると同時に、敵がレイテ侵攻を開始すると同時に出撃、南下しつつ基地航空隊と連携して敵主力機動部隊の注意を引き付ける。

 

 一方、第2、第7艦隊は合同し、連合遊撃艦隊(略称:連遊艦)を編成。一足先にボルネオ島ブルネイに展開。同方面を防備すると同時に、敵の侵攻に合わせて出撃する。そして連機艦が敵を引き付けている隙に、一気にレイテ湾に突入。その輸送船団を撃滅する。と言う物だった。

 

 基本的な点で、彰人の考えとそう変わらない。

 

 彰人自身、マッカーサー軍を撃滅するには艦隊を突撃させて船団を撃滅する以外に無いと考えていたからだ。

 

 しかし、

 

『作戦が複雑すぎる』

 

 それが、彰人の懸念材料である。

 

 まず、連機艦の行動によって敵の主力艦隊を引き付けるとあるが、もし敵が、その動きに乗らなかったらどうするつもりなのか?

 

 更に作戦進行のタイミングもある。

 

 もし敵が連遊艦の接近に気付いたら、そちらの方を先に叩こうとするだろう。そうなると、航空支援の少ない連遊艦は空からの攻撃に対して無防備に近い形になる。

 

 いかに対空戦闘力に優れた艦を取り揃えているとは言え、大規模な航空攻撃に耐えるには限界があった。

 

「この作戦に合わせて、ルソンには大規模な基地航空隊を展開し、艦隊の支援に充てる予定です」

 

 神の説明に、彰人は憮然とする。

 

 大規模な基地航空隊とは、ようするに他から持ってくると言う事だろう。それは即ち、他の余裕がある戦線、マリアナと言う事になる。

 

 マリアナから兵力を引き抜かれるのは、彰人にとって業腹の極みだが、それが上級司令部からの命令である以上、仕方のない事だった。

 

 どのみち、フィリピンを守るには航空兵力の援護は不可欠である。となると、ある場所から持ってくるしかない。そして、その場所とはマリアナ以外にはありえないのもまた事実である。

 

 彰人の好みに関わらず、マリアナからの戦力抽出はやむを得ない措置だった。

 

「皆、苦しい戦いになると思うが、この戦いに勝つ事ができれば、帝国の命運も開かれると思う。どうか、よろしく頼む」

 

 最後に豊田のその言葉でもって、会議は閉幕となった。

 

 

 

 

 

 会議室を後にした彰人と宇垣は、共に自分達の艦隊に課せられた任務に就いて考えざるを得なかった。

 

 今度の敵はマッカーサー。

 

 しかも、こっちはマリアナの時のように万全の防衛態勢が敷かれている訳ではない。

 

 場当たり的な防衛ラインに、殆ど上空掩護の期待できない中、艦隊は進軍しなくてはならないのだ。

 

「唯一の救いがあるとすれば、僕達の行き先がボルネオって事くらいですかね」

 

 彰人の呟きに、宇垣は頷きを返す。

 

 ボルネオは産油国であり、油が溢れている。そこを拠点に活動すれば、決戦を前にして充分な訓練ができる筈だった。

 

「まあ、何にしても、だ」

 

 宇垣は改まるような口調で、彰人に向き直った。

 

 訝る彰人に、宇垣は笑い掛ける。

 

「これでようやく、正式にお前と肩を並べて戦えるわけだ」

 

 その言葉に、彰人はハッとする。

 

 確かに、今まで宇垣と一緒に戦う機会はあったが、その殆どの場合、宇垣が率いて来たのは臨時編成の艦隊ばかりである。

 

 彰人と宇垣が、共に正式な艦隊を率いて共闘するのは、これが初めてだった。

 

「何にしても、よろしく頼むぞ」

「こちらこそです」

 

 2人がそう言った時だった。

 

 庭先で語らう2人の艦娘が、楽しそうに語らっているのが見えた。

 

「あれは、姫神と、それから・・・・・・・・・・・・」

 

 見慣れない少女である。現役の艦娘は、だいたい頭に入っているのだが。

 

「信濃」

 

 呼びかける宇垣の言葉で、彰人は姫神と一緒にいる少女が、最新鋭戦艦「信濃」の艦娘であると判った。

 

 なるほど、最新鋭戦艦の艦娘であるなら、彰人の記憶に無いのも頷けると言う物だろう。

 

 それがなぜ、姫神と一緒にいるのかは判らないが。

 

「あ、提督!!」

 

 宇垣の姿を見て、信濃が駆け寄ってくる。

 

 それを追うようにして、姫神もトコトコとやってくる。

 

「もう、会議は終わったのですか?」

「一応ね」

 

 そう言うと、姫神は彰人の手に自分の手を絡めてくる。

 

「彼女とは、いつの間に?」

「先ほど、衝突事故により撃沈されました」

 

 意味不明な姫神の言葉に、首をかしげる彰人。

 

 何にしても艦娘同士、仲が良い事は悪い事じゃなかった。

 

 と、

 

「ねえねえ、あなたが水上提督? ヒメちゃんの彼氏の」

「え、うん。まあ、そうだけど・・・・・・」

 

 信濃の質問に答えながら、彰人はチラッと姫神に視線をやる。

 

 それに対して、肩を竦める姫神。どうやら、「聞くな」と言う意味らしかった。何やら、微妙に疲れているような顔をしているのは気のせいだろうか?

 

「彼女は第2艦隊の指揮下に入ってもらう。つまり、今回の出撃では俺達と一緒と言う訳だ」

「よろしくね!!」

 

 そう言うと信濃は彰人の手を強引にとると、ブンブンと振り回すように握手をする。

 

 その動きに苦笑するしかない彰人。

 

 何にしても、心強い味方が来てくれた事は確かだった。

 

 

 

 

 

第75話「レイテへ」      終わり

 

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